伊坂 幸太郎
初めて読んだのは、「チルドレン」。私のとても信頼している人の書評を読み、興味を持った。
なんだこれ。おもしろかった。
それから「死神の精度」。ほろほろと涙がこぼれた。
あれ?読み進んでいくうちに、「これさっきの・・・」というところがあったり。
で、そこからはまり始めた、と思う。ただ、全部の作品は読んでいないけれど、かなりの興味を持って読んでいる。時々、「この人、〜の作品で、・・・、あれ?」とリンクしていることがある。私の好きなパターンであったりもして。



『  オーデュボンの祈り  』

伊坂幸太郎のデビュー作。これ以降の作品で時々出てくる「未来は神様のレシピで決まる」という言葉。
その言葉が語られる物語。
伊坂作品の最初でありながら、伊坂作品の王道ともいうべき、組み合わされたパズルのような展開。少しづつパズルの絵ができていき、最後には一つにつながっていく。
まさにその物語。

コンビニエンス強盗をして、警察官になったかつての同級生城山に捕まった伊藤。逃げる途中を拾われ、現代社会と遮断された世界、荻島にやってきた。
荻島のあるアパートで目覚めた伊藤は、日比野という青年と知合いになる。そして日比野に案内されて荻島を回る。
江戸時代から鎖国をしているここは、一体現実の世界なのか。
未来を知り、しゃべるカカシ優午、嘘しか言わない元画家、太りすぎて動けなくなったウサギ、法律として殺人を許されている桜、商社マンとして仙台と船で行き来をする唯一の人物、轟。
不思議な登場人物(カカシも登場人物って言うの?)が次々に出てくる。そして、「島の外から来たものが、この島に欠けているものを持ってくる」という言い伝え。

翌日、その人々から崇拝されているカカシ優午が殺された(って言うのか?カカシなのに)。
未来を知るカカシは、ナゼ殺されたのか。自分が殺されるということを知っていたのか。ナゼそれを防げなかったのか。
「オーデュボンの話を聞きなさい」優午の最後のメッセージを元に、なぞを解き明かしていく伊藤と日比野。

読み進めていくうちに、少しづつ、優午の言葉と島の人々の行動がリンクしていく。
伊藤を追い詰めようとする警察官城山と仙台で出会ってしまう元恋人の静香。二つの世界が、一つの結末に向かって、動き始める。


二つの物語が(完全に、ではないけれど)別々に進行し、それが一つに結びついていく、というところ。村上春樹の『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』に似ているような気がする。そう言われると、ハルキに似ているという意見があるそうな・・。
最初は意味をなさない、ただの言葉や行動だったのが、だんだんと一つずつ組み合わさっていく。もつれた糸がほぐれるように一つの線が出来始める。何ができるかわからないパズルを一つ一つ作り上げていっているような、そのプロセスを自分が味わっているおもしろさ。たまらない作品だ。

(2006年6月)