森 絵都 |
『 DIVE!! 』 。 おもしろい!!爽快!スポーツも、飛び込みも、少年もいいじゃないか!! 坂井知希、沖津飛沫、富士谷要一、水泳競技の中でもマイナーなスポーツ、飛び込みに魅せられた三人の少年が、オリンピックを目指し、自らの高みを目指し、飛び込み続ける。 私が読んだのは、文庫版。芥川賞受賞の森絵都さんの・・・とPOPが踊っていた、紀伊国屋阪急梅田駅前店で手に取り、なんとなく買ったもの。 ストーリーはまずそのマイナーな飛び込みの世界で頂点(つまりオリンピック?メダリスト?)めざす少年の話。 構成がよい。(文庫では上下二冊だけれど)、四部構成になっていて、第一部・前宙返り3回半抱え型・は、知希の物語。 第二部スワンダイブは飛沫、第三部SSスペシャル'99は要一、それぞれの視点からストーリーが展開する。そして、第四部コンクリートドラゴンは、全ての登場人物が入れ替わり、主役を務める。 副題がまたよい。前宙返り3回半抱え型は知希が飛ぶ飛込みの型の名前だが、それを知希が飛ぶという事に、大きな意味がある。スワンダイブ、故障を抱えたダイバー飛沫が目指すことになった、最もシンプルで、だからこそ人を惹きつける魅力を持った飛沫にふさわしい型。 SSスペシャル'99は、要一が抱えてきたトラウマとなった、前逆宙返り二回半蝦型に、そのトラウマをぶちこわそうと命名した名前。そして、コンクリートドラゴン。幼い知希が初めてみた飛び込み台。見上げたそれはコンクリートの怪獣、コンクリートドラゴンだ。いつか、それを制する、畏れ、でも、やめられない、最高の一瞬を味わうその台で。 キャラクター設定もすばらしい! 知希、無邪気、天衣無縫、しなやか、そんな言葉が似合う。その無邪気さゆえにか(本人はそんな意識はないのだけど。まあ、それが無邪気たる所以)、ダイブ仲間だった凌、レイジがらねたまれてしまっても、母には「理想的な息子よ」と言われてしまう。その素直さはいつしか強い意志を持ち、しなやかに、本当にしなやかに花開く。 飛沫は、野性味あふれる海の男(でも16才だよ^^;)。浅黒い肌、太い眉(たぶん)。津軽に残してきた恋人の恭子とは、津軽に帰ったら、「あの村で恭子と毎晩セックスして、高校卒業したら結婚して、ガキつくって、船を買って、その日につった一番うまい魚を家族で食って・・・そんな人生も上々だ」と思っている。 きっとセックスシーンも、筋肉が色っぽいんだろうなあ(でも16才だよ・・・^^;)。故障を抱えて、開き直った後はすがすがしくダイナミックでのびやかな性格を存分に出していく。 そして、要一は、一番、イメージが作りにくかった。他の二人や登場人物は、きっとこんな顔だろう、きっとこんな風にしゃべるだろうというのがすぐに思い浮かんだけど、要一は、カッコよすぎたり、すましていすぎたりして、ぶれてしまう。 第一部では、知希の先輩、憧れという印象だったのに、少しづつ化けの皮がはがれてきたというか、真実が明らかになっていくにつれて、こんな一面もあるの〜?と思えてしまう。もしかしたら、一番作者の思いが強かったりするのかしら。 今なら2006年夏の高校野球優勝投手の斉藤祐樹クン(早稲田実業)がイメージに近いかも(^^;)。ミーハー?(死語^^;)でももうちょっと、クールでかつ熱いかも。 脇を固める人物も面白い。泣かせるのは、ピンキー山田改め(^^;)キャメル山田。 第四部のオリンピック選考大会での後半、第6順目から。それぞれの章末には、予選を勝ち残った12名の名前、順位、点数が・・・に並んでいる。 そこから章が第何順目と同じになり、徐々に勝負が決まっていく。要一が順位を上げていくその経過がどきどきとしていてもたってもいられなかった。知希がいつまで上位に残るのか、飛沫は?たまらない。要一の第十番目。読んでいると一瞬辺りが静かになり、興奮を押さえきれない。飛沫の最後の飛び込みも。そして知希の最後は、もう、もうこれでいいや、これが最高の瞬間だったのだもの、と私自身が枠を超えた。 読み終えて、この子達の将来が、これからが、とても楽しみになった。 なんて、まるでそこに彼らがいるかのよう。でもきっと先はないほうがいいんだろうな。幻滅したくないというマイナスの思いではなくて、純粋に、この時間を、読むことで共有できて体験できて、それがこの小説なのだろうから。 最後に、森絵都さんの小説は初めて読んだ。芥川賞を取った「・・・ビニールシート」は、読んでみたいと思うけど、ちょっと悩んでいる。 (2006年8月) |