アレルギー反応とアレルゲンレス食品の開発

 

免疫反応に起因する身体の異常を一般にアレルギーと呼び、アレルギーを起こす原因物質をアレルゲンと呼ぶ。アレルギーは草木の花粉、ダニ、動物の毛、羽毛、種々の薬剤など様々なもので引き起こされるが、近年になり食品の摂取で起こる食物アレルギーが非常に増えつつある。食物アレルギーとは、原因食物を摂取した後に免疫学的機序を介して、生体にとって不利益な症状が起こる現象を言うが、1945年以降、社会は急速に近代化し始める一方で、公害と同時に日常生活環境内におけるアレルゲン物質の増加が、アレルギー患者を増やしているとも言える。また、近年食物の欧米化が食材の多様化を生み、食物アレルギーの即時型反応を呈する患者が増え、低年齢児の即時型反応(食物アレルギー児が、原因となる食物を摂取した際すぐに蕁麻疹や呼吸困難などが発症すること)は、その対応や予防策が非常に重要になってきている。

最近の厚生省の報告によれば、原因アレルゲンは卵、牛乳、小麦、そば、えび、ピーナッツ、大豆、チ−ズの順に増えていることが報告されており、このことは、食生活の欧米化すなわち、卵、牛乳、小麦やチーズ、ピーナッツなどを使った食材に代わりつつあることが要因であると証明された。厚生労働省は20014月にアレルギーを起こす恐れのある食品のうち5品目(卵、乳、小麦、そば、落花生)を原材料に使った加工食品に表示を義務づける法律を執行したが、ここで注目したいのが、日本人が古くから食してきたそばや今の時代、どの市販品にも含まれているあろう小麦が取り上げられていることである。日本の食物アレルギーの実態については、厚生省食物アレルギー対策委員会が4年間(1996-1999年度)に行った調査によると、14名に1名が何らかのアレルギーを起こしたと回答している。

このようなアレルギー疾患が増加している原因には大気汚染や生活スタイルの変化など様々な原因が考えられるが、子供の成長、すなわち乳児期、学童期、思春期、成人期の過程でアトピー素因を有する個体にいくつかのアレルギー疾患が次々と現れてくる現象は「アレルギーマーチ」と言われている。以前は日本でも乳児期への抗生物質の投与などは頻繁には必要としなかったが、近代化と衛生面の高まりと共にその社会的要請は高くなり、抗生物質の投与が腸内細菌の菌叢を変化させ、このことが成長に伴うアレルギー発症に関係するのであろう。従って、既述のようにアレルギーが加齢とともに、症状を変えて次々とあらわれ、様々な症状が行進していく「アレルギーマーチ」の各成長期における内容や順番にも変動をもたらす可能性があると思われる。

現在では食物アレルギーの治療法には抗ヒスタミン剤をはじめ多数の薬剤が開発されているが、最良の治療法は原因となる食品の摂取を避けることにあるとされている。しかしながら、食品の多くはこれを日常生活から完全に除去することは困難であり、何らかの手段で食品のアレルゲン活性を低減化することが望まれている。その一方で、食品の観点からすれば、一定の美味しさを備えた製品価値のある「低アレルゲン化食品」の開発を望むのが当然である。従って、食品はやはり医学的な見地からの改善効果だけでは受け入れられるものではなく、飽食化時代のわが国においては、たとえアレルギー患者であっても最終製品として、必ず一定の品質を要求される時代である。

そこで企業組合 「食工房・愛と夢」では、加工食品のテクスチャーと美味しさを扱う食品科学的観点から、各種穀物の低アレルゲン化とその加工食品の開発を試みている。開発にあたっては味のみならず、その食感、テクスチャー等の重要性を取り上げ、その評価を行ってきた食品科学的手法から、一般に良好とされる加工食品の品質を得られるような食品の提案を目的としている。