グレースは、米グレイ社からのネーミングと思いますが品川無線です。日本のオーディオ黎明期より登場し、その名が製品にもなった朝倉さんが開発した商品で、Ｆ-6からはすべてヒット作と云う黄金期を、業界の隆盛と共に過ごした専業メーカーです。
ＮＨＫ技研との共同開発より生まれたＦ-8シリーズは、特性もさることながら各種交換針を用意して、着せ替えできるカートリッジとして有名です。
忌憚なく云わせてもらえば、音質が変化し面白いですが、まあまあクリアですが平凡で、さほどの物ではありません。その点Ｆ-9はＭＭらしい伸びやかさの中に、引き締まった音質で面目躍如とした物があります。簡単に針交換出来ず、振動系も支点が定まったのが、功を奏した物と思われます。各種の針の特質が表現されるのは素晴らしいと思います。
出来ることなら、それからの新素材の針も、ぜひ聴かせていただきたいものです。

ビクターはＨＭＶの昔からニッパー犬のマークと共に、業界のシンボル的な存在で、戦前よりオーディオ界の牽引車でした。我々はＨＭＶとニッパー犬を見ると、不思議と安心してしまう習性を自然と備わっている者です。その点ＪＶＣやジャベックと言われると、反発が生まれます。
長い歴史の会社ですから、日本ビクターにはカートリッジにも、数えきれない歴史があり、数えきれない名品があるものと思いますが、鮮明に我々にショックを与えたのが、MC-1 から始まる、プリントコイル直近取り付けのダイレクトカップル方式、ムービングコイル・カートリッジでした。
扁平のコイルを針先直近に取り付け、強磁界で使用する方法は、サテン音響にも通じる方法で、MC-1 等強烈なネーミングと共に、強力パンチを浴びせられました。
カンチレバーは必要悪で、長いのは共振するし、短ければ余裕が無くなる苦渋の存在ですが、逆手にとればこういうこともできる見本のようなカートリッジでした。
MC-L10 でさらに針先に近づき、MC-L1000で真下に来てしまったようですが、未だ現物にお目にかかっていません 。イケダ・カートリッジと共に、一度は確認してみたいものです。
強磁界での極細プリントコイルは、強度上の負担や耐久性に問題が多いようで、導通切れの物が、市場に多いのは懸念材料でありますが、音質は鮮明、クリアで、素晴らしい物であります。

松下電器のTechnicsは、実効質量にこだわり、ＭＭ型に開発の主力を注ぎました。その結果生まれたのが、EPC-100CMK4 で同社の象徴製品でもあります。ボロン・テーパード・パイプに超楕円針、癖のないさわやかな再生音と、抜群のトレース能力は特筆ものですが、蒸留水の様な色気の無さと、ダンパーの耐久性が心配です。個人的に古いEPC-100CにMK4の交換針を取り付けて使用していますので、本来の性能を発揮できてない可能性も充分考えられますので、あくまでも個人的感想です。そしてこのように古い製品を生かせるメーカーが、自身で開発したＴ４Ｐをいとも簡単に切り捨ててしまうのは、許せないと思います。EPC-205CMK3は、何よりダンパーに問題あるのか、まともに動作する製品が無いようで、本来の性能は分かりませんのでコメントできません。Ｔ４ＰタイプのEPC-205CMk3でも同様の現象で材質の問題かも知れません。 EPC-U205C-Ⅱ 等には同様の問題が無く、丈夫なチタンパイプが、一番成功したと思わせる製品です。Ｔ４Ｐタイプについては同項をご覧ください。