Fan Brace と Lattice Brace
[扇状力木 と 格子状力木]


表板を裏で支えている力木の形状、配置パターンにはいろいろなものが考案されています。この力木がギターの音質、鳴り方を大きく支配していると言われます。
もっともポピュラーな扇状力木(製作番号19号)と新しく採用されて成功を収めている格子状力木(製作番号20号)を製作します。

製作の順を追って書き込んでゆきます。

1.ネックの製作
ホンジュラスマホガニーと言う木です。
所定の寸法にカンナで仕上げてあります。
これで2本のネックが作れます。

寸法は25mm厚×80mm幅×870mm長です。
1枚の板をこのように切り分けます。
ヘッド部、ネック部、ヒール・フット部ができます。
この後、設計の値によい厚さに各部の厚さを調整します。
ヘッドのネックからの下がり角度はこの場合で14度です。
ヘッド部に飾りのツキ板(薄板)を接着します。この板は上からインディアンローズウッド・白べニア板・黒べニア板の3枚重ねになっていて、斜めに削られる部分に茶・白・黒の模様が出てくるようにしてあります。
ヘッド部の端でネックと直角になるように端を切ります。

ヒール部をあらかじめ接着しておきます。
この時木目が交互に交差するようにし、経時による木の変化を相殺するようにしています。
ヒール部を接着した後、チューニングマシンを取り付けるために、ヘッド部を加工します。
ヘッドの先端のデザインが製作家を表す一つのポイントでしょうか。
ヘッド部外形、マシーンのローラーの穴、弦を通すスロットの順に加工します。
ヒール部を加工して、横板を取り付ける部分を作ります。
ヒール部を加工しているところです。このように加工しますのでネック部とヒール部の接着は正確でなければなりません。

使っているジグは、ソーガイドという市販品ですが、これがまた本当によく考えられたジグで、ギターのネック製作用に開発されたのかと思うほどネック作りにピッタリです。
ネックの完成です。
ヘッド部のスロット内側、ヒール部を塗装しておきます。

木口からの吸湿を抑えるのが、塗装の目的ですが、ここを塗装するのとしないのとではできたギターがかなりちがって見えます。
ライニングやペオネスについても同様に思います。
ボディーの中もきれいなほうがいいですから。

2.表面板の製作

ジャーマンスプルース(ドイツ松)という木です。製材のソーマークをとり3.5mm位に削ります。

接合面の直線を出し、木目が左右対称になるように接着します。いわゆるブックマッチです。

ハタガネというクランプで締めます。実際は締めた力で板が浮かないように重石をのせています。

接着の目違い(段差)をカンナでとって、表面板外形を切り出し、口輪(ロゼッタ)を埋め込みます。口輪の出っ張りを削って表面を均一に削ります。

木の個性と相談しながらですが、自分の希望の厚さに全体を削ります。

裏側にロゼッタ裏補強板、力木を接着します。

ポピュラーな扇形力木です。
表面板の上にあるのが扇形にはる力木、下にあるのがハーモニックバーです。

扇状(放射状)に力木を接着します。7本の力木を貼るのでそれを固定しているところです。

竹など弾力のあるものを使って押さえます。
ハチクいう細い物干し竿に使われていた竹が、使いよいように思います。

この方法は、画像の通り一挙に7本の力木をクランプできます。
効率のよい作業ができる、素晴らしい方法です。
力木をカンナと鑿で成形しクロージングバーというV字状の力木とサウンドホール前後のハーモニックバーを接着して成形します。

これで表板裏側の加工が終わり表面板の作業は終わりです。
ハーモニックバーにトンネルを作り、扇状力木がロゼッタ補強板に届いています。

ハーモニックバーの切り欠きで、表板の拘束が減ることに、音響への効果がある様にも思えます。
格子状力木を貼った表面板です。

交差点にサドルが来るのが設計のポイントのようです。購入した図面を基にアレンジしてあります。
格子は一辺が5cmの正方形です。

2本の小片は力木が交差しているところの細工を示そうとしたのですが見にくいです。
力木の高さの半分ずつを切り取って交差させる相欠きという方法です。

升目の中に見えてる小正方形は割れ防止のパッチです。
ハーモニックバーには切り欠きをしておきました。

格子状力木のタップトーンですが、かなり高い音が多いような音がしています。
これで大丈夫か心配なほどです。

オリジナルの図面では格子材の寸法が3mm×7mmでしたが、3mm×5mmにしました。


これで表面板全体の質量はほとんど同じです。
表面板の厚さは0.2mm程度、薄く削ってあります。

扇形力木:137g、格子状力木:130g でした。
3.横板の製作
5mm程度の厚さの材料(インディアンローズウッド)を、ドラムサンダーなどで削って厚さを調整します。
完成するギターのボディーの厚さに合うように、板の幅を調整します。


隣に見えている道具は、横板をボディーの形に曲げるもので、ベンディングマシーンと呼んでいます。自作品です

水に10分ほど浸してから、電源(白熱電球)を入れてステンレスの板を加熱し徐々に押さえこんでいくと、苦もなくインディアンローズの板が型に沿って曲がります。
曲げてからしばらく加熱をし、電源を切って十分に冷えるのを待ちます

冷却後上の押さえの型を外したところです。

熱をかけて曲げると、木が動いて幅の方向に波打ちが出ます。
内側になる方を組み立ての前に、スクレーパーで均しているところです。
横板と裏板を繋ぐ部分になるライニングという帯状の板を曲げた横板に接着します。

ライニング材には曲がりやすいように鋸で切れ目を入れてあります。そしてあらかじめ横板のカーブに合わせてライニング材もベンディングマシーンで曲げておきます。
画像は接着のために洗濯バサミで固定しているところです

ライニングを取り付けた状態です。

ライニングがつくと横板はその形が強固に保たれる状態になります。

次の工程は、横板をネックに取り付けて表面板と繋ぐ工程になりますが、、ネックと横板を固定する楔と、横板を繋ぐエンドブロックです。
4.横板の接着

表板の厚さだけ削ったネック(前の画像参照)と表板を接着します。

ネックから表板の芯がきちんと通るようにします。

横板と表板を繋ぐ部品(ペオネスという木片)を予め並べます。
全体の配置を確認したのち、一つずつ膠で接着します。

ペオネスの接着、横板同士を繋ぐエンドブロックの接着を終えたところです。
ペオネスを塗装して、力木(ハーモニックバー)と横板を繋ぐために、力木押さえ棒を接着します。
これで横板の接着作業が終わりです。
5.裏板の製作
インディアンローズウッドという最もポピュラーな裏板の材料です。厚さ約5mmの板です。
一枚の板を半分に分けた状態のもので、左右対称に繫ぎます。
いわゆるブックマッチの接ぎ方です。
材料の板を3.5mm程度に削り、粗いソーマークをとって、先の説明のように接着しているところです。

接着が終わると、裏板の最終厚さ(2mm強)に削ります。ギターの外形に切り出したところです。
手前に見える長い細い板は、接ぎ目の補強材、3本並んでいるのは裏板の力木です。

補強材と力木を接着し、接着した部品を塗装して裏板の完成です。

上に見える小さな部品は、横板に貼りつける付木です。
この後は裏板を取り付けるために横板の端部を加工します。

6.裏板の接着
ギターの胴は丸みを持つように作っています。このことは横板と裏板は直角に交差していないと言うことになります。
そこで、横板の端を裏板の丸みによりできる交差の角度に削ります。同時にギターの胴の厚さを決めます。

胴を横切って置いてある板は裏板と同じカーブをしていて、横板に乗っている角の部分が横板との接触角を示すようになっています。
裏板の丸みを作るために貼り付けてある力木の端が、横板のライニングにはまり込むように切り欠きを作ります。

切り欠きから下に伸びている付け木は横板の補強用です。
付け木を貼っているところです。このクランプおよび上の角度を見つけだすジグは、製作家禰寝(ネジメ)さんのアイディアです。
裏板の接ぎ目補強材の長さを調整して、フット部、エンドブロックと干渉しないようにします。
裏板を接着します。クランプにはスプールクランプとゴムを使っています。
エンドとフットにはカムクランプを使っています。
(あまり上手とは言えないゴムのかけ方です。
クランプを解いて、型から外します。裏板接着終了です。
胴ができてネックがあって、ギターらしくなりました。
表板を軽く叩いてみると、太鼓らしい鳴り方のボン・ボンという音がします。
この時はいつも弦を張るとどんな音がするのだろうかと、先をいそぎたくなります。
7.バインディングとパーフリングの接着
胴のエッジに装飾を兼ね表板、裏板と横板の接着を補完するための細長い板を貼り付けます。

この部材を、横板の余り材と白、黒の薄い板(ツキ板)を張り合わせて作ります。
真っ直ぐなのが材料で、張り合わせた後作業のやり易いサイズに切って、胴の形に曲げておきます。
バインディングとパーフリングがおさまる溝を作って接着します。
バインディングの溝は、横板を切り取ってライニングが見えるように削ります。
接着剤が硬化するまでは、ゴムで固定します。
その後、バインディングとパーフリングのでっぱっている部分を削りとります。
そして、横板をスクレーパーで均して平面にしておきます。


表面板を叩いてみるとバインディングをつける前より良い響きに感じます。
8.指板の製作・接着
指板の製作に入ります。
黒檀(エボニー)の板を所定の厚さ(今回は6.5mm)に削ります。
長い辺を削り通りをとります。
フレット長を刻んだテンプレートと特殊な薄い刃の丸のこを使って、フレットの溝をきりこみます。

指板の幅を決め取り付け位置に合わせ外形を整えます。
正確に接着するために、位置決めのダボを使います。
画像が悪いですが指板の1フレットと11フレットにダボを取り付けてあります。

ダボは直径4mmのものをエボニーで作っています。
指板の接着が終わると、フレットを取り付けます。
溝とフレットの脚のかみ合わせがちょうど良い加減になるように調整します。
かみ合わせがきついと、打ち込み後にフレットの波打ちが大きく後の高さ調整ですり合わせが必要になります。
取り付けが終わると、フレットの端を切り取り滑らかになるように削ります。
手にフレットの端が触感しないように丁寧に削ります。演奏中の感覚に影響しますから注意を払っています。
その後、フレットの高さをあわせ、脚の下に見える溝の穴を埋めておきます。
ネックを削ります。
ここは、演奏の感覚に大きく影響しますので、断面の形の削り出しに細心の注意を払ってやります。
9.ブリッジの製作
ネック削りが終わるとブリッジを作ります。材料はこのような小さな角材です。
今回の材料は、ハカランダです
サドルの溝(2.5mm幅)を手作業で作るのは難しいので、丸のこ盤を使います。
ブリッジを削りだすのに必要な切り込みをすべて入れた後、手作業で形を削り出します。

接着位置は、小さなダボで位置決めしてあり、ブリッジ裏に突き出してあります。
緒止め(タイブロック)の飾りはこのようにして作りました。
材料は、端材、骨材板、ツキ板です。
端材とツキ板を接着して装飾をつくり、骨材を切り抜いて正確に装飾材をはめ込みます。
10.塗装
まず、下地の調整です。
横板は、スクレーパーで熱をかけて曲げた時の波打ちをできるだけ取ります。
裏、横板は400番、表は600番までペーパーをかけます。
ネックも320番までペーパーをかけます。
それから、裏、横板には板の導管を埋める目止めを、パミス(軽石の微細粉)で行います。
塗料は、シェラック(セラック)です。
塗料を蓄えるための芯を、綿の布でくるんだタンポと言うものを使います。
いわゆる、フレンチポリッシュという方法です。
今回は、黄色に着色しました。染料はガンボジのアルコール抽出液です。
ブリッジがつく部分は、マスキングしていたので下地が残っています。
11.ブリッジ接着・ナット・サドル・糸巻き
ブリッジの接着です。
ギタークランプを使用しています。
ブリッジは、接着中の汚れ、傷の防止のためテープで保護してあります。
ナットとサドルを作ります。
材料は牛骨です。
弦高は、12フレット・6弦で
4mm、1弦で3.5mmに設定しています。
これに合わせてブリッジの高さを決めます。ナットには専用のやすりで弦のはまる溝を刻みます。
糸巻き(ゴトーの510タイプ)とナット、サドルを取り付けて、加工は終わりです。
12.完成
19号、扇状力木(Fan Brace)の完成です。
音は、おとなしい落ち着いた音のように感じました。(日が経つにつれて変わっていくと思います。)

音については、音出しの第一印象です。後で変わるかもしれません。

口輪(ロゼッタ)は、マホガニーです。
派手さはないのですが、クラシックギターには、このようなのもいいのではないかと思っています。
20号、格子状力木(Lattice Brace)の完成です。
音量は、明らかに大きいです。が、音色は扇状力木とは違っていました。乾いたような潤いが少ないような感じです。
元の設計から力木の質量を減らそうとして、幅を狭く、高さを低く変更しました。元のままががよかったのかもしれません。

(画像、同じに見えますね。)
20号の口輪です。
雰囲気を変えようとして木を変えてみました。赤いのはブラッドウッド、黒っぽいのはブラックウォールナットです。(色がよく表現できていません。)

ブリッジの飾りを変えてみました。
結構面倒なものでした。
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