Flower Report


{2月の花}山里の春
(2008年2月15日 奈良新聞より転載)

 立春を過ぎると早くも暦の上では春ですね。今年は雪もよく降り、寒い日が続いていますが土の中では植物たちが春の準備を始めています。この時期になると一度訪れたことのある淡路島の水仙郷の光景を思い出します。寒風を受けながらもたくさんの水仙が咲き誇る情景は見事で、あまい香りに包まれて散策道を歩くと冬であることを忘れてしまい一足早い春を楽しんだものです。

 今回はそんな思い出の風景をアレンジメントに表現してみました。日本の山里がテーマの自然観のあるちょっと懐かしい感じの作品です。

 器は大きな水盤で黒っぽいつやのないものを用意し大地を表現しています。写真ではスポンジを二ヶ所に平たくセットしていますが、代わりに剣山を多めに置いても構いません。

スポンジを固定し、より自然らしさを出すために石を三個置いています。

 全体の構成は非対称になるようにします。主となる大きなグループ、それに対抗する中程度のグループ、主となるグループに寄り添う小さなグループ、と大きさの異なる三つのグループに分けて生けると自然な印象が出せます。いけばなの真、副、体(流派により言い方は異なります)に共通するものがあります。

黄金葉は新芽の色が非常に美しく早春を表現するのにぴったりです。これをすっと立ち上るように高さを変えて三本生けます。アイリス四本も葉を整理してすっきりと生けましょう。

今回の主役となる水仙はたっぷり十一本入っています。水仙を自然に生けるときは必ず花茎と葉三~四枚をセットにします。水仙の足元に「はかま」というものがついていますのでこれを手でもむようにしてはかまをはずします。葉組みを分解し、長さ等を調節した上でまた組み直します。再度はかまをかぶせますが代わりに足元を細い針金と緑色のフローラルテープで巻いても構いません。水仙の植生に従って平行に生けましょう。花が窮屈にぶつからないように風の通る道を作り、高さに気をつけて生けます。最後に菜の花、マトリカリヤを低く生け、庭から採ってきたヘリクリサム、アイビーを大地に這うように生けて完成です。

どこか懐かしい日本の山里の風景がテーマですので和室にも合いますし、水仙の香りを楽しめるように家族みんなが集まるところに飾るのもいいですね。

 写真の作品は高さ九十センチ、横幅四十センチととても大きく仕上がっていますが、飾るスペースに合わせて花の数量、配分を少し減らしてもいいでしょう。

 旅の思い出や感動したことなどを、花を生けることで表現することは新たな花の楽しみ方でもあります。花にいろいろな思いを託して生けてみましょう。

(使用花材) 水仙、黄金葉、アイリス、菜の花、マトリカリヤ、ヘリクリサム、アイビー

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