21世紀に間に合いました!
〜オーストラリア“珍”婚旅行記〜
第6話
28日 〜「デビュー」シドニー1日目〜
早朝5時半の飛行機でケアンズを飛び立ち、一路シドニーへと向かった。シドニー到着は午前9時半。ただし、シドニーはサマータイム期間中なので、飛行時間は実質3時間だ。(ケアンズ時間プラス1時間。日本時間より2時間早い)天気は曇り。ケアンズとはうってかわって涼しい。へたをすると寒いぐらいだ。しかし、ここシドニーも少し前までは35度の猛暑が続いていたらしい。
(ひょっとして、オレらラッキーちゃうん?)
ただ、この天気と気温じゃ、ケアンズで買ったこのカンガルー皮のカウボーイハットをかぶっていては、浮いてしまいそうだ・・・。
めちゃくちゃおしゃべりな現地案内のおじさんの運転で、市内観光が始まった。まずは「FOXスタジオ」へ。
「FOXスタジオ」とは、21世紀FOX社のテーマ―パークで、そんなに規模は大きくなかったが、いくつかのアトラクションがあった。そのうちの1つ、タイタニックのアトラクションは、お客さん自らが沈没を体験するというもの。3等船室に入ったところから始まり、突然船が大きく揺れて海水が流れ込み、船員の誘導で甲板まで上がり、ボートで脱出するという流れだ。
とにかく、「なりきること」が楽しむコツらしいので、一生懸命逃げた。船員の説明は英語でさっぱり分からないが、ゼスチャーでの誘導は分かった。3等船室から上がっていくと、1等船室に入るところでゲートがしまっている。英語は分からないが、やり取りをしている船員の様子から、どうやら1等船室の船員が、私たちを入れるのを拒んでいるらしい。そこで、ここまで誘導してきた船員が、
「君たちも一緒に頼んでみてくれ。」
と訴えているような気がしたので、(英語は分からんっ)他の客が騒ぎ出したのに合わせて、
「早よ入れんかいっ!ぼけっ!。」
と、軽くかましたった。すると、ゲートが開きそのまま甲板へ。ボートにも無事乗ることができ、助けられたのであった。
外へ出ると「お約束」の写真スポット(船の先端部分のセット)があった。私が両手を広げ、後ろから嫁さんに抱えてもらって写真を撮るということも考えたが、やはり恥ずかしいのでやめた。
もう1つ、ここには大きなショーがあった。「ライト!カメラ!大混乱!」というこのショーは、女優や映画監督など、中心的な登場人物は動物で、わがままぬかす女優の代わりに、オーディションで人間のスターを発掘していくというストーリーだった。展開の早いショーなので、先にあらすじをパンフで読んでおけと言われてたので、始まるまでじっくり読んでいた。
客がどんどん席に着いていき、前の方ではなにやら係の人が客にインタビューをしている。その模様がテレビモニターに映し出されていた。
(なーんか、いやーな予感がするなあ。)
時々、私はこんなことを感じるのだが、こういうときはたいてい自分にとってよくないことが起こる。
(英語で聞かれても、分からんぞ・・・。オレんとこ来んなよ。)
なんとか、インタビューは免れることができた。
いよいよショーが始まった。パンフどおり、速いテンポで場面が進んでいく。登場人物がしゃべっているが、当然英語なのでなんのことやらさっぱり分からない。しかし、どうやらオーディションの場面のようだ。ここにいる観客の中から男女1名ずつ選び出すらしい。なんとか聞き取ろうと必死で前を注目していると・・・。
(ん?なんや?だれやオレの肩をたたくのは・・・。)
後ろを振り返ると、さっきまで舞台に立っていた3人のうちの1人がいた。
(オ、オレかぁ?)
いやな予感がまさかこんなメガトン級で当たるとは・・・。こんなことならインタビューの方がよかった。
観客6〜700人の中から見事に選ばれた私は、英語が分からないので拒むこともできず、嫁さん1人を残し、そのまま舞台へと連れ去られることになった。まあ、あんなところで拒んだら、
「日本人はノリが悪いのう。」
と思われそうだから、それもしゃくだったしね。
やっぱり、黄色のポロシャツにあの帽子では、思いっきり浮いていたんやろな・・・。舞台に上がれば、もう覚悟を決めていた。
さっそく、メインの司会者にいろいろと話しかけられた。もちろん英語なので、ほとんど何言ってるか分からない。とりあえず出身などを聞かれたような気がしたので、
「ジャパニーズ。」
と、答えておいた。あとは適当に聞いてるだけだ。
女の子も上がってきた。なんとなくおどおどしている。かわいそうに、そりゃびっくりするわな。こっちはもう腹くくってるけどな。
なにやら、レバーのいっぱいついたセットが運ばれてきた。これはなんや?説明は英語なのでさっぱり分からない。そのうちに、どうやら私にも仕事があるように思えてきた。10個あるレバーを女の子と2人で順に引いていくようだ。カウントダウンが始まった。女の子が先に引き始めた。ということは、オレは後か。それじゃあ・・・。
なんとか乗り切ったようだ。その後、係の人に連れられて、舞台裏へ入った。これでお疲れさん、はい、これおみやげってな具合で解放されるのかなと思ったが、甘かった。白衣に着替えさせられた。これからどうなるんやと不安になっていると、1枚の紙を渡された。そこには、懐かしい言語で
「係の者に誘導されるまで、動かないようにしてください」
と書いてあった。
(よかった。読めた。)
再び、舞台へ登場した。今度も先ほどのレバーを引いた。その後、もう1人男の人が登場してきた。司会者はまた早口でなにやら話しかけてくる。英語なのでさっぱり分からなかったが、どうやらなにかパフォーマンスをしろということのようだ。
「スモー。ジュードー。」
片言の日本語で司会者は訴えてくる。ああ、分かったよ。やりますよ。やりゃーいいんでしょ。ここにいる人たちが受けるようなものか・・・。とりあえず、オリンピックもあったし、柔道ならみんな知ってそうだ。高校の時授業でやっただけなんやけどなあ。あれ、やるか。
練習なしの一発勝負で私がやったのは、柔道の受け身。それも観客受けしそうな一番派手な「前方回転受け身」だった。それがまた一発で見事に決まった。バシッと左手で舞台をたたき、帽子をとばしながらやったので、割れんばかりの拍手をもらった。
ひと仕事終え、ジンジンする左手をちょっとさすっていると、またあの司会者はなんか言ってくる。
「・・・ソング・・・。」
(なにぃ?歌を歌えってか?おいお前、調子に乗るのもええかげんにせえよ!)
と、心の中で叫んでもむなしいだけで、引くに引けず、歌うことになってしまった。どうしよう、何歌おう・・・。
客受けを考えれば、ビートルズなどを歌ってもよかった。ちょっとぐらいなら知ってるからね。でも、ここはやはり日本人らしいところを見せなければ。オレと一緒で、(何言ってるかさっぱり分からん)と嘆いている日本人を勇気づけなければ・・・。
「みなさん、こんにちは。それでは歌わせてもらいます。日本人の皆さん、ご一緒にどうぞ。」
浜村淳風に思いっきり関西弁のアクセントを強調してこう言った後、無伴奏で歌った歌は・・・。
「さーいーたー さーいーたー チューリップーのーはーなーがー・・・」
そう、ケアンズのバスの中で歌った、あの「チューリップ」の歌だったのだ。これには日本人も大受けだった。
こうして、私のデビューは終わった。
ちなみに、一緒に出ていた女の子は実はこのショーの一員で、私の歌の後、見事にスター街道を登りつめていったのだ。
(なーんや。そしたら客で出てたのは、オレだけやったんか。)
ちょっとでも彼女に同情してた自分がとてもまぬけに思えた。
ショーは終わった。私たち2人も会場を出た。嫁さんはハラハラしつつも、楽しんで見てくれていたようだ。私が期待していた、ショーの主催者側からの記念品のようなものは、一切なかった。そのかわり、会場を出た時に他の外国人の観客から、
「Oh! New Star!」
と、口々に言われ、ちょっとした有名人気分を味わえた。
「FOXスタジオ」を後にした私たちは、次にオペラハウスへと向かった。
シドニーで最も有名なこの建物は、観光客でごった返していた。あんまり長い時間滞在できなかったので、明日の自由行動の時にまた来ることにして、ささっと見て回った。
ホテルはスイート。とてつもなくきれいで、
「もう今後一生泊まることはないだろう。」
と、2人で言い合っていた。
その日の夕食は、シドニータワー最上階展望レストランでのディナー。このために持ってきたスーツを着こみ、(下北山小有志の皆さんにお祝いでもらったシャツとネクタイも)ドレスアップしていざ出陣。
ディナーはこれまた最高だった。ワインも飲みまくり。景色もよく、2人だけの席ということで、落ち着いた時を過ごすことができた。
で、その帰り。ほろ酔い気分でエレベーターに乗り込む。しばらくして・・・止まった。扉は開かない。上の表示を見ると、降りる階の少し上で止まっている。え、マジ?
エレベーター内にはモニターがあった。そこには別のエレベーター内の様子が写っていた。男の人が3人ほど見えた。どうやら、あっちも止まっているらしい。扉を手で開けようとしたり、マイクに向かって話をしているようだ。
(まあ、あわててもしゃーないか。話したところで、英語分からんし。)
もうすっかり何事にも動じなくなっていた私は、悠然としていた。お酒が回っていたせいもあるが。嫁さんも落ち着いている。しかたがないので記念撮影もした。
(明日、新聞に載るかな?)
飯食った後でよかったねと、2人で話していた。
結局15分ほど閉じ込められて、なんか分からんけど急に動いて、私たちは出ることができた。しかし、モニターに写ってたエレベーターはまだ止まっているようだ。何とかしてこの状況を係の人に伝えようと、嫁さんはがんばっていたが、(私は英語が分からないので辞退)伝わらなかったので、後ろ髪を引かれる思いのまま、ホテルへ帰った。
・・・つづく・・・