Top一般ログ>01年05月
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更新リスト
2001/05/06 分身の術
2001/05/19 えび
2001/05/23 白亜
2001/05/24 01.正義
2001/05/24 02.宗教
2001/05/24 03.体罰
2001/05/24 04.議論
Title: 分身の術
Genre: 今日の一言
Date: 2001/05/06
Option:

クラブで書かないといけない記事の締め切りが、気が付けば明日になってました。
350行書かなくてはいけないですよ。
ちなみに今終わってるのが200行くらいです。
3日も前から書き始めて。
ちなみにその200行はすぐ書けると思ってたぶんなのです。
残りの150行は「食品添加物(90行)」「腐りやすい食べ物(60行)」
ふふふどうです?
なにを書けばいいのでしょう。ていうか食品添加物ってなにさ。
とりあえず、その是非を調べようと思ったのに、
インターネットで調べたら賛否両論すぎてどっちが正しいのか判りません。
腐りやすい食べ物については調べすらしてませんしね。

猫でも噛んでみましょうか。窮鼠になったつもりで。
ふむ。何の打開策にもなってません。

ここは最後の手段しかないかもしれません。
科学忍法分身の術です。
あなどってはいけませんよ。
僕とてそれくらいできるのです。

ハッ!



どうです
どうです
どうです
どうです
どうです。




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Title: えび
Genre: 今日の一言
Date: 2001/05/19
Option:

今日は産経新聞にいったのですが
そこの食堂のおばさんが好意でエビピラフを作ってくれました。
ありがとうございました。

エビ嫌いな咲村より。




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Title: 白亜
Genre: 今日の一言
Date: 2001/05/23
Option:

汝、刮目して見よ!
羽ばたく月輪の翼の下に身を潜めた、その無垢なる真の姿を!
偶然という悪魔と春風という悪戯に破られた結界の内なる世界を!
そして若者の胸に秘めたる猛き息吹の化身に感謝の心を捧げるのだ!

パンツ見えました。




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Title: 01.正義
Genre: 今日の一言->ぼくと友人[対話風コラム]
Date: 2001/05/24
Option:

正義ってなんだと思う?」


ぼくは友人の部屋に入ってすぐにそう聞いてみた。
友人はこういった質問にはいつも暴論なのか極論なのか解らない理論を展開する。ぼくは友人のそういう理論展開を聞くのが嫌いではなかった。


「なんだい、とうとつだなぁ。」


やはり友人はテーブルにお茶を置くと面倒くさそうに答えた。座布団の上に落ち着いた友人の膝の上にのって、すぐに緩みきった猫も同じ様にニャーと答える。いつものことながらふてぶてしい猫だ。そう思いながらぼくも差し出された座布団の上に座った。


「いや、この間アメリカで史上最悪とかいわれるテロが起こっただろう?テロを起こしたと思われる国の人たちはそれを『聖戦』なんていっててさ、それに対して、アメリカも『正義の為に報復する』なんていっていたんだ。で、正義ってなんだろうって思っていろいろ調べてみたんだけどやっぱり君の意見を聞いてみようかなって思ってさ」
「どうして私の意見なんか聞く必要があるんだ?正義なんてしょせん相対的なものだっていうのは皆わかっていることだし、君にしたってそれくらい知っているだろう?別にそれでいいじゃないか」
「まぁ確かにそうなんだけどね」


本人を前にして極端な意見を聞きたいなどとは口が裂けてもいえまい。ぼくはお茶をすすった。


「それでも一応調べてみたんだ。例えば広辞苑になんかには、正義とは社会全体の幸福を保障する秩序を実現し維持することってかいてある。プラトンは各人が責務を全うする事によって国家の調和が保たれる事、アリストテレスは能力に応じた公平な分配。それに近代じゃ社会の成員の自由と平等が正義の観念の中心だって」
「あのさ。それって広辞苑だけの説明だろう。そんな型どおりな意見を調べて何になるんだ?せめて哲学者とかそういう人の本を読んで統括的な考え方を構成するとかしないと」
「だから一応読んだんだってば。日本国語大辞典とか」


友人はあからさまな溜息を吐いた。


「何で君はそう語源ばかり調べるようなことをするんだ?思想哲学的なことを、辞書やなんかで調べてわかるわけも無いだろうに」
「まぁ確かにそうなんだけどね。君の意見を聞いておくのも悪くないかなって思ったんだよ。どうだい何か面白い考えた方はある?」
「なんで私の意見が面白い考え方だって最初から決めてるんだ?なんていう失礼なやつ」


そういって友人は立ち上がると台所から煎餅の袋を持ってきた。バリッとあけるとぼくに1つ薦めたので遠慮なく頂く事にした。友人も1つ頬張るとバリバリいわせながらお茶を飲んだ。


「まぁいいや。どっちにしても私の意見なんか最初に聞いたら後から調べたくなくなるのは間違いないよ。聞かないのが一番」
「そんなこと聞いて見なけりゃ判らないじゃないか。あ、さてはそんなこといってなにも意見がないんじゃないか?」
「何を言っているんだ?聞かないほうがいいから言わない。何故かっていうと聞いても何の参考にはならないから。しかも聞いたら他の資料を探すのが厭になるから。重ねて私の時間もおかげで無駄になるから。ほら私が言ってしまったらお互いにデメリットばかりじゃないか。それでも聞きたいというのか?」
「聞きたいとも」


こう聞かれた場合は即答に限る。友人は呆れたような表情をして、友人の横に座る猫と顔を見合わせ、しょうがないなぁと呟いた。予想通り喋る気にさせることができたようだ。しかし出てきたのは予想外の言葉だった。


「つまり正義というのはね、”ダメだと思うことを設定しておいて、自分も他人そうならないようにしようとすること”。解かりやすくいうと駄目だと思うことを治そうとすることなのだ」


友人はそういってニヤリと笑った。


「・・・ほらね。聞かないほうが良かっただろう」


友人は何故か勝ち誇ったようにうふふふふと笑っている。ぼくはというと意味がわからず、ぼうっとしていた。


「え、と。意味がわからないんだけど」
「聞いたままの意味だよ。誰かが、駄目だと思うことを、誰かが、治そうとする。単純明快明朗快活明鏡止水とはこの事じゃないか」
「四字熟語の使い方間違えてるよ。・・・じゃなくて、え。ということは誰かが、駄目だと思うことを、誰かが、治そうとする、ということかい?」
「そう、誰かが、駄目だと思うことを、誰かが、治そうとするのさ」


そういって友人は爆笑した。側にいた猫はびっくりしたようで、ニャーと鳴くと部屋を出て行った。
確かに友人の言うことがそのままなら何の参考にもならないし、他の資料を当たるのが馬鹿らしくもなるだろう。というか今友人が言ったことは簡単すぎてむしろウソくさい。いつもの冗談なのだろうか?


「すると君の言うとおりなら、大工が家の造作を気に入らなくって改築するのも正義なのかい?」
「正義ではないとも」


友人は真顔で答えた。どうかしている。やはりいつもの冗談か。


「じゃあ君の言うことは間違っているということだね。一瞬本気かと思って焦ったじゃないか」
「本気だとも」


ぼくはすすろうとしていたお茶を吹き出した。どっちだ。
友人は部屋にお茶が飛び散った事を意に介す様子もなくどこからか出した雑巾で畳を拭いた。


「条件を言うのを忘れていたね。実はさっきいった治そうとする行為は、何者かの妨害が生じている事が必要条件なのだ。君のさっき引いた喩えでいうなら、誰かが大工さんの改築を妨害していれば、大工さんの改築しようとする行為は大工さんにとっての正義といえるね」
「そ、そうなのか・・・?」
「そう。大工さんを妨害する誰かの行動の理由はいろいろあるけど、政治的な理由にしろ社会的な理由にしろ個人的な理由にしろ、大工さんがそれに抵抗している時点で大工さんの行動は正義なんだ。それからもう1つ条件をつけていいなら正義を自称する事もあげられる。大工さんが改築行為を正義だと社会に公言すればその行為は名実共に正義になるんだ」
「た、ただのわがままじゃないか」
「わがままでもいいんだよ。大工さんの行為に同調するものが現れたら彼らの正義はもっと公なものになる。個人の美学で改築しようとしている事はわがままだけど、構造に問題があるなら同調者も現れるだろうね。そして大工さんの行為を妨害する事、「大工さんの行動を治す」事を正義と叫んでそれに同調するものが現れたら、それもまた公な正義といえる。改装工事によって迷惑する人がいるから改築はさせない、とかね。そしてそんな個と個の正義のぶつかり合いが喧嘩で、集団と集団の正義のぶつかり合いこそが戦争なんだ。正義というそんなくだらない事で人は戦争を起こしているんだよ」


ぼくは少し混乱した。


「それは話が飛躍しすぎているんじゃないか?たかだか数人では戦争というには規模が小さすぎるし、独裁者が戦争を起こす事もあるんだろう?」
「集団同士の喧嘩は戦争だと私は思うけど、それは人によるかな。うん。君の言うことも確かに一部はそのとおりだ。独裁者の起こす戦争については集団論を展開しなきゃならなくて面倒くさいから省くけど、結局は同じことだよ。独裁者が叫ぶ正義が集団を支配しているなら、やはりそれは集団にとっての正義なんだ。もちろんそれに抵抗する意識も正義だ」
「うーん・・・じゃあ正義のヒーローっていうのは・・・?」
「あれは集団が駄目だと思っていることを1人で治しているのだよ。集団の正義を、1人でおこなっているわけ。アンパンマンもウルトラマンもスーパーマンも横暴な正義を振るうけど、それはそれでも別に構わない。行動が集団の正義と一致すればね。だから独裁者も、逆にいえば敵対する正義の多いヒーローなんだ」


そういって友人は足を崩して、お茶を飲もうとしたが、すでに湯飲みの中は空っぽだった。
ぼくはもう1つきいてみた。


「じゃさっきぼくがいった、近代の正義、社会の成員の自由と平等はどうなるんだ?」
「ああ、それは単純に権力をもったものにとって邪魔なものになりやすいのが家来の自由と平等だからだよ。だから、家来の自由と平等を阻害する。で、家来にとっては自由と平等を阻害する人は駄目なように思えることになる。すると結果的に自由と平等の達成という目標が正義になるわけ。簡単だろう」
「なるほどねぇ。ということは時と場合によって正義の定義は変わるというわけか。だから時代によって正義の意味が違う・・?」
「そうそう、わかったみたいじゃないか。言葉の意味や概念なんて往々にして流動的で可変的なものなんだ。時代によって流される。だからむしろ正義の本質を1つのものだと思い込むことのほうが危険だということになるね。たまに正義の意味を履き違える粗忽者がいるけど、これははなはだ迷惑。正義は1つしかないとか思い込んでいるから現実を知った途端「なにが正しいのかわからなくなった」なんてたわごとを抜かすんだ。正義だけじゃなく「正しい事」も文化によって星の数ほど変化するものなのにね。そんなことで狼狽するなんて馬鹿みたいだろう?まぁ何も考えないくせに正義に盲目な人間のほうが百億倍馬鹿だが」


友人はそういうと机の上で手に顎を乗せて、ふぅと一息ついた。
同時にリンと風鈴の音が聞こえる。


「さっき君がいったように、正義の根源はわがままでもいいんだ。でもね、そんな正義、わがままを皆に押し付けるのはやっぱり間違っていると思う。ましてや、それで命を奪うなんて許せることじゃない。だけど、それを無くそうと思えば、これは大変だ。戦争や喧嘩を完全になくしたいのなら、人間全てが謙虚さを身に付けることくらいしかないかもね。人間がお互いに正義を理解し認め合い、譲りあう。口でいうのは簡単なことなんだけどね。」




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Title: 02.宗教
Genre: 今日の一言->ぼくと友人[対話風コラム]
Date: 2001/05/24
Option:

ちょうど、友人の家の前にたどり着いた時、雨が降り出した。
ぼくは慌てて友人の家の呼び鈴を押すと一息つく。
すぐに友人は出てきた。


「やぁ。遅かったね」
「たいやきを売っていたんだ。そこで。つい買ってしまってね。君もどうだい?」
「ありがとう。いただくよ」


そういって、友人は僕の手からさっとたいやきの袋を奪い取った。


「おい、もう食べるのか?」
「悪いことじゃないだろう?」
「別に構わないけどね」


ぼくと友人は、そのまま家に上がると、たいやきを頬張りながら友人の部屋へ向かった。
友人はたいやきを尻尾から食べているようだ。


「知ってた?たいやきを尻尾から食べるのは、優しい人の特徴だけど、たいやきにとってそれは返って残酷なんだよ。どうせなら一撃のもと、ぼくみたいに頭から食べてやらないと」
「何を子供みたいなことをいっているんだ君は。たいやきを前から食べようが後ろから食べようがたいやきが痛がるわけが無いじゃないか。私は口が小さくて、尻尾からの方が食べやすいから尻尾から食べているまでだよ。まったく合理的じゃないか」


いわれてみればそうかもしれない。
友人の部屋は2階である。急な階段をぼくが先に上った。


「で、いったい今日は何の用事だったけね」
「昨日も電話でいったけど、宗教について君にひとこと聞いてみたいと思ってね」
「宗教?」
「もう忘れたのかい?昨日どこかのホームページを見ていたんだけどね。そこでこの間のテロ事件に関係して、宗教って何、みたいな掲示板のスレッドが立っていたんだ。ぼくも宗教について知りたいから見ていたんだけど、いきなり神様の話になって、しかもそのままギリシャ神話の話に飛んでいってしまっていたから彼らは宗教についてわかっているのかなぁって思ってさ」
「それでいいじゃないか。本尊がなければ宗教は成立しない。別にその人たちは間違っていないよ」


友人の部屋は階段を上がってすぐに左である。
友人は部屋のドアを開けた。どうぞとジェスチャーする。
ぼくは部屋に入った。
座布団を見つけてそのままそこに座る。


「で、どうして神様は必要なんだい?」
「人間には死後の世界を知りえないからだよ。それじゃぁ、少しレクチャーしてあげようか」


そういって友人もふわりと座布団の上に座った。


「ただし、ここでいうのは私の勝手な解釈だ。だから頭から信じ込まないように。まぁ大丈夫だろうけど。それから吹聴したりもしないように。それを最初に心得ておいてくれ」
「わかってるよ」
「それじゃ、なにからいうかな。・・・そうだ。動物って、未来を考えたりしないよね」
「そうなのかい?」
「おそらくね。そりゃ、少しくらい予測したり、経験から反射したりはあるだろうけど、遥かな未来なんて考えないよ。必要が無いし」
「それは、そうかな」
「うん。未来を考えるっていうのは、経験と想像を駆使した高度な予測だろう?もしそれほど高度な予測を行えるのなら、動物にだって試行錯誤の実験でももっと優秀な結果が出るはずなんだ。こうすれば、こうなる、っていうのをずっと先まで予測できる訳だからね」
「それはそうだね」
「だから、動物は、未来を考えないと。それでだね」


そういって、友人は部屋のクーラーをつけた。
外では雨がシトシトと降りつづけている。湿度が高く少々暑かった。


「それ故っていうか、動物は、ご飯を食べたり寝たり、褒められたり、交尾をしたりしたら、それだけで幸せなんだ。サルに自慰を教えたら死ぬまで続けるっていうのはたまに聞く話だしね」
「聞いたことがあるね」
「それからね。ここからが問題なんだけど、人間は、高度な予測を行えるんだ。未来を考えられる」
「うん」
「だから、ご飯を食べたり寝たり、褒められたり、セックスをしたりしても、それだけでは幸せを感じにくくなってしまったんだ。空想の力も人間はすごいしね。空しさを感じてしまう。つまり、それが動物は宗教を持たず、人間の間に宗教のできた意味だ
「え?どういうことだい?幸せを感じにくくなってしまったから、宗教ができた?」
「そうそう、動物は、その場その場の快楽で脳内麻薬によって幸せを得ていたけど、人間はそれができないから、未来を保証することによって、幸せを得ることができるようになったんだ。具体的にいうと、死後の世界の幸福の保証と、それを得るための教えを守ることによる生きがい、そしてその生きがいから保証される、単純な本能への満足。それが宗教が成立した理由なんだ」


ぼくは感心してしまった。


「なるほどねぇ、宗教は人間最大の発明って聞いたことがあるけどそういうことか」
「けだし名言だね。宗教は、人間が生きていく『生きがい』になり得るんだけど、さらに、神様を仮定することによって、人間ゆえ『予測』してしまう死後の、幸福すらも保証できてしまうんだ。先程いった、宗教に本尊が必要なのはそのためだね。人間が死後の世界を保証したところで説得力を持たないけど、世界も人間も創造した神様とか、その神様の預言者、それに、実際に、本尊に成り得た人の言葉は説得力を持つんだ」
「ということは宗教は人間にとって絶対に必要不可欠なものなのかな」


友人はチッチと指を左右に振った。


「それは違う。死後に不安を持たない人間や、生きがいを他に持つもの、それに未来を考えない人間や、普通の状態で幸福を感じられるような人間には、宗教は不必要だよ。今の日本人には宗教はいらないよね。裕福だから。基本的に宗教は、満たされていない人々の間に流行するんだ」
「満たされていない・・・発展途上国とかかな?」
「そうだね。他にも心が満たされていない、生きがいが無い、そんな人達の間にもだよ」
「じゃあさ、どうしてアメリカにはキリスト教が普及しているんだ?彼らは満たされていないわけじゃないだろう?」
「ふふふ、甘いね。産まれた時から間違いなく正しいと保証されている、そう教えられてきた幸せを放棄するバカがどこにいる?それは文化と宗教、同時の問題だ。当然アメリカでも、成人するに従って満たされ、宗教を疑い、文化としての宗教も否定する人間はいるだろうけどね」
「ふぅん。ということは、宗教は否定するに及ばないってことかい?」
「誰だいそんなこといったやつ」


そういって友人は笑った。


「宗教によって生きていることを肯定されている人から、宗教を奪ってどうするんだ。それは殺してしまうことより、拷問を行うことよりも残酷だ。宗教はいらないなんて、日本人だからいえる言葉だよ。実に思慮が浅い。生きがいを含む、全ての幸せを奪う主張を少なくとも私は認めたくないね」
「・・・それは、そうかも知れないね。でもそれをいった人は、この間のテロで多くの人が死んでしまったから、その原因に少しでも荷担した『宗教』を認めたくなかったんだと思うよ。・・・そういえば、どうして彼らは自爆テロなんて行ったんだろう。死んでしまったら意味が無いじゃないか」
「まだまだだねぇ。君も。宗教は死んでも幸福を保証するんだよ。それを保証するのは、教義の遵守だ。だったら、自爆テロが教義に沿っていないものではなく、なおかつ、死んでも幸せが保証されるなら、自爆だってするだろうさ」


友人は立ち上がると、台所に煎餅を取りに行った。
ふと気が付くと、雨が止んでいた。
外を眺めていると、友人が盆の上に、煎餅とお茶を載せて部屋に戻ってきた。


「まぁ食べてくれ」
「頂くよ」

友人はバリっと煎餅を口に含んだ。
ぼくもそれに続く。友人はお茶を口に含みながらいった。


「ところでさ、いい忘れていたけど、どんな宗教にしても教義が厳しければ厳しいほど達成感は大きいんだ」
「どういうことだい」
「ゲームと同じだね。難しいルールの中で優勝したほうが、簡単なルールの中で優勝するより達成感は大きいんだ。たとえば、じゃんけんで勝つよりも、将棋で勝ったほうが気持ちいい、とかね」
「ふぅん」
「逆説的に、至高の目的のためにはルールの遵守に全力を尽くすようになる。また目的を信じていたいがために絶対正義なったりもする」
「それは、イスラム原理主義だとかそういうことをいっているのかい?」
「いや、全部についてだよ。なんにでも当てはまる。人が、同じグループ内の人に規律だとか規則だとかを求めるのは、ゲームに参加している人間に、目的を達成するための足を引っ張って欲しくないからだよ」

「話がそれたね。信じるものは救われるという言葉もある通り、宗教では信じることが大切だ。疑ってしまった場合は幸せを得ることは出来なくなってしまう。命が掛かっている以上、死んだ後の保証は信用できるべきなんだ。それから、その『信じさせる』という効果を得るために宗教の教義は破綻してはいけない。そういうふうにできているんだ。というか、生き残る宗教は、環境に合わせて破綻しないように出来ている。例えばね、世界の三大宗教は本来全て予言を禁止している。予言が確実に当たるとは限らないからだ。仏教でも計り知れないほど遠い未来をすこしいうだけに留めているんだよ。だから、宗教でお金をかせぐのは構わないけれど、決してぼろを出してはいけない。未来を占うなんて愚の骨頂だね。当たらなかった場合は他の教義と共に信用を失ってしまうんだ。それでお金をとっていたら、詐欺罪で告訴されてしまうんだよ。法の華三法行とかね」
「破綻しなければお金をとってもいいのかい!?」
「そう。宗教の本質は、人の幸せだ。そのためには、宗教の立場からはどんなことも許される。教義が破綻しない範囲でね。でも、その特性を利用して、自己の利益を図ろうとする輩もいるんだ。それ自体は構わないんだけど、それで人に迷惑をかけているのを見ると温厚な私でも腹が立つよ。しかももともと宗教に関心が薄い日本では、そのおかげで宗教は危険なものだとかいう認識が広まってしまっている気がするしね」


ふぅと友人は一息つく。
ぼくはふと思った。


「アニミズムとかは・・・」
「あぁ!そうだ、それは支配するための宗教というのかな。巫女さんが神様の役割をしていたんだよ。全てに神の名を与え天を知り地を知り海を知る。そしてそこから世界を動かす。それでそこについていく人たちは安心していたんだ。ところで、Godはどうして神なんだろうね、日本の八百万の神と意味が全然違うし。最初は天主って訳されていたけど、そのほうがいいと思うけどねぇ」

「うーん、宗教については、わかったよ」
「ちょっとまて、わかったらダメだって
「え?」
「最初にいったじゃないか。これは私の勝手な解釈だって。信じちゃダメだよ。宗教は奥が深いんだから、わかった振りをしたほうが余計タチが悪い。わかった振りをするくらいなら何も知らないほうがましだよ。本当に知りたければしっかり文献を熟読して理解しないとダメだと思うよ。それでも無理かもしれない。それくらい宗教は扱いに慎重にならなければいけないってことは知っておいてくれよ。私がいえるのはこれくらいかな」
「いいなおすよ。君の意見はわかったよ」
「そう」




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Title: 03.体罰
Genre: 今日の一言->ぼくと友人[対話風コラム]
Date: 2001/05/24
Option:

友人宅の呼び鈴を鳴らしたが誰も出てこなかった。


「あれ?」
「ピンポーン」


もう1度呼び鈴を鳴らす。
家の奥のほうでドタバタと音がしてドアにドンとぶつかる音が聞こえた。
その後ちょっと待っていると、ドアの鍵が開く音がして、扉の向こうから友人が
眠たそうな顔をのぞかせた。


「ああ、なんだ、君か」
「おはよう。さっき何かドアにぶつかったようだけど?」
「ああ、こいつが外に出ようとして失敗したんだろう」


そういって友人は視線を下に落とした。
ぼくもつられてみると、いつも友人の側でごろごろしている猫がのびている。
扉に頭をぶつけたようだが、随分、どんくさい猫だ。
おそらく丸々と太っているのが災いしてストップがかけられなかったのだろう。
ふと思ったのだが、ぼくはこの猫の名前を知らない。
随分ながいこといるようだが気にもしていなかった。


「そういえばこの猫って何ていう名前なんだい?」
「クロだ」
「白いじゃないか!!」


足元でのびている猫はどこからどうみても真っ白だった。
友人は面倒くさそうに頭をかいた。


「別にクロだろうがシロだろうが、猫にとってはどっちでもいいことじゃないか。それよりこんな朝早くいったいどうしたんだ?」
「朝って。今はもう正午だよ。相変わらず君の生活習慣は随分乱れているなぁ」
「まったくだ。それを承知して私の家を訪ねるなんて君は罪な奴だ。ちょっと着替えてくるから応接間かどこかで待っててくれ」
「わかったよ」


そういってぼくは家に上がらせてもらった。
応接間でしばらく待っていると、友人が煎餅とお茶を乗せた盆を持って現れた。
いつも煎餅だ。
友人はテーブルに盆を置くと、向かいのソファに身を沈めた。


「で。今日は一体何の用かな」
「君はさ、体罰の問題についてどう思う?」
「体罰?ずいぶん古い話題だな」
「古いのかい?確かに話題になるような教育現場での体罰問題は、もう長い間起こっていないけど、家庭での虐待や、それにまつわる問題は現在進行形じゃないかな」
「そっか。しばらく見かけないから下火になったもんだと思い込んでいたよ。そうだね。当事者には現在進行形だ。で、君は体罰の問題に関して、どうして私に聞くんだ?別に私がどう思うか君が知ったところで現状は何も変わらないと思うけど」
「今回はね、ちょっと昨日の晩、インターネットでいろんなサイトを閲覧していたんだけど、そこでぼく自身がいろんな意見を見て頭の中がゴチャゴチャになってしまったんだ。体罰を肯定する意見も否定する意見もどっちも間違っていないような気がしてね。だから、君ならどういう判断を下すか知りたくなってしまったんだよ」
「また私の意見?それより君はどう思うんだ」


そういって友人は煎餅を口にした。
ぼくも手を伸ばす。


「ぼくは、最初はね、体罰も仕方ないんじゃないかなって思ってたんだ。今の世の中、甘やかされて、温室で育った子供もいるし、無抵抗に育てていては、わがままに育つだけだって思ってね。でも反対意見を聞くうちに、体罰を肯定することに疑問をもってしまったんだよ。例えば、ものごとを解決するのは、別に力ではなくて、言葉でもできるはずだし、暴力によって心に傷を負ってしまう人だっているんだ。他にも、虐待を受けた子供は、将来暴力をふるってしまうっていう話もあるらしいし。じゃあ体罰なんていらないんじゃないかってね。でもその一方で身体で覚えたことは一生忘れないっていうし、体罰を受けて感謝する人もいる。それで、うーんってうなってしまった訳さ」
「なるほどね。結局両方の意見を聞いてしまって落ち着かなくなってしまったってことか」
「うん、そういうことだ」


お茶をすすりながら友人はおもむろにいった。


「じゃあさ、君はどうしてそういうことになったか分かるかな?」
「そういうこと?」
「つまり、どちらの意見も間違っていないように聞こえることさ」
「うーん。それは、考え方が違うからじゃないかな。文化とかそういうものかもしれない」
「同じ文化内にでも体罰を肯定する人と、否定する人がいるんだろう?文化的なものじゃないことは確かだね」


わからなかった。
ぼくはソファの背もたれにゆっくりと身体を預ける。


「わからないよ。教えてくれ」
「もうちょっと考えた方がいいんだけどなぁ。・・・えっとね。話が噛み合わなくなってしまったかとか、どっちの意見も間違っていないように聞こえるとかっていうのは、特に、同じ文化内、同じ常識内でそれが起こる場合、大抵言葉の意味にずれがあるからなんだ」
「ずれ?」
「うん。リンゴっていう言葉1つとっても、それでイメージする『リンゴ』は人それぞれ違うんだ。今回君が悩んでいるのもそれに当たるね」
「まだちょっとわからないなぁ。どんな言葉でも人によって、意味が違う、それは知っているけど、それがどうしてぼくが悩んでいることに関係するんだ?」


友人はふふふと笑って


「だってそれは君、今の話を聞いていると、意見同士に体罰の意味の解釈のずれを感じてしまうじゃないか。この場合は正確にいうと、反対意見は暴力、あるいは虐待。対して肯定意見は体罰について話を進めているだろう?話が噛み合う訳が無い」
「しかし、体罰は、結局は暴力だし、虐待も組み込まれることもあるだろう?」
「あぁ。何をいっているんだ君は。同じ行動をとっていても、そこに含まれる意思が違えば、当然意味が変わるに決まっているじゃないか。強姦は罪だが、同意の上での「ごっこ」は罪じゃないだろう?弱いものに対する、過剰に理性が外れた攻撃は虐待。自分の我を通すために振るうのが暴力。罰としての意思を伝えるのが体罰。全然違う。もちろん、これらは受けての受け取り方による部分も多いけどね」
「あ、そうか」
「そうだよ。それを踏まえて考えれば、納得がいくだろう?」
「うん。要するに、体罰の名を借りた虐待や、暴力はいけないということだね。すると、体罰はあったほうが良いのかな?」
「それは私たちが決めることじゃないね。実際に、体罰は攻撃属性を持っているんだし、罰としての意味をもつ体罰を、虐待だと感じる人間もいる。他にも体罰の意味を勘違いしている教師や、理解していても正しく使えない教師もいるんだから。良いか悪いか、それは状況をみて世間が決めることだろう」
「うーん、なるほどねぇ」


ぼくはもう1枚煎餅を食べながら納得した。
友人は湯飲みにお茶を注ぎながら、言葉を続ける。


「ただしここで忘れてはいけないのが、言葉の重みは結局、直接的な経験記憶にはたどり着けない部分もあるってことと、罪に対する正当な罰は与えられるべきということだ」
「それはどういうことだい?」
「そうだなぁ。わかりやすくいうとね、例えば連続殺人犯がいたとして、裁判官が彼を説教するだけで無罪放免するとしたらどうだろう。周りの人間は納得するかな」
「しないだろうね。だって何か理不尽じゃないか」
「だろう。これが言葉ではたどり着けない経験記憶への重み、それから罪に対する正当な罰は与えられるべきといった意味の一方の面だ」
「ちょっと待てよ。連続殺人犯と、学校内で起こる、子供の罪は全然違うだろう?いっしょにしたらまずいんじゃないか」
「あのね。ここでいっているのは罪の大小や規模じゃなくて、それで納得できない人間がいるかどうかっていうことなんだ。それくらいわかるだろう」


それはそうだ。
ぼくは顔が真っ赤になってしまった。
変な反論はしないに限る。慌てて続きを促す。


「と、ところで、さっき君はもう一方の面っていったよね。もう一方って何だい?」
「もう一方?ああ。それはね。罪を犯した人間は、それが不本意で、他人に迷惑をかけてしまった場合は罪悪感を感じるんだ」
「え。どういうことだい」
「そのままの意味さ。どこにでも罪を犯したことに対して強い罪悪感を持つ人間がいるってことだよ。それで、だ。そんな物凄い罪悪感を感じている人間に、ただ叱責するだけっていうのはどうだろう。もちろんそれで罪悪感が晴れる人間もいるけれど、やっぱりそれではケジメがつかないっていう人間だっているんだ」
「例えば、何億円もする絵を破いてしまったけど、持ち主が笑って許してくれた場合とかかな?たぶんぼくはこういうときは凄く申し訳ない気持ちになると思うよ」
「そうだね。そういう人には、償いという意味で相応の罰があったほうが、良い・・・というか心が落ち着くだろうね。罰っていうのは無限に続きかねない自責の念を晴らしてくれる効果があるんだ。でも言葉では、その効果に限界がある。そういうことだね」
「うー・・・ん。要するに、まとめると、体罰の是非を議論をする際、虐待とただの暴力、それから体罰を混ぜて考えてはいけず、それから、体罰の外観、意味、効果をちゃんと理解した上でそれを無くすことに賛成するかどうかを考えないといけないわけか」


ぼくは、すっかりヌルくなってしまったお茶をすすった。気が付くと、先ほどまで玄関でのびていたはずの猫がいつのまにか友人の隣までトコトコ歩いてきている。友人はヨイショといって猫を膝のうえに抱えた。


「どうやら君の心も落ち着いたみたいだね」
「ああ。ありがとう。確かに君の意見はいらない訳だ。なるほどと思ったよ」
「それは良かった。私も貴重な朝を潰したかいがあるというものだ」
「全然朝じゃないじゃないか」


そういうと友人は笑った。


「そうそう、ここからはまったくの余談になるんだけどね」


猫に無理矢理煎餅を食べさせようとしながら友人はいった。
猫は必死でもがいている。
この猫はいつも友人に近付いては嫌がらせを受けているのだが、嫌なら近付かなければよいと思う。最近気付いたことだが見ているとどうも、構ってもらえるのが嬉しいらしい。そう考えるとこの猫も、ある意味なかなかどうして幸せなのかもしれなかった。


「余談?」
「余談だよ。君は議論をするさいに気をつけるべきことは何だと思う?」
「相手の意図を汲み取ることかな?」
「その通りだ。じゃあ恙無く進めるためには?」
「うーん、揚げ足をとらないこと?」
「惜しい。確かにそれもそうだけど、もう一つあるんだ」
「それは何かな」
「うん。理解する時は、混ぜて考えて、判断を下す時は、分けて考えることだ」
「ん?どういうことだい?混ぜて?分けて?」
「そうそう、人は思い入れで、混ぜて理解することを拒否したり、分けて考えることを拒否したりすることがあるけど、議論が進む時にいちいちそれに対処していては時間がかかるからね」
「あ!さっきぼくがいった、連続殺人犯の罪と、子供の罪でつっかかるようなことか」
「そう、それもそうだ。もっとわかりやすい例を引いてみると、染髪なんかそうだね。染髪を理解する時、若者が黒い髪を茶にしたり、歳をとった大人が白髪を黒くしたりすることだ、って説明するとわかりやすいけど、そこで、歳をとった大人が、あんなチャラチャラしたものと一緒にしないでくれ、なんて反論されると、気持ちはわかるけどってなるよね」
「違うけど、同じことをしている・・・」
「逆に、染髪についてどうこういうとき、歳をとった大人が髪を染めているんだから、若者が髪を染めてどこが悪い、って主張されるのも困るだろう。全然意味が違うんだから」
「こっちは同じことをしているけど、違う訳か」
「そういうことだね。だから、議論の主旨を理解することは大切なんだ。関係無いところで、思い入れの反論が入ると、別にいいといえばいいけど、議論の進行が滞るからね。逆に混ぜっ返したかったら、理解する時は分けて考えて、判断を下す時混ぜて主張すればいいんだ。ヤナ奴って思われるよきっと」


そういって友人は再び笑った。




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Title: 04.議論
Genre: 今日の一言->ぼくと友人[対話風コラム]
Date: 2001/05/24
Option:

 丸い煎餅の欠片が友人の口の中に放り込まれるのを見ながら、僕は茶を啜った。
「つまるところね、君。議論ってようするに何なんだい?」
「相変わら、ず、唐突だねぇ」
 口の中の水分を吸収したであろう煎餅を飲み込みながら、友人はもぐもぐとそういった。そのまま手を伸ばしてお茶を口にする。
「だいたい何で家庭教師の話から急に議論の話になるんだい?脈絡が無いだろうに」
 言われて始めて流れ的に不自然になってしまったことに気が付いた。僕は座布団の上であぐらをかいた足を組替えながら、確かにそうだ、と呟いた。
 一番上の煎餅を手に取る。
「僕が教えてる親戚の子が、これが困った奴なんだよ」
「困った奴?」
「うん。中学生なんだけど、どうも人の言う事を聞かないというか、言ってることが支離滅裂というか」
「ふぅん、それはそれで良いんじゃない?子供だし」
「まぁね。でも僕としては言ってることは理解したいし、出来れば対等に話したいと思う。その方が意思の疎通は巧くいくんじゃないかなと思うんだよ。テレビで見た理想論の影響かもしれないけどさ」
 そういって僕は煎餅を齧った。友人はふぅんと呟く。
「立場を同じにするのは不可能だよ。そう錯覚させる技術を君は持つべきだろう」
「まぁね確かにそう思うよ。ただ、というか、とりあえず最初はまぁ巧く話が出来ていたんだよね。でも僕が三流私大に行ってることが解かってから、かつて無いほど話が噛み合わなくなってきたんだ。僕はちゃんとまともなことをいってるつもりなのにねぇ。相手はすぐにはぐらかすというか」
「ふぅん」
 友人は茶を啜って、熱いなぁといった。
「それで、原因は分かっているのかい?」
「一応、その子は有名な私立中学に行ってるらしいんだ。まぁその学校の中での成績自体はかなり悪いようなんだけどね。あとは、その子の親御さんも自分の子供に誇りを持っているらしい」
「なるほど。君はその子の話が噛み合わなくなった理由を『その辺』にあると見てるんだね」
「うん。たぶんその子は負けを認めたくないんだと思う。僕に」
「あぁいるねぇ、そういう子も」
 友人は足を崩した。
「実力を比較するんじゃなくてステータスを比較して優劣を決めたがるんだ。小学生とかに多いかな」
「うん、そんな感じだよ」
 僕はパリッと音を鳴らせて煎餅を齧った。
「親御さんは僕が何故私大にいってるかは了解してるから僕に家庭教師を依頼するのは抵抗無かったらしいんだけど、その子は事情を知らないから・・・」
「君の事情はともかく、そこからどうやって『議論って何だい』っていう台詞に到達するんだ?」
「そうそれだよ。この間、その子とちょっとした受け答えの態度について口論になったんだ。後半は落ち着いて議論っぽくなったものの、結局あやふやなままで帰ってしまってね。こちらのいいたいことは解かってるはずなのにすぐはぐらかしちゃ、議論にならないと思うんだよなぁ。で、しかもそういったら、その子もはぐらかしてることすら誤魔化して、自分の方がちゃんとした議論をしたいなんていいだすし・・・」
 僕は再び煎餅に手を伸ばしながらそう愚痴った。
「噛み合わない議論に意味はあるのかな。議論って何だろう。それがさっきの問いになったわけなんだ」
「ふぅん」
 気の入らない返事をして、友人が煎餅を口にくわえる。
「ひょもひょも議論ってひうのはね」
「だらしないから、ちゃんと食べてからいえば」
 バリッと音を鳴らせて半分に割れた煎餅を手に持って、友人はあごを動かした。
「悪い」
 噛み砕いた煎餅を飲み込んだ後、お茶を啜って、改めて友人は口を開いた。
「そもそも議論っていうのは、相手の頭の中に自分と同じ考え方の『形』を作り出して、それに対して様々な評価を加えてゆく事だろう。互いの意見を交換する事でそれらの『形』への最善の処理を導き出そうという過程が議論の本質なんだ。これは誰だって無意識の内に理解してると思う」
「確かにね。例えば人生とは何ぞや、っていう議論の場合は、相手の人生観を理解して自分の人生観を照らしあわせた上で、その答え、というか自分の結論に修正をかけていくんだろうし」
「そうだね。殺人は何故ダメかという議論も同じだ。あれは両者の殺人という言葉の定義を理解しあった上で、それにまつわる両者の時間と空間と文化を考慮して、そこからようやくその是非を問うて行くものだからね。だから価値観の相違までを視野に入れた議論であれば、大抵はちゃんとしたものになるといっていいはずなんだ」
 友人は微妙な言い回しをした。
「いえない何かが、あるんだね」
「うんその通り。何でかっていうと、議論の形っていうのは討論や論争、口論みたいに勝敗を持ったいわば戦いのようなものでもあるから、とでもいえばいいかな」
「どういうことだい?」
「そうだなぁ。さっきいった殺人の可否を問う議論の場合、片方が別に構わないという意見、もう片方が絶対ダメだという意見をもってたとするね」
「あぁ、なるほど」
 そこまで聞いて僕はやっと解かった。
「勝敗が出来る、つまり負けたくない人もいるっていうことか」
「そういうこと。実に単純明快なことだよね。例えば喉が渇いたとき自動販売機の前でコーラとカルピスどちらにしようか迷ってるときに、嫌いな相手に『自動販売機で買うならコーラをにしろ』っていわれたら、別にどちらでも良いはずなのにカルピスを選んでしまうだろう?議論にしても、もし認めていない相手に、これはこうだ君も従え、なんていわれたら理性では解かっていても従いたくなくなってしまうからね」
 ・・・たしかに僕はそれに似たような体験をしたことがあった。
「原因を探ってみれば色々理由もあるんだろうけど、特にこれに影響してるのは自尊心だと思う。誰々に負けたく無いから自分の意見を通す。議論をしたいものとしては、これは本末転倒だよね」
「ううん。本当だ。それじゃ議論をしたい人は、そういう人を見分けて議論を吹っかけない事が大事なのかい?」
「違う違う。そういう余計なしがらみも含んで議論と呼ぶんだからそれはそれで構わないんだよ」
「じゃあ、つまりそれを踏まえた上で議論しろってことかな?でも今の状態じゃちゃんとした議論は望めない状態なんだ。結局もとに戻ってしまうよ」
「甘いねぇ」
 友人は湯飲みに手を添えて、ちょっとだけ持ち上げた。
「まっとうなだけが方法じゃないんだよ。相手の目的が議論の回避だろうと何だろうと、君がそこから何を学ぶかが大切なんじゃないか。議論の結論ってやつをね」
「それは解かるけど、難しいなぁ」
「例えば、うーん、そうだなぁ。例えば相手が議論を放棄してしまった場合、君は議論を引き戻すための説得というスタイルを取らなければいけなくなってくる」
「説得?」
「みたいなものだね。議論自体に価値があることを知らせたり、感心を持たせて、ちゃんとした議論に引き戻す作業のことだよ」
「あぁなるほど」
「何故相手が議論を放棄したかというと、それは議論を続けることでその人の自尊心を僅かなりとも傷つける可能性があったからだろう?」
「確かにその通りだ。そういえば、テレビなんか見ていると実際それの影響で、議論をはぐらかす技術も発展してるみたいだしね」
「そうそう。避けようとするものにいくら議論を投げかけても無駄なんだよ」
 友人はニヤリと笑みを浮かべた。
「でもここで問題になるのは、それだけじゃないんだ」
「というと?」
「引き戻すために、マンガでは挑発するような台詞を見かけることがあるだろう?強い調子で言ったりね」
「あぁ、たまに見かけるね。でもあぁいう風にバシッと決めた方が、議論も気持ちよく進むというものなんじゃないかな?」
「ところがそれは場合によるのさ。そういうのはあくまで稀有な例だということを知っておいた方が良い。プライドの高い負けず嫌いの奴にいささか強い調子で言ったって、反発して議論に戻ってくるかもしれないけど、それは勝負としての議論、戻ってきたその人が勝つための議論になってしまって、答えを求める議論ではなくなってしまうんだ。・・・ようするに議論が無効化してしまうわけさ。余程の話術を持たない限りね」
「じゃあ、逆に優しく問い掛けるというのはどうかな」
「確かにそれも有効な手段だけど、丁寧だったり優しく話し掛けるだけじゃダメだろうね。第三者から見ればフェアだけど、相手を正式な議論に引き戻すのは、あくまで対等な立場でお互いが認め合ってる場合だけだ。自尊心が傷付くリスクを背負ってまで戻ってくる可能性はどう考えても低いだろうしねぇ。たぶんそういう人は、自尊心が高ければ高いほどギリギリまで議論から逃げて粘ろうとすると思うよ」
「粘った方が最終的にはその人の不利になることが明白でもかい?」
「言い訳なんかいくらでもできるからね。目をつぶって耳をふさいで逃げる事もできる世の中なんだから、そのままちゃんと議論の場に引き戻すのはむずかしくもなるだろうさ」
「そんなの困るじゃないか!」
 僕は啜ろうとした湯飲みを机の上に置いて、天井を仰いだ。
「それじゃあ、折角話していた僕の立場がなくなるよ」
「まぁ話せてるだけ良いんじゃないかな。実際この世間には反応が返ってこなくなって心の中で自己解決する人もいるんだろうしさ」
「でもそれじゃ議論に呼び戻すのは不可能だってことなのかい?」
「まさか。そんなことないよ」
 友人が肩をすくめるようにそういった。
「どうすれば良いんだ?」
「あのねぇ。もう少し考えてみたらどうだい?議論の場から逃げた理由は自尊心を守るためだろう?だったら呼び戻す議論について、その自尊心を傷つけないことをアピールすればいいんじゃないか」
「あぁ、なるほど」
 そのままである。
「でもそんなことが出来るものなのかな?」
「自尊心とは何か、ということが関係するね。自尊心って何かわかる?」
「プライドの事だろう?・・・さぁ、人より秀でていることに対して自信を持つ事かな?」
「ちっち。それは微妙に違うなぁ。人より秀でていないことに自信を持って、それをプライドとする人もいるし、秀でてる事に自信が無くてもプライドのある人もいるだろう?」
 そういえば、そうかもしれない。
 分からなかった。
 僕は腕を組んで首を傾げる。
「自分を、尊ぶ気持ち?」
「言葉のままだねぇ」
 友人は微妙に笑うと、煎餅を手にとった。
「まぁ君の言う事もあながち外れじゃないんだけどね。自尊心ってのはつまり理想的な自分への、達成度に対する自信のことだよ」
「なんだって??」
「自分の目標となるものに対して打ち込む自分がいるとして、その達成度に対する自信、それこそが自尊心の意味さ」
 僕は腕を組んで首を傾げた。
「うん?」
 再び逆方向に首を傾げる。
「それは、つまり、さっきの僕のいったことと、同じ??」
「そうだねぇ」
 友人は反り返って煎餅を口にくわえた。
「まぁその通りかな。君のいってることも間違いじゃないとは今いったね。これはだから補足だということになる。方向性と目標の問題だよ」
「方向性?」
 ちょっとだけ齧った煎餅を手で遊びながら友人は頷いた。
「うん。君は私の話を聞いても別に腹が立ったり、プライドが傷付いたりしないだろう?」
「まぁ、ね。確かに。微妙に馬鹿にされてたりする感じはあるけど」
「そうそう。君の目標が私の台詞や考え方よりも高い所にあるならば、私のいうことには我慢なら無いと思うよ。例えば、こういう会話を議論の専門家が見たら憤慨するかもしれない。同じように――」
 友人は煎餅を持った手で、ゆっくりと僕を指さした。
「私が拙い知識で、しかも訳知り顔でゲームについて語ったら、君は訂正もしたくなるだろうし、それが支持されているようだったら腹もたつというものだろう。そしてそれが正しくて、しかも君の知識がただの思い込みだったりしたら、君はショックを受けることになるんだ」
 それはそうかもしれなかった。
 僕はその昔、自分で発見し自信を持っていたゲームの知識が他愛もないものであったことを知ったとき、ショックを受けた事があった。なるほど、他にも例えばつまらないサイトが絶賛されて、しかもそのサイトから自分のホームページがつまらないと評価されたら腹も立つかもしれない。指摘が客観的に事実だと分かったらショックも受けるのだろう。
 ところがしかし、これらは自分がジャンル的に関わっていなかったら、だから何?で済む問題なのだ。
 僕は頷いた。
「分かったよ。あるジャンルに対して自分が秀でているという自信。それが自尊心ということだね」
「そういうことだね。言葉は違えど、意味は同じだ。すると議論において、自尊心が傷付くことを回避するために逃げる相手を呼び戻すためにはどうすればいい?」
「あぁ」
 忘れていた。そういえば、その話題だったのだ。
 僕は座布団の角を触りながら考えた。
「自尊心を傷つけないことを相手に知らせるんだね」
「そうそう、どうすれば良いと思う?」
「解らないなぁ、低姿勢で話し掛けるとか?」
「たしかにそれもあるけれど」
 友人は笑いながらそういった。
「方法は問題じゃ無いよ。大切なのは気持ちさ」
 僕はちょっと目を丸くした。
「へぇ。君にしては随分殊勝な事をいうんだね」
「そういう君は随分失礼な事をいうんだね」
 友人はそういって頬を膨らませた。
「まぁ正確にいうなら、大切なのは伝わる気持ちなんだけどね」
「あぁ、なるほど。つまりいくら低姿勢だったり丁寧だったりしても、競合する相手にそのジャンルの話題を振る場合、自信を損なわせる様子が見え隠れしては無駄だっていうことか」
「そうそう。そんなのが見え隠れしては教えようと思っても聞かないよ」
「うぅん。なるほど・・・。でも何かなぁ。ようするに真摯かつ低姿勢で語れってことだろう?ちょっと嫌だなぁ」
「嫌だと心で思うのは自由じゃないか。議論がしたいなら、それくらいは我慢しないと」
 モグモグと口を動かしつつ友人はそういった。
「確かにね。でも相手は中学生だし。そこまでへりくだるのは抵抗があるなぁ。他に何か方法はないのかい?」
「自尊心は方向性と目標と達成度の問題だとさっきいっただろう?」
「いったね」
「自尊心っていうのは不思議なものでね。競合するジャンルにおける相手の意見は聞きたくないものなんだ。ただ、例外はある。そうだな、例えば取るに足らない相手による、達成度の上昇に貢献する意見、とか」
「あぁ、僕がさっきいった低姿勢で話す、ってことだね」
「うん。そして例外は一つじゃない。お互いがお互いに好影響を及ぼす意見を言い合える、同格のものの意見も、自尊心には影響しないんだ」
「ああ、ライバルというやつ?」
「そういうね。後は、そう、相手の目標とするところをオーバーするところにいる人の意見とか」
「オーバー?」
「そう。尊敬できる人ってことになるかな。名詞でいうなら。まぁこんなところだろうね。相手を議論に引き戻す事のできる意見。というか立場」
「なるほど」
 僕は腕を組んで頭を捻った。
「つまり、結局はどっちにしても相手にとって都合の良い立場を僕がとらなければ行けないわけだ」
「そうだよ。相手にとって望ましくない状況をもたらす立場をとるなら、相手が戻って来る筈が無いよ、逃げた方が楽だし」
「そうかぁ。ただ、やっぱり相手のためというのがどうもヤダなぁ」
「あのね」
 気の進まない僕に対して、友人は湯のみを触りながらそういった。
「君がその子と本当にしたいのは何だい?議論?」
「そりゃあ、議論そのものだけど」
「だろうね。私が今まで長々といってきたのはそのためのいわば『ツール』だ。議論において相手を論破する方法じゃない。これ以上何を求めるのかな」
「いわれてみれば、そうかもしれないけど」
 僕は何だか怒られているような気分になって、誤魔化すように茶を啜った。
「でも確かにそうなんだよねぇ。本当にしたいのは何か、か」
「そう。相手とまっとうな議論をしつつ、自分が必ず勝ちたいなんて贅沢だからね。贅沢したいならせめてそのための実力がないと」
「実力?」
「相手の目標を上回るような、ね。そう。曲がりなりにも君はその子の先生なんだから、それを示す事も出来るはずだよ」
「そうか。さっきいってた、尊敬、ってやつだね。僕にできるかな」
「さぁね。そんなことは私には解らない。まぁ相手の理想とするところを見抜くことができれば楽なんだろうけど」
「君ならそう云うと思ったよ。まぁ、頑張ってみようと思う。ところで――」 
 僕は最後の煎餅を手に取りつつ口を開いた。
「君は最初の方で、議論の相手と共通の概念を頭の中に作り出すことが、議論の最初の状態になるみたいなことをいっていたよね」
「いっていたね」
「ふと思ったんだけど、君の話法というか、例をひいてクドクド話すやり方って、もしかしてその共通の概念を出来るだけ簡単に作るために――?」
「あぁ」
 友人はニヤリと笑みを浮かべた。
「最初から相手の頭の中に概念を構築していくよりも、相手の頭の中にある類似の概念を援用した方がすんなり頭の中に入るだろうし、納得もするだろうからね。どうだい、君も試してみては?ただ相手の忍耐も必要になってくるのは確かだとは思うけど」
 友人はそういって、お茶をくいっと飲み干した。



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