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Title: 02.宗教
Genre: 今日の一言->ぼくと友人[対話風コラム]
Date: 2001/05/24
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ちょうど、友人の家の前にたどり着いた時、雨が降り出した。
ぼくは慌てて友人の家の呼び鈴を押すと一息つく。
すぐに友人は出てきた。


「やぁ。遅かったね」
「たいやきを売っていたんだ。そこで。つい買ってしまってね。君もどうだい?」
「ありがとう。いただくよ」


そういって、友人は僕の手からさっとたいやきの袋を奪い取った。


「おい、もう食べるのか?」
「悪いことじゃないだろう?」
「別に構わないけどね」


ぼくと友人は、そのまま家に上がると、たいやきを頬張りながら友人の部屋へ向かった。
友人はたいやきを尻尾から食べているようだ。


「知ってた?たいやきを尻尾から食べるのは、優しい人の特徴だけど、たいやきにとってそれは返って残酷なんだよ。どうせなら一撃のもと、ぼくみたいに頭から食べてやらないと」
「何を子供みたいなことをいっているんだ君は。たいやきを前から食べようが後ろから食べようがたいやきが痛がるわけが無いじゃないか。私は口が小さくて、尻尾からの方が食べやすいから尻尾から食べているまでだよ。まったく合理的じゃないか」


いわれてみればそうかもしれない。
友人の部屋は2階である。急な階段をぼくが先に上った。


「で、いったい今日は何の用事だったけね」
「昨日も電話でいったけど、宗教について君にひとこと聞いてみたいと思ってね」
「宗教?」
「もう忘れたのかい?昨日どこかのホームページを見ていたんだけどね。そこでこの間のテロ事件に関係して、宗教って何、みたいな掲示板のスレッドが立っていたんだ。ぼくも宗教について知りたいから見ていたんだけど、いきなり神様の話になって、しかもそのままギリシャ神話の話に飛んでいってしまっていたから彼らは宗教についてわかっているのかなぁって思ってさ」
「それでいいじゃないか。本尊がなければ宗教は成立しない。別にその人たちは間違っていないよ」


友人の部屋は階段を上がってすぐに左である。
友人は部屋のドアを開けた。どうぞとジェスチャーする。
ぼくは部屋に入った。
座布団を見つけてそのままそこに座る。


「で、どうして神様は必要なんだい?」
「人間には死後の世界を知りえないからだよ。それじゃぁ、少しレクチャーしてあげようか」


そういって友人もふわりと座布団の上に座った。


「ただし、ここでいうのは私の勝手な解釈だ。だから頭から信じ込まないように。まぁ大丈夫だろうけど。それから吹聴したりもしないように。それを最初に心得ておいてくれ」
「わかってるよ」
「それじゃ、なにからいうかな。・・・そうだ。動物って、未来を考えたりしないよね」
「そうなのかい?」
「おそらくね。そりゃ、少しくらい予測したり、経験から反射したりはあるだろうけど、遥かな未来なんて考えないよ。必要が無いし」
「それは、そうかな」
「うん。未来を考えるっていうのは、経験と想像を駆使した高度な予測だろう?もしそれほど高度な予測を行えるのなら、動物にだって試行錯誤の実験でももっと優秀な結果が出るはずなんだ。こうすれば、こうなる、っていうのをずっと先まで予測できる訳だからね」
「それはそうだね」
「だから、動物は、未来を考えないと。それでだね」


そういって、友人は部屋のクーラーをつけた。
外では雨がシトシトと降りつづけている。湿度が高く少々暑かった。


「それ故っていうか、動物は、ご飯を食べたり寝たり、褒められたり、交尾をしたりしたら、それだけで幸せなんだ。サルに自慰を教えたら死ぬまで続けるっていうのはたまに聞く話だしね」
「聞いたことがあるね」
「それからね。ここからが問題なんだけど、人間は、高度な予測を行えるんだ。未来を考えられる」
「うん」
「だから、ご飯を食べたり寝たり、褒められたり、セックスをしたりしても、それだけでは幸せを感じにくくなってしまったんだ。空想の力も人間はすごいしね。空しさを感じてしまう。つまり、それが動物は宗教を持たず、人間の間に宗教のできた意味だ
「え?どういうことだい?幸せを感じにくくなってしまったから、宗教ができた?」
「そうそう、動物は、その場その場の快楽で脳内麻薬によって幸せを得ていたけど、人間はそれができないから、未来を保証することによって、幸せを得ることができるようになったんだ。具体的にいうと、死後の世界の幸福の保証と、それを得るための教えを守ることによる生きがい、そしてその生きがいから保証される、単純な本能への満足。それが宗教が成立した理由なんだ」


ぼくは感心してしまった。


「なるほどねぇ、宗教は人間最大の発明って聞いたことがあるけどそういうことか」
「けだし名言だね。宗教は、人間が生きていく『生きがい』になり得るんだけど、さらに、神様を仮定することによって、人間ゆえ『予測』してしまう死後の、幸福すらも保証できてしまうんだ。先程いった、宗教に本尊が必要なのはそのためだね。人間が死後の世界を保証したところで説得力を持たないけど、世界も人間も創造した神様とか、その神様の預言者、それに、実際に、本尊に成り得た人の言葉は説得力を持つんだ」
「ということは宗教は人間にとって絶対に必要不可欠なものなのかな」


友人はチッチと指を左右に振った。


「それは違う。死後に不安を持たない人間や、生きがいを他に持つもの、それに未来を考えない人間や、普通の状態で幸福を感じられるような人間には、宗教は不必要だよ。今の日本人には宗教はいらないよね。裕福だから。基本的に宗教は、満たされていない人々の間に流行するんだ」
「満たされていない・・・発展途上国とかかな?」
「そうだね。他にも心が満たされていない、生きがいが無い、そんな人達の間にもだよ」
「じゃあさ、どうしてアメリカにはキリスト教が普及しているんだ?彼らは満たされていないわけじゃないだろう?」
「ふふふ、甘いね。産まれた時から間違いなく正しいと保証されている、そう教えられてきた幸せを放棄するバカがどこにいる?それは文化と宗教、同時の問題だ。当然アメリカでも、成人するに従って満たされ、宗教を疑い、文化としての宗教も否定する人間はいるだろうけどね」
「ふぅん。ということは、宗教は否定するに及ばないってことかい?」
「誰だいそんなこといったやつ」


そういって友人は笑った。


「宗教によって生きていることを肯定されている人から、宗教を奪ってどうするんだ。それは殺してしまうことより、拷問を行うことよりも残酷だ。宗教はいらないなんて、日本人だからいえる言葉だよ。実に思慮が浅い。生きがいを含む、全ての幸せを奪う主張を少なくとも私は認めたくないね」
「・・・それは、そうかも知れないね。でもそれをいった人は、この間のテロで多くの人が死んでしまったから、その原因に少しでも荷担した『宗教』を認めたくなかったんだと思うよ。・・・そういえば、どうして彼らは自爆テロなんて行ったんだろう。死んでしまったら意味が無いじゃないか」
「まだまだだねぇ。君も。宗教は死んでも幸福を保証するんだよ。それを保証するのは、教義の遵守だ。だったら、自爆テロが教義に沿っていないものではなく、なおかつ、死んでも幸せが保証されるなら、自爆だってするだろうさ」


友人は立ち上がると、台所に煎餅を取りに行った。
ふと気が付くと、雨が止んでいた。
外を眺めていると、友人が盆の上に、煎餅とお茶を載せて部屋に戻ってきた。


「まぁ食べてくれ」
「頂くよ」

友人はバリっと煎餅を口に含んだ。
ぼくもそれに続く。友人はお茶を口に含みながらいった。


「ところでさ、いい忘れていたけど、どんな宗教にしても教義が厳しければ厳しいほど達成感は大きいんだ」
「どういうことだい」
「ゲームと同じだね。難しいルールの中で優勝したほうが、簡単なルールの中で優勝するより達成感は大きいんだ。たとえば、じゃんけんで勝つよりも、将棋で勝ったほうが気持ちいい、とかね」
「ふぅん」
「逆説的に、至高の目的のためにはルールの遵守に全力を尽くすようになる。また目的を信じていたいがために絶対正義なったりもする」
「それは、イスラム原理主義だとかそういうことをいっているのかい?」
「いや、全部についてだよ。なんにでも当てはまる。人が、同じグループ内の人に規律だとか規則だとかを求めるのは、ゲームに参加している人間に、目的を達成するための足を引っ張って欲しくないからだよ」

「話がそれたね。信じるものは救われるという言葉もある通り、宗教では信じることが大切だ。疑ってしまった場合は幸せを得ることは出来なくなってしまう。命が掛かっている以上、死んだ後の保証は信用できるべきなんだ。それから、その『信じさせる』という効果を得るために宗教の教義は破綻してはいけない。そういうふうにできているんだ。というか、生き残る宗教は、環境に合わせて破綻しないように出来ている。例えばね、世界の三大宗教は本来全て予言を禁止している。予言が確実に当たるとは限らないからだ。仏教でも計り知れないほど遠い未来をすこしいうだけに留めているんだよ。だから、宗教でお金をかせぐのは構わないけれど、決してぼろを出してはいけない。未来を占うなんて愚の骨頂だね。当たらなかった場合は他の教義と共に信用を失ってしまうんだ。それでお金をとっていたら、詐欺罪で告訴されてしまうんだよ。法の華三法行とかね」
「破綻しなければお金をとってもいいのかい!?」
「そう。宗教の本質は、人の幸せだ。そのためには、宗教の立場からはどんなことも許される。教義が破綻しない範囲でね。でも、その特性を利用して、自己の利益を図ろうとする輩もいるんだ。それ自体は構わないんだけど、それで人に迷惑をかけているのを見ると温厚な私でも腹が立つよ。しかももともと宗教に関心が薄い日本では、そのおかげで宗教は危険なものだとかいう認識が広まってしまっている気がするしね」


ふぅと友人は一息つく。
ぼくはふと思った。


「アニミズムとかは・・・」
「あぁ!そうだ、それは支配するための宗教というのかな。巫女さんが神様の役割をしていたんだよ。全てに神の名を与え天を知り地を知り海を知る。そしてそこから世界を動かす。それでそこについていく人たちは安心していたんだ。ところで、Godはどうして神なんだろうね、日本の八百万の神と意味が全然違うし。最初は天主って訳されていたけど、そのほうがいいと思うけどねぇ」

「うーん、宗教については、わかったよ」
「ちょっとまて、わかったらダメだって
「え?」
「最初にいったじゃないか。これは私の勝手な解釈だって。信じちゃダメだよ。宗教は奥が深いんだから、わかった振りをしたほうが余計タチが悪い。わかった振りをするくらいなら何も知らないほうがましだよ。本当に知りたければしっかり文献を熟読して理解しないとダメだと思うよ。それでも無理かもしれない。それくらい宗教は扱いに慎重にならなければいけないってことは知っておいてくれよ。私がいえるのはこれくらいかな」
「いいなおすよ。君の意見はわかったよ」
「そう」




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