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「ねぇねぇ博士。クローンって何ですか?」 「うん、クローン?随分いきなりだね・・・。たしか、クローンっていうのはそもそも同じ遺伝子をもつ複数の生物をさすらしいけど・・・。そう、昔調べたときに、そう書いてあった記憶があるよ。だから三つ同じ形のペットボトルがあってもそれはクローンとは呼ばない」 「へぇ〜・・・。えっとじゃあメカニズムなんかはどうなってるんでしょう。仕組みっていうのかな?」 「仕組みねぇ。まぁ、良く問題になったりするのは、某クローン羊を作るときにも使われた体細胞核移植って技術だね。これはまぁ生殖細胞とかの部分の遺伝子じゃなくて、普通の遺伝子を持った体細胞を利用する。髪の毛とか耳とかそういった細胞だね。テクニカルな部分の説明はいる?」 「あ、それはいらないです」 「そう、じゃあ技術的な部分は端折って概略だけいうと、まずその体細胞を未受精卵子に核移植するんだ。一応これはクローン胚っていっておこうかな。勿論それだけじゃあ細胞分裂できないので、普通の子供と同じように、仮親の母体の卵管にクローン胚を移植する。で、後は自動的に細胞分裂で増えるのを待つと。結果的に元の生物と同じ遺伝子を持った生物を生み出す、という感じかな」 「うーん?何かややこしいですけど、つまり一般的な赤ちゃんの受精卵の代わりに、クローン胚っていうのが細胞分裂して、後の出産以降は普通の赤ん坊と同じってことですか?」 「まぁ、そうなるね。成長も分娩も普通の赤ん坊と同じ過程を辿る」 「やっぱり。で、クローン胚っていうのは、元の生き物と同じ遺伝子なわけですよね」 「同じだよ。まぁ正常に分裂させるのは大変なんだけどね」 「うーん」 「どうしたの。お腹が痛いの?食べ過ぎかい。あっコーラの飲みすぎじゃないか?変なものいれて飲むから」 「ち、違いますよ。いやだな。変な噂を振り撒かないでくださいよ」 「事実じゃないか、わさぶっ」 「ごめんなさい!思わず肘がっ」 「思いっきり体重が乗っていたが」 「気のせいですよ。・・・じゃなくて。えっと、例えば私のクローンってじゃあ、作れるんですか?」 「理論上は作れるよ。どこぞで人間のクローンが出来たとかいう話を聞いたよ」 「ふんふん。つまり私と同じ遺伝子をもった赤ん坊が、誰かのお腹から生まれて来るわけですね」 「その通り」 「それじゃ、その話はこっちにおいておいて。博士、一卵性双生児の定義を教えてください」 「定義も何も、一つの卵子が細胞分裂の途中で二つになって、改めてそれが分裂して結果的に二人になって生まれて来た赤ん坊達のことじゃないか」 「ですよねぇ〜?遺伝子は同じですよねー?」 「当たり前じゃないか」 「じゃあ博士。クローンって、年の離れた一卵性双生児っていう認識、間違ってますか?」 「間違ってないとも」 「・・・即答ですね」 「当たり前だろう。まぁ厳密にいえば違うものだけど、結果自体は年が離れているという差しかでないし、それは別に悩むほどのものでもないと思うけど」 「だってほら、倫理的な問題とか、良く話するじゃないですか。戦争のためにつよーいクローン兵士をたくさん作ったりするのは倫理的にどうとかこうとか」 「倫理的も何も、コストが高いから実現は無理だよ。強い兵士作りたいなら優秀な軍隊を用意して民間から募った方が手っ取り早い。いくら強い兵士が欲しいからって、わざわざ赤ん坊から育てるバカな人はいるのかな?」 「いや、でも、じゃあ、ヒトラーのクローンを作ったりする崇拝者がいたらどうするんです?怖いですよー。ヒトラー再来。それに天才のクローンばかり作って、人間同士の優劣が発生する可能性もあるかもしれないですし」 「あはは。人間の心の成り立ちなんて素質1の環境99だよ。ヒトラーの双子を用意したところで、同じカリスマと思想と危険性を備えさせるのは中々難しいんじゃないかなぁ。これもやっぱり民間から探し出したほうが早いと思う。天才ばかり作ったおかげで人間に優劣が発生したり、選民思想が生まれるっていう話も聞くけど、それについても杞憂だという気がするね。そりゃ、クローンが安価でしかも一日でパッと作れるものなら天才ばかり溢れる危険があるかもしれないけど、教育費とか変わり続ける環境への適性とか、当人の自由意志とかの問題点を考慮すると、先行投資のリスクが大きすぎるよ。それが仮にお金のなる木だとしても、生長する場所も成長させる人も、お金自体の価値も常に変動し続けるものだからね。誰がわざわざ高いお金を出して天才のクローンを作るかって話」 「うーーーん、なるほど。でも、じゃあ、クローンに人権を認めさせず、元の人間の臓器のためだけに生まれさせた、としたらどうです?」 「人権を認めないのは難しいと思うけどなぁ。何しろ、クローンも正真正銘人間なわけだし。人間から人権を奪うとどうなるかは結果が見えてる」 「は、反乱ですか!?」 「一般人の反対運動だよ。あはは、反乱って君、面白いこというねぇ」 「・・・恨みますよ。でも、臓器のためだけに作るのはやっぱり倫理的に問題ありますよね」 「あって当たり前だね。でもまぁ、臓器だけのクローンっていう構想もあるわけだし、それも問題無いだろう」 「え、そんなのあるんですか!?」 「一部の臓器や器官だけを作る技術が、未来にはできるかもしれない、という話だけどね。でもそうなると、便利な世の中だなぁ」 「ですねぇ。日々科学は進歩しているわけですね。ん?でも、じゃあ人間のクローン技術はどうして規制されているんですか?」 「そりゃ戸籍登録が面倒だからさ」 「あぁ、なるほど!お役所仕事ですね」 「そうそう。人間をコピーするだとか自然の摂理に反するとか、そんなのは言い訳。六つ子だからって、おそ松くん兄弟の誰が劣っているというわけでもないのと同じくらい、クローン人間は同じ人間なんだよね。それに自然の摂理に反するっていうけど、人間も自然の一部なんだよ」 「あぁ、そういえばそうですね」 「簡単だろう?だからまぁ、自然の摂理に反しようと思ったら、人間じゃあ無理だね。前に投げた石を、何の力も使わずに後ろに向かって飛ばすことができれば、それは自然の摂理に反しているといえなくもないんだけどね。でもそれが出来たからって別に悪いわけでもないと思うし」 「ですよねぇ。って、で、結局博士の意見としては、クローン技術に賛成なんですか?」 「賛成も反対も無いよ。まぁクローン技術が迷惑だという人がいて、それが論理的なものなら僕はクローン技術に反対するし、迷惑だという人がいないなら賛成する、くらいの弱い意見だね」 「うーん。長々と話しておいて、結局それですか・・・」 「科学技術と倫理面についての是非って結論の出るものでもないからね。それよりも、もっと大切なのは、クローン技術で生まれてきた子供が、平和に幸せに暮らせるかどうかってことさ。最初からそれを視野に入れていない人間のクローン技術が、もしあるとするならば、僕はそれにだけは反対するよ」 「つまり大切なのは技術の是非ではなく、結果が引き起こす関係者の気持ちの方、というわけですね」 「そういうこと」 |
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