直流リニア電源装置を作る

−−オーディオインターフェイス用−−

何も聞こえなくなった

2011, Sept

1.はじめに


USBインターフェイスはUSBバスパワーの電源が使えるようになっているが、これでは物足りない。もしUSBインターフェイスに直流入力端子が付いていれば、これを外部電源で駆動してみれば間違いなく音質が向上する。外部電源として、スイッチチング電源アダプタで駆動することもできるが、スイッチング電源はノイズが多くオーディオに向かない。リニア電源(トランス式電源)のほうがノイズが少なく、音が良いとされている。

<図0−1>SOtMのdx-USB(D/Dコンバータ)。スイッチをEXTに倒すと外部電源から供給する。

もっとも簡単なトランス式ACアダプタには、こういう物があり、1k円程度で手に入るが、実際使うと、スイッチング電源アダプタより音が良いものの、いまいちな音である。これは本格的な電圧安定化回路付きのリニア電源と比較してわかったことである。

そこで、本格的な電圧安定化回路付きの直流リニア電源装置を作ってみた。

直流リニア電源装置とはどういう物なのか、トランス、整流素子、平滑コンデンサ、電圧安定化回路から成り立っている。

トランス:商用電源100Vを、5Vとか12Vなど必要な交流電圧に変換する。
整流素子:交流を直流に変換する。
平滑コンデンサ:変換した直流(周期的に変動している)を、変動のない直流に換える。
電圧安定化回路:所望の電圧の安定した直流を得る。

トランスは、コアで分類すると、EIコア、トロイダルコア、Rコアなどがあり、EIコアがもっとも安価で一般的。整流素子はシリコンダイオード、ショットキバリアダイオードなどがあり、シリコンダイオードが一般的である。整流方式には、ブリッジ整流、センタータップ式整流、倍電圧整流などがあり、それぞれ特徴がある。平滑コンデンサは通常、アルミ電解コンデンサを用いる。

整流素子と平滑コンデンサとからなる回路を「整流回路」と言う。また平滑コンデンサと合わせてチョークコイルを使う方式(チョークインプット方式)もあり、私は最近もっぱらチョークインプット方式を採用している。このほうが平滑コンデンサが小さくて済み、平滑コンデンサに負担をかけないからである。

トランスや整流回路は音質に影響のある重要な部分であるが、回路構成自体は教科書に書かれているものであり、新規な回路を考える余地はない。(*)

(*) 「出川式」と言う回路がある。出川氏の特許公報4126357号を読むと、「ダイオードの整流開始時、終了時に発生していた負荷への電流欠落を、補助整流回路を含むシリーズ電源回路によって補填する」ことが目的と書かれている。つまり主整流回路に加えて、補助整流回路を活用する発明である。出川式電源は電源の供給効率を高める回路だと思うが、コンデンサインプット方式の欠点を補うための方式であり、私のようにチョークインプット方式を使う人には無縁の回路であると思うので、ここでは触れないことにする。

音質への影響が大きいと言われる「電圧安定化回路」を、工夫してみた。

安定化方式はいろいろある。juubeeさんのサイトを見れば、いろいろと実験されている。三端子レギュレータIC(78**、48**、LM317など)(**)、安定化電源IC(723など)を使う回路もあるが、私は一番音質が良いとされた
ツェナーダイオードとMOSFETを使うことにした。これでディスクリートな安定化電源を作ろうと思う。パワーMOSFETを使った電圧安定化回路については、juubeeさんの「シンプルな安定化電源をつくる」を参照。

(**) 三端子レギュレータは安価に入手できるが、ノイズが多く
オーディオには不向きとされている。低ノイズを狙った製品("3080"など5本足のLDO)もあるが発振しやすく回路に工夫が必要で使いこなしが難しいようである。

電圧安定化回路は安定した電圧を得るために電圧を落とす回路であり、落とした電圧は熱となって消えていく。下手をするとA球アンプ並みの発熱がある。熱いのは困るので、できるだけ熱を発生しないようにしたい。

それには電圧安定化回路の中で低下する電圧を少なくすればよい。出力電圧は、供給先のDDCなどの仕様で決まるので、電圧安定化回路の入力電圧を決定するトランスの二次電圧をギリギリまで落とせば良い。例えば12Vが欲しいなら、トランスの電圧10Vにすれば、整流用コンデンサで14Vまで昇圧されるので、電圧安定化回路は14−12=2Vのドロップとなる。

MOSFETを使ったディスクリートな電圧安定化回路が2Vのドロップでちゃんと働いてくれるかどうかが問題となる。(***)

(***)こういう経験がある。パソコンの駆動に必要な12V電圧を作るために、MOSFETを使ったディスクリートな電圧安定化回路を試作したが、トランスの二次巻き線10Vから電圧をとると、パソコンを起動しても安定した12Vが供給できず、マザーボードから警告のブザーが鳴って、OSが立ち上がる前に止まってしまう。テスターで電圧を見ると11V前後をフラフラしている。トランスの巻き線を14Vのものに換えると、パソコンはちゃんと起動する。テスターで電圧を測る安定して12Vを指している。しかしこの場合MOSFETの入力側の電圧は18Vあり、MOSFETでの電圧降下は18−12=6Vもある。電流は数A流れているので電力消費量は20〜30Wと想像する。発熱量がものすごくて、MOSFETの放熱フィンを触ると火傷しそうである。パソコンの駆動には3.3V,5Vも必要で、これらを全部「MOSFETを使ったディスクリートな電圧安定化回路」で作ると、電源装置だけで無駄な発熱量50〜100Wに達しそうである。

MOSFETでの電圧ドロップを2V未満、できれば1V程度に落としたい(**)。

(**)「低ドロップアウト(LDO)」でネット検索すれば分かるように、0.1Vなどという低ドロップアウトで動く三端子レギュレータが注目を浴びている。低ドロップアウトが可能になれば、スイッチング電源のようなノイズが出ないというリニア電源の美点のため、ノイズをきらう通信機器に使うことができる。実際、低ドロップな三端子レギュレータは、携帯電話機などに沢山使われているようである。しかし素人がLDOを使うと発振が怖い。LDOは敷居が高いと思う。

ここでは、なるべき
低ドロップで、低ノイズなMOSFETを使ったリニア電源装置を作ってみた。

2.リニア電源回路

(1)トランス、整流回路、平滑コンデンサ
<図1−1>

このように何の変哲も無い回路である。これはセンタータップ式整流だが、ブリッジ整流にしてもよい。

(2)電圧安定化回路

<図1−2>


はじめに作った電圧安定化回路はこれである。juubeeさんのディスクリート回路とほぼ同じであり、違うところはツェナーダイオードに流す電流を、電源の入力側から定電流ダイオードCRD(CRDでなく抵抗でもよい)で引っ張ってくるところである。この通り作れば必ず動く(私は3〜4個作ったが問題なく動いている)。

電圧安定化回路の解説:ツェナーダイオードZの電圧は必要な出力電圧より3V−6V低いものを選ぶ。私は低ノイズタイプ日立 HZ*-LLを選んだ、所望のツェナーダイオードZが手元になければ直列接続して作れば良い(8Vのものが欲しいなら5Vのものと3Vのものを直列接続)。定電流ダイオードCRDはツェナーダイオードZに定格電流(数mA)を流すためのもの、代わりに抵抗を使っても良い。抵抗値は(入力電圧Vin−ツェナーダイオードの電圧Vz)/(数mA)で計算できる。 C1はタンタル電解コンデンサ10μF(もっと小さい値でも良い) 、C2はオーディオ用電解コンデンサ10μF(私はサンヨーのOSコンを使った)。トランジスタQは2SCなら何でも良いが入手しやすい2SC1815、R=4.7kΩ, VR=5kΩ。電解コンデンサ、ダイオード、トランジスタの極性に注意

ドロップ電圧を小さくするには、MOSFETの選定が重要である。カタログのVds−Vgs曲線(横軸がゲート・ソース間電圧Vgs、縦軸がドレイン・ソース間電圧Vds)を見れば、同じドレイン電流Idでも、ドレイン・ソース間電圧Vdsがトランジスタ素子によってまるで違う。 

秋月電子通商などで売ってるMOSFETのId=20A付近の電圧降下Vdsを調べたら

2SK2698=5V(最悪), 2SK2382=2.0V, 2SK2232=0.8V, 2SK2372=0.3V, 2SK2173=0.3V, 2SK2936=0.2V, 2SK3163=0.1V(最良)

このように差がある。低ドロップ電圧を可能にするには、ドレイン電流が一定のとき、ドレイン・ソース間電圧Vdsがなるべく低いものを選ぶとよさそうだ。例えばVds=5Vの2SK2698より、Vds=0.3Vの2SK2173の方が低ドロップ動作に有利であることが分かる。「低電圧(4V)駆動タイプ」と書いてある素子が良い。

あと電力的には、カタログに載っている最大ドレイン・ソース間電圧Vdssと最大ドレイン電流Idとして、実際使う電圧値・電流値にもよるが、5ボルトで数アンペア流すのなら、Vdss=60〜100V程度,Id=数十アンペアのものを選んでおけば良いだろう。12Vとか16VとかになればVdssはもっと高い方が余裕があって好ましい。しかしVdssが高すぎる素子は(例えば数百ボルト)、低ドロップ動作が難しくなるようだ。

(3)測定1

実際に図1−2の回路を組んで測定してみた。SOtMのdx-USBにつないだ。

条件:トランスの巻線電圧13Vを用意した。整流素子ブリッジはSBD、電解コンデンサC4=2200μF/50V(ニチコンのMUZE-KZ、コンデンサ入力方式)

FETは初め2SK2698を使った、のちに2SK2173に交換。

(a)2SK2698はVdssが500V、Idが15A。カタログのVds−Vgs曲線からId=15Aの時の電圧降下Vdsが5Vと大きい。

測定結果:入力in電圧は19.6V。出力out電圧はボリュームコントロールVRで10-16.5Vまで可変できる。下限の10VはツェナーダイオードZで決まる。出力out電圧が上限16.5Vのときの出力out電圧と入力in電圧との差「ドロップ電圧」は3.1Vである。これがFETのドレイン・ソース間電圧Vdsの最小値となる。

(b)2SK2173はVdssが60V、Idが50A。Id=15Aの時のVdsが0.2Vと優秀である。

測定結果:入力in電圧19.6V、 出力電圧は10-18.1Vに可変できる、可変範囲の上限が1.6V上がっていることに注目。したがって出力out電圧が上限18.1Vのときの出力out電圧と入力in電圧との差「ドロップ電圧」は
1.5Vと小さな値になる。

したがって2SK2173を接続すれば比較的低ドロップ電圧が可能になり、その分トランスの巻線電圧をギリギリまで下げられる。電力損失を減らし、省エネできることがわかる。

ただしトランスの巻線電圧を下げなかったら低ドロップ駆動の有り難味はなく、(a)(b)ともに同じ発熱量である。(a)(b)ともに出力電圧12Vに設定して、SOtMのDDコンバータdxUSBに30分通電した。FETでの電圧降下は7.6Vである。すると(a)(b)ともに熱い温泉か熱湯くらいになる。

そこでトランスを巻線電圧10Vのものに替えて、低ドロップの2SK2173をつないでみた・・・・・

測定結果:入力in電圧15V、可変電圧範囲は10−13.8V、出力out電圧が上限13.8Vのときの出力out電圧と入力in電圧との差「ドロップ電圧」は1.2Vである。

これで出力電圧を12Vに設定してSOtMのDDコンバータdxUSBに30分も通電すれば、 発熱量が減っていることがはっきりわかる。出力電圧を12Vに設定したときFETでの電圧降下は3Vである。7.6Vから3Vに下がった。

ただし、FETでの電圧降下は3Vと言っても、大電流例えば5Aを流せば、15Wと、大きな発熱量になる。

(4)ドロップ電圧をもっと小さくしたい

上の測定では、FETの電圧降下3Vという値まで追い込んだが、もっと小さく、「1V以下」にできないか?

<図1−3>2SK2382


これは2SK2382のVds−Vgs曲線だが、例えば3Aの電流を流すときドレイン・ソース間は0.4Vであることを示している。こんなに低い値だから低ドロップ駆動が可能なように見える。ただしゲート・ソース間電圧Vgsとして3〜4V以上必要である。ところが図1−2の回路を見ると、FETのゲートは抵抗R1を通してドレインと接続されているから、
ゲート電圧はドレイン電圧より高くならないことが分かる。したがって、ドレイン・ソース間電圧Vdsとして3〜4Vを確保しようとすると、ドレイン・ソース間電圧Vgsもそれに引きずられて3〜4Vとなる。これは上の実験結果ともほぼ合っている。これではどうがんばっても低ドロップ駆動はできないので、高い制御用電圧を別に作ってゲートのみに印加することを考える。

<図1−4>

これがその回路である。高い制御用電圧ADJUSTを、抵抗R1を通してFETのゲートに供給する。ついでに抵抗R2を通してツェナーダイオードZに電流を流す。R2=2〜3KΩ。これで好きなだけ高い電圧を、ゲート・ソース間電圧Vgsにかけることができる。したがってドレイン・ソース間電圧Vdsは低く抑えることができる。

高い制御用電圧ADJUSTをどこから得るかが問題だが、倍電圧整流回路を組んでそこから得ることにした。
<図1−5>


これは整流ダイオードD3,D4と電解コンデンサC5,C6で作った倍電圧整流回路である。得られる電圧は、トランス巻き線電圧の3倍くらいになる(*)。さらに三端子レギュレータ78L**を挿入して電圧を安定化させる。このようにして制御用電圧Vadjustを作ることが出来た。

(*)トランスの巻き線電圧が10V−0−10Vなら、30Vが得られる。コンデンサC5,C6、ダイオードD3,D4の耐圧はそれなりに大きめの物を選ぶ必要がある。

上の図1−5は、メインの電圧V1をセンタータップ式整流回路で得ているが、ブリッジ式整流回路の場合、それに倍電圧整流回路を組み合わせることはできるか? 答えは「可」である。

<図1−6>

この場合も、得られる電圧は、トランス巻き線電圧の3倍くらいになる。

(5)測定2

実際に図1−5の回路を組んで測定してみた。

条件:FET=2SK2936(低ドロップタイプ)、トランスの巻線電圧10V、電解コンデンサC5,C6=470μF/50V(ニチコンのMUZE-KZ)、三端子レギュレータは78L09(100mAタイプ)。下に2SK2936のVds−Vgs曲線を示す。このトランジスタはVdsが0.1V〜0.2Vと凄いスペックを示す。
<図1−7>2SK2936



測定すれば、入力電圧V1=7.2V、 V2=15.5Vになった。三端子レギュレータ78L09でV3=9Vに落とした。ツェナーダイオードZの電圧は4Vなので、抵抗R2は5Vの電圧降下であり、ツェナーダイオードZには5mA流れていることが分かる。可変電圧範囲は4.2−7Vである。よって出力out電圧が上限7Vのときの出力out電圧と入力in電圧との差「ドロップ電圧」はなんと
0.2Vである。これがFETのドレイン・ソース間電圧Vdsの最小値となるが、2SK2936のVds−Vgs曲線(図1−7)に近い値にまで追い込むことができたと言える。

(6)とりあえず結論
倍電圧整流回路で高い制御用電圧ADJUSTを作り、図1−4のようにFETのゲートに直接供給することで、最小のドロップアウト駆動をすることが出来た。これならスイッチング電源と互角の省エネ勝負ができる。

音質については、スイッチチング式ACアダプタやトランス式ACアダプタと比べて、実在感、空気感、エネルギーなど、まったく違う。
また、図1−2と図1−4とで厳密な比較試聴をした訳ではないが、ドロップ電圧が低いからと言って音質が低下すると感じたことはない。

次は、いよいよ本命のデスクトップ・パソコンの電源をリニア電源で作ることにする。

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