北岳バットレス・第4尾根登攀

山頂
北岳
分類
無雪期アルパイン
日程
2008年10月11日〜13日
概要
芦安ー広河原〜白根御池小屋〜バットレス第4尾根登攀〜白根御池小屋〜広河原
ー芦安
コースタイム
10/10(金):京都23:00発〜多賀SA(仮眠)
10/11(土):多賀SA−芦安駐車場8:30=9:00バス−広河原10:10〜白根御池小屋12:15=13:08〜二俣13:28〜バットレス沢出合13:58〜Bガリー大滝14:30〜白根御池小屋
10/12(日):起床2:30=出発3:30〜Bガリー大滝取り付き5:15〜登攀開始5:50〜第4尾根取り付き7:25〜 マッチ箱懸垂9:25〜枯れ木のテラス10:15〜終了点10:54〜北岳山頂11:45〜白根御池小屋13:45
10/13(月):白根御池小屋7:45〜広河原9:00-芦安9:45

 念願のバットレス第4尾根へ

アルパインクライミングを始めてから、目標にしていた北岳・バットレス第4尾根にやっと向かうことができた。
  実は、この夏にA木さんと計画していたのだが、天候が思わしくなく中止した。今回は、A木さんには悪いと思いながら、S木さんをバートナーにしてのクライミングである。S木さんは、私よりも1ランクも2ランクも登攀能力のある有望若手である。しかしながら二人ともバットレスは初めてであった。
  ネットやガイドブックなどで、第4尾根取り付きまでのアプローチは、空で言えるくらい頭の中でイメージした。

 ここはどこ?

京都をいつものように23時に出発し、多賀SAで4時間ほど仮眠。芦安には、午前8時30分に到着した。9時のバスに乗り、カーブの多い道を広河原へ。途中の夜叉神峠にも車が多数停まっていた。ここから乗る人も3人いた。広河原には、10時10分着。
  バスを降りると??? ここはどこ???確か、アルペンプラザのビルが有ったはずなのに、あとかたもない。どこでバスを降ろされたのだろうかと思った。
  北岳登山口への標識に従って歩いていくと、記念碑があった。確かその横にアルペンプラザがあったはずなのに、跡形もなくなっていて更地が広がっていた。 
  橋を渡り、広河原山荘で水を補給し、白根御池小屋まで、樹林帯の中を登って行った。快調なペースで登り、2時間弱で到着した。
 白根御池のテント場は快適で水場は蛇口付き、トイレは水洗だった。15張りくらいのテントが張られていてにぎやかだったが、クライマーはそのうち半分くらいだった。

 Bガリー大滝までの偵察行

天気もいいので、予定通りBガリー大滝の取り付きまで偵察することにした。二俣からバットレス沢出合を目指し登るが、なかなか着かない。30分ほど登ったところでやっと写真で見覚えのある大岩のある沢が右手から入ってきた。
  この沢を詰めて大滝の取り付きを目指した。右岸に踏み跡が有るようだったが、沢を詰める方がわかりやすいという情報もあったので、沢を詰めていった。途中、水も出てきたが、それほど靴をぬらすこともなく登ることができた。
  前方に岩壁が見えてきたが、どこが目指すBガリー大滝かわからなかったので、とりあえず近くまで行ってみようということで登り続けた。沢がガレてくると、左に踏み跡が現れたので、それに従って登ると、写真でよく見るクラックが上方に伸びていた。ザイルなしでも登れるくらい易しそうだった。
  偵察を終えて、白根御池のベースまで降り、豚汁をおなか一杯になるまで食べ、明日のための英気を養った。午後6時には就寝した。

 満天の星のもと出発

さて、登攀日当日。2時30分起床。満天の星である。好天を期待して3時30分出発。他のテントからも用意する声や食器の音が聞こえていた。 
  ヘッドランプの明かりを頼りに歩くのは、ルートがわかりにくかったが、昨日の偵察のかいがあって順調に二俣を過ぎた。もし偵察していなければ、うろうろしたかもしれない。S木さん先頭で歩いていたので、知らぬ間にバットレス沢の大岩に着いていた。足場もいいので、ハーネスを着けた。
  前方には、ヘッドランプがいくつか見えていたので、渋滞を心配した。

 Bガリー大滝登攀

Bガリー大滝の取り付きには5時15分に到着。2人のパーティと8人ほどの中高年のパーティが用意をしていたが、我々のほうが早く用意できたので、2番目に入った。5時30分ごろには明るくなってきたので、先頭パーティが登り、私たちは2パーティ目として登った。
  先頭パーティは20mくらいで短くピッチを切ったので、S木さんは、それより上までロープをのばした。先行パーティのトップがS木さんのビレー点を過ぎるのを待ち、、私がセカンドで登った。見てのとおりの易しいピッチであった。先行パーティは登山靴で登っていたので(後でわかったことだが、先行パーティは、Cガリーを詰めて中央稜に向かったようだ。)、少し苦労しているようにもみえた。
  ビレー点に着き、次に私がリードで登ったが先行パーティのトップがビレーをしているところで、横に回りこもうとしたときに、頭大の岩に足をとられバランスをくずした。その勢いでその岩が下方に落ちていった。ふたりで大声で「ラクー!!」と叫んだが、気が気ではなかった。下のパーティに何事もなかったようなので胸をなでおろしたが、ガリーは浮石の巣なので、慎重にも慎重を期さなければならないと肝に銘じた。

 第4尾根取り付きへ

緩傾斜帯に入ったところで、S木さんをビレー。そこからは、ロープを肩に掛け、コンテで左上の凹状を登った。このあたりも浮石だらけで神経を使った。やがてトラバース道らしい踏み跡があったので、左にトラバースしていった。はっきりした踏み跡だった。
  10mほど進んだところで、なぜかその踏み跡が右に折れ曲がって続いていたので、それに従うと、先ほどの凹状のガリーの続きと思われるところに出た。下からは、二人のパーティが登ってきていたので、聞いてみたが、そのパーティもわからないようだった。4mほど登ってみたが、左に続くトラバース道は見当たらず、どうしたものかと思案した結果、踏み跡を見失ったのかも知れないと、引き返した。
  折り返し点をよく見ると、なんと一段下がって踏み跡が続いているではないか。這い松に隠れて見えなかったのだ。その踏み跡に従い、尾根を回り込むとすぐCガリーだった。
  Cガリーを少し登り、赤いペンキで矢印と4と書かれたところを左に入ると苔むしたヒドゥンスラブがあった。左上に踏み跡があるようなので、少し登ると立派な踏み跡が続いており、すぐに写真でよく見た第4尾根の取り付きに到着した。7時25分。我々が一番乗りだった。

 登攀開始

行動食を食べ、水を飲んでロープを整理した。Bガリー大滝の登攀時に、S木さんが新規購入したロープがよくキンクして送り出しに支障がでたからだ。
 S木さんリードでクラックを登りだした。レイバック気味に足を上げた後は足ジャムを決めてスムーズに登っていった。しかし、進むにつれて、またもやロープがキンクしだした。何度も「ちょっと待って!」とコールして、苦労しながらロープを送り出した。やはり、本チャン前には一度はロープを使っておかないとだめだ。
  ビレーしている間に、後続のパーティが登ってきた。
  やがて「ビレー解除!」のコール。私も出だしはレイバック。後は足ジャムを決めて登った。レイバックでは少し腕力が要るが、その後は足ジャムがきちっと決まるので手は離せるほどだった。

 2P目

ビレー点につくと、上方には三角の岩峰がそびえていた。ガイドブックによると、その岩峰を右に回り込むとなっていた。フェースはどこでも登れそうだが、ハーケンは左際に打たれていたので、そちら側を登り、ぐるっと右に回り込むとビレー点があった。この岩峰の基部には左手に踏み跡が付いていた。たぶんピラミッドフェースから第4尾根に登ってくる踏み跡だろう。
  ロープが屈曲するので、すこし流れが悪かった。S木さんをビレーしているときに、後ろのパーティのトップが登ってきた。9.5mmのシングルロープを使っていらっしゃった。

 3P目(白い岩のクラック)

S木さんリードで、3P目。白い岩のクラックというらしい。私も登ったときに、なるほどと思ったが、白い岩にきれいなクラック(そのまんまやん)が続いていた。快適な登攀だ。S木さんは、どこをビレー点にするかまよったらしいが、結局第1コルの上部に支点をとっていた。

 4P目

私がリードで4P目。のつもりだったが・・・。5mほど登ると、Webで見た三角形のつるりとした垂壁が目の前にあった。この垂壁はS木さんに5P目に登ってもらうつもりだったのだが、しかたがない。やや右に回り込んで、なんとかクリア。S木さんは、細いクラック沿いに正面突破したらしい。さすがだ。私は、リッジをマッチ箱の頂点まで登っていってビレーした。

 マッチ箱から懸垂下降(5P目)

マッチ箱の上のほうのビレー点(懸垂点)には、残置スリングとご丁寧に向きを変えたカラビナが2個残置されていた。
  S木さんのオレンジのロープだけをほどいて、セットし懸垂下降。着地点は安定したテラスになっていた。そのこともあって、私は懸垂下降後セルフビレーを忘れていて、S木さんに指摘されるという一幕もあった。

 6P目

上方には、白い枯れ木が見えていたので、たぶんあれが枯れ木のテラス(そのまんまやん)だろうと納得した。50mで届くかどうかぎりぎりだったので、途中の支点でピッチを切った。

 7P目

枯れ木のテラスまでは、フェースを左にトラバースぎみに登って、凹角をテラスまで登るルート(3級+)とリッジ上を登るルート(5級-)があるが、リッジのほうが面白そうなので、そちらにチャレンジした。正面の壁を登るところが細かかったが、その後は楽勝だった。
  枯れ木のテラスの右下には、中央稜に取り付くためにCガリーに懸垂下降するための支点があった。中央稜に取り付いているパーティも見えたが、苦労しているようだった。(後で聞いたところによると中央大の山岳部だったそうだ。)
 後ろのパーティのトップも登ってきて、ちょっと込み合った。

 8P目

枯れ木のテラスからは、正面のバルジを登るとある。S木さんリードで岩を越えるとすぐに、「この先は簡単だよ〜。」とコールがあった。登ってみると、確かにはじめはランナーがほしい感じだが、岩を乗越すとあとは緩斜面なのですたすた歩けるくらいだ。途中、1mくらいの岩の割れ目を渡るところが、ちょっと面白い。S木さんは、這い松を支点にしてビレーしていた。

 9P目(一応)

その上部は、確保がいらないくらいだったが、念のため岩棚までの20mほどは確保して様子を見に行った。岩棚を越えると、そこは広場になっていて左にはしっかりした踏み跡も見える。終了点だった。ロープを引き上げるついでにS木さんに登ってきてもらい。成功を祝して握手をした。
  行動食を食べたり、写真を撮ったりしてしばらく過ごした。そうこうするうちに後続のパーティも登ってこられた。写真を撮ってもらったりした後、頂上に向かった。

 北岳頂上

頂上までは、30分ほどだったが、登攀の疲れもあったのか、足がだるかった。頂上では、演出効果をねらって再度ギアラックをつけ、ヘルメットをかぶって写真を撮ってもらった。
  肩の小屋を経て、白根御池小屋まで下った。連休ということもあるのか、大勢の方が登ってきていた。小屋には1時45分到着。
 このくらいのペースであれば、夏なら、その日のうちに帰ることも可能であると思われる。

 その後

3日目は、F田さん(塩見から北岳まで縦走。肩の小屋泊)と一緒に帰ることになっていたので、朝はのんびりしてパッキングの準備をしていたら、テント場にF田さんが来られて、一緒に写真を撮ったりした後、広河原に下った。
 1時間15分の下りだった。
 バスは10時10分だったが、マイクロバスの便がすぐでるということで、なんとか3人乗せてもらって、芦安には9時45分に着いた。
 芦安の温泉はまだ営業していなかったので、車で少し下ったところにある「ヘルシーハウス山渓園」で汗を流して帰途に着いた。

 感想

今回の登攀の大きな反省点は、落石を起こしてしまったということだ。やはりアルパインクライミングは至る所にワナが仕掛けられているということを肝に銘じて、慎重にも慎重を期さなければならないということを実感した。
  それは置いておくとしても、バットレス初めての二人が自分たちの力だけでバットレスに挑戦して、スムーズに登攀でき、しかもトップで登攀できたことは、とてもうれしかった。
  天気もよくて、大樺沢周辺の紅葉、バットレスの白い岩、空の青さ、まわりの山々の景色を見ながらの登攀はとてもすばらしかった。
  来年は中央稜へ継続で登りたいと思っていたが、実際の岩場を見ると、なかなかむずかしそうなので、もっとトレーニングを積まなければいけないと思った。
  パーティを組んでくれたS木さんには感謝したい。
 

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新しくなった白根御池小屋

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偵察でBガリー大滝取り付きまで


夜明け前


Bガリー大滝を登る

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ヒドゥンスラブ

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1P目

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2P目は上の岩峰の基部を右に回り込む

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3P目の登りだし

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大樺沢の紅葉をバックに登る

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マッチ箱からの懸垂

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6P目:懸垂したテラスからの登り

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マッチ箱上の後続パーティを振り返る

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中央稜を登攀するパーティ

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7P目を登る

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8P目このバルジを越える

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北岳頂上で握手