中岳・西尾根登攀

山頂
中岳
分類
積雪期アルパイン
日程
2009年3月20日〜22日
概要
新穂高温泉〜槍平〜中岳西尾根登攀〜中岳〜大喰岳〜大喰岳西尾根下降〜槍平〜新穂高温泉
コースタイム
19日京都駅22:30−平湯バスターミナル26:30
20日平湯バスターミナル9:30−新穂高温泉10:10−白出沢出合12:30−槍平16:50
21日槍平4:40〜森林限界6:40〜第1ピーク8:25〜第2ピーク8:45〜第3コル10:00〜中岳13:30〜大喰岳15:00〜槍平18:20
22日槍平6:40〜新穂高温泉9:40

 中岳・西尾根って?

3月下旬の連休は、唐松岳から五竜岳への縦走を考えていたが、同行者があらわれず、どうしようかと思っていたところ、中岳・西尾根に行かないかというお誘いを受けた。「中岳・西尾根?どこの中岳?」というくらいの認識しかなかったのだが、日本登山大系に載っているというので調べると、 「上半部に三つの岩峰を持ち、ハーケンの使用も強いられ、ナイフエッジ、岩稜、急斜面と変化に富んだ尾根である。(中略)P1から第1コル付近にはどうにか幕営できる。
 ここから核心部が始まる。南岳側に雪庇が発達したスノー・リッジを2時間前後で小岩峰のP2となる。P2を懸垂下降し第2コルに立つと眼前はニードルと呼ばれるP3である。春ならば直登も可能だが、厳冬期は大喰岳側をトラバースする。バランスを要する。ルートの取り方によってはトラバース終了点からふたたび懸垂下降で第3コルである。第3コルから上へ100mが最後のそして最難の岩壁である。ハーケンとアブミにより40mほど登ればあとはやさしい岩場となり上部雪面に抜け出る。頂上はすぐである。」(日本登山大系 槍ヶ岳・穂高岳より引用)
 その他Webの記録も1件読ませてもらったが、はたして自分にそれを登れるだけの体力・技術があるのか不安だった。しかし、同行するメンバーは強者ぞろい。リーダーも受け入れてくれたので参加することにした。

 アプローチが核心?

いつものように京都駅を22時40分に出発。松本から合流されるT田さんをピックアップするために、平湯のバスターミナルで待つことにした。バスターミナルには、雨の中AM2:30到着。雨のあたらない建物のひさしの下にテントを張り仮眠した。  朝6時半ごろには迷惑にならないようにテントを撤収し、朝食をとりながらT田さんを待った。雨脚はかなり強い。いやだなあと思いながら、バス到着の9時20分まで天気の回復を祈りながら待った。幸いなことにバスが到着する頃には雨もやみ、T田さんを乗せて新穂高温泉に向かった。
 新穂高温泉を10時10分出発。天気は曇だが、いつ雨が降ってきてもおかしくない天気だった。雪の林道を歩き、途中で林道をショートカットする急坂を登ったところが穂高平小屋だった。ほぼ1時間の行程。4,5パーティが入っている模様で、西穂高西尾根にとりつくパーティも知るかぎり2パーティいた。
 牧場の柵ぞいにさらに林道を行く。12時30分に白出沢出合に到着、休憩。ここからは登山道を行くことになる。登山道は、一応トレースはあるもののツボ足ではズボッとはまることも多く、苦労させられた。13時40分、チビ谷では、デブリも多く出ていた。さらにラッセルを続け14時40分、やっと滝谷避難小屋に着いた。
 これから先はトレースがなく、我々でラッセルをしなければならない。滝谷を渡るルートをいろいろ探ったが、沢の上部は積雪が厚い状態だったので、小屋からそのままトラバース気味に滝谷を渡ることができた。これから後も右手からデブリが多く出ていた。15時30分ごろから青空ものぞくようになり、振り返ると雪をかぶった滝谷の迫力ある姿に歓声を上げた。
 N村さん、S藤さん、T田さんの驚異的なラッセルに、私などは後から着いていくだけで精一杯だった。かなりバテバテの状態で、やっと16時50分、槍平小屋に到着した。冬期小屋には誰も居ず、我々が一番乗りだったようだ。4人のメンバーは、明日のためにトレースを付けるべく、出かけてくれた。バテバテの私は、T田さん、I野さんとともに調理係にしていただき、水を作ったり、T田さん特製トマトソースシチューを作ったりして、メンバーの帰りを待った。後から、単独行の登山者が2名小屋に入ってきた。その夜は、脚がたびたび攣るような状態で、明日のことを考えると不安だった。明朝の脚の状態によっては、私だけ停滞することも頭をかすめたりした。とりあえず、アミノバイタルプロを飲み、持参したウイスキーも飲まずに就寝した。

 ほんとに長い1日

さて、翌朝、3時起床。脚の状態はだいじょうぶのようだ。T田さんのスープスパゲティを食べ、アミノバイタルプロを飲んで、ヘッドランプを点け4時40分に出発した。空は、晴れ渡り、滝谷の上空にかかる月がきれいだった。はじめは、昨日メンバーが付けてくれたトレースにしたがって登った。雪もしまっていて登りやすかった。岩場が左上に現れるところまででトレースは終わり。そこからはアイゼンを着けて登ることにした。5時50分だった。
 潅木の間を縫うようにしてのぼり続け、やがて6時40分頃、森林限界を越えた。このあたりで標高2400mだろう。さらに登り続け、やや平になったところで休憩。標高2660m、時刻7時25分。振り返ると西方には真っ白な笠が岳が控え、南方には穂高連峰が見渡せた。前方には真っ白ななだらかなピークが見えていた。あれが、P1だろうか。雪はよくしまっているので、アイゼン、ピッケルを効かしながら、快適に登高を続けた。稜線に出る頃は非常に風が強く、雪の粒が顔に当たり痛く、目も開けていられないくらいだった。また、バランスをくずされそうにもなるので、耐風姿勢をとって風が弱くなるのを待つこともたびたびだった。8時25分、ピークに到着。しかし、あまりピークらしくなく、平になった尾根の途中のような場所だった。ここから先には雪稜がつづいており、すこし高くなったピーク(P2か)が見えた。四方を雄大な景色に囲まれての登高は、すこぶる気持ちがよかった。P2には、8時45分に到着。そこからコルへは安全を期して後ろ向きになって降りた。  

 いよいよP3へ

コルから先は雪と岩のミックス帯だった。P3である。ルートは左の雪面をトラバースして斜め左上の岩のリッジに取り付き、そのリッジを右方向に登っていくのが易しそうだった。N村さんリードでロープを伸ばし、フィックス。やがてコールがあり、T田さん、私の順で登った。T田さんはロープマン、私はタイブロックを使用した。ロープマンの方が安心だと思ったが、軽量化のためにロープマンは家に置いてきた。登りはじめると雪面は一部凍っており、いやらしいトラバースの登りだった。なんとかリッジに上がり支点まで辿りついた。そこからはすぐ左下にコルが見えた。ほんの4mほど下だ。T田さんがビレーされながら、岩をトラバースして、そのコルに降り立った。10時。私が続いたが、岩はもろかった。上を見るとピナクルに残置スリングが見えた。懸垂の支点だろう。

 核心部へ

降り立ったコルは日が当たりポカポカして快適な場所だった。全員が登ってくるまで、滝谷方面の穂高の景色を楽しみ、行動食をとりながらくつろいでいた。奥穂高岳やジャンダルムもはっきり見えた。そのうち、メンバー全員がそろい、最後の核心に取りかかった。「第3コルから上へ100mが最後のそして最難の岩壁である。」という箇所だ。確かにクラックの走った右の岩壁は人工じゃないと登れないほど険しいが、その岩壁の左の岩溝はなんとかフリーで登れそうな感じだった。I野さんが果敢にトライした。
 慎重にロープを伸ばしていくが、なかなかてこずっているようだ。小さな落石もたびたびあり、我々はコルで待ちながらそれを避けていた。30分ほどしてコールがあった。まず、O村さんが登り、次に私が登った。ビレー点は岩溝の中の狭い不安定な場所で、ピナクルでビレー点を作成し、リンクカムでバックアップとしていた。あと、5mほどで安定した雪稜に出られそうだが、ロープが少し足りなかったようだ。カム2つでセルフビレーをとり、私がビレーしてもう一本のロープを使ってO村さんに登ってもらった。5mほど上に登ったO村さんは、これから雪稜で簡単なので、どんどんロープを伸ばしていきますというと、その言葉通りロープが伸びて行った。50mいっぱいになってコールがあり、次に私が登った。確かに岩溝を登ると後は雪稜が上まで続いていた。ところどころ凍っていたので、慎重にピッケルのピックを打ち込み、アイゼンを効かせて登った。平らになった雪面に岩の出た安定した場所で、O村さんは支点をとっていた。晴れ渡った空の下、その快適な場所で他のメンバーが登ってくるのを待った。  

 核心部を抜けて中岳へ

結局、全員がそろって、休憩後出発したのは12時50分だった。後は、なだらかな雪稜を中岳まで登るだけだ。途中に岩の出たピークが見えたが、雪を拾って登れそうだった。  中岳の道標に着いたのは、13時30分。皆で記念写真を撮った。中岳の頂上はすぐそこで、展望も抜群だった。
 大喰岳への下り始めが急で、安全を期して道標の支柱を支点として懸垂で降りることにした。東側に張り出した雪庇に注意しながら稜線を進んだ。小さなピークを越えて、大喰岳の頂上へ。頂上からは槍ヶ岳の勇姿が望めた。この時点で15時だった。  

 予想外に緊張した

これからは西尾根を下るのだが、トレースはなかった。大喰岳西尾根はなだらかで歩いて降りられるやさしい尾根だと思っていたのだが、途中の岩峰を巻くために南岳側の斜面をトラバース気味に下るところが悪く(落ちたら大喰沢の出合まで一気に滑っていくだろう。)、慎重に後ろ向きになって下ったので時間もかかった。

 槍平まで下る

尾根の途中で幕営するという選択肢も考慮されたが、雪崩の危険もあるし、また飛騨沢にはトレースもあったので、遅くなっても槍平の小屋まで降りようということになった。
 飛騨沢に降りた後は、トレースに従って快適に行程がはかどり、小屋にはヘッドランプを使うこともなく18時20分に到着した。出発してから13時間40分たっていた。
 小屋が満員ではないかという懸念もあったが、我々だけだったので、場所も広く使え、お酒も飲みながらくつろぐことができた。9時就寝で寝袋に入ると皆すぐに寝息を立てていた。ただ、I野さんだけは、花粉症がひどくなって眠れなかったそうだ。

 最終日は雨

翌日は5時起床。6時40分出発。天気はみぞれ混じりの雪から雨に変わった。トレースがしっかり付いていたので、新穂高温泉には9時40分に着いた。雨は本降りになっていて、ぬれた体は冷えて寒かった。平湯バスターミナル3階のパノラマ大浴場に入り、帰り道の高山で飛騨牛の牛丼を食べ帰途に着いた。

 感想

今回の山行は、私にとって体力・技術ともに厳しいものだった。しかし、メンバーの思いやりで最もきびしい2日目は共同装備の一部を持ってもらったりして、なんとか完遂することができた。メンバーには感謝するとともに、自分はもっと体力をつけなければいけないという思いを強くした。  全体としては、きびしいが楽しい山行ができて心身ともに満足した。

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チビ谷のデブリを登る

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滝谷避難小屋

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デブリをトラバース

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滝谷上部岩壁

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やっと槍平小屋

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滝谷と月

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樹林帯から望む笠ヶ岳

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森林限界を越えて

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P1へ

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稜線は風強し

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P2へ

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P2からの下り

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P3を登る

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P3のトラバース

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第3のコルから穂高連峰を望む

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核心部を登る

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核心部を抜けて雪稜を登る

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中岳への登り

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やっと着いた!

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中岳からの懸垂下降

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大喰岳への稜線

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槍ヶ岳と槍ヶ岳山荘

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大喰岳西尾根を下る