<突然ぬいぐるみに>
ジェミニ君、9月5日、突然死んでしまったなあ。ちょうど週末で家に帰っていたお兄ちゃんもいたし、お姉ちゃんもいたし、家族4人に囲まれて、お前らしく人に迷惑かけないように静かに静かに、動かなくなってしまったなあ。お前、前の晩もお兄ちゃんの車で駅まで迎えにきてくれたし、そのあと、いつものように散歩にも行ったじゃない。それがなんで次の朝早く、まるで、ぬいぐるみに変身しちゃうなんて、ずるいよ。
<庭木の花壇の下に>
あのあとすぐ、我が家の4人は、涙を見られなくてすむと思ったからテキパキやったのだと思うよ。まず、お前を最期まで世話をしたママが、家の庭の中の2本の木の間に、お前を埋葬する場所を決めたんだ。お前の体に合わせた小さな穴を、私とお兄ちゃんと交代で汗だくになりながら深く掘ったよ。お前はそのころ行儀よく手足を揃えて籠に横たわり、ママとお姉ちゃんに花で飾ってもらっていたね。とてもきれいに。そして4人でお前に土をかけたんだよ。窓のカーテンを開ければすぐ見えるところだから、当分は寂しくないよ。それから、3日あとに、そこをママが花壇にして、なでしこを沢山植えたので、毎日何度も何度もそこばかり見ているよ。
<初めから大歓迎>
お前が我が家に来たのは、犬が欲しいといっていたお姉ちゃんがまだ小学校4年生、お兄ちゃんが中学2年の時だったかな。ヨークシャーテリアといっても、生まれてまもなくだったから、黒くてちっちゃくてブルブルふるえて、ちゃんと育つか心配したよ。でも、一番楽しみにしていたお姉ちゃんがお前を見るなり、可愛いいって大喜びだったから、よかった。ママもすごく喜んだんだよ。お前は、最初から我が家に大歓迎されたんだよ。
<お前の名前の由来は車>
お前がくるちょっと前に、いすゞの「ジェミニ」という新車を買ったんだ。小ぶりで品がよくて愛嬌がある、そんな車のイメージに、お前はぴったりだったので、それにちなんでそう命名したんだ。あのころ発行された10万円硬貨で新車の頭金を払ったら、セールスのAさんが感激してくれたのを思い出すよ。車は7年で乗り換えたけど、お前は2倍生きたわけだ。
<アニマルヒーリング>
お前を一番よく知っているママに言わすと、お前は、我が家の2人の子供たちの成長に、大変貢献したんだそうだ。つまり、お前は家族の中で一番弱い(当然だ、子犬だから)、その、一番弱い立場のものに気をつかったり大事にするという、兄妹にそういう優しい心を育てるのに、お前の存在が大きかった、とママは言っているよ。
まあ、堅いこと言えば、アニマルヒーリングというか、一緒に居る人間のこころを癒してくれたのだと思う。そんな効能があるからお前に来てもらったんではないよ。お前と一緒に13年間過ごした結果として、振り返って、そういえばそうだったなあと、あらためて感謝しているんだよ。
<ドライブ大好き>
ジェミニ君よ、お前は車が好きだったね。家族4人が出かけるドライブには、必ず同乗したもんだ。近畿は勿論、山陰、九州、それに信州など、私の概算ではざっと3万KMは走っていると思うよ。正確な記録は、出そうと思えばだせるけど、それが今なにになる?
<ハンガーストライキにはまいった>
大変だったのは、確か7年前、家族4人で海外旅行に行っている間、預かってもらったお宅ではほとんど何も食べなかったらしいね。あれ以来よそに預けるのはやめたから、お前のハンガーストライキは効果があったということになるなあ。やるな、お前は。
<「ショコラ」さわぎ>
こんなこともあったね、毛の色がブロンドで結構可愛かったから、ドライブ旅行の途中、「あ、ショコラだ、ショコラちゃんだ」と騒がれたことがあったね。あの、皇太子さんの結婚される前のころだったなあ。いや、お前は、ちょこちょこ歩くし、ワンワンうるさいから、いわば、万年青年だったよ、うらやましい。
<患者のくせに>
でも、いつも元気だったお前も、半年前かな、近くの獣医さんに入院して、面会可になった3日目の晩、ママと一緒に見舞いに行ったとき、目が合ったら嬉しそうにこちらを見てくれたよね。正直、あれは嬉しかったよ。あれが愛想笑いだとしたらできすぎだ。
<「エリザベスカラー」>
「エリザベスカラー」なんて言葉を知ったのは、お前が体を舐めないように首の周りにつけてもらったパラボラアンテナのような器具を見たときだ。犬を飼っている人は沢山いても、「エリザベスカラー」を知っている人は、それなりに犬と付き合っている、いい人だと思うようになったよ。でも、近所の人でそこに「BS」と書いた人がいるらしいけど、愛犬の主人はNHKの人かな、笑っちゃうね。
<家族皆、好きだった>
でも、お前のこと、一番世話をやいてくれたのは、やっぱりママだったね。シャンプーよくやってもらったね、時々噛み付いたけど。おいしいドッグフード選びも散歩も何から何まで。ママは、外出している時でも、いつもいつも家に残したジェミニのこと気にかけていたよ、ほんとだよ。
お兄ちゃんはお前にいちばん親しみを感じてつきあっていたね。ベッドの中にも平気で入っていたね。車にもよく乗せてもらって嬉しそうだったね。やっぱり男同士だから?お兄ちゃんは本音でお前と付き合っていたと思うよ。
お姉ちゃんは小さいころはベタベタだったけど、最近は、何となく一人前の犬として、ちゃんと可愛がられていたじゃない。お姉ちゃんのピアノをおとなしく聞いていたジェミニの姿は、今でもよく思い出すよ。
<ありがとう、しかないよ。>
ジェミニ、ありがとう、13年間ほんとにありがとう。いなくなって悲しいけど、今は一緒に居てくれたことを感謝したい気持ちでいっぱいだよ、ほんとに。他の3人は何も言わないけど、多分、同じように思っているよ。ほんとにありがとう。