阪さんの「第九」のテンポの速さには、皆びっくりした。歌い終わった合唱団の人たちも、また、客席に来ていただいた私の知り合いの方からも、同じ感想を聞いた。今まで聴いたことのない速さである。
本番の数日前の、第九の合唱練習の休憩時間に、指揮者の阪さん達がこんな話をされているのを思い出した。作曲したベートーベンの曲を楽譜に書きとめた人(名前は聞き漏らした)にはクセがあって、音符以外の記号や数字などはあいまいなところがある。それは、彼の書きとめたほかの譜面を調べるとよくわかる。その上、曲の速さを示す60などという数字も、当時は四分音符と決まっているとは思えない。また、メトロノームの機械の精度も曖昧であったし、目盛の線も上か下かわからない、、、、、。
私は、その時の「メトロノーム」という言葉が耳に残り、ものの本でそれとなく調べてみると、あったあった。こんな事を書いた本があった。
「今から180年も前のことだが、ベートーベンの親友のメルツェル(という名前だったと思う)というひとが、実はメトロノームを発明して、ベートーベンにそれを献上したらしい。ベートーベンはそれをいたく気に入り、楽譜に、その速さを数字で記入することを初め、当時それが流行しだした。第九の初演もそれで成功したらしい。ところが、当時のメトロノームの精度が不安定の為、結局、その時のテンポは、一体どれが正しいかよくわからないらしい、、、、、。」
余談だが、巨匠と言われるカラヤンの振るテンポは、結構、ゆっくり目で、じっくりと曲想を引き出す事に成功して、聴く者に感動を与えてくれる。しかし、あれは、テンポが遅い、ということになるのかもしれない、と思う。
カラヤンといえば、A音を、それまでの440ヘルツよりずっと高い446でベルリンフィルを演奏してきたらしい(最相葉月著、「絶対音感」より)。日本でも主流の442ヘルツも、かったるく感じることがあるには、その違いがあるからかもしれない。
いずれにしても、クラシック音楽のテンポと音調は、指揮者・演奏者の解釈でいかようにも表現できるものだと思う。だから、人気のある指揮者・演奏者とは、楽譜の原典に精通しながら天賦の才能でそれを表現できる人だと思う。
第九を演奏した阪さんは、私は、これから聴く人を目覚めさせ、みるみる世に出るタレントであると確信している。