その1  夢から現実へ


 自宅の狭い庭の片隅に自分だけの小さな小屋を作り、ひと時日常の雑事から逃れ、ゆっくりコーヒーなど飲みながら野外生活の気分を味わってみたい、という子供じみた望みを持っている大人は案外多い。やがてその望みが膨らみ、どこか静かな雑木林に自分の山小屋を建て、ゆっくり週末を過ごしてみたいという希望に変わっていく。しかし別荘地で見かけるような格好良いログハウスは高くてとても手が届かない。たとえ小さな掘立小屋でもよい。どこかアルプスが見える静かな里山に自分だけの居場所を。私も若い頃からそんな他愛ない夢を持ち続け在職中とうとう果たさず、定年退職後に信州の街外れに小さな丸太小屋を建てることで、長年の夢がささや形でやっと叶った一人である。        
        
         
               
小屋のデッキから見る秋色の白馬三山

 
小屋の広さはわずか4m四方のワンフロア―であるが、雪が滑り落ちるように屋根の傾斜をきつくしたお蔭で、ロフト(屋根裏部屋)の空間が広くなり、2米の積雪を想定して作った高いコンクリートの布基礎(土台)が作業場兼倉庫として役立ち、事実上3階建の建物と変わらず予想外に広く便利でほぼ満足している。 壁材の丸太は、国内販売価格の半額で買えるダグラスファー(北米産松)をカナダのログメーカーから直接輸入し、少しでも建築の経費を少なくするため、天井板と壁板張り、建具取付、防腐剤塗装などは時間を掛け全て自分で行った。その結果土地代は別にして、本体の総建造費は運送料を含めて500万以内に収まった。ログハウス建築というと小さくても1000万は掛かる中、半額で済み、手頃な予算でもやる気と工夫次第で「夢の丸太小屋に暮らす」ことは可能であることを実証したと思っている。

         

              
やっと作り終えた階段とテラスに早くも初雪 2002.11


小屋の場所と環境

  今の丸太小屋「堀田山荘」が建つ15年前(1987年)に、最初の職場の先輩K氏と共同で隣接する敷地に3.6mx3.6mの軽量鉄骨の小屋「堀田亭」を建てた。これは、さらにそれより20年前(1967年)に細野(今の八方)に持っていた純木造の山小屋「谷地原亭」を人手に譲り、その代替として建てたものであった。したがって現在の丸太小屋「堀田山荘」はいわば白馬での3軒目の小屋で、50年来の夢がやっと叶ったことになる。
 小屋のある堀田は、白馬村の最東端、嶺方沢源頭に広がる静かな里山で、昔は何軒かの民家と段々畑の水田があった。しかし水不足のため全ての住民が去り、現在は矢口儀重夫婦の1軒だけが残る過疎地となった。それだけに環境が侵されず昔ながらの里山の雰囲気が漂い、1960年頃の4月、日本の原風景を描く向井潤吉画伯がここを訪れ、残雪の白馬三山を背景に今も残る茅葺の民家を描いた作品がある。

                                向井潤吉の描いた作品「遅き春」と、小屋から見る現在の民家

 小屋裏の廃道となっている昔の山道を辿って行くと1時間ほどで後立山が見渡せる白沢峠に出、ここから東側は最近長野市に併合された伝説の里、鬼無里村である。この峠から北に延びる長大な尾根は長野、新潟の県境を成す頸城山脈に繋がり、妙高山や雨飾山に連なっている。
 小屋周辺の山はほとんど藪が生い茂り、夏はトレッキングの対象になりにくいが、最近東山一帯が切り開かれ頂上まで峰方花園集落から林道が伸び、アルプスが展望できる絶好の隠れたハイキングコースである。小屋の西側には、すぐ近くに昔懐かしい小規模の峰方スキー場があり、その上に「夢農場」というアルプス展望の散策コースがあり、冬はクロカンコースとなる。

                 
        積雪期の裏山トレッキングコース                                 東山頂上から見た5月の白馬三山

  小屋建造中は時々野ウサギやタヌキなどが走り回るのを見かけたが、最近は見かけない。しかし、2年前白沢峠近くの山道で日本カモシカに遭遇した。小屋で出る生ゴミは穴を掘って土中に埋めることにしているが、夜中時々明らかに四足動物に掘り返された形跡があるときがある。幸か不幸か小屋周辺ではまだ一度もクマに出喰わしたことがないが、時々村の有線放送でクマ出没注意の呼び掛けが聞こえてくる。クマとの距離を保つため、小屋周囲の放置された植林地の杉の枝打ちを自分で行い、見通しをよくした。         
 
  
                       
       小屋の真正面に見える鹿島槍北峰      
                       ファミリー向きの手軽な峰方スキー場


     
  空撮で見る堀田山荘 (画面中央の杉林西側の黒い屋根




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