その3   テラスと炊事場作り

   

 背丈ほどの高いコンクリートの土台の上に念願の小屋が建ったが、縦長でどう見ても山小屋に見えず、まるでお祭りの山車のようである。基礎を高床式に変えた時点から計画が狂い出した。この状態で業者から引き渡され、内装と共に後の仕事はすべて自分でやらねばならない。とりあえず階段と入口のデッキ作りが急がれる。このままでは小屋に入ることもできない。幸い何本かの丸太や厚い板がかなり余っていたので、設計図を引き夏に近い日差しの中、電動工具なしにノコギリ一本で工作し、初雪が降るまでに仕上げねばと焦り何とか間に合った。階段は最初作業が容易な箱型を作ったが野暮ったく、山小屋らしくないので潰して優美なささら桁に作り替えたが、その後大雪で壊され、結局現在の頑丈な箱型に戻ることになった。
 テラスの床は厚い合板を敷き、冬は雪が積もらないよう小屋を離れる際は取り外しするようにした。それでも1米平方程度の空間ぐらいでは効果なく必ず雪が大量に積もった。そのため長い間手すりを設けるのを躊躇っていたが、手すりのないテラスはやはり外観が冴えず、思い切って10センチの角材で頑丈に作ったがやはり何度か潰されてしまった。 現在は見かけは問わず太い古い建材で一切結合部に金具を使わずロープで縛り再建している。この冬果たして維持できるか、雪との勝負が楽しみである。
    
           

          
その後大雪で壊されたテラスの手すり                    

  次に暮らしに欠かせない流しのある炊事場作りだった。小屋の中には木部を腐食させる水を入れたくなかったので、南側のドアから出入りできる高床の洗い場を外に作った。屋根は薄い合板にトタンの波板を張ったが、これも後に大屋根から滑り落ちてきた大量の雪で見事に潰され、屋根の傾斜をきつくして修復したところ壊されることはなくなった。吹雪の舞う冬の夜など、屋外に出なくとも調理や洗い物が中でできる便利さは捨てがたい。ただ夏は蛍光灯の明かりに無数の虫が集まってくる。

            

         雪に潰され再建した炊事場  



 トイレと風呂の自作 

 
 
上水の確保と共に風呂はともかくトイレは生活に欠かせない設備である。山中では「キジ撃ち」とか「お花摘み」と称してこっそり処理することもあるが、毎日の小屋生活ではそうはいかない。 隣の小屋「堀田亭」には建造時に設置した中古の作業現場用のトタン製の仮設トイレがあるが。20年以上も経ち、雪でへこんだり錆が出たりで、専ら緊急用として使っている。丸太小屋を建てた当時は、地面に深い穴を掘り、その上に余材を使って三角屋根の小屋を作り利用していたが使用頻度を少なくし、できるだけ外出し駅やスーパー、銭湯のトイレで済ませるよう努めた。
                 
           おなじみの地下浸透式のトイレ           発酵処理の近代トイレ
 
その後、小屋の建つ台地と下の道路面が2米以上もある高低差を利用し、台地の端に風呂とトイレの小屋を建て、便器に直結した内径10センチ、長さ7mの塩ビ管を斜面に沿わせ土中に埋め込み、下の端に排泄物処理用として、底に小さな穴を開けたポリバケツを土中に埋めた。これに時々もみ殻と発酵促進剤を混ぜ入れ発酵を促す方式の簡易バイオトイレを作った。3年経った現在、使用度が少ない精もあり、いわゆる垂れ流しによる環境汚染をしないで済んでいる。
                
            トイレ付薪風呂釜の野外風呂     大雪に包まれた風呂小屋
 
風呂の製作は浴槽を樹脂のFRPで固めることで素人でも可能だった。難しいのは、風呂釜に繋ぐ給水と排水の2本の管の接続で、微妙な角度差を付け水漏れのないように埋め込むのに苦労した。部品はすべてホームセンターで適当な塩ビ管をいくつか買ってきて裁断して使った。浴槽は表面が滑らかになるようにするにはグラスウールの張り方が決め手だった

                     
             化学樹脂FRPで作った浴槽         ヒノキ板で囲った浴槽

 製作完成後、材料を購入した業者に写真を送り、製作時の助言に礼を述べたところ、プロでも難しい作業をよくやったと褒められ大いに気をよくした。次は自然の岩をあしらった露天風呂作りに挑戦してみたい。



     生活用水の確保

 

「堀田」という地名は、国土地理院の地形図に集落として記されている。現在堀田のただ一軒の民家の儀重氏の話によると、戦前は白馬から鬼無里村への峠越えの集落として何軒か民家があったらしい。しかし、戦後住民たちは次々に村を去っていき、現在は儀重さん夫婦2人だけとなった。その原因は水不足であった。ほぼ毎年渇水期の数日間、水源の小さな沢の水が完全に涸れてしまい生活できなくなる。そんな時は車で近くの「殿様水」と呼ばれている湧水を汲みに行かねばならない。 大地溝帯の姫川の西側、すなわちアルプス側は硬い岩盤で豊かな地下水が湧き出ている。それに反し東側は軟弱な粘土層で、度々土砂崩れを起こし、地質調査の結果、地下水脈はないとされている。
 この悪条件を知りながらここに小屋を建てて暮らすことに、元の住民はもちろん、誰も賛成しなかった。事実、小屋が建ってから今までの10年は
まさに水を得る闘いの連続だったと言ってもよい。

                

         小沢の乏しい水を蓄えるた貯水バケツ       小屋上に設置した300Lの貯水タンク
 
 最初は甘い予測をし、石の間から滴る水をポリバケツに貯め、小さな孔にゴムホースを差し込み、小屋近くまで100米ほど引っ張ってきた。しかし、これは実用にはならず直ぐに諦めた。高低差が僅かで水圧水量が少な過ぎること、冬季は積雪と落ち葉等で押さえられ流れが止まり、おまけにゴムの匂いに寄せられた野ザルたちにあちこち齧られ穴だらけになるなど予想外の障害に見舞われた。この問題を解消するため、ゴムホースを止めて4米単位の口径の少し太い塩ビ管を20本ほど継ぎ足して地面に這わせた。その結果ホースより流れはよくなったが、冬季雪と小枝の重圧であちこちの接続部がはずれ1米の雪を掘り返しての点検修復には音を上げた。いろいろ考え次に試みたのは、山小屋などで使っている口径20mmの硬質ゴムパイプだった。幸い土建業のK君から作業現場で使っていた古いパイプを提供してもらうことができた。今度は前に比べて流れが数段よくなった。しかしやはり降雨後にパイプ内に泥が詰まり、冬季は中で水が凍結し、パイプから氷を除去するため、一度パイプ全部を取り外すなど大変だった。そこで再びK君に無理言って更に口径の太いパイプを提供してもらい、300Lの大型ローリータンクを小屋裏上部の杉林に設置して流し込んだ結果、夏冬とも今までに無かったスムースさで流れるようになり、今までの試行錯誤がやっと報われた。お蔭でオーバーフローの水を浴槽に貯め、自作の風呂を沸かし、アルプスを眺めながらゆっくり湯舟に浸かるという長年の夢も実現した。

                           

              小屋炊事場の給水口から出る水          小屋近くの道路沿いにある湧水「殿様水」


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