当注釈に関する著作権は仮想劇団くじら座に帰属します。無断転載・引用はお断りします。

修正履歴
2007.02.12 注釈部分一部訂正(「里」の単位全般に)後藤さま、ご意見をお寄せくださいましてありがとうございました。
2005.07.29 注釈部分一部訂正(開合さわやかにのあたり)
2005.03.23 注釈部分かなり訂正
2004.09.29 あらすじ一部、注釈部分だいぶ訂正
#当コンテンツの内容を吟味するにあたり、元祖うゐらう本舗さまを大いに参考にさせていただいております。深く感謝申し上げます。
【拙者親方と申すは】
私の親方という人は。拙者=親方ではないのでご注意。
【立合】
この場にいる人々。
【二十里】
20時間くらい歩いた距離。
ってことで平坦な道と山道では一里の距離も変わってくるので、ここでは「里」を「一時間ほど歩いた距離」に統一します。
【上方】
京都寄りの方角。
【相州】
相模の国。現在の神奈川県。外郎の本拠地・小田原がある。
【小田原】
東海道の主要駅。日本橋を発って最初の城下町。以下東海道に沿った話題が多く出てくる。
【欄干橋虎屋藤衛門】
宇野藤右衛門定春。京都外郎の製法を伝授され、小田原外郎の祖となる。北条氏の招きで小田原に来住。「欄干橋」とは住所から、「虎屋」は当初の屋号。
【剃髪】
髪をそり落として仏門に入ること。
【元朝より大晦日まで】
この薬は中国の元の国より(来た)、といっている。 「大晦日まで」というのは、「元朝」を元旦の意味にかけて「今では一年中手に入るようにいたしました」という意味をこめて。
【ちんの国】
珍(=尊く優れた)国。今でいう中国を指す。日本は唐の文化にものすごく影響を受けていて、日本書紀によると「大唐国は法式備定の珍国なり=(唐は儀式や儀礼などのきまりがよく整って定められている素晴らしい国だ)」という遣唐使の医学生の報告を受け、法令を定めるようになったらしい。おかげで「中国大陸にあるでっかい国=唐=珍の国」という刷り込みに成功した。
ちなみに外郎がやってきた当時は明。
【唐人】
外国人を指すが、ここでは今でいう中国人。外郎さんは元人だけどもこの時代の日本人にとったら唐も漢も元も明も韓もひとくくり。
【外郎】
陳宗敬。中国の元朝で大医院礼部員外郎職(薬を扱う職)にあった。日本に帰化。その子・陳宗奇が京都外郎家の祖となる。外郎延祐ともいう。
【朝】
朝廷。 日本の象徴。
【帝】
後小松天皇。
【参内】
宮中に参上すること。
【折から】
ちょうどそのとき。
【篭めおく】
大事に携帯しておく。
【冠】
頭に被っているもの。そのすきまからこっそり取り出して服用したようだ。
【頂】
頭のてっぺん。
【透く】
すきま。
【香ひ】
薬。
【とうちんこう】
呼び方が難しいのであんまし定着しなかったらしい。
【殊の外】
非常に。
【世上】
世の中。世間。
【似看板を出す】
類似品を出す。
【小田原の…炭俵のと】
小田原の「だわら」をもじった類似品。いつの時代も。
【ばかり】
だけ。
【熱海】
静岡県伊豆半島の温泉地。
【塔ノ沢】
神奈川県箱根の温泉地。
【湯治】
温泉に入浴して病気を治療すること。
【伊勢】
伊勢神宮。三重県伊勢市。
【門違ひ】
訪ねるべき家をまちがえること。
【必ず】
けっして。
【お登り】
京都方面に向かうこと。
【お下り】
京都と逆方面に向かうこと。
【八方が…三棟】
屋敷は屋根のとがった部分が8つ、門がまえは屋根のとがった部分が3つ。実物の写真はうゐらう本舗さまで拝めます。
【玉堂造】
美しい殿堂のことをいったもの。こういう建築様式があるわけではない。
【破風】
日本建築で、切妻屋根の両端につけて飾りなどにする「へ」の字形の板。
【菊に桐のとうの御紋】
「菊」「桐」ともに天皇家の紋章。(桐のとう=桐の紋)
【赦免】
許しをいただくこと。
【系図】
由緒。
【最前】
さきほど。
【正身の】
ほんとうの。
【胡椒の丸呑】
胡椒を丸呑みしてはその味がわからないように、 ものごとはよく考えて理解し味わわないと、本当の意味はわからないというたとえ。
【白河夜船】
見たこともないのに見てきたようなふりをすること。本当は何も知らない。
【気味合い】
ぐあい。様子。
【薫風】
さわやかで気持ちのいい風。
【魚鳥・茸・麺類の喰合せ】
一緒に食べると害になるとされる組み合わせがあり、 庶民はよくこのタブーを犯して病気になっていたと思われる。
江戸時代のベストセラー『養生訓』巻第四(貝原益軒)に事細かに説明されている。
はずなんだけど、当該内容が見当たりません。古典落語に当たるしかないのか?
【銭独楽】
銭の真ん中の穴に軸をさして、糸を巻いてコマのように回すもの。
【はだしで逃げる】
とてもかなわない。それほど舌がくるくる回る様子をいっている。
【矢も盾もたまらぬ】
差し迫ってくるものがあって、じっとしていられない。
【アワヤ喉】
中国音韻学上の五音に基づく。五音とは「唇音・舌音・歯音・牙音・喉音」(後にどんどん増える)で、発声器官によって分類したもの。現代の日本語にない音もあるので、以下ムリヤリ現代日本語をあてはめて解説。正しいことを知りたい方は元祖うゐらう本舗さまへ。
喉音:舌にも歯にもあごにも唇にも触れずに出す音。ア行・ワ行・ヤ行の音。
ハ行も喉音なんだけど、日本語には本来ハ行はなかった。(例;母=パパ→ファファ→ハハ)。
【サタラナ舌に】
舌音:舌と上あご前の硬い部分(あるいは上の歯茎)を使って出す音。タ行・ラ行・ナ行の音。ザ行とダ行も。
本来「サ行」は舌音ではないのだけど、破裂音っぽく発音するサ行が当時の日本にはあった。
【カ牙】
牙音:上あご奥の柔らかい部分を使って出す音(牙=奥歯を指す)。カ行とガ行と鼻濁音ガ行。
【サ歯音】
歯音:上の前歯と舌とを使って出す音。サ行とザ行。
【ハマの二つは唇の軽重】
唇音:唇を使って発音する音。マ行、ファ行、バ行、パ行などがある。下唇と上前歯とを使う軽唇音(今は絶滅)と、両唇を使う重唇音とがあった。
実はハ行は唇音じゃなく、「ファ」(もっと昔はパ)のことを指す。
【開合さわやかに】
開口音と合口音とをはっきり区別して。
開口音とは「ア」の音に近い「オ」。「アウ・カウ・アフ・カフ・キャウ・シャウ・ヤウ」などがそれぞれ「オー・コー・オー・キョー・ショー・ヨー」になったもの。口の形は「ア」のまま「オ」と発音する。
合口音とは開口音より口を狭くした「オ」。「オウ・オフ・エウ・エフ・オホ・キヨウ・シヨウ」などが「オー・オー・ヨー・ヨー・オー・キョー・ショー」になったもの。口の形は開口音より狭くして「オ」と発音。英語でも似た発音の違いがあったなぁ。
中国音韻学にも開口音・合口音の定義があるけれど、後につづく「アカサタナ・・・オコソトノ・・・」に続くことを考えたら、こういうジャパニーズな解釈でいいかなぁと見切り発車。
【へぐ】
薄く削り取ること。むくこと。
【へぎ干し】
へぎ餅。かきもち。餅を薄く切って乾かしたもの。
【はじかみ】
生姜(あるいは山椒)のこと。
【盆まめ・盆米・盆ごぼう】
「盆ござ盆まめ盆むしろ盆ごぼう」(続膝栗毛8編上巻)と似たようなものが。当時の早口言葉の定番かも。
夏に収穫する大豆を盆豆という。米とごぼうはイキオイで言ってみる。
【摘蓼・つみ豆、つみ山椒】
摘みとった蓼と豆と山椒。
【書写山】
円教寺。兵庫県姫路市書写にある天台宗の寺。
【社僧正】
神社で仏事を修めた僧侶。
【粉米】
つくときに砕けた米。
【襦子】
地が厚くなめらかで光沢のある綾絹の織物。サテン。
【ひしゅす】
緋襦子。濃く明るい朱色の襦子。
【襦珍】
襦子の地合に絵緯糸(模様糸)を織り込んで模様が浮き上がるように織り出したもの。
【番がっぱ】
調べてみたが番がっぱというものが見当たらない。もしかすると「番傘」(骨が太く厚い紙が張られ丈夫に作られた粗末な雨傘)みたいなものだろうか(番=たくさん揃えて番号をつけておくところから、普段使いの粗末なものを意味する)。 だとしたら、紙でできたものすごく粗末なカッパだ。
【脚絆】
旅行時などに、歩きやすいようにすねに巻く布。
【しっかは袴のしっぽころびを】
革袴のほころびを「しっ」は調子をつけるための接頭語。
【三針はりなかにちょと縫うて】
三針針中にして少し縫って。
【ぶんだす】
出発する。
【かはら撫子】
ナデシコの別称。
【石竹】
中国産のナデシコの一種。
【のら如来】
野に打ち捨てられた仏さま。
【おけつなづきゃるな】
おつまずきなさいますな。
【四五貫目】
15kg〜19kgぐらい。
【お茶立ちよ…】
お茶を立てなさい、茶を立てなさい、手早く立てなさい茶を立てなさい、青竹茶筅でお茶を手早く立てなさい。
【青竹茶筅】
青竹製の茶筅。茶筅とは抹茶を立てるときかきまわして泡を立てる道具。
【高野の山】
高野山。真言宗の総本山、金剛峰寺がある。和歌山県。
【おこけら小僧】
金剛峰寺をはじめ、高野山にはこけら葺きの屋根の寺がたくさんあるところから 派生した言葉遊びか。直訳すると「取るに足らない小僧」。
【天目】
茶の湯に用いる抹茶茶碗の一種。あるいは茶碗の総称。
【長押】
鴨居の上に取りつける飾りの横木。長いものを立てかけられる。
【薙刀】
長い柄の先に反った刃をつけた武器。
【誰が】
誰の。
【荏】
エゴマ。ゴマの代用で使われるが、実はシソ科でゴマではない。
【おきやがれこぼし】
おきあがりこぼしをもじった語。倒してもすぐ起き上がるだるま形のおもちゃ。
【小法師】
年の若い僧。
【五徳】
炉や火鉢の中にすえて、鉄瓶などをかける道具。輪形で脚が3〜4本。食えない。
【鉄きう】
鉄灸(鉄弓)。細い鉄線を網(または格子)状に編んだもの。 魚などをあぶるのに使う。これ自体は食えない。
【かな熊童子】【石熊】【虎熊】【茨木童子】【頼光】
大江山鬼伝説に基づく。大江山千丈ヶ嶽に立てこもる鬼の一族を、源頼光が退治したといわれる。鬼の頭領は酒呑童子。副将は茨木童子。 その下に熊童子、虎熊童子、星熊童子、金熊童子の四天王が続く。それから舞の得意な石熊童子。
【石持】 【虎きす】
どさくさにまぎれて食べられるものを挿入している。石持も虎きすもおいしいお魚。
【東寺】
教王護国寺。京都にある東寺真言宗の本山。羅城門の東側に建てられた。
【羅生門】
平安京の正門(正しくは羅城門)。源頼光の家来の渡辺綱が、ここに棲みついてた茨木童子の片腕を斬りおとしたといわれる。
【うで栗】
ゆで栗。「ゆで」と鬼の「腕」をかけあわせたもの。
【おむしゃる】
(栗を)お蒸かしになる。
【ひざ元去らず】
おそばを離れない。
【鮒】【きんかん】【椎茸】【定めて】
源頼光の四天王のこと。鮒=渡辺綱(ツナ)、きんかん=坂田金時(キントキ)、椎茸=占部季武(スエタケ)、定めて=碓井貞光(サダミツ)。
鮒・金柑・椎茸という秋の美味しい食材の名とかけてる。
定めて=きっと。
【後段】
食事の後にさらに他の飲食物を出してもてなすもの。軽い麺類とか出したっぽい。
「後段な」で「豪胆な」に掛けた広瀬川さんに一票。
【そば切り】
そばと同じ。そば粉を細長く切って食うのでそば切り。「後段」に出すメニュー。
もしかしたら源綱が茨木童子の腕を切った刀「髭切」の駄洒落かも違うかも。この刀、その後「鬼切」「獅子ノ子」「友切」と名前を変えて「髭切」に戻ったらしいのんで「○切」に掛けたとか。
【新発知】
新発意。出家してまもない者。
【心得たんぼの】
合点→心得た→たんぼのかわ(=てんぼの皮=イキオイで行ったれ、の意らしいです)→川崎、以下東海道につなげるためのだじゃれの嵐。
【川崎】 【神奈川】 【程ヶ谷】 【戸塚】 【藤沢】 【平塚】 【大磯】
東海道五三次(53の宿場)を江戸から順番に並べている。だんだん小田原に迫ってきている。
【やいと】
お灸をすえる場所。
【三里ばかりか】
三里どころかもっともっと先。
三里=お灸のツボのひとつ。足の三里(ひざ頭の下で外側のくぼんだところ)に灸をすえると 万病に効くらしい。
の意味を借用した駄洒落で、転んで膝をすりむくほどの勢いの駆け足で、はるか小田原へ向かっている様子。
ちなみに当時の人が1時間歩いた距離1里ととするとだいたい、
江戸―(4里)―川崎―(3里)―神奈川―(1里)―保土ヶ谷―(2里)―戸塚―(2里)―藤沢―(3里)―平塚(1里)―大磯―(4里)―小田原。
【大磯がし】
「大磯」に「おお忙しい」をかけた駄洒落。
【小磯】
大磯宿の隣にあった東小磯村のこと。大磯宿の加宿。
各宿場には公用の書状や荷物を次の宿場に届けるための人馬を置くことになっていた。(伝馬制)
ところが規模が小さかったりして人馬などを賄えないような宿場は、隣村を加えて(加宿)補うことが許されていたそうな。
参考:「大磯宿について」大磯町観光情報

大磯小磯を並べたのは、「大○小○」と調子を合わせる昔ながらの言葉遊び。
【七つ起き】
暁七つ(今でいう午前3時〜5時。まぁだいたい朝の4時くらい)に起きて。
【早天早々】
早朝から早々と。早起きの「ソウ」と相州の「ソウ」をかけあわせてる。
【貴賎群衆】
身分の高い者も低い者も大勢がむらがり集まっているようす。江戸の町。
【おやゎらぎゃ】
お和らげなさい。
【産子】
生まれたばかりの赤ちゃん。「おやゎらぎゃー」と泣くらしい。
【這ふ子】
ハイハイできる赤ちゃん。
【まいつぶり】
「申されまい」とあわせて「まいまいつぶり」。かたつむりのこと。
【東方世界】
東方にあるといわれる薬師如来の浄土。浄瑠璃浄土。
【薬師如来】
薬師瑠璃光如来。すべての人の病気を治すといわれる仏。左手に薬壺を持っている。
【照覧】
神仏がごらんになること。
【うゐろう】
万病に効くといわれる丸薬(輸入当時は四角かったらしい)。咳、痰の他ににおい消しにも効いたという。苦いので後に餅を食べさせていたが、いつのまにか餅の方が「ういろう」として有名になった。

(・ω・)ノイヨウ

仮想劇団くじら座