バランスオブパワー 感想

総括

 「バランスオブパワー」は極めて冷徹な現実を知るゲームであり、その根底となるロジックは冷戦後も生き続けています。 冷徹な現実とは日本は単なる小国に過ぎないという現実であり、アメリカの利害によって見離されたり、擁護されたりするという現実です。 小国には戦争の自由すらなく、特にアメリカの同盟国間戦争は絶対に阻止されます。 ロシアによる影響力低下がアメリカの干渉を許し、シリアは混乱しています。 シリアの反政府勢力への援助・派兵は、陸続きの隣国であるイスラエル政府への派兵から始まります。 このプロセスは「バランスオブパワー」でも全く同じであり、イスラエルの地政学的重要性も全く同じです。 国連の無力さも「バランスオブパワー」が教える冷徹な現実の一つです。 「バランスオブパワー」は軍事とは無縁な日本の政治に関しても、様々な気づきを与えてくれます。

バランスオブパワーは冷徹な現実を突きつける

 このゲームをプレイすると、日本が置かれた現状について、極めて冷徹な現実を知る事が出来ます。 この現実は、冷戦が終了した2013年8月25日現在もほとんど変わっていません。 いくつかの例をあげながら、現在もなお続いている「バランスオブパワー」について記述していきます。

 世界は依然としてアメリカとロシアの二軸を中心に動いています。 その中にあって、日本は単なる小国にすぎません。 このゲームにおける小国の運命はあわれで、何一つ決定権がありません。 小国には戦争をする権利すらないのです。

バランスオブパワーは尖閣諸島・竹島の未来を語る

 例えば尖閣諸島に人民解放軍が上陸したと仮定します。 これは日本にとって大きな危機ですが、「バランスオブパワー」では単なる小国の危機に過ぎません。 アメリカは異議を唱え、核兵器を用いずに解決することが出来るでしょう。 または、完全に無視することもできます。 アメリカにとって岩だらけの小さな島を失っても、威信値の大した喪失にはならないからです。 どちらにせよ、この決定に小国である日本の意志は反映されません。 これが小国の現実です。

 尖閣諸島に上陸した人民解放軍が、今度は沖縄本島に上陸したと仮定します。 これは小国の危機ではなく、超大国の危機として扱われてもおかしくありません。 なぜなら、沖縄本島には米軍基地があるからです。 「バランスオブパワー」において、軍事基地の占領は数百ポイントの威信値を喪失させます。 こうなると、核戦争の危機が忍び寄ります。

 今度は「バランスオブパワー」の視点で竹島を観察してみましょう。 アメリカにとって日本も韓国も重要な同盟国であり、その二国がいがみあっている状況は本当に迷惑です。 竹島に関する小国の危機が発生すれば、アメリカは全て拒否する事でしょう。

 日本と韓国が小国間戦争を開始したとします。 戦争は軍事費を増大させます。 「バランスオブパワー」において、GNPは軍事費+公共投資+消費者支出で表現されることを思い出して下さい。 GNPが同じであるのならば、軍事費の増大は公共投資と消費者支出を減少させます。 公共投資の減少はGNPそのものを減少させます。 また消費者支出は常に2%の上昇を期待されています。 これが達成できなければ、クーデターの可能性が増加します。 これだけでもアメリカにとって十分手痛い損失です。

 同盟国どうしの小国間戦争は、両同盟国のGNPを減少させます。 加えて、戦争終結時にクーデターが発生し、少なくとも一方の同盟国がアメリカにとって都合の悪い政府を樹立させます。 アメリカにとって都合の悪い政府とは、アメリカを嫌っている政府の事です。 アメリカを嫌っている国に対しては、ロシアの影響力が増大します。 これにより、ロシアが軍事的に侵攻してくる可能性が発生します。

 こうなると、アメリカは指をくわえて黙るしかありません。 クーデターはアメリカとの同盟を白紙に戻します。 軍事基地以上の同盟が白紙に戻ると、駐留軍は本国へ帰るしかありません。 駐留軍がいなくても、異議を唱えることはできます。 ただし、アメリカを嫌っている国に対して異議を唱えても、勝ち目はありません。

 これが同盟国どうしの小国間戦争をアメリカが全て拒否する理由です。 同盟国どうしが小国間戦争を行うと、一方の同盟国を失い、一方の同盟国を疲弊させるのです。 「バランスオブパワー」で日本と韓国が小国間戦争を起こすことはありませんが、 全く同じ仕組みでイスラエルが中東を泥沼に導く事でしょう。

シリアが混乱している理由とバランスオブパワーの現実性

 2013年8月現在、シリアでは激しい内戦が繰り広げられています。 「バランスオブパワー」の時代であったならば、このような内戦は起こらなかった事でしょう。 「バランスオブパワー」のマップ上におけるシリアは、「絶対ソ連圏」だからです。 「絶対ソ連圏」に対するアメリカの干渉は、核戦争へとつながります。

 ロシアの国力低下により、現在のシリアは「絶対ソ連圏」から外れています。 これが「自由の戦士」を後押しするアメリカの干渉を許し、内戦を起こしているのです。 現在は「反政府勢力への援助」に留まっていますが、いざとなれば「反政府勢力への派兵」も惜しまないことでしょう。 市民に対する化学兵器の使用、といった人道的理由にこじつければ、いくらでも派兵は可能です。 シリアの反政府勢力への派兵が行われる場合、隣国であるイスラエルを経由して派兵されるのではないでしょうか。 「バランスオブパワー」でイスラエルは地政学的に大きな意味を持ちますが、この派兵はまさにそれを体現しています。

 「バランスオブパワー」で反政府勢力へ派兵する場合、まず隣国の政府へ派兵しなければなりません。 この手順も現実世界をよく反映しています。 先ほどのシリアにおける反政府勢力への派兵も、イスラエルにおける政府勢力への派兵があって初めて可能になるのです。 陸続きのイスラエルへの派兵がなければ、補給の関係でアメリカはシリアに5,000人の海兵隊を送り込む程度しかできない事でしょう。 また戦車や大砲を含む反政府勢力への多額の軍事援助も、陸続きのイスラエルに派兵していなければ輸送できないはずです。

バランスオブパワーは国連の無力さすら突きつける

 シリアを含むあらゆる紛争問題で、国連は期待できません。 イラクやアフガニスタンで国連は何ができたでしょうか? 「バランスオブパワー」でも異議を引っ込める時に「当件を国連へ提訴する」と捨て台詞を吐きますが、 そんな国連は何もしてくれません。 これが国連の現実です。

軍事とは無縁な日本であっても、バランスオブパワーのロジックが生きている

 「バランスオブパワー」は軍事以外でもいろいろと気付かせてくれます。 例えばアベノミクスです。 安倍総理がアベノミクスを推進するのは、クーデターによる失脚を恐れているからです。 「バランスオブパワー」におけるクーデターは、経済問題が引き金となり発生します。 消費者支出を2%増加させないと、クーデターの可能性が高まります。

 安倍総理はタカ派とされていますが、本音は軍事費を抑えたいと思っているのではないでしょうか。 GNPは軍事費+公共投資+消費者支出と表現されます。 軍事費の増加は消費者支出の減少につながり、クーデターの可能性を増加させます。 「バランスオブパワー」によると、日本のような安定した国におけるクーデターは政権交代を意味します。 安倍総理にとって、再度の政権交代は絶対に阻止しなければなりません。 だから、安倍総理はアベノミクスを最優先で推進しているのです。


2013/08/25


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