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J.S.Bach 「マタイ受難曲」(BWV244)資料集

 

 

Materials of

Matthäus Passion”BWV244by J.S.Bach

 

 

京都府・宇治市  宮門正和

Kyoto, Uji  Masakazu Miyakado

(January, 2016) 

 

 

下線を引いた個所をクリックすると、その個所に移動することが出来ます。

 

 

 

Thomaskirche (Leipzig) (2011)


 

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目次

 

はじめに

音楽の友社 「標準音楽事典」(1966年)より:

岩波新書213 「J.S.バッハ」 辻壮一(1982年)第4章:カンタータの春、5節:マタイ受難曲より抜粋:

「その神学的背景」

「マタイ伝受難曲の演劇性」

インターネット:国本静三氏の著作から: 

「音楽的特徴」

手元にある「マタイ受難曲」の録音(CDDVD

 

聖マタイ伝・福音書 第26 

 

 

J.S. Bach マタイ受難曲(第1部)BWV244

 

(1導入合唱Coral I+II (Fl, Ob, Vl, Vla, Cont, Org) 第1群 4声部:コラール=ト長調、第2群 4声部:12/8 ホ短調 (9:50

(2十字架の死の予言(受難告知)1:03

(3Coral I+II (Fl, Ob, Vl, Vla, Cont, Org) 第I+II4声部 ロ短調 4/4 (1:08

( 祭司長の集まり

4a(40:36

4b(50:18)第III8声部 ハ長調 4/4

4c(60:39

4d(70:36)第I4声部〔トゥッティ〕 イ短調4/4

4e(82:06

(9Recitativo, Alto (2Fl, Cont pizz, Org) (1:04

(10イエスに香油を注ぐベタニアの女 Aria, Alto (2Fl, Cont, Org) 嬰ヘ短調 3/8 ダ・カーポ (5:30

(11ユダの裏切り(背信)0:43

(12Aria, SopranoFl, Vl, VlaCont, Org)ロ短調4/4ダ・カーポ (5:25

9 最後の晩餐

9a(130:19

9b(14I4声部(0:34)ト長調、3/4 Fl, Ob, Vl, Via, Cont, Org   

9c(152:15

9d

9e

10(16Coral I+II群4声部 Ob, Vl, Vla, Cont, Org)変イ長調4/4 (1:09

11(17(聖体の制定)4:24 

12(18Recitativo, SopranoObdam, Cont, Org.)(1:33

13(19Aria, SopranoObdam, Cont, Org.)ト長調6/8ダ・カーポ (3:56

14(20オリーブ山で、「つまずきの予言」 1:29 

15(21Coral I+II群4声部 (Fl, Ob, Vl, Vla, Cont, Org) ホ長調4/4 (1:19

16(221:11

17(23Coral I+II4声部 (Ob, Vl, Vla, Cont, Org) 変ホ長調4/4 (1:19

18(24ゲッセマネの国における苦しみ2:32 

19(25Recitativo, Tenore, Coral(第II4声部) (Fl, Obda, cacc, Cont, Org) ヘ短調→ハ短調 4/4 (2:07

20(26Aria, Tenore, Coral(第II4声部)(Ob, Cont, Org) ハ短調→ト短調 4/4 アンダンテ、自由なダ・カーポ (5:23

21(27受難の盃を受ける決心 0:55

22(28Recitativo, Basso (Vl, Vla, Cont, Org) 1:17

23(29Aria, Basso (Vl unis, Cont, Org) ト短調 3/8 ダ・カーポ  4:42

24(301:43

25(31Coral I+II4声部 (Fl, Ob, Vl, Vla, Cont, Org) ロ短調 4/4 1:07

26(32イエスの捕縛(3:07

27(33Aria, Duetto, Soprano+Alto (Fl, Ob, Vl, Vla) ホ短調4/4アンダンテ、合唱(A:第II4声部)ホ短調4/4B:第I/II8声部)3/8 ヴィヴァ―チェ  5:00

27a 

27b  Coral I+II (Cont, Org) ホ短調3/

28(34

29(35Coral I+II (Fl, Obdam, Vl, Vla, Cont, Org) ホ長調4/4 6:43

 

 

J.S. Bach マタイ受難曲(第2部)BWV244

 

30(36Aria, Alto (Fl, Obdam, Vl, Vla, Cont, Org)  3:59)ロ短調 3/8

+合唱(第II4声部)

31(37大司祭カヤパの審問(1:05 

32(38Coral I+II4声部 (Fl, Ob, Vl, Vla, Cont, Org) 硬い感じで (0:50)変ロ長調4/4

33(391:28

34(40Recitativo, Tenore (Ob, Vla dg, Cont, Org)1:14

35(41Aria, Tenore (Vla dg, Cont, Org) 3:44)イ短調 4/4 自由なダ・カー

     ポ

36

36a(421:47

36b  合唱I+II8声部 ト長調4/4

36c (430:42

36d  合唱I+II8声部 ニ短調4/4→へ長調

37(44Coral I+II群4声部 へ長調4/4 (Fl, OB, Vl, Vla, Cont. Org) 1:00

38 ペテロの否認

38a(450:58

38b  II4声部 ニ長調 4/4

38c(461:40

39(47Aria, Alto (Vl, Vla, Cont, Org) ロ短調12/8 自由なダ・カーポ(7:45

40(48Coral I+II4声部 (Fl, Ob, Vl, Vla, Cont, Org) イ短調4/41:10

 

聖マタイ伝・福音書 第27 

 

41  ユダの後悔と死

41a(491:11

41b  Coral I+II8声部 ホ→嬰ヘ短調3/4

41c(500:49

42(51Aria, Basso (Vl, Vla, Cont, Org) ト長調4/43:11

43(52総督ピラトの前での受難2:49

44(53Coral I+II4声部 (Fl, Ob, Vl, Vla, Cont, Org) 静かに落ち着いて ニ長調 4/41:28

45(54判決2:44

46(55Coral I+II4声部 (Fl, Ob, Vl, Vla, Cont, Org) 静かに泣くがごとく ロ短調 4/41:16

47(560:16

48(57Recitativo, Soprano (Ob dcacc, Cont, Org) ホ短調→ハ長調4/41:17

49(58Aria, Soprano (Fl solo, Ob d cacc) イ短調3/8 自由なダ・カーポ(4:29

50(592:08

51(60RecitativoAlto (Vl, Vla, Cont, Org) 1:01

52(61AriaAlto (Vl solo, Cont, Org) ト短調3/4 ダ・カーポ(8:02

53(621:17

54(63Coral I+II4声部 (Fl, Ob, Vl, Vla, Cont, Org) ニ短調→へ長調 4/4 悲壮感をもって (2:58

55(64十字架の道 1:11 

56(65RecitativoBasso (Vla dg, Cont, Org) 0:39

57(66AriaAlto (Vla dg solo, Cont, Org) ニ短調4/4 自由なダ・カーポ (6:26

58(67十字架上のイエス 3:37 

58a

58b  Coral I+II8声部(終結4声部)ロ短調4/4

58c(680:20

58d  Coral I+II8声部→4声部 ホ短調4/4

58e

59(69RecitativoAlto (Ob dcacc, Cont, Org)  1:41

60(70AriaAlto (Ob dcacc, Cont, Org) 変ホ長調4/4 Coral II群4声部(3:52

61(71イエスの死と埋葬 2:57 

62(72Coral I+II4声部 (Fl, Ob, Vl, Vla, Cont, Org) イ短調→フリギヤ旋法終止4/4 悲しみにくれて (2:01

63(73地震、遺体の引き渡し (4:04

64(74RecitativoBasso (Vl, Vla, Cont, Org) 柔らかく (2:15

65(75AriaBasso (Ob dcacc, Vl, Vla, Cont, Org) 変ロ長調12/8(冒頭リトルネロぬき)(7:08

66(762:53

67(77Recitativo, Bass, Tenor, Alto, Soprano, Coral (Vl, Vla, Cont, Org), ConclusionIntroduction (2:30

68(78ChoralI+II8声部)(冒頭2行はI+II群4声部)(Fl, Ob, Vl, Vla, Cont, Org) ハ短調3/8自由なダ・カーポ  終曲Conclusion (6:24

 

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Thomaskirche (Leipzig) (2011)

 

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◎はじめに

 

J.S. Bachによる「マタイ受難曲」(BWV244)は、新約聖書のマタイによる福音書伝のキリストの受難を記した、第26章、第27章がそのまま引用される。すなわち、キリストの捕促、裁判、最後の晩餐を経て、刑場への行進、処刑、埋葬されるという、キリストの生涯の中で最も劇的で悲惨なストーリーが展開される。バッハのマタイ受難曲においては、マタイ伝のすべての章句をそのまま引用し、物語の展開の骨子とした。その聖書からの章句はEvangelist(エヴァンゲリスト、福音史家)によって語られる。福音史家の語りにはオルガンの伴奏が伴う。

 

マタイ受難曲は全2部で構成され、第1部はマタイ伝の26章の1節から56節まで、すなわちイエスの告発、最後の晩餐とそれに続く捕捉が語られる。第2部では26章の57節から27章の66節の終わりまで、イエスからの弟子たちの逃亡、裁判、刑場への行進、処刑、そして死と埋葬の様子が劇的に語られる。

 

福音史家の話に応じて、その前後に神を賛美し、許しを請う民衆の祈りの言葉、自己懺悔にくれる人々の声、神への帰依を誓う信仰告白、などが合唱曲で挿入される。これらの言葉は、バッハの時代に教会に於いて祭祀の時に用いられた章句が引用されている。その中心をなすのが全12曲のCoral(合唱曲)であり、同じ旋律が調性を変えて何度も繰り返し歌われる。その中でも、54曲目の「おお、血と傷で血塗られたみ頭よ、、、」がその頂点である。また、聖書には、キリストをはじめ、ペトロ、ユダなどの弟子、町の人々など多くの人物が登場し、様々な会話がある。それらの会話も音楽として表現され、おのおの独唱者が歌唱を行う。民衆の声は合唱で表現される。その中で、特にキリストの言葉には弦楽による伴奏を伴い、重厚感・荘重感を持たせている。

 

また、曲の展開の中で、民衆の心象を表現する様々なアリアが歌われる。これは独唱者または合唱でセリフが歌われ、シンプルなメロデイ―が多重に展開され、至高の音楽となっている。また、ソロ楽器による伴奏も見事である。

 

本資料は、各種出版物からの引用で構成されており、ここに私の意見や見解は何ら反映されていない。この資料は、「マタイ受難曲」を聴く際に、曲の全体構造と言葉の意味をより正確に理解するために作成した。約40余年前、まだ若かりし頃 『「マタイ」を聴かずに一生を過ごすのはモッタイナイ。』 と人生の先輩から私に 「マタイ受難曲」 の紹介があった。最初は何も心に響かなかった。いまや、「マタイ受難曲」の厳しくて、清澄な音楽に接してから40年になろうとしている。その頃から思い続けて来た、「音楽と言葉の完璧な調和を体現する」という課題に、これから少しでも近づけたらと思う(201511月)。

 

以下の記述は、手元にある「J.S.バッハ」、ならびに「マタイ受難曲」に関連の著作からの抜粋である。また、手持ちのCDDVDの一覧を示した。「マタイ伝福音書(日本語)」は日本聖書協会版の「新約聖書」からの引用である。

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音楽の友社 「標準音楽事典」(1966年)より:

マタイ受難曲 St. Matthew Passion(英)        受難曲のうち「マタイ伝福音書」のイエス・キリストの受難の物語によったものをいう。ローマ・カトリックでは、受難週間の枝の主日に行なわれる。数多くのすぐれた作品が残されているが、カトリックのものでは、オブレハト(1500年頃)、ラッスス(157583)、ビットリア(1585)、プロテスタントのものとしては、ヨハン・ヴァルターをはじめとして、シュッツ、J.S.バッハの作品が重要である。なかでもシュッツとバッハの作品が名高い。

 

シュッツの「マタイ受難曲」は、単純なレシタティーヴォと群衆の歌う厳格なア・カペラ様式の合唱によるルター派の伝統的な書法によった傑作である。J.S.バッハの「マタイ受難曲」は「ヨハネ受難曲」と共にバッハの宗教音楽中の頂点を築いている。作曲されたのは、おそらく、ライプチヒ時代で、1729415日の聖金曜日に演奏された(1727411日の聖金曜日に初演の節もある)。テキストは「マタイ伝」の第26章、27章とピカンダーによっている。かなり多くのカンタータからの転用がみとめられるにも関わらず、全体の構成の巨大さと纏まりは驚くべきものであり、かなり劇的要素が強い「ヨハネ受難曲」にくらべて、内省的、象徴的である。

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岩波新書213 「J.S.バッハ」 辻壮一(1982年)第4章:カンタータの春、5節:マタイ受難曲より抜粋:

「その神学的背景」

l  1729年の最大の収穫はマタイ受難曲(BWV244)の初演。バッハ、ライプチッヒ市民だけでなく広く人類にとっての大収穫。

l  アウグステイスの記述。不合理なるによってわれは信ずると。神は自分が作り出した人類の堕落、すなわち人類が世界の主であるようにふるまい、みずからの力でみずからを救い、安心立命を得ようとしてそれが果たされず、かえって人類が生まれながらにしてかかえこんでいる弱さ、罪に苦しんでいるのを見かねて、神のひとり子を世に送り、これに人類の罪を背負わせて十字架の上で苦しみ、殺される運命を与えた。神はみずからの子を殺して、人類を解放したのである。神は全知全能であるから人類を罪から解き放つために、ほかの方法もあったはずなのに、みずからの分身を受難させたのは、この上もない不合理であり、人類の理性の考え及ばない所業である。この極端な不合理、あるいは超合理のゆえにキリスト教は成立している。・・・・

l  バッハの芸術はある点において極めて理性的、合理的でありながら、それを聴取する人は知らず知らずのうちに超合理的心境に移される。ここにエクスターシズがある。

l  ドイツの文筆家がバッハを第五の福音記者であると言ったことも理解されるし、…あのニーチェが、マタイ受難曲を聞いてこれが本当のキリスト教で、今まで自分はキリスト教を誤り学んだ(verlernen)と友人への手紙に書いたこともよくよく理解できる。

 

「マタイ伝受難曲とヨハネ伝受難曲」

l  もともと「マタイ伝福音書」は、ユダヤ人で早くキリスト教に改宗した人たちの為にかかれたものであるから、旧訳聖書にあらわれたメシア即ち救世主出現の予言を踏まえて、イエス・キリストの言行を詳しく記し、それが旧約聖書の予言に適っていることをわからせるようになっている。

l  マタイ伝受難曲にはマドリガリズムが17曲もはいっているのに、ヨハネ伝のそれは10曲に足りないことにきずく。

l  マドリガリズムというのはイタリアの16世紀のマドリガーレが情景や情感を表すことに努めたことに端を発して、16世紀末から起こったモノデイオすなわちレシタティーヴォやアリアで情景や情感を表わすものであり、ドイツではマドリガシスムスといった。マタイ伝受難曲にこれが多いのは、事件の信仰に対する情感を歌い上げ、それによって受難のイエスに対する同情、イエスを十字架につけた罪人たる自分の反省を表出しているのである。・・・マタイ伝受難曲はドラマテイックであり、またわかりやすいのである。

l  マタイ伝受難曲では合唱団を二つ用い、ある部分ではコラールをユニゾンで歌う児童声も加わって九部合唱になるところもあり、伴奏のオーケストラも二組を用いていることである。これは聖トーマス教会の会衆席のうしろの二階の幅が広く、二組の合唱・合奏団(と言っても合唱は36人、オーケストラは約20人)を置くことが出来たからと言われている。

 

「マタイ伝受難曲の演劇性」

l  この曲の演劇性の極致は第38a曲でペテロが慟哭する場面である。イエスが最後の晩餐のときに弟子たちに向かって、お前たちは必ず自分から離れていくだろうと言った時(第14曲)、みんなが口をそろえて、そんなことはしませんと言う。その中でももっとも強くイエスを離れないと言ったのがペテロである。イエスが明日の明け方、鶏がときをつくる前に、お前は私を知らないと言うだろうと予言したのがその通りになったので、ペテロは男泣きに泣いた。この場面はまさにオペラテイックである。

l  またしみじみと心に迫る場面は第59曲のレシタティーヴォ、それにつづくアルトのアリアで、このアリアは全曲を通じて、あるいはバッハのアリアの中で、最も深い感動をあたえる曲ではないかと思う。

 

◎受難曲の歌詞の解説の多くは、「バッハ全集第8巻」(小学館)(ミサ曲1998年、受難曲[2])(1998年)に拠った。

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インターネット:国本静三氏の著作から: 

「音楽的特徴」

l  「マタイ受難曲」の編成は特徴的である。複合唱の形態がとられ、2群の混声合唱と2群の管弦楽+通奏低音(オルガン+etc.)で曲は進む。さらに2組の独唱者群(SATBs)が加わる。普通、福音史家(テノール)以外は、独唱者群がイエス(バス)、ユダ/ペトロ/大祭司/祭司/ピラト(バス)を担当する。レシタティーヴォ・アッコムパニャートとアリアを受けもつソプラノ=S、アルト=A、テノール=T、バス=Bsも、独唱者群が担当して歌う。

 

l  第1曲ではは2群の合唱と管弦楽にコラールの旋律を歌う少年合唱(あるいはソプラノ群)が加わる。バッハの示したこうした配置構成は、対話的な台本による楽曲に大きな効果を発揮している。こうした多重編成における立体的効果は興味深いものである。しかし、現在の演奏では省キャスティングが行われることが多く、2群に分けない(必要に応じて分けられるが)編成配置が行われることが多い。ピリオド楽器で編成される演奏グループでは、完璧に2群に分けられた編成配置で演奏されることが多いようである。

 

l  ヴェネツィアにおいて展開された複合唱の書法の取り入れは、注目に値する。こうした複合唱の形態は、ルネサンス後期からバロック初期にフランドルの音楽家たちがヴェネツィアに伝え、サン・マルコ教会でより壮大に華麗な姿へと発展していった。これが協奏曲様式へと発展もしていく。この点からバッハのこの作品の先陣として、モンテ・ヴェルディの「聖母マリアの挽歌」を筆者は捉えている。「マタイ受難曲」第1曲では特に明確に2群に分かれる。さらに第3群ともいうべきボーイ・ソプラノの斉唱によるコラールが出てくる。このやり方もモンテ・ヴェルディ「聖母マリアの晩課」の第5詩編に続く第11曲「”聖マリア世、我らのために祈りたまえ“によるソナタ」におけるソプラノ部に似ている。同じく既存の聖歌が引用され、バッハと同じく作曲者モンテ・ヴェルディの強い主張となっている。バッハがイタリア音楽からどのようにして影響を受けたのだろうか。イタリアで学びドイツに複合唱をいち早く展開したシュッツSchütz1585-1672)やブクステフーデBuxthehude1637-1707)等の作品を通しても知っていたと思われる。第68曲:終曲にも明確に2群の複合唱が示される。

 

(解説)Schützのマタイ受難曲について。

l  シュッツ15851672)はバッハのちょうど百年前の人で、ザクセン選帝侯の宮廷楽長を務めた。シュッツの活躍した時期は17世紀、もはやルネッサンス時代のア・カペラは廃れ、世は表現力豊かなバロック音楽の時代となっていた。そんな中でシュッツはあえてア・カペラの応唱で「マタイ受難曲」を作り、この頃単純和声中心のマンネリ化した受難曲にくさびをうちこんだ。すなわち言葉と音楽におけるバロック的緊密さを取り入れた。この曲は歴史に残る名曲となった。この曲の理解はバッハのマタイ受難曲より難しい。何故ならば、言葉と音楽の一体化がこの音楽のポイントであるから、ドイツ語の理解が十分でないとシュッツの理解は難しい。バッハ受難曲は劇的要素が強く、言葉(ドイツ語)と音楽の関係は理解できるが、シュッツの場合にはアリアや、コラールがなくて淡々と物語展開がすすんでいくから、言葉の理解は必須である。シュッツのマタイ受難曲は、バッハのマタイ受難曲のように言葉を厳密に理解できなくても、ある程度、感動出来るといった類の曲ではないことは確かだ。

 

l  「マタイ受難曲」にみられる他の特色は転調の効果であろう。調性の非凡なる使用の仕方は驚きである。また半音階的な動きや、音型による象徴性が駆使されている。さらに音画的な作曲書法はたいへん劇的で教会音楽の枠を越えたものを感じさせ、我々を感嘆させる。それは涙、稲妻、鞭打ち、十字架を担う場面などの表現にみられる。

 

l  「マタイ受難曲」の特別価値は、当時の世俗音楽と教会音楽のあらゆる形式を網羅して用いている点である。いや、そうした二つの枠や壁を取り外してしまったと言えるだろう。特に当時のオペラに用いられたれレシタティーヴォとアリアによる書法は秀悦である。さらに通奏低音の伴奏みのレシタティーヴォ・セッコと管弦楽伴奏付きのレシタティーヴォ・アコンパニアートとを使い分けして、すぐれた効果をもたらしている。またバッハお得意のポリフォニー書法(多声的書法)も存分に駆使されていることはいうまでもない。全バロック音楽書法と様式が網羅された稀有な作品となっている。

 

l  また「マタイ受難曲」では引用されたコラールが重要な役割を果たしている。受難の重要な場面の後に置かれ、瞑想を促し、祈りへと我々を導くものでもある。当時、参集した会衆の心に大きな意味をもたらしことだろう。それらは当時の人々には、衆知の既存の聖歌であった。バッハが施したすばらしい和声の動きは、ことばの重要性を十二分に生かし、またことばを越えた世界をも示している。それは聖トーマス教会に参集した会衆の共通コンセプトとなり、深い宗教的理解をもたらし宗教的感情を高めたと思われる。さらに当時は一般会衆が唱和したという可能性もある。これについては不明であるが。バッハ以前のクーラウ時代までの受難礼拝は、牧師と合唱隊あるいは会衆と応答しながら進められ、コラールが会衆によって唱和されていた。コラールがいかに音楽的にも、祈りの心に重要な効果をあげているかが、今のわれわれにも解る。前後の楽曲との対比性を示しているし、さらに全曲につながる構成感を高めてもいる。

 

l  パウル・ゲルハルト作詞と、ハンス・レオ・ハスラー旋律に由来する旋律で有名なコラール“おお血潮にまみれし主の御頭”が5回繰り返される(歌詞の節は変わっていく)。同じコラールが置かれてもその都度、バッハは調を変え、和声付けをも変えている。つまり従来用いられていたままの和声付けを用いず(コラールは斉唱で歌われていたが、オルガン伴奏の和声付けはあった)、極上のハーモニーで包み込んでいる。その他はデーツィウス作詞、ヘールマン作詞+クリューガー旋律、アルブレヒト作詞+セルミジ旋律、ハイデン作詞+グライター旋律、ロイスナー作詞、リスト作詞+ショーブ旋律によるコラールが用いられている。

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 手元にある「マタイ受難曲」の録音(CDDVDは下記のとおり。1958年のカール・リヒター盤(青文字)を基本テキストにしている。

 

1. 指揮:カール・リヒター(32歳)、ミュンヘン・バッハ少年合唱団・合唱団・管弦楽団、エルンスト・ヘフリガー(福音史家、アリア:テノール)、キート・エンゲン(イエス:バス)、アントニー・ファーベルク(第一の女、ピラトの妻:ソプラノ)、マックス・プレープストル(ユダ、ペトロ、ピラト、司祭の長:バス)、イルムガルト・ゼーフリート(アリア:ソプラノ)、ヘルター・テッパー(第二の女、アリア:アルト)、ディートリッヒ・フィッシャー・デスカウ(アリア:バス)、ヴァルター・トイラー、ヴォルフガング・ハーグ(フルート)、エドガー・シャン(オーボエ、オーボエ・ダモーレ、オーボエ・ダカッチャ)、クルト・ハウスマン(オーボエ・ダモーレ、オーボエ・ダカッチャ)、オットー・ピュヒナー(ヴァイオリン)、オスヴァルト・ウール(ヴィオラ・ダ・ガンバ)、通奏低音:カール・コルビンガー(ファゴット)、オスヴァルト・ウール(チェロ)、フランツ・オルトナー(コントラバス)、エッケハルト・ティーツェ、ヘトヴィヒ・ヒルグラム(オルガン)、録音:1958年6〜8月、ミュンヘン、ヘルクレスザール、Archiv

https://www.youtube.com/watch?v=3icLbxogeV4 (その1)(第1曲〜第29曲)

 

https://www.youtube.com/watch?v=qP3RF6KrzII (その2)(第30曲〜第57曲)

 

https://www.youtube.com/watch?v=Nz61Q55amDY (その3)(第58曲〜第78曲)

 

2. 指揮:ジョン・エリオット・ガーディナー、モンテ・ヴェルディ合唱団、ロンドンオラトリー少年合唱団、イングリッシュ・バロック・ソロイスツ、アントニー・ロルフ・ジョンソン[福音史家]、アンドレアス・シュミット[イエス]他、Archiv

 

3. 指揮:カール・リヒター、ミュンヘン・バッハ合唱団・管弦楽団、ペーター・シュライヤー[福音史家]、エルンスト・ゲロルド・シュラム[イエス]、ユリア・ハマリ、ワルター・ベリー 他、1971、ミュンヘン、DVDGrammophone

 

4. 指揮:オットー・クレンペラー、フィルハーモニア合唱団・管弦楽団、ピーター・ピアーズ[福音史家]、ディートリッヒ・フィッシャー・ディスカウ[イエス]、エリザベス・シュワルツコップ、クリスタ・ルードリヒ、ニコライ・ゲッタ、ワルター・ベリー 他、1962AngelWarner Classics

 

5. 指揮:カール・リヒター、ミュンヘン・バッハ合唱団・管弦楽団、ペーター・シュライヤー[福音史家]、エデイット・マチス、ジャネット・ベーカー、ディートリッヒ・フィッシャー・ディスカウ、マッテイ・サルミネン 他、1979Archiv

 

6. 指揮:ステファン・クレオベリー、キングスカレッジ合唱団、ジーザスカレッジ合唱団、ケンブリッジ、ブランデンブルグ合奏団、ロジャー・コベイ・クランプ[福音史家]、ミカエル・ジョージ[イエス]他、Brilliant

 

7. 指揮:グスタフ・レオンハルト、ラペタイト合奏団、テルチャ―児童合唱団、クリストフ・プレガルデイエン[福音史家]、マックス・エグモント[イエス]他、1990、抜粋版、DHM

 

8. 指揮:ヘルマン・シェルヘン、ウイーン国立歌劇場管弦楽団、ウイーン・アカデミー室内合唱団、ユーグ・クエノー[福音史家]、ハインツ・レーフス[イエス]、ワルター・バリリ(ヴァイオリン)他、1953Westminster

 

9. 指揮:ゲザ・オベールフランク、ハンガリアン祝祭合唱団、ハンガリー国立交響楽団、ジョゼフ・ムック[福音史家]、ピーター・ケベス[イエス]他、抜粋版、1993Naxos

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Bach.jpg

Johan Sebastian Bach (1685.3.211750.7.28, 08:54pm)

 

 

 

 

 

J.S. Bach マタイ受難曲(第1部)BWV244

 

「福音史家」  「キリスト」  「弟子達」  「群衆・官吏、その他」

 :新バッハ全集による分類番号、  (1):旧バッハ全集による分類番号 

 

 

聖マタイ伝・福音書 第26 

 

1導入合唱Coral I+II (Fl, Ob, Vl, Vla, Cont, Org) 第1群 4声部:コラール=ト長調、第2群 4声部:12/8 ホ短調 (9:50)←演奏時間(CD 1.による)

 

Kommt, ihr Töchter, helft mir klagen, Sehet! Wen? Komt, ihr Töchter, helft mir klagen, Wie? Als wie ein Lamm.

来なさい、娘たちよ。 わたしとともに嘆きなさい。 見なさい。 誰をですか? 花婿を。 来なさい、娘たちよ。 わたしとともに嘆きなさい。 彼を見なさい。 どんな方ですか? 子羊のような方です。 

 

O Lamm Gottes unschuldig, Am Stamm des Kreuzes geschlachtet,

おお罪のない 神の子羊。 十字架につけられて ほふられた。

 

Sehet! Wen? Den Bräutigam, Sehet ihn! Wie? Als wie ein Lamm. Sehet!  Was? Seht die Geduld.

見なさい。 誰をですか? 花婿を。 彼を見なさい。 どんな方ですか? 子羊のような方です。 見なさい。 何を見るのですか? その忍耐を見なさい。

 

Allzeit erfundn geduldig, Wiewohl du warest verachtet.

いかなる時も忍耐を 貫いた。 どんな侮辱を 受けても。

 

Sehet! Wohin? Auf unsre Schuld.

見なさい。 どこを見るのですか? 我らの罪をです。

 

All Sünd hast du getragen, Sonst müßten wir verzagen;

あなたはすべての 人の罪を負われた。 それがなければ わたしたちには絶望 しかない。

 

Sehet ihn aus Lieb und Huld Holz zum Kreuze selber tragen.

彼を見なさい、 愛と恵みから 十字架の木を 自ら負われるのを。

 

Erbarm dich unser, o Jesu!

わたしたちを あわれみください。 おお、イエスよ。

 

Komt, ihr Töchter, helft mir klagen, Sehet! Wen? Den Bräutigam, Komt, ihr Töchter, helft mir klagen, Sehet ihn!  Wie?  Als wie ein Lamm.

来なさい、娘たちよ。 わたしとともに嘆きなさい。 見なさい。 誰をですか? 花婿を。 来なさい、娘たちよ。 わたしとともに嘆きなさい。 彼を見なさい。 どんな方ですか? 子羊のような方です。

(ニコラウス・デチウスによる「アニュス・デイ」のドイツ語訳(1529以前)

 

受難曲の伝統に従って、冒頭に置かれた「序」。多層的なイメージの世界、壁画的な受難の描写へと向かい合わせる。固執低音による低弦の「脈拍」の緊迫感。ハインリッヒ・シュッツのマタイ受難曲と対比。内容全体を総括する合唱曲。128の引きずるような曲想は、イエスの十字架への歩みを暗示し、合唱の第Iグループがその光景をありありと伝え、第2グループが応答する。そこに、少年合唱隊が「おお、神の子羊」を響かせて加わり、この場面の意味が「我々の罪を背負っての罪なき者の受難」にあることを宣言する。このコラールをバッハは、オルガンの演奏からのちに合唱へと変更した上、自筆総譜にその歌詞を赤インクで書き入れ、このコラールの内容が成句に劣らぬ重要性を持つことを明らかにした。

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2十字架の死の予言(受難告知)1:03 −16

26:1  EvangelistDa Jesus diese Rede vollendet hatte, sprach er zu seinen Jüngern:

イエスはこれらの言葉をすべて語り終えてから、弟子たちに言われた。

 

26:2  JesusIhr isest, daß nach zweien Tagen Ostern wird, und des Menschen Sohn wird überantwortet isest, daß er gekreuziget werde.

「あなたがたが知っているとおり、ふつかの後には過越の祭になるが、人の子は十字架につけられるために引き渡される」。

 

受難の予言に始まる。

 

3 Coral I+II (Fl, Ob, Vl, Vla, Cont, Org) 第I+II4声部 ロ短調 4/4 (1:08

Herliebster Jesu, was hast du verbrochen, Daß man ein soch sharf Urteil hat gesprochen? Was ist die Schuld?  In was für Missetaten Bist du isest?

 

心から愛するイエスよ、あなたは何の罪を犯したのでしょうか? こんなにむごい判決を受けられるとは。 その咎は何なのでしょうか。 どんな悪事にかかわられたというのでしょうか。

(ヨハン・ヘルマン作詞の同名コラール第1節(1630))→→1946曲のコラールにおなじ

 

罪もなく十字架につけられるイエスへの同情を込めて。イエスの言葉には通奏低音+弦楽合奏で、響きの「光背」で美しく包み込む。このコラールは贖罪の象徴として計3度出現する。司祭長らの謀議は2群の合唱の、主体性を書いた模倣によって描かれる。

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4祭司長の集まり0:36 (0:36)(0:36)(((

4a 26:3  EvangelistDa versammleten sich die Hohenpriester und Schrifgelerten, und die Ältesten im Volk in dem Palast des Hohenpriesters, der da hieß Caiphas; Sie sprachen aber: 

そのとき、祭司長たちや民の長老たちが、カヤパという大祭司の中庭に集まり、

 

26:4  und hielten Rat, wie sie Jesum mit Listen griffen und töteten. 

策略をもってイエスを捕えて殺そうと相談した。

 

26:5   Sie sprachen aber:  4b5)(0:18)第III8声部 ハ長調 4/4、 CoroJa nicht auf das Fest, auf daß nicht ein Aufruhr werde im Volk.

しかし彼らは言った、「祭の間はいけない。民衆の中に騒ぎが起るかも知れない」。

 

4c60:3926:6  EvangelistDa nun Jesus war zu Betanien, im Hause Simonis des Aussätzigen,  

さて、イエスがベタニアで、らい病人シモンの家におられたとき、

 

26:7  trat zu ihm ein Weib, die hatte ein Glas mit köstlichem Wasser, und goß es auf sein Haupt, da er zu Tische saß. 

ひとりの女が、高価な香油が入れてある石膏のつぼを持ってきて、イエスに近寄り、食事の席についておられたイエスの頭に香油を注ぎかけた。

ベタニアのシモン邸で、卑しい女がイエスに近づき、その首に高価な香油を注ぎかけた(油を注ぐという行為には「王」を認定するという古来の意味がある)

 

26:8   Da das seine Jünger ises, wurden sie isestn und sprachen:  4d7)(0:36)第I4声部〔トゥッティ〕 イ短調4/4 CoroWozu dienet sieser Unrat?

すると、弟子たちはこれを見て憤って言った、「なんのためにこんなむだ使いをするのか。

 

26:9  Dieses Wasser hätte mögen teuer verkauft, und den Armen gegeben isest.  

それを高く売って、貧しい人たちに施すことができたのに」

この行為を憤る弟子たちの無理解の合唱には、フルートの浮薄な飾りが付けられている。

 

4e82:0626:10  EvangelistDa das Jesus merkete, sprac er zu ihnen:  JesusWas bekümmert ihr das Weib? Sie hat ein gut Werk an mir getan!  

イエスはそれを聞いて彼らに言われた、「なぜ、女を困らせるのか。わたしによい事をしてくれたのだ。

 

26:11  Ihr habet allezeit Arme bei euch, mich aber habt ihr nicht allezeit. 

貧しい人たちはいつもあなたがたと一緒にいるが、わたしはいつも一緒にいるわけではない。

 

26:12  Daß sie dies Wasser hat auf meinen Leib gegossen, hat sie getan, daß man mich begraben wird.  

この女がわたしのからだにこの香油を注いだのは、わたしの葬りの用意をするためである。

 

26:13  Wahrlich, ich sage euch: Wo dies Evangelium geprediget wird in der ganzen Welt, da wird man auch sagen zu ihrem Gedächtnis, was sie getan hat.  

よく聞きなさい。全世界のどこででも、この福音が宣べ伝えられる所では、この女のした事も記念として語られるであろう」。

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9Recitativo, Alto (2Fl, Cont pizz, Org) (1:04

Du lieber Heiland du, Wenn deine Jünger töricht isestn, Daß dieses fromme Weib Mit Salben deinen Lieb Zum Grabe will bereiten, So isestn inzwischen zu, Von meiner Augen Tränenflüssen Ein Wasser auf dein Haupt zu gießen.

 

あなたこそ敬愛する救い主です。 あなたの弟子たちは、愚かにも言い争っている。 この信仰深い女が、 香油であなたのお体を埋葬に備えようとしている。 わたしにも同じようにさせてください。わたしの目から流れる涙より その一滴をあなたのみ頭に注ぐことを許してください。

 

涙のしたたりを具象化した音型がフルートに現れ、それは間もなく舞曲風の弾みを得て、嬰ヘ短調のアリアに繋がる。

 

10イエスに香油を注ぐベタニアの女  

Aria, Alto (2Fl, Cont, Org) 嬰ヘ短調 3/8 ダ・カーポ (5:30

Buß und Reu Knirscht das Sündenherz entzwei, Daß die Tropfen meiner Zähren Angenehme Spezerei, Treuer Jesu, dir gebären.  Buß und Reu Knirscht das Sündenherz entzwei.

 

悔いと痛悔は 罪深い心を二つに引き裂く。 わたしの涙のしずくは ここちよい香水となって、 真実のイエスよ、あなたに注ぎます。 悔いと痛悔は 罪深い心を二つに引き裂く。

 

二本のフルートの特徴的な音型。あふれる涙の一滴がついに救い主の頭に注がれるイメージの音型。フルートの下行低音型がスタッカートであらわされている。半音階の多用、下方への跳躍進行、「ため息」の音型などが、このアリアの表現の基本。ひたむきに後悔を歌うアルトには、マグダラのマリアの面影が認められよう。その感情は何時しかイエスへの熱烈な愛情と化して、聴く者の心に染み入ってくる。

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11ユダの裏切り(背信)0:43 

26:14  EvangelistDa ging hin der Zwölfen einer, mit Namen Judas Ischarioth, zu den Hohenpriestern, und sprach:  

時に、十二弟子のひとりイスカリオテのユダという者が、祭司長たちのところに行って言った、

 

26:15  JudasWas wollt ihr mir geben? Ich will ihn euch verraten.  EvangelistUnd sie boten ihm dreißig Silberlinge. 

「彼をあなたがたに引き渡せば、いくらくださいますか」。 すると、彼らは銀貨三十枚を彼に支払った。

 

26:16  Und von dem an suchte er Gelegenheit, daß er ihn verriete. 

その時から、ユダはイエスを引きわたそうと、機会をねらっていた。

弟子のひとりであるユダは、イエスを裏切る決心を固めた。この報告を受けて、ソプラノはロ短調のアリアを歌う。 

 

12 Aria, SopranoFl, Vl, VlaCont, Org)ロ短調4/4ダ・カーポ (5:25

Blute nur, du liebes Herz! Ach, ein Kind, das du erzogen, Das an deiner Brust gesogen, Droht den Pfleger zu ermorden, Denn es ist zur Schlange worden. Blute nur, du liebes Herz!

 

今は血を流してください、 あなたは心を重んじられる方! ああ、あなたが育てた子が、 あなたの胸で乳を吸った子が 育ての親をかみ殺そうとしている。 その子は蛇になってしまったからです。 今は血を流してください、 あなたは心を重んじられる方!

 

ユダが祭司長たちにイエスを売り渡す。銀貨三十枚は奴隷一人の値段。この価格の安さが、却ってイエスの受難の大きさを強調する。中間部での「殺す(ermorden)」と、「蛇(Schlange)」が動機的に強調されている。これは文字通りの切々たる哀しみを表現する音楽で、二本のフルートと弦による嘆きの音型が支配的である。

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9 最後の晩餐

9a 130:1926:17  EvangelistAber am am ersten Tage der süßen Brot traten die Jünger zu Jesu, und sprachen zu ihm:  9b14I4声部(0:34)ト長調、3/4 Fl, Ob, Vl, Via, Cont, Org    ChorWo willst du, daß wir dir bereiten, das Osterlamm zu essen? 

さて、除酵祭の第一日に、弟子たちはイエスのもとにきて言った、「過越の食事をなさるために、わたしたちはどこに用意をしたらよいでしょうか」。

 

音楽はここからは明るいト長調の世界になる。第14曲の弟子たちの合唱には祭りを待つ弟子たちの喜びが感じられる。

 

9c152:15 26:18  EvangelistEr sprach:  JesusGeht hin in die Stadt zu einem, und sprecht zu ihm: Der Meister läßt dir saqgen: Meine Zeit ist hier, ich will bei dir die Ostern halten mit meinen Jüngern. 

イエスは言われた、「市内にはいり、かねて話してある人の所に行って言いなさい、『先生が、わたしの時が近づいた、あなたの家で弟子たちと一緒に過越を守ろうと、言っておられます』」。

 

26:19  EvangelistUnd die Jünger täten, wie ihnen Jesus befohlen hatte, und bereiteten das Osterlamm.  

弟子たちはイエスが命じられたとおりにして、過越の用意をした。

 

26:20  Und am Abend setzte er sich zu Tische mit den Zwölfen.

夕方になって、イエスは十二弟子と一緒に食事の席につかれた。

 

26:21  Und da sie aßen, sprach er:  JesusWahrlich, ich sage euch: Einer unter euch wird mich verraten.  

そして、一同が食事をしているとき言われた、「特にあなたがたに言っておくが、あなたがたのうちのひとりが、わたしを裏切ろうとしている」。

 

イエスが裏切り者の存在を指摘するくだりでは、音楽はフラット系の短調へと転調して、暗い気分を漂わせる。

 

9d  26:22  EvangelistUnd sie wurden sehr betrübt, und huben an, ein jeglicher unter ihnen, und sagten zu ihm.  9e  ChorHerr, bin ichs?  

弟子たちは非常に心配して、つぎつぎに 「主よ、まさか、わたしではないでしょう」 と言い出した。

 

憂慮する弟子達。

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1016Coral I+II群4声部 Ob, Vl, Vla, Cont, Org)変イ長調4/4 (1:09

Ich bins, ich sollte büßen, An Händen und an Füßen Gebunden in der Höll. Die Geißeln und die Banden, Und was du ausgestanden, Das hat verdienet meine Seel

 

それはわたしです、わたしこそ償うべき者です。 わたしこそ手足を地獄でしばられるべき者です。鞭や縄の拷問、それはあなたが耐えられたことでした。それはわたしの魂が受けるべきことでした。

(パウル・ゲルハルト作詞「おお俗世よ、お前の生活を見よ」(1647)第5節)→→37曲のコラールにおなじ

 

ト長調の祝祭的気分はイエスの一言ですっかりと変わる。この「わたしこそ」を歌い始めるコラールが、この部分における省察的な機能を果たす。コラールの原旋律はハインリヒ・イザークの有名な歌詞、《インスブルックよ、さようなら》だけに、素朴な美しさが沁みる。このコラールは、その咎をわが身に受けようとするキリスト者の恭順な名乗りである。

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1117(聖体の制定)4:24 

26:23  EvangelistEr antwortete und sprach:  JesusDer mit der Hand mit mir in die Schüssel tauchet, der wird mich verraten.

イエスは答えて言われた、「わたしと一緒に同じ鉢に手を入れている者が、わたしを裏切ろうとしている。

 

26:24  Des menschen Sohn gehet zwar dahin, wie von ihm geschrieben stehet doch wehe dem Menschen, durch welchen des Menschen Sohn verraten wird. Es ise ihm besser, daß der selbige Mensch noch nie geboren ise.

たしかに人の子は、自分について書いてあるとおりに去って行く。しかし、人の子を裏切るその人は、わざわいである。その人は生れなかった方が、彼のためによかったであろう」。

 

26:25  EvangelistDa antwortet Judas, der ihn verriet, und sprach:  JudasBin ichs, Rabbi?  EvangelistEr sprach zu ihm:  JesusDu sagests. 

イエスを裏切ったユダが答えて言った、「先生、まさか、わたしではないでしょう」。 イエスは言われた、「いや、あなただ」。

 

26:26  EvangelistUnd er nahm den Kelch,  JesusNehmet, esset, das ist mein Leib.

一同が食事をしているとき、イエスはパンを取り、祝福してこれをさき、弟子たちに与えて言われた、「取って食べよ、これはわたしのからだである」。

 

暗い気分はやがて神秘的なへ長調へと移行し、第I部の中核とも言うべき、イエスによる聖餐設定の言葉となる。イエスの言葉にはこの部位でのみまとまったアリオーソが与えられ、その確信に満たされた力強い語りは、天上の宴の準備としての――のちのミサの原型としての――最後の晩餐の意義を鮮やかに浮かび上がらせる。イエスが語るとともに弦の伴奏も豊麗さを加え、あたかも「光背」がいや増しに輝き渡るかのような印象を作り出す。

 

26:27  und dankete, gab ihnen den, und sprach:  JesusTrinket alle daraus;

また杯を取り、感謝して彼らに与えて言われた、 「みな、この杯から飲め。

 

26:28  das ist mein Blut des neuen Testaments, welches vergossen wird für viele zur Vergebung der Sünden.

これは、罪のゆるしを得させるようにと、多くの人のために流すわたしの契約の血である。

 

26:29  Ich sage euch: Ich werde von nun an nicht mehr von diesem Gewächs des Weinstocks trinken, bis an den Tag, da ichs neu trinken werde mit euch in meines Vaters Reich.

あなたがたに言っておく。わたしの父の国であなたがたと共に、新しく飲むその日までは、わたしは今後決して、ぶどうの実から造ったものを飲むことをしない」。

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1218 Recitativo, SopranoObdam, Cont, Org.)(1:33

Wiewohl mein Herz in Tränen schwimmt, Daß Jesus von mir Abschied nimmt, So macht mich doch sein Testament erfreut.  Sein Fleisch und Blut, o Kostbarkeit, Vermacht er mir in meine Hände.  Wie er es auf der Welt mit denen Seinen Nicht böse können meinen, So liebt er bis an das Ende.

 

わたしの心は涙の中でさまよっている。 イエスがわたしに別れを告げられたから。 それでもイエスの約束は、わたしを喜ばせる。 イエスの肉と血。おお、それはなんと尊いものでしょう! イエスはわたしの手にそれらを遺される。 これによってイエスはご自分に従う者たちとともに この世におられることになる。 弟子たちはこのことを悪くないと捉えている。 これによって世の終わりまで、 イエスが愛し続けられる。

 

楽器編成はオーボエ・ダモーレ(愛のオーボエ)二本と通奏低音。「イエスの愛」のアレゴリーに他ならない。その漂うような音型は、「涙の中に漂う」イメージの表現である。この上ない悲しみが来世の喜びに通じるというパラドックスは、このレシタティーヴォに投影されている。この二本のオーボエ・ダモーレが心の「波のまにまに」漂うさまを形象化して示し、ソプラノが別れの哀しみとみ言葉の喜びとを、複雑な感慨を込めて詠ずるのである。

 

1319 Aria, SopranoObdam, Cont, Org.)ト長調6/8ダ・カーポ (3:56

Ich will dir mein Herze schenken, Senke dich, mein Heil, hinein.  Ich will mich in dir versenken; Ist dir gleich die Welt zu klein, Ei, so sollst du mir allein Mehr als Welt und Himmel sein.  Ich will mein Herze schenken, Senke dich, mein Heil, hinein.

 

わたしの心をあなたに捧げます。 わたしの救いよ、わたしの心の奥深くに入ってください。 あなたの中にわたしを沈めよう。 この世界でさえあなたには小さすぎる。 ああ、それゆえあなたのみがわたしにとって この天と地以上の大きな存在なのです。 わたしの心をあなたに捧げます。 わたしの救いよ、わたしの心の奥深くに入ってください。

 

アリアは同じ楽器編成。心を捧げるからこの心の奥に宿り給え、とイエスに訴える。8分の6拍子のリズムが心地よく、信じる者の幸せを歌い上げる。この19曲によってト長調の喜ばしい世界が回復され、最後の晩餐をめぐる場面は閉じられる。

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1420オリーブ山で、「つまずきの予言」 1:29 

26:30  EvangelistUnd da sie den Lobgesang gesprochen hatten, gingen sie hinaus an den Ölberg

彼らは、賛美を歌った後、オリーブ山へ出かけて行った。

 

オリーブ山に赴いたイエスは、弟子たちの躓きを予言する。散らされる羊の群れと復活の絵画的な描写。ゲルハルトの「受難のコラール」が二度出現する(〜23曲まで)。

 

26:31  Da sprach Jesus zu ihnen.  JesusIn dieser Nacht werdet ihr euch alle ärgern an mir. Denn es stehet geschrieben: Ich werde den Hirten schlagen, und die Schafe der Herde isest sich zerstreuen.

そのとき、イエスは弟子たちに言われた、「今夜、あなたがたは皆わたしにつまずくであろう。『わたしは羊飼を打つ。そして、羊の群れは散らされるであろう』と、書いてあるからである。

 

オリーブ山への登り 通奏低音の上昇音型で表現し、羊の群れが散らされる様子を弦楽合奏の拡散する音型で表現している。

 

26:32  Wann ich aber auferstehe, will ich vor euch hingehen in Galialäam.

しかしわたしは、よみがえってから、あなたがたより先にガリラヤへ行くであろう」。

 

 

イエスの復活とガラリア行き、そして弟子たちがそれを追う様子は第1、第2ヴァイオリンが3度の平行で上昇する音型で表現している。

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1521Coral I+II群4声部 (Fl, Ob, Vl, Vla, Cont, Org) ホ長調4/4 (1:19

Erkenne mich, mein Hüter, Mein Hirte, nimm mich an. Von dir, Quell aller Güter, Ist mir viel Guts getan. Dein Mund hat mich gelabet Mit Milch und süßer Kost, Dein Geist hat mich begabet Mit mancher Himmelslust.

 

わたしのことをお知りください、わたしの守護者よ。 わたしの牧者よ、わたしを受け入れてください。 すべての善の泉であるあなたによって、 わたしに多くのよいものがもたらされた。 あなたの口はわたしを元気づけてくださいました、 乳と甘い食べ物で。 あなたの霊はわたしに与えてくださいました、 多くの天上の喜びを。

(パウル・ゲルハルト作詞「おお、こうべは血と傷にまみれ」(1656)第5節)→17445462曲に続く。

 

中心となる受難コラールの一つ(ホ長調)。原曲はハンス・レオ・ハスラーの《わが心は千々に乱れ》という恋の歌であった。

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16221:11

26:33  EvangelistPetrus aber antwortete, und sprach zu ihm:  PetrusWenn sie auch alle sich an dir ärgerten, so will ich doch mich nimmer mehr ärgern.

するとペテロはイエスに答えて言った、「たとい、みんなの者があなたにつまずいても、わたしは決してつまずきません」。

 

26:34  EvangelistJesus spracha zu ihm:  JesusWahrlich, ich sage dir: In dieser Nacht, ehe der Hahn krähet, wirst du mich dreimal verleugnen.  

イエスは言われた、「よくあなたに言っておく。今夜、鶏が鳴く前に、あなたは三度わたしを知らないと言うだろう」。

 

26:35  EvangelistPetrus sprach zu ihm:  PetrusUnd wenn ich mit dir sterben müßte, so will ich dich nicht verleugnen.  EvangelistDesgleichen sagten auch alle Jünger.

ペテロは言った、「たといあなたと一緒に死なねばならなくなっても、あなたを知らないなどとは、決して申しません」。 弟子たちもみな同じように言った。

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1723Coral I+II4声部 (Ob, Vl, Vla, Cont, Org) 変ホ長調4/4 (1:19

Ich will hier dei dir stehen, Verachte mich doch nicht! Von dir will ich nicht gehen, Wenn dir dein Herze bricht. Wenn dein Herz wird erblassen Im letzten Todesstoß, Alsdenn will ich dich fassen In meinen Arm und Schoß.

 

わたしはあなたのもとにいたいのです。 でもわたしを軽んじないでください。 わたしはあなたから去りたくないのです、 あなたの心が悲嘆にくれている時に。 あなたの鼓動が消え失せるでしょう、 最後の致命の打撃によって。 わたしはあなたを、 この腕とひざで受けとめたいのです。(民衆の哀願の歌)

(パウル・ゲルハルト作詞「おお、こうべは血と傷にまみれ」(1656)第6節)15曲と同じコラール。

 

15曲と同じ、コラール。歌詞はゲルハルトの受難のコラールの第6節。ここでは第15曲よりも半音低い変ホ長調。ここで受難の準備の部分が終わる。

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1824)ゲッセマネの国における苦しみ2:32 

26:36  EvangelistDa kam Jesus mit ihnen zu einem Hofe, der hieß Gethemane, und sprach zu seinem Jüngern:  JesusSetzet euch hier, bis ich dorthin gehe, und ise!  

それから、イエスは彼らと一緒に、ゲツセマネという所へ行かれた。そして弟子たちに言われた、「わたしが向こうへ行って祈っている間、ここにすわっていなさい」。

 

26:37  EvangelistUnd nahm zu sich Petrum und die zween Söhne Zebedäi, und fing an zu trauern und zu zagen.

そしてペテロとゼベダイの子ふたりとを連れて行かれたが、悲しみを催しまた悩みはじめられた。

 

26:38  Da sprach Jesus zu ihnen:  JesusMeine Seele ist betrübt bis an den Tod, bleibet hie, und wachet mit mir.

そのとき、彼らに言われた、「わたしは悲しみのあまり死ぬほどである。ここに待っていて、わたしと一緒に目をさましていなさい」。

 

ゲッセマネの園の情景は、イエスの人間的な苦悩に満ち溢れている。三人の弟子をともなって祈りに出たイエスは、迫りくる受難におののき悩む。

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1925Recitativo, Tenore, Coral(第II4声部) (Fl, Obda, cacc, Cont, Org) ヘ短調→ハ短調 4/4 (2:07

Solo zion O Schmerz, hier zittert das gequälte Herz! Wie sinkt isest, wie bleicht sein Angesict!

独唱シオン: おお、痛ましいことです、悩に満ちた心がふるえている! 消え行くように青ざめたお顔!

 

CHORAL Was ist die Ursach aller solcher Plagen?

コラール: なぜこんなにもひどい苦しみが生じたのか。

 

Solo zion Der Richter führt ihn vor Gericht. Da ist kein Trost, kein Helfer nicht.

独唱シオン: 裁判官は法廷に彼を引いていく。 なんの慰めもなく、助ける人もいない。

 

CHORAL:  Ach, meine Sünden haben dich geshlagen.

コラール: ああ、わたしの罪があなたを打ちのめしたのです。

 

Solo zion Er leidet alle Höllenqualen, Er soll für fremden Raub bezahlen.

独唱シオン: 彼はすべての地獄の責めを受けられる。彼は他人の掠奪を償おうとしておられるのだろうか。

 

CHORALIch, ach Herr Jesu, habe dies verschuldet, was du erduldet.

コラール: わたしにこそ、ああ主イエスよ、責任があります、あなたが堪え忍んでおられることに。

(ヨハン・ヘルマン作詞「最愛のイエスょ、汝はいかなる罪を犯せしや」(1630)第3節)

 

Solo zion Ach! Könnte meine Liebe dir, mein Heil, dein Zittern und dein Zagen vermindern oder helfen tragen, wie gerne blieb ich hier!

独唱シオン: ああ、わたしのあなたへの愛が、わたしの救いよ、あなたのふるえとおののきを やわらげ、担うことをお助けできればよいのだが。 ここにとどまることは、なんとうれしいことでしょう!

 

第一群はテノールとリコーダー、オーボエ、通奏低音、第二群は合唱がコラールで応える。苦悩に満ちた木管の音型と通奏低音のトレモロがその内容を音楽的に表現する。ヘ短調の切実な音楽が響き、イエスの苦悩が歌われる(テノール)。第3曲と同じコラールが挿入され、イエスの苦悩が我々の罪によることを想起させる。

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2026Aria, Tenore, Coral(第II4声部)(Ob, Cont, Org) ハ短調→ト短調 4/4 アンダンテ、自由なダ・カーポ (5:23

SoloIch will bei meinem Jesu wachen,

独唱:わたしはイエスのそばで目ざめて見守っていましょう。


Coro
O schlafen unsre Sünden ein.

合唱:そうすればわたしたちの罪は眠りにつくことでしょう。

 

SoloMeinen Tod büßet seiner Seelen Not, Sein Trauren isest mich voll Freuden.

独唱:わたしの死を、彼の魂の苦しみが償ってくださる。 彼の悲しみはわたしを喜びで充たしてくださる。

 

CoroDrum muß uns sein verdienstlich Leiden recht bitter, und doch süße sein.

合唱:そのため、受けなくてはならなかった受難は 本当におつらいことでしょう、でもわたしたち皆には心地よいことです。

 

SoloIch will bei meinem Jesu wachen,

独唱:わたしはイエスのそばで目ざめて見守っていましょう。

 

CoroSo schlafen unsre Sünden ein. 

合唱:そうすればわたしたちの罪は眠りにつくことでしょう。 

 

第一群がオーボエ独奏、通奏低音に支えられたテノールの独唱、第二群はフルートと弦楽合奏、通奏低音を伴った合唱。対話形式。テノールと合唱とがイエスの気持ちを察しての心痛を歌う。このハ短調のアリアにおいては、目覚めつつ主の悩みを共にしようと歌うテノールに、合唱はやさしい子守唄の調べを持って和し、これを縁取るオーボエの美しい旋律が、夜明けの詩的な情緒を伝える。

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2127受難の盃を受ける決心0:55

26:39  EvangelistUnd ging isest wenig, fiel nieder auf sein Angesicht, und betete, und sprach:  JesusMein Vater, ists möglich, so gehe dieser Kelch von mir; doch nicht wie ich will, sondern wie du willst.

そして少し進んで行き、うつぶしになり、祈って言われた、「わが父よ、もしできることでしたらどうか、この杯をわたしから過ぎ去らせてください。しかし、わたしの思いのままにではなく、みこころのままになさって下さい」。

 

2228Recitativo, Basso (Vl, Vla, Cont, Org) 1:17

Der Heiland fällt vor seinem Vater nieder, Dadurch erhebt er mich und alle Von unserm Falle Hinauf zu Gottes Gnade wieder.  Er ist bereit, Den Kelch, des Todes Bitterkeit zu trinken, In welchen Sünden dieser Welt Gegoscen sind und häßlich stinken, Weil es dem lieben Gott gefällt.

 

救い主がおん父の前でひれ伏されている。 それによって彼はわたしとすべての人々を引き上げてくださる。 わたしたちの堕落から、再び神の恵みの高みに。 彼は心づもりをしておられます、この苦い死の杯を飲むことを。 それは、この世界のどんな罪も(この杯が)注がれると、悪臭を放ちます。 すべては愛する神の思いにかなうことです。

 

受難を受ける決心をする。レシタティーヴォは下行音型により統一される。「ひれ伏す」というイメージの音型化。ただ一つの上昇音型は「神の恩恵へと引き上げてくださる」の歌詞の後に登場する。これはまた、イエスにくだる神の恵みの暗示でもあろう。

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2329Aria, Basso (Vl unis, Cont, Org) ト短調 3/8 ダ・カーポ  4:42Gerne will ich mich bequemen, Kreuz und Becher anzunehmen, Trink ich doch dem Heiland nach. Denn sein Mund, Der mit Milch und Honig fließet, Hat den Grund Und des Leidens herbe Schmach Durch den ersten Trunk versüßet.  Gerne will ich mich bequemen, Kreuz und Becher anzunehmen, Trink ich doch dem Heiland nach.

 

わたしは喜んで従います。 十字架と杯を受け入れて 救い主の後で飲みましょう。 なぜなら乳と蜜が滴る  彼の口が、 苦難の理由とつらい恥を  先に飲み干し、甘美なものとしてくださったからです。 わたしは喜んで従います。 十字架と杯を受け入れて 救い主の後で飲みましょう。

 

バスのアリアはヴァイオリンのオブリガートで飾られる。その主題には「へりくだり」の身振り、「十字架と苦杯」の半音階ないしは減音程進行による強調により表出性の大きな主要部に対して、「乳と蜜のしたたるその御口は」を歌う中間部の甘美な表現との対比が顕著である。従容として苦い杯を受けるイエスに倣おうという決意のアリアである。(ト短調)。いっそう、高揚したイエスの第2の祈りである。

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24301:43

26:40  EvangelistUnd er kam zu seinen Jüngern, und fand sie schlafend, und sprach zu ihnen:  JesusKönnet ihr is nicht eine Stunde mit mir wachen?

それから、弟子たちの所にきてごらんになると、彼らが眠っていたので、ペテロに言われた、「あなたがたはそんなに、ひと時もわたしと一緒に目をさましていることが、できなかったのか。

 

26:41  Wachet und betet, daß ihr nicht in Anfechtung fallet. Der Geist ist willig, aber das Fleisch ist schwach.

誘惑に陥らないように、目をさまして祈っていなさい。心は熱しているが、肉体が弱いのである」。

 

26:42  EvangelistZum andern Mal ging er hin, betete, und sprach:  JesusMein Vater, ist nicht möglich, daß dieser Kelch von mir gehe, ich trinke ihn is, so geschehe dein Wille.

また二度目に行って、祈って言われた、「わが父よ、この杯を飲むほかに道がないのでしたら、どうか、みこころが行われますように」。

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2531Coral I+II4声部 (Fl, Ob, Vl, Vla, Cont, Org) ロ短調 4/4 1:07

Was mein Gott will, das gschen alzeit, Sein Will, der ist der beste. Zu helfen denn er ist bereit, Die an ihn glauben feste. Er hilft aus Not, Der fromme Gott, Und züchtiget mit Maßen. Wer Gott vertraut, fest auf ihn baut, Den will er nicht verlassen.

 

わたしの神のみ心がいつも行われますように。 神のみ心こそ、最善のものです。 神は助けを備えておられる、神を固く信じる者たちに。 神は苦難から救い出される。 いつくしみ深い神は、 また人の力に応じて試練を与えられる。 神に信頼し、神に基礎を固く置く者を、 神はお見すてになることはありません。

(ブランデンブルグ辺境伯アルブレヒト作詞の同名のコラール(1547)第1節)

 

弟子たちが眠っているのを見て慨嘆するイエス。神の御心に任せる決心を新たにする。「心は燃えていても、肉体は弱い」という、有名な言葉が語られる。それを受けてのコラールは文字通り「御心のままに常に行われますように」と歌う。「キリストの巨大な戦いは終わった」を歌うコラールである。それを「信徒の立場から確認し、支持する。」

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2632イエスの捕縛(3:07

26:43  EvangelistUnd er kam und fand sie aber schlafend, und ihre Augen waren voll Schlafs.
またきてごらんになると、彼らはまた眠っていた。その目が重くなっていたのである。

 

26:44  Und er ließ sie und ging abermals hin, und betete zum drittenmal, und redete dieselbitigen Worte.

それで彼らをそのままにして、また行って、三度目に同じ言葉で祈られた。

 

26:45  Da kam er zu seinen Jüngern, und sprach zu ihnen:  JesusAch, wollt ihr nun schlafen und ruhen? Siehe, die Stunde ist hier, daß des Menschen Sohn in der Sünder Hände überantwortet wird.

それから弟子たちの所に帰ってきて、言われた、「まだ眠っているのか、休んでいるのか。見よ、時が迫った。人の子は罪人らの手に渡されるのだ。

 

26:46  Stehet auf, lasset uns gehen, siehe, er ist da, der mich verrät.

立て、さあ行こう。見よ、わたしを裏切る者が近づいてきた」。

 

26:47  EvangelistUnd isest noch redete, siehe, da kam Judas, der Zwölfen einer, und mit ihm eine große Schar mit Schwertern und mit Stangen, von den Hohenpriestern und Ältesten des Volks.
そして、イエスがまだ話しておられるうちに、そこに、十二弟子のひとりのユダがきた。また祭司長、民の長老たちから送られた大ぜいの群衆も、剣と棒とを持って彼についてきた。

 

26:48  Und der Verräter hatte ihnen ein Zeichen gegeben, und gesagt: Welchen ich küssen werde, der ists, den greifet.

イエスを裏切った者が、あらかじめ彼らに、「わたしの接吻する者が、その人だ。その人をつかまえろ」 と合図をしておいた。

 

26:49  Und alsbald trat er zu Jesu und sprach:  JudasGegrüßet seist du, Rabbi!  EvangelistUnd küssete ihn.
彼はすぐイエスに近寄り、「先生、いかがですか」 と言って、イエスに接吻した。

 

26:50  Jesus aber sprach zu ihm: JesusMein Freund, warum bist du kommen?  EvangelistDa traten sie hinzu, und legten die Hände an Jesum, und griffen ihn.

しかし、イエスは彼に言われた、「友よ、なんのためにきたのか」。 このとき、人々が進み寄って、イエスに手をかけてつかまえた。

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2733 Aria, Duetto, Soprano+Alto (Fl, Ob, Vl, Vla) ホ短調4/4アンダンテ、合唱(A:第II4声部)ホ短調4/4B:第I/II8声部)3/8 ヴィヴァ―チェ  (5:00

27a  SoliSo ist mein Jesus nun gefangen.

二重唱:このようにして、わたしのイエスは今捕らえられた。

 

CoroLaßt ihn, haltet, bindet nicht! 

合唱:イエスを放せ、やめてください、縛らないで!(荒げた声で)

 

SoliMond und Licht Ist vor Schmerzen untergangen, Weil mein Jesus ist gefangen.

二重唱:月と光は、 苦痛のため、沈んでしまいました。 わたしのイエスが捕らわれたためです。

 

CoroLaßt ihn, haltet, bindet nicht!

合唱:イエスを放せ、やめてください、縛らないで!(荒げた声で)

 

SoliSie führen ihn, er ist gebunden.

二重唱:彼らはイエスをひいて行く。 イエスは縛られている。

 

第一群の二重唱と第二群の合唱との劇的な対話。詠嘆調の二重唱に対し、合唱は決然と「放せ、待て、縛るな」と叫び最後には8分の3拍子で「稲妻も雷鳴も」と歌う激烈な二重唱となる。戦おうとする弟子たちをイエスが制すると、彼らは皆、イエスを見捨てて逃げる。この情けない現実に対する省察として歌われる。

時は近づき(ヴァイオリンの警告するようなトリル)、武装した一団がやって来て、ユダの口づけを合図にイエスを捕える。音楽はここで、アンダンテの行進曲風に変わり、引きずるようなシンコペーションのリズムに乗せて女性の二重唱が、捕縛の情景を哀しみを込めて描く。

 

Coral I+II (Cont, Org) ホ短調3/

27b  Sind Blitze, sind Donner in Wolken verschwunden? Eröffne den feurigen Abgrund, o Hölle, Zertrümmre, verderbe, verschlinge, zerschelle Mit plötzlicher Wut Den falschen Verräter, das mördrishe Blut!

 

稲妻よ、雷よ、雲の中に消えたのか? 劫火の淵を開け、おお、地獄よ。 破壊せよ、滅ぼせ、飲み込め、粉々にせよ 即刻怒りで。 不実な裏切り者を、その人殺しを!

 

(そろわない声で、雷鳴の音、千々に乱れた感情を表現)第二合唱に「破壊せよ、滅ぼせ、飲み込め、粉々にせよ、即刻怒りで。不実な裏切り者を、その人殺しを!!…」の叫びが稲妻のごとく挿入されるが、不気味な予感はやがて現実の嵐となり、合唱と管弦楽による怒りが爆発する。総休止、不協和音などを駆使したこのヴィヴァ―チェ部分の劇的な効果はすざましい。

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2834 イエスが戦おうとする弟子達を諫める (3:20

26:51  EvangelistUnd siehe, einer aus denen, die mit Jesu waren, reckete die Hand aus, und schlug des Hohenpriesters Knecht, und hieb ihmein Ohr ab.

すると、イエスと一緒にいた者のひとりが、手を伸ばして剣を抜き、そして大祭司の僕に切りかかって、その片耳を切り落した。

 

26:52  Da sprach Jesus zu him:  JesusStecke dein Schwert an seinen Ort, denn wer das Schwert nimmt, der soll durchs Schwert umkommen.

そこで、イエスは彼に言われた、「あなたの剣をもとの所におさめなさい。剣をとる者はみな、剣で滅びる。

 

26:53  Oder meinest du, daß ich nicht könnte meinen Vater bitten, daß er mir zushickte mehr denn zwölf Legion en Engel?
それとも、わたしが父に願って、天の使たちを十二軍団以上も、今つかわしていただくことができないと、あなたは思うのか。

 

26:54  Wie würde aber die Schrift erfüllet?  Es muß also gehen.
しかし、それでは、こうならねばならないと書いてある聖書の言葉は、どうして成就されようか」。

 

26:55  EvangelistZu der Stund sprach Jesus zu den Scharen.  JesusIhr seid ausgegangen als zu einem Mörder, mit Schwertern und mit Stangen, mich zu fassen; bin ich doch täglich bei euch gesessen, und habe gelehret im Tempel, und ihr habt mich nicht gegriffen.

そのとき、イエスは群衆に言われた、「あなたがたは強盗にむかうように、剣や棒を持ってわたしを捕えにきたのか。わたしは毎日、宮ですわって教えていたのに、わたしをつかまえはしなかった。

 

26:56  Aber das ist alles geschehen, daß erfüllet würden die Schriften der Propheten.  EvangelistDa verließen ihn alle Jünger, und flohen.

しかし、すべてこうなったのは、預言者たちの書いたことが、成就するためである」。 そのとき、弟子たちは皆イエスを見捨てて逃げ去った。

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2935 Coral I+II (Fl, Obdam, Vl, Vla, Cont, Org) ホ長調4/4 6:43

O mensh, bewein dein Sünde groß, darum Christus seins Vaters Schoß  Äußert, und kam auf Erden; Von einer Jungfrau rein und zart, Für isest hie geboren ward, Er wollt der Mittler isest.  Denn Toten er das Leben gab,  Und legt dabei all Krankheit ab, Bis sich die Zeit herdrange, Daß er für uns geopfert würd, Trüg unsrer Sünden schwere Bürd, Whol an dem Kreuze lange.

 

おお人間よ、あなたの大きな罪を嘆き悲しみなさい。 キリストが父のふところを捨て、 地上にいらしたのです。 汚れのない、恵みにあふれたおとめから、 わたしたちのためにお生まれになった 彼は、わたしたちとの仲介者になろうとされた。 キリストは死者に生命を与え、 すべての病を取り除かれた。 時は迫り、 わたしたちのために命をささげ、 わたしたちの罪による重い荷を背負うために、 十字架刑に長い間、服されたのです。(慨嘆の感情に満ちて歌われる)

(ゼーバルト・ハイデン作詞の同名コラール(1525)第1節)

 

戦おうとする弟子たちをイエスが制すると、彼らは皆、イエスを見捨てて逃げる。この情けない現実に対する省察として歌われる 「おお人間よ、あなたの大きな罪を嘆き悲しみなさい」 の壮大な合唱が意味深く第一部を締めくくる。コラールはソプラノに置かれ、下声部とオーケストラがこれを様々に注釈しながら進むが、シュヴァイツァーが「気高い痛みのモティーフ」と呼んだ音型に基づくオーケストラ・パートが中でも雄弁である。このコラール楽曲ははじめは「ヨハネ受難曲」の冒頭に置かれていた。

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J.S. Bach マタイ受難曲(第2部)BWV244

 

3036Aria, Alto (Fl, Obdam, Vl, Vla, Cont, Org)  3:59)ロ短調 3/8

+合唱(第II4声部)

SoloAch! Nun ist mein Jesus hin!

独唱:ああ! わたしのイエスは連れ去られてしまいました。

 

ChorWo ist is dein Freund hingegangen, O du Schönste unter den Weibern? 合唱:あなたの愛する者は一体どこへ行ってしまったのですか? おお、あなたは女の中でも最も美しいというのに。

 

SoloIst es möglich, kann ich schauen? 

独唱:こんなことってあるのでしょうか? わたしが会うことができないのでしょうか?

 

ChorWo hat sich dein Freund hingewandt? 

合唱:あなたの愛する者はどこへ向かわれたのですか?

 

SoloAch! Mein Lamm in Tigerklauen! Ach! wo ist mein Jesus hin?

独唱:ああ! わたしの子羊は虎の爪の中にいる! ああ! わたしのイエスはどこへ連れ去られたのでしょうか?

 

ChorSo wollen wir mit dir ihn suchen. 

合唱:それならわたしたちはあなたといっしょに彼を探しましょう。

 

SoloAch!  Was soll ich der Seele sagen, Wenn sie mich wird ängstlich fragen: Ach!  wo ist mein Jesus hin?

独唱:ああ! わたしは魂になんと答えるべきでしょうか。 魂が不安げにわたしにたずねます。 「ああ! わたしのイエスはどこにいますか?」と。

 

説教の後の第二部である。会衆を再び音楽の世界、すなわち受難の省察へと引き戻すために、第一部の導入合唱は雅歌の対話形式を用いた。捕まったイエスを探すシオンの娘、彼女に同情して一緒にイエスを探す信者の合唱との対話形式を考えた。第一群はアルト独唱+フルート、オーボエ・ダモーレ、弦楽合奏、通奏低音で嘆きの歌を歌う。一方、第二群の合唱はモテット的に構成され、両者の対比が興味深い。「私はなんと答えたらいいのだろう」という最後の歌は、ロ短調の属和音で終わり、音楽的にも結論を保留している。

主を奪い去られて茫然自失したシオンの娘が、ゲッセマネの園に主を探し求めている状況から始まる。ここでロ短調のアリア「ああ!私のイエスは連れ去られた!」を歌うアルトには、旧約聖書の雅歌における「恋人を探す美しい娘」のイメージが重ねられており。彼女に呼びかけるニ長調の合唱楽節にも、不安を和らげる、どこか牧歌的な憩いがしのばされている。

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3137大司祭カヤパの審問(1:05 

26:57  EvangelistDie aber Jesum gegriflen hatten, führeten ihn zu dem Hohenpriester Caiphas, dahin die Scriftgelehrten und Ältesten sich versammlet hatten. 

さて、イエスをつかまえた人たちは、大祭司カヤパのところにイエスを連れて行った。そこには律法学者、長老たちが集まっていた。

 

26:58  Petrus aber folgete ihm nach von ferne bis in den Palast des Hohenpriesters, und ging hinein und satzte sich bei den Knechten, auf daß er sähe, ises hinaus wollte.

ペテロは遠くからイエスについて、大祭司の中庭まで行き、そのなりゆきを見とどけるために、中にはいって下役どもと一緒にすわっていた。

 

26:59  Die Hohenpriester aber und Ältesten und der ganze Rat suchten falsche Zeugnis wider Jesum, auf daß sie ihn töteten, und fanden keines.

さて、祭司長たちと全議会とは、イエスを死刑にするため、イエスに不利な偽証を求めようとしていた。

 

大司教の前での審問が始まる。

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3238Coral I+II4声部 (Fl, Ob, Vl, Vla, Cont, Org) 硬い感じで (0:50)変ロ長調4/4

Mir hat die Welt trüglich gerichtt Mit Lügen und mit falschem Gdicht Viel Netz und isestn Stricken. Herr, nimm mein wahr in dieser Gfahr, Bhüt mich vor falschen Tücken.

 

世は、いつわりの策略を行った。 嘘とにせの優しさを伴う、多くのわなと巧みな落とし穴を。 主よ、この危険の中でわたしの真をお受けくださり、いつわりの悪巧みから、わたしをお守りください。

(アダム・ロイスター作詞「われ汝に希望を抱けり、主よ」(1533)第5節)

 

法廷はイエスを死刑にするための偽証を求めた。コラール「世は、いつわりの策略を行った」が硬い感じで歌われる。第38曲の「世は偽りの策略を行った」の変ロ長調のコラールでは、相次ぐ偽証にもイエスは沈黙を守っている。

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33391:28

26:60  EvangelistUnd wiewohl viel falsche Zeugen herzutraten, funden sie doch keins. Zuletzt traten herzu zween falsche Zeugen,

そこで多くの偽証者が出てきたが、証拠があがらなかった。しかし、最後にふたりの者が出てきて

 

26:61  und sprachen:  ZeugenEr hat gesagt: Ich kann den Tempel Gottes abbrechen, und in dreien Tagen denselben bauen.

言った、「この人は、わたしは神の宮を打ちこわし、三日の後に建てることができる、と言いました」。

 

26:62  EvangelistUnd der Hohepriester stand auf und sprach zu ihm:  HohepriesterAntwortest du nichts zu dem, das diese wider dich zeugen?

すると、大祭司が立ち上がってイエスに言った、「何も答えないのか。これらの人々があなたに対して不利な証言を申し立てているが、どうなのか」。

 

2人の偽証人が登場して証言を行った。 イエスは一言も声を発しなかった。二人の偽証人はカノンで歌われる。「オウム返し」発言を強調する。

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3440Recitativo, Tenore (Ob, Vla dg, Cont, Org)1:14

Mein Jesus schweigt zu falschen Lügen stille, Um uns damit zu zeigen, Daß sein erbarmensvoller Wille Für uns zum Leiden sei geneigt, Und daß wir in dergleichen Pein Ihm sollen ähnlich sein, Und in Verfolgung stille schweigen.

 

わたしのイエスは、まちがった嘘にも静かに沈黙している。 このことによってわたしたちに教えられる。 そのあわれみちたみ心が、わたしたちのための受難に向かわれていることを。 そしてわたしたちが同じような苦悩にあるとき、彼にならうべきであり、迫害にあって静かに黙すべきであることを。 忍耐しなさい、忍耐が大切です! いつわりのことばがわたしを刺すときは。 わたしの罪ゆえに耐えます、 侮辱とあざけりにも。 そうです、愛する神は わたしの心に罪のないときは、それに報いてくださいます。 忍耐しなさい、忍耐が大切です! いつわりのことばがわたしを刺すときは。

 

テノールのレシタティーヴォはイエスの沈黙が受難を受けることを望む結果と解釈される。オーボエの悲痛な伴奏に注意。イエスの沈黙の意義を解き明かすテノールのレシタティーヴォと、続くイ短調のアリア「忍耐しなさい。忍耐が大切です!」が歌われる。

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3541Aria, Tenore (Vla dg, Cont, Org) 3:44)イ短調 4/4 自由なダ・カーポ

Geduld, Geduld! Wenn mich falsche Zungen stechen. Leid ich wider meine Schuld Schimpf und Spott, Ei, so mag der liebe Gott Meines Herzens Unshuld rächen. Geduld, Geduld! Wenn mich falsche Zungen stechen.

 

忍耐しなさい、忍耐が大切です! いつわりのことばがわたしを刺すときは。 わたしの罪ゆえに耐えます、 侮辱とあざけりにも。 そうです、愛する神は わたしの心に罪のないときは、それに報いてくださいます。 忍耐しなさい、忍耐が大切です! いつわりのことばがわたしを刺すときは。

 

アリアではイエスの受難を見守る信者の視点から、身に覚えのない侮辱や嘲笑にも「耐え忍ぼう」と歌う。ヴィオラ・ダ・ガンバ+オルガンの絞り出すような強アクセントの伴奏が効果的。口を固く結ぶ沈黙と、「偽りの舌」が我を刺すさまが、具象的な音型で描写される。音楽は42曲のスメントのいう「中核部」に入ってゆく。以下、群衆は興奮の叫びをあげ、イエスを殴打して嘲りの言葉を発する。たまりかねたようにコラールが介入し(37曲)、へ長調の簡潔な和声に主への優しい同情を偲ばせつつ、この場面を閉じる。

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36421:47

36a  26:63  EvangelistAber Jesus schwieg stille.  HohepriesterIch beschwöre dich bei dem lebendigen Gott, daß du uns sagest, ob du seiest Chirstus, der Sohn Gottes.

しかし、イエスは黙っておられた。そこで大祭司は言った、「あなたは神の子キリストなのかどうか、生ける神に誓ってわれわれに答えよ」。

 

26:64  EvangelistJesus sprach zu ihm:  JesusDu sagests. Doch sage ich euch: Von nun an wirds geschehen, daß ihr sehen werdet des Menschen Sohn sitzen zur Rechten der Kraft, und kommen in den Wolken des Himmels. 

イエスは彼に言われた、「あなたの言うとおりである。しかし、わたしは言っておく。あなたがたは、間もなく、人の子が力ある者の右に座し、天の雲に乗って来るのを見るであろう」。

 

26:65  EvangelistDa zerriß der Hohepriester seine Kleider, und sprach:  HohepriesterEr hat Gott gelästert. Was dürfen wir weiter Zeugnis? Siehe, jetzt habt ihr seine Gotteslästerung gehöret.

すると、大祭司はその衣を引き裂いて言った、「彼は神を汚した。どうしてこれ以上、証人の必要があろう。あなたがたは今このけがし言を聞いた。

 

26:66  Was dünket euch?  EvangelistSie antworteten, und sprachen:   36b  合唱I+II8声部 ト長調4/4 ChorEr ist des Todes schuldig!

あなたがたの意見はどうか」。すると、彼らは答えて言った、「彼は死に当るものだ」。

 

36c430:42 26:67  EvangelistDa speieten sie aus in sein Angesicht, und schlugen ihn mit Fäusten. Etliche aber schlugen ihn ins Angesicht, und sprachen:

それから、彼らはイエスの顔につばきをかけて、こぶしで打ち、またある人は手のひらでたたいて言った、

 

36d  26:68 合唱I+II8声部 ニ短調4/4へ長調 ChorWeissage uns, Christe, wer ists, der dich schlug?

「キリストよ、言いあててみよ、打ったのはだれか」。(挑発的な発声で。突き刺さるように鋭い木管の伴奏。)

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3744Coral I+II群4声部 へ長調4/4 (Fl, OB, Vl, Vla, Cont. Org) 1:00

Wer hat dich so geschlagen, Mein Heil, und dich mit Plagen So übel zugericht? Du bist ja nicht ein Sünder, Wie wir und unsre Kinder; Von Missetaten weißt du nicht.

 

誰があなたをこのように打ち、 わたしの救いよ、あなたに苦しみを与え、このようなひどい目に合わせたのですか? あなたはたしかに罪人ではありません、わたしたちとわたしたちの子孫のように。 あなた自身は、悪い行いを知らない方です。

(パウル・ゲルハルト作詞「おお俗世よ、お前の生活を見よ」(1647)第3節)

 

最高法廷はイエスに死刑判決を下す。つばをかけてイエスを侮辱する。そののちに、このコラールへと続く。

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3845ペテロの否認0:58 

38a  26:69  EvangelistPetrus aber saß darußen im Palast; und es trat zu ihm eine Magd, und sprach:  Erste MagdUnd du warest auch mit dem Jesu aus Galiläa.

ペテロは外で中庭にすわっていた。するとひとりの女中が彼のところにきて、「あなたもあのガリラヤ人イエスと一緒だった」と言った。

 

26:70  EvangelistEr leugnete aber vor ihnen allen und sprach:  PetrusIch weiß nicht, was du sagest.

するとペテロは、みんなの前でそれを打ち消して言った、「あなたが何を言っているのか、わからない」。

 

26:71  EvangelistAls er aber zur Tür hinausging, sahe ihn eine andere, und sprach zu denen, die da waren:  Zweite MagdDieser war auch mit dem Jesu von Nazareth.(天から聴こえる澄んだ声だ)

そう言って入口の方に出て行くと、ほかの女中が彼を見て、そこにいる人々にむかって、「この人はナザレ人イエスと一緒だった」と言った。

 

26:72  EvangelistUnd er leugnete abermal, und schwur dazu:  PetrusIch kenne des Menschen nicht.

そこで彼は再びそれを打ち消して、「そんな人は知らない」 と誓って言った。(心の動揺が現われる)

 

26:73  EvangelistUnd über eine kleine Weile traten hinzu, die da standen, und sprachen zu Petro:  38b  II4声部 ニ長調 4/4 ChorWahrlich, du bist auch einer von denen; is deine Sprache verrät dich.

しばらくして、そこに立っていた人々が近寄ってきて、ペテロに言った、「確かにあなたも彼らの仲間だ。言葉づかいであなたのことがわかる」。

 

38c461:4026:74  EvangelistDa hub er an sich zu verfluchen und zu schwören:  PetrusIch kenne des Menschen nicht.  EvangelistUnd alsbald krähete der Hahn.(思いを込めて)

彼は 「その人のことは何も知らない」 と言って、激しく誓いはじめた。するとすぐ鶏が鳴いた。

 

26:75  EvangelistUnd alsbald krähete der Hahn. Da dachte Petrus an die Worte Jesu, da er zu ihm sagte: Ehe der Hahn krähen wird, wirst du mich dreimal verleugnen. Und ging heraus und weinete bitterlich.

ペテロは「鶏が鳴く前に、三度わたしを知らないと言うであろう」と言われたイエスの言葉を思い出し、外に出て激しく泣いた。

 

イエスの身を案じたペトロは密かに大司祭の家の中庭にやってきた。人々にイエスの弟子かと聞かれ、三度それを否定した。するとイエスの予言通り.そこで鶏がなく。ペトロは外に出て激しく泣く。

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3947Aria, Alto (Vl, Vla, Cont, Org) ロ短調12/8 自由なダ・カーポ(7:45

Erbarme dich, mein Gott, Um meiner Zähren willen; Schaue hier, Herz und Auge  Weint vor dir bitterlich. Erbarme dich, mein Gott, Um meiner Zahren willen.

あわれみください、わたしの神よ。 わたしの涙に免じて。 ごらんください、心と目が、み前ではげしく泣いているのを。 あわれみください、わたしの神よ。 わたしの涙に免じて。

 

アルトのこのアリアは人間の弱さをなく信者の省察として歌われる(シチリアーノ風の音楽)。ヴァイオリンの美しい旋律は共に泣くバッハの魂の叫びである。(このヴァイオリン演奏の為に、著名なヴァイオリニストが招聘されることが多い。)涙のしたたりを形象化するピチカート・バスに支えられた独創のヴァイオリンの旋律は、いかにもバッハ風の美しさにあふれている。このアリアが進むうちに、贖いと恵みを認識するコラール(48曲〉が、思いがけぬ明るさをもって響いてくる。

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4048Coral I+II4声部 (Fl, Ob, Vl, Vla, Cont, Org) イ短調4/41:10

Bin ich gleich von dir gewichen, Stell ich mich doch wieder ein; Hat uns doch dein Sohn verglichen Durch sein Angst und Todespein. Ich verleugne nicht die Schuld, Aber deine Gnad und Huld Ist viel größer als die Sünde, Die ich stets in mir befinde.

たとえあなたから離れたとしても、 再びあなたのもとに帰ります。 あなたの御子がわたしたちを贖ってくださいました、 ご自分の苦しみと死の拷問によって。 わたしの責任を否定しません。 しかしあなたの恵みといつくしみは 罪よりはるかに大きなものです。 その罪とは、わたしが常に犯す罪のことです。

(ヨハン・リスト作詞「元気になれ、わが心よ」(1642)第6節)

 

コラールでは「たとえあなたから離れたとしても、私は再び戻ってまいります」と歌う。神の恵みと恩寵は、罪深い人に注がれる。省察的な楽曲としてアリアとコラールが組み合わされるのはこの一か所だけである。

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聖マタイ伝・福音書 第27  

 

4149ユダの後悔と死((1:11 

41a  27:1   EvangelistDes Morgens aber hielten alle Hohenpriester und die Ältesten des Volks einen Rat über Jesum, Und banden ihn, führeten ihn hin,

夜が明けると、祭司長たち、民の長老たち一同は、イエスを殺そうとして協議をこらした上、

 

27:2  und überantworteten ihn dem Landpfleger Pontio Pilato.

イエスを縛って引き出し、総督ピラトに渡した。

 

27:3  Da das sahe Judas, der ihn verraten hatte, daß er verdammt war zum Tode, gereuete es ihn, und brachte herwieder die dreißig Silberlinge den Hohenpriestern

そのとき、イエスを裏切ったユダは、イエスが罪に定められたのを見て後悔し、銀貨三十枚を祭司長、長老たちに返して

 

27:4   und sprach:  JudasIch habe übel getan, daß ich unschuldig Blut verraten habe.  EvangelistSie sprachen  41b  Coral I+II8声部 ホ嬰ヘ短調3/4 CoroWas gehet uns das an? Da siehe du zu!

言った、「わたしは罪のない人の血を売るようなことをして、罪を犯しました」。 しかし彼らは言った、「それは、われわれの知ったことか。自分で始末するがよい」。

 

41c500:4927:5  EvangelistUnd er warf die Silberlinge in den Tempel, hub sich davon, ging hin, und erhangete sich selbst.

そこで、彼は銀貨を聖所に投げ込んで出て行き、首をつって死んだ。

 

イエスがローマ総督のピラトに引き渡されたのを見たユダは、後悔して銀貨を返そうとする。しかし司祭長たちはとり合わない。ユダは銀貨を神殿に投げ込むと、首を吊ってしまう。

 

27:6  Aber die Hohenpriester nahmen die Silberlinge und sprachen:  CoroEs taugt nicht, daß wir sie in den Gotteskasten legen, is es ist Blutgeld.

祭司長たちは、その銀貨を拾いあげて言った、「これは血の代価だから、宮の金庫に入れるのはよくない」。

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4251Aria, Basso (Vl, Vla, Cont, Org) ト長調4/43:11

Gebt mir meinen Jesum wieder!  Seht, das Geld, den Mörderlohn, Wirft euch der verlorne Sohn Zu den Füßen nieder.  Gebt mir meinen Jesum wieder!

 

わたしのイエスを返してください! 見なさい、人殺しの報酬の金を、放蕩息子が投げ出した、あなた方の足もとに。 わたしのイエスを返してください!

 

後悔したユダは銀貨30枚を返そうととするが、司祭長たちに突き放される。そこでユダは銀貨を神殿に投げ込み首をつって死ぬ。バスのアリアにはヴァイオリンのソロが付くが、その決然とした調子は、第39曲とは好対照である。このト短調のアリアはこのユダを「帰って来た放蕩息子」ととらえ、思いのほか明るい音楽によって、裏切りの罪から彼を救い出す。

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4352 総督ピラトの前での受難 (2:49

27:7  EvangelistSie hielten aber einen Rat, und kauften einen Töpfers=Acker darum zum Begräbnis der Pilger.

そこで彼らは協議の上、外国人の墓地にするために、その金で陶器師の畑を買った。

 

27:8  Daher ist derselbige Acker genennet der Blutacker bis auf den heutigen Tag. 

そのために、この畑は今日まで血の畑と呼ばれている。

 

27:9  Da ist erfüllet, das gesagt ist durch den Propheten Jeremias, da er spricht:  Sie haben genommen dreißig Silberlinge, damit bezahlet ward der Verkaufte, welchen sie kauften von den Kindern Israel,

こうして預言者エレミヤによって言われた言葉が、成就したのである。すなわち、「彼らは、値をつけられたもの、すなわち、イスラエルの子らが値をつけたものの代価、銀貨三十を取って、

 

27:10 und haben sie gegeben um einen Töpfersacker, als mir der Herr befohlen hat.

主がお命じになったように、陶器師の畑の代価として、その金を与えた」。

 

27:11  Jesus aber stand vor dem Landpfleger; und der Landpfleger fragte ihn und sprach:  PilatusBist du der Jüden König?  JesusDu sagests.

さて、イエスは総督の前に立たれた。すると総督はイエスに尋ねて言った、「あなたがユダヤ人の王であるか」。イエスは 「そのとおりである」 と言われた。

 

27:12  EvangelistUnd da er verklagt ward von den Hohenpriestern und Ältesten, antwortete er nichts. Da sprach Pilatus zu ihm:

しかし、祭司長、長老たちが訴えている間、イエスはひと言もお答えにならなかった。

 

27:13  Da sprach Pilatus zu ihm: PilatusHörest du nicht, wie hart sie dich verklagen?  

するとピラトは言った、「あんなにまで次々に、あなたに不利な証言を立てているのが、あなたには聞えないのか」。

 

27:14  EvangelistUnd er antwortete ihm nicht auf ein Wort, also, daß sich auch der Landpfleger sehr verwunderte.

しかし、総督が非常に不思議に思ったほどに、イエスは何を言われても、ひと言もお答えにならなかった。

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4453Coral I+II4声部 (Fl, Ob, Vl, Vla, Cont, Org) 静かに落ち着いて ニ長調 4/41:28

Befiehl du deine Wege Und was dein Herze kränkt Der allertreusten Pflege Dess, der den Himmel lenkt.  Der Wolken, Luft und Winden Gibt Wege, Lauf und Bahn, Der wird auch Wege finden, Da dein Fuß gehen kann.

 

あなたの道をゆだねなさい。 病んでるあなたの心を。 限りない守護に。 天を支配される方に。 雲、大気そして風に その道や進路と軌道を与えられる。 そのような道をを見つけられる方は、 あなたの足を歩み導くこともおできなります。

(パウル・ゲルハルト作詞の同名コラール(1653)第1節)→→メロデイ―は15175462曲と同じ。

 

このコラールは「すべてを神に委ねよ」という内容であり、受難を甘んじて受けようというイエスの心境を察して歌われる。旋律は受難のコラール「おお、こうべは血と傷にまみれ」であり、この場面の受難における意味を強調している。総督による尋問が始まったが、このニ短調のコラール二歌われているとおり、イエスは行くべき道を神に尋ねて、口を閉じたままである。

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4554判決2:44

45a  27:15   EvangelistAuf das Fest aber hatte der Landpfleger Gewohnheit, dem Volk einen Gefangenen loszugeben, welchen sie wollten.  Er hatte aber zu der Zeit einen Gefangenen,

さて、祭のたびごとに、総督は群衆が願い出る囚人ひとりを、ゆるしてやる慣例になっていた。

 

27:16  einen sonderlichen vor andern, der hieß Barrabas.

ときに、バラバという評判の囚人がいた。 

 

27:17  Und da sie versammlet waren, sprach Pilatus zu ihnen:  PilatusWelchen wollet ihr, daß ich euchlosgebe? Barrabam oder Jesum, von dem gesaget wird, er sei Christus?

それで、彼らが集まったとき、ピラトは言った、「おまえたちは、だれをゆるしてほしいのか。バラバか、それとも、キリストといわれるイエスか」。

 

27:18   EvangelistDenn er wußte wohl, daß sie ihn aus Neid überantwortet hatten.

彼らがイエスを引きわたしたのは、ねたみのためであることが、ピラトにはよくわかっていたからである。

 

27:19   Und da er auf dem Richtstuhl saß, schickete sein Weib zu ihm, und ließ ihm sagen:  Pilati weibHabe du nichts zu schaffen mit diesem Gerechten; ich habe heute viel erlitten im Traum von seinetwegen.

また、ピラトが裁判の席についていたとき、その妻が人を彼のもとにつかわして、「あの義人には関係しないでください。わたしはきょう夢で、あの人のためにさんざん苦しみましたから」 と言わせた。

 

27:20   EvangelistAber die Hohenpriester und die Ältesten überredeten das Volk, daß sie um Barrabam bitten sollten, und Jesum umbrächten.

しかし、祭司長、長老たちは、バラバをゆるして、イエスを殺してもらうようにと、群衆を説き伏せた。

 

27:21   und sprach zu ihnen:  PilatusWelchen wollt ihr unter diesen zweien, den ich euch soll losgeben?  EvangelistSie sprachen:  CoroBarrabam!

総督は彼らにむかって言った、「ふたりのうち、どちらをゆるしてほしいのか」。 彼らは「バラバの方を!」 と言った。

 

27:22   EvangelistSie sprachen:  PilatusWelchen wollt ihr unter diesen zweien, den ich euch soll losgeben?  EvangelistSie sprachen alle:  45b  CoroLaß ihn kreuzigen! 

ピラトは言った、「それではキリストといわれるイエスは、どうしたらよいか」。 彼らはいっせいに 「十字架につけよ」 と言った。

 

つづくピラトと群衆のやり取りでは、群衆の合唱が主導権を握る。それは減7の和音上の絶叫「バラバなり!」が起こり、次いで「十字架につけよ」の威嚇的なフガートになる。ここで合唱は、<贖罪コラール>をロ短調で聞かせる(『何というひどい処罰だろう!』)(第55曲)

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4655Coral I+II4声部 (Fl, Ob, Vl, Vla, Cont, Org) 静かに泣くがごとく ロ短調 4/41:16

Wie wunderbarlich ist doch diese Strafe!  Der gute Hirte leidet fur die Schafe,  Die Schuld bezahlt der Herre, der Gerechte,  Für seine Knechte.

 

なんというひどい処罰だろう! よい羊飼いが羊に代わって苦しみ、 善そのものでいらっしゃる主が、負債を償われるとは、 しかも自分のしもべのために。

(ヨハン・ヘルマン作詞「最愛のイエスょ、いかなる罪を犯されたのか」(1630)第4節)→→319曲と同じコラール

 

47560:16

27:23  EvangelistDer Landpfleger sagte:  PilatusWas hat er is Übels getan?

しかし、ピラトは言った、「あの人は、いったい、どんな悪事をしたのか」。

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4857Recitativo, Soprano (Ob dcacc, Cont, Org) ホ短調→ハ長調4/41:17

Er hat uns allen wohlgetan. Den Blinden gab er das Gesicht, die Lahmen macht er gehend, er sagt uns seines Vaters Wort, er trieb die Teufel fort, betrübte hat er aufgericht, er nahm die Sünder auf und an; sonst hat mein Jesus nichts getan.

 

彼はわたしたちすべてに善いことしてくださいました。 目が見えない人を見えるようにし、 歩けない人を歩けるようになさいました。 御父のことばをわたしたちに告げ、 悪魔を追い出してくださいました。 悲しむ者を助け起こし、 彼は罪人を迎え、受け入れました。 わたしのイエスは、悪いことは何一つなさらなかった。

 

ピラトがイエスの罪の内容について群衆に問うとそれには答えはない。代わりにソプラノがレシタティーヴォで心情を説明する。ピラトが「彼、何の悪事をなしたるか」と呟くと、ソプラノが進み出て、イエスのなした「善きこと」に思いを馳せる。

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4958Aria, Soprano (Fl solo, Ob d cacc) イ短調3/8 自由なダ・カーポ(4:29

Aus Liebe will mein Heiland sterben, Von einer Sünde weiß er nichts.  Daß das ewige Verderben Und die Strafe des Gerichts Nicht auf meiner Seele bliebe.  Aus Liebe will mein Heiland sterben, Von einer Sünde weiß er nichts.

 

愛のためにわたしの救い主は、死のうとしている。 一つの罪も彼は知らないのに。 それは永遠の滅び、 そして審判の罰が、 わたしの魂に及ばないために。 愛のためにわたしの救い主は、死のうとしている。 一つの罪も彼は知らないのに。

 

通奏低音を持たずにリコーダーとオーボエ・ダカッチャの2本のみでの霊妙な響き(スタッカート)で、イエスの愛の神秘が強調される。つづいてのイ短調のアリアで「救い主の愛」の認識にたどりつくが、フルート独創を持つこのアリア「愛のためにわたしの救い主は、死のうとしている」は低音部を欠いた編成で書かれており、その清らかで慈しみにとんだ音色によって、前後の残虐な光景から際立った対照をなして浮かびあがっている。「これこそバッハの最も気高い作曲のひとつであり、純粋な愛の力から流れ出たその旋律は、聖杯の領域からの天使の使いのような印象を与える」(ブルーノ・ワルター)。

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50592:08

50a  EvangelistSie schrieen aber noch mehr und sprachen:  50b  CoroLaß ihn kreuzigen! 

すると彼らはいっそう激しく叫んで、 「十字架につけよ」 と言った。

 

裁きの場面に帰り、再び「十字架につくべし」の叫びが押し寄せる。

 

50c  27:24  EvangelistDa aber Pilatus sahe, daß er nichts schaffete, sondern daß ein viel größer Getümmel ward, nahm er Wasser und wusch die Hände vor dem Volk, und sprach: PilatusIch bin unschuldig an dem Blut dieses Gerechten, ises ihr zu.

ピラトは手の付けようがなく、かえって暴動になりそうなのを見て、水を取り、群衆の前で手を洗って言った、「この人の血について、わたしには責任がない。おまえたちが自分で始末をするがよい」。

 

27:25  EvangelistDa antwortete das ganze Volk, und sprach:  50d  Coral I+II4声部 ロ短調→ニ長調4/ CoroSein Blut komme über uns und unsre Kinder. 

すると、民衆全体が答えて言った、「その血の責任は、われわれとわれわれの子孫の上にかかってもよい」。

 

その調性はイ短調からロ短調変化し、群衆の興奮の高まりを示している。さらに続く、「その血の責任は、われわれとわれわれの子孫の上にかかってもよい」 の合唱。群衆の激昂ぶりを見たピラトは説得を諦め、イエスを鞭打たせて、十字架に着けるために引き渡す。

 

50e  27:26  EvangelistDa gab er ihnen Barrabam los; aber Jesum ließ er geißeln, und überantwortete ihn, daß er gekreuziget würde. 

そこで、ピラトはバラバをゆるしてやり、イエスをむち打ったのち、十字架につけるために引きわたした。

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5160RecitativoAlto (Vl, Vla, Cont, Org) 1:01

Erbarm es Gott!  Hier steht der Heiland angebunden.  O Geißelung, o Schläg, o Wunden!  Ihr Henker, haltet ein!  Erweichet euch der Seelen Schmerz, Der Anblick solches Jammers nicht?  Ach ja!  Ihr habt ein Herz, Das muß der Martersäule gleich Und noch viel härter sein.  Erbarmt euch, haltet ein!

 

神よあわれみください! ここで救い主は繋がれておられる。 おおなんという鞭打ち、殴打、お傷! 刑の執行人よ、やめてください! 魂の痛みがあなた方の心をやわらげないのですかああそうだ! あなたにも心はあるでしょう、 でもあなたの心は責め具の棒のようであるにちがいない。 それよりもっと無情なものにちがいない。 あなた方のあわれみを示してください、やめてください!

 

弦による符点のリズムが特徴的。「むち打ち」を暗示する。直接的に拷問を表現するレシタティーヴォはそのリズムは鋭く、残忍。ここでのレシタティーヴォは痛ましい鞭打ちに思いを馳せるもの。伴奏の弦楽器には,一貫して鞭の響きが描写されている。

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5261 AriaAlto (Vl solo, Cont, Org) ト短調3/4 ダ・カーポ(8:02

Können Tränen meiner Wangen Nichts isestn, O, so nehmt mein Herz hinein! Aber laßt es bei den Fluten, Wenn die Wunden milde bluten, Auch die Opferschale sein!  Können Tränen meiner Wangen Nichts isestn, O, so nehmt mein Herz hinein!

 

わたしの涙が 何にも役立たないのなら、 おお、せめてわたしの心をお受けください! ああ涙を流し切らせましょう、 愛の傷が血を流しているのですから。 せめて(わたし心があなたへの)奉納の器となりますように! わたしの涙が 何にも役立たないのなら、 おお、せめてわたしの心をお受けください!

 

レシタティーヴォを受けてのアリアは悲惨さに涙する表情。そのリズムは愛撫するように優しく変化する。アリアの中間部は「その御傷からあふれる慈悲の血を我が心の受け皿に受けよう」 という内容にふさわしく、希望を感じさせるものとなっている。音型が61曲からゆったりとした三拍子に変化すると、音楽はト長調のアリア「我が頬の涙」に入る。涙で足りなければ心臓を捧げよう。私は心臓で悲しみの血潮を受け取るのだ、と。

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53621:17

53a  27:27  EvangelistDa nahmen die Kriegsknechte des Landpflegers Jesum zu sich in das Richthaus,

それから総督の兵士たちは、イエスを官邸に連れて行って、全部隊をイエスのまわりに集めた。

 

27:28  und sammleten über ihn die ganze Schar, und zogen ihn aus, und legeten ihm einen Purpurmantel an,

そしてその上着をぬがせて、赤い外套を着せ、

 

27:29  und flochten eine Dornene Krone, und satzten sie auf sein Haupt, und ein Rohr in seine rechte Hand, und beugeten die Knie vor ihm, und spotteten ihn, und sprachen:  53b  Coral I+II8声部 ニ短調 4/4 CoroGegrüßset seist du, Jüdenkönig!

また、いばらで冠を編んでその頭にかぶらせ、右の手には葦の棒を持たせ、それからその前にひざまずき、嘲弄して、「ユダヤ人の王、ばんざい」 と言った。

 

群衆を表すトゥルパ(兵卒のイエスへの嘲笑)と呼ばれる合唱の効果で「ユダヤ人の王、ばんざい」と叫ぶことで、興奮の頂点に達する。

 

53c 27:30  EvangelistUnd speieten ihn an, und nahmen das Rohr, und schlugen damit sein Haupt.

また、イエスにつばきをかけ、葦の棒を取りあげてその頭をたたいた。

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5463Coral I+II4声部 (Fl, Ob, Vl, Vla, Cont, Org) ニ短調→へ長調 4/4 悲壮感をもって (2:58

O Haupt voll Blut und Wunden, Voll Schmerz und voller Hohn, O Haupt, zu Spott gebunden Mit einer Dornenkron! O Haupt, sonst schön gezieret Mit höchster Ehrund Zier, Jetzt aber hoch schimpfieret, Gegrüßet seist du mir!

Du edles Angesichte, Dafür sonst schrickt und scheut Das große Weltgerichte, Wie bist du so bespeit! Wie bist du so erbleichet, Wer hat dein Augenlicht, Dem sonst kein Licht nicht gleichet, So schändlich zugericht?

 

おお、血と傷で血塗られたみ頭よ、 苦痛や辱しめも受けておられる。 おお、み頭よ、あざけりのために いばらの冠で結わえられている。 おお、み頭よ、普通なら美しく飾られるべきなのに、 最高の誉れと装飾品で。 しかし今は極みの辱しめを受けているが、 あなたこそわたしには尊むべき方です!あなたは気高いお顔をなさっている。 

そのため誰も恐れ、おののくのに、 偉大な世の権力さえも。 なんとあなたはこのようにつばきされた! なんとあなたは青ざめていることか。 誰があなたのまなこを、 他のものとは比べものにならないこの光を、 このようにひどい目にあわせたのでしょうか?

(パウル・ゲルハルト作詞の同名のコラール(1656)第1節、第2節)→→1517曲と同じコラールの第1〜2節。

 

マタイ受難曲の頂点のアリア!!周知の受難コラールが、大きく響きだす。これはひときわ高い音域に置かれ、基本的に短調の和声づけを受けていて(ニ短調→へ長調)、受難の出来事が最も緊迫した段階にさしかかったことを示している。

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5564十字架の道 1:11 

27:31  EvangelistUnd da sie ihn verspottet hatten, zogen sie ihm den Mantel aus, und zogen ihm seine Kleider an, und führeten ihn hin, daß sie ihn kreuzigten.

こうしてイエスを嘲弄したあげく、外套をはぎ取って元の上着を着せ、それから十字架につけるために引き出した。

 

27:32   Und indem sie hinausgingen, fanden sie einen Menschen von Kyrene mit Namen Simon; den zwangen sie, daß er ihm sein Kreuz trug.

彼らが出て行くと、シモンという名のクレネ人に出会ったので、イエスの十字架を無理に負わせた。

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5665RecitativoBasso (Vla dg, Cont, Org) 0:39

Ja freilich will in uns das Fleisch und Blut Zum Kreuz gezwungen sein; Je mehr es unsrer Seele gut, Je herber geht es ein.

 

たしかにそうです、わたしたちの中におられる肉と血は、 十字架を負わせられなくてはならなかったのです。 それ(十字架)はわたしの魂にはより善いものです、 それ(十字架)が厳しければ厳しいほど。

 

ヴィオラ・ダ・ガンバのおぼつかない歩みは正に重い十字架を担いでの苦渋に満ちた道行を象徴する。65曲と66曲のバスの歌唱はその道行きに対する省察である。まず、フルートのように聞こえる音型はよろめく足どりの具象化と解釈されるが、それはなんと内面的で甘美な趣を持つものとなっていることであろう。

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5766AriaAlto (Vla dg solo, Cont, Org) ニ短調4/4 自由なダ・カーポ (6:26

Komm, süßes Kreuz, so will ich sagen, Mein Jesu, isest immer her! Wird mir mein Leiden einst zu schwer, So hilfst du mir es selber tragen.  Komm, süßes Kreuz, so will ich sagen, Mein Jesu, isest immer her!

 

来てください、甘美な十字架よ、とわたしは言う。 わたしのイエスよ、いつもわたしにそれを負わせてください! わたしの苦しみが重すぎることがあれば、 自らあなたは、担うわたしを助けてくださるからです。 来てください、甘美な十字架よ、とわたしは言う。 わたしのイエスよ、いつもわたしにそれを負わせてください!

 

23曲のバスのアリアの対応として、このアルトのアリア、「十字架と苦杯の甘受」が歌われる。ヴィオラ・ダ・ガンバという個性的なレシタティーヴォとアリアはすでに第3435曲で演奏されたが、主題の親近性が感じられる(ピアノ・エ・スタッカート)。苦難の道行きのリズムからは、静かな憧れの感情が匂い出ている。第56曲のソプラノの歌った「神の愛」に、ここで、「人の憧れ」をもって応答する。

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5867十字架上のイエス 3:37

58a  27:33  EvangelistUnd da sie an die Stätte kamen mit Namen Golgatha, das ist verdeutschet Schädelstätt,

そして、ゴルゴタ、すなわち、されこうべの場、という所にきたとき、

ゴルゴダ:されこうべの意、イエスが十字架の刑に処せられた、エルサレム近郊の丘。

 

27:34  gaben sie ihm Essig zu trinken mit Gallen vermischet; und da ers schmeckete, wollte ers nicht trinken.

彼らはにがみをまぜたぶどう酒を飲ませようとしたが、イエスはそれをなめただけで、飲もうとされなかった。

 

27:35  Da sie ihn aber gekreuziget hatten, teilten sie seine Kleider, und warfen das Los darum, auf daß erfüllet würde, das gesagt ist durch den Propheten: Sie haben meine Kleider unter sich geteilet, und über mein Gewand haben sie das Los geworfen.

彼らはイエスを十字架につけてから、くじを引いて、その着物を分け、

 

27:36  Und sie saßen allda, und hüteten sein.

そこにすわってイエスの番をしていた。

 

27:37  Und oben zu seinen Haupte hefteten sie die Ursach seines Todes beschrieben, nämlich: Dies ist Jesus, der Jüden König.

そしてその頭の上の方に、「これはユダヤ人の王イエス」と書いた罪状書きをかかげた。

 

27:38   Und da wurden zween Mörder mit ihm gekreuziget, einer zur Rechten und einer zur Linken.

同時に、ふたりの強盗がイエスと一緒に、ひとりは右に、ひとりは左に、十字架につけられた。

 

27:39  Die aber vorübergingen, lästerten ihn, und schüttelten ihre Köpfe,

そこを通りかかった者たちは、頭を振りながら、イエスをののしって

 

27:40  und sprachen:  58b  Coral I+II8声部(終結4声部)ロ短調4/4 CoroDer du den Tempel Gottes zerbrichst, und bauest ihn in dreien Tagen, hilf dir selber! Bist du Gottes Sohn, so steig herab vom Kreuz!

言った、「神殿を打ちこわして三日のうちに建てる者よ。もし神の子なら、自分を救え。そして十字架からおりてこい」。

 

58c680:2027:41  EvangelistDesgleichen auch die Hohenpriester spotteten sein, samt den Schriftgelehrten und Ältesten, und sprachen:

祭司長たちも同じように、律法学者、長老たちと一緒になって、嘲弄して言った、

 

58d  27:42  Coral I+II8声部→4声部 ホ短調4/4 CoroAndern hat er geholfen, und kann sich selber nicht helfen. Ist er der König Israels, so steige er nun vom Kreuz, so wollen wir ihm glauben.

「他人を救ったが、自分自身を救うことができない。あれがイスラエルの王なのだ。いま十字架からおりてみよ。そうしたら信じよう。

 

27:43  Er hat Gott vertrauet, der erlöse ihn nun, lüstets ihn; is er hat gesagt: Ich bin Gottes Sohn.

彼は神にたよっているが、神のおぼしめしがあれば、今、救ってもらうがよい。自分は神の子だと言っていたのだから」。

 

イエスは遂に十字架にかけられた。彼に浴びせられる嘲りの合唱は、二つのグループの掛け合いによって勝ち誇るように高揚し、「われは神の子なり」の異様なユニゾン楽節となって終わる。このホ短調で「中核部」は閉じられ、以後、曲はフラット系の

調性による新しい世界に入ってゆく。

 

58e  27:44  EvangelistDesgleichen schmäheten ihn auch die Mörder, die mit ihm gekreuziget wurden.

一緒に十字架につけられた強盗どもまでも、同じようにイエスをののしった。

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5969RecitativoAlto (Ob dcacc, Cont, Org)  1:41

Ach Golgatha, unselges Golgatha!  Der Herr der Herrlichkeit muß schimpflich hier verderben.  Der Segen und das Heil der Welt Wird als ein Fluch ans Kreuz gestellt.  Der Schöpfer Himmels und der Erden Soll Erd und Luft entzogen werden;  Die Unschuld muß hier schuldig sterben.  Das gehet meiner Seele nah; Ach Golgatha, unselges Golgatha!

 

ああゴルゴタよ、不幸なゴルゴタよ栄光の主が屈辱的にも 滅びようとしている。 世に祝福と救いを与えられる方が、まるで天罰のように十字架につけられている。 天地の創造主が、大地と大気を奪いとられようとしている。  咎のない者が、今咎を負って死ななければならない。 そのことはわたしの魂を悲しませます。   ああゴルゴタよ、不幸なゴルゴタよ! 

 

チェロのピッチカートが弔鐘を響かせる中で、アルトが「ああ、ゴルゴダよ」と叫ぶ。しかしその音楽にはすでに確信が宿されている。

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6070AriaAlto (Ob dcacc, Cont, Org) 変ホ長調4/4 Coral II群4声部(3:52

Sehet, Jesus hat die Hand, Uns zu fassen, ausgespannt, Kommt!  Wohin?

In Jesu Armen.  Suchet Erlösung,nehmt Erbarmen, Suchet!  Wo?  In Jesu Armen.  Lebet, sterbet, ruhet hier, Ihr verlaßnen Küchlein ihr, Bleiben  Wo  In Jesu Armen.

 

見なさい、イエスは手を、わたしたちを抱くために広げられる。来なさい!  どこへですか? イエスの腕の中へ。 救いを求めなさい。 あわれみを受けなさい。 求めなさい!  どこでですか?  イエスの腕の中で。 生きなさい、死になさい、この中で休みなさい。 あなたがたは見すてられたひな鳥たちのようです。 とどまりなさい。 どこにですか? イエスの腕の中に。

 

信じる者たちを抱くためのしぐさと解釈される。2重合唱の第一群では2本のオーボエ・ダカッチャと通オス低音に支えられたアルト独唱が歌い、第2群の合唱は「どこに」と短く問いかける。導入合唱(第1曲)の対話の回想ともいえる。この歌を歌うアルトの眼には、木に打ち付けられたイエスの腕が、今にもわれわれを抱かんとするかに映ずる。喜びさえにじみ出る合唱との応答。

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6171イエスの死と埋葬 2:57 

61a  27:45   EvangelistUnd von der sechsten Stunde an ward eine Finsternis über das ganze Land, bis zu der neunten Stunde.

さて、昼の十二時から地上の全面が暗くなって、三時に及んだ。

 

やがて全地を夜のような闇が襲った。

 

27:46   Und um die neunte Stunde schriee Jesus laut, und sprach:  JesusEli, Eli, lama asabthani?  EvangelistDas ist: Mein Gott, mein Gott, warum hast du mich verlassen?

そして三時ごろに、イエスは大声で叫んで、 「エリ、エリ、レマ、サバクタニ」 と言われた。それは「わが神、わが神、どうしてわたしをお見捨てになったのですか」という意味である。

 

アダージョで現れるイエスの最後の言葉「エリ、エリ、レマ、サバクタニ」 は、枠をなすホ短調に鋭く対立する変ロ短調に置かれ、しかもそこから弦楽器による「光背」が姿を消している。

 

27:47  Etliche aber, die da stunden, da sie das höreten, sprachen sie:  61b  Coral I4声部(トゥッティ) CoroDer rufet den Elias!

すると、そこに立っていたある人々が、これを聞いて言った、「あれはエリヤを呼んでいるのだ」。

 

61c  27:48  EvangelistUnd bald ise einer unter ihnen, nahm einen Schwamm, und füllete ihn mit Essig, und steckete ihn auf ein Rohr, und tränkete ihn.

するとすぐ、彼らのうちのひとりが走り寄って、海綿を取り、それに酢いぶどう酒を含ませて葦の棒につけ、イエスに飲ませようとした。

 

27:49  Die andern aber sprachen:  61d  Coral II4声部(トゥッティ) CoroHalt! Laß sehen, ob Elias komme, und ihm helfe?

ほかの人々は言った、「待て、エリヤが彼を救いに来るかどうか、見ていよう」。

 

61e  27:50  EvangelistAber Jesus schriee abermal laut, und verschied.

 

イエスはもう一度大声で叫んで、ついに息をひきとられた。

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6272Coral I+II4声部 (Fl, Ob, Vl, Vla, Cont, Org) イ短調→フリギヤ旋法終止4/4 悲しみにくれて (2:01

Wenn ich einmal soll scheiden, So scheide nicht von mir! Wenn ich den Tod soll leiden, So tritt du dann herfür! Wenn mir am allerbängsten Wird um das Herze sein, So reiß mich aus den Ängsten Kraft deiner Angst und Pein!

 

わたしがいつの日か世を去るとき、 わたしから決して離れないでください。 わたしが死を迎えるとき、 わたしの前に来てください。 不安の極みが わたしの心を覆うとき、 その恐怖からわたしを救い出してください、 あなたが受けた不安と苦悩の功によって。

(パウル・ゲルハルト作詞「おお、こうべは血と傷にまみれ」(1656)第9節)→→フリギア旋法終止4/4

 

昼の12時に全地は暗くなり、3時ごろにイエスは 「エリ、エリ、レマ、サバクタニ」 と叫ぶ。この時から、イエスの言葉を「光背」のように取り囲んでいた弦楽の伴奏は消え失せる。長く引き伸ばされた通奏低音のみが伴奏となる。十字架上のイエスがまさに「人」として神に語りかけられていることを表している。人々の中にはイエスがエリアを呼んでいるかと思うものもいた。群衆の合唱に絡みつくヴァイオリンの細かい動きが、彼等の不安を表している。イエスの死が短く報告された後、受難のコラール「おお、こうべは血と傷にまみれ」の第9節「いつの日か私が逝かねばならぬとき」がしみじみと歌われる。受難コラールはこれで4度目であるが、ここでは古風なフリギア調で和声づけされて、沈痛な表情を持つものに変化している。

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6373地震、遺体の引き渡し (4:04

63a  27:51  EvangelistUnd siehe da, der Vorhang im Tempel zerriß in zwei Stück von oben an bis unten aus. Und die Erde erbebete, und die Felsen zerrissen,

すると見よ、神殿の幕が上から下まで真二つに裂けた。また地震があり、岩が裂け、

 

27:52   und die Gräber täten sich auf, und stunden auf viel Leiber der Heiligen, die da schliefen,

また墓が開け、眠っている多くの聖徒たちの死体が生き返った。

 

27:53   und gingen aus den Gräbern nach seiner Auferstehung, und kamen in die heilige Stadt,

そしてイエスの復活ののち、墓から出てきて、聖なる都にはいり、多くの人に現れた。

 

27:54   und gingen aus den Gräbern nach seiner Auferstehung, und kamen in die heilige Stadt, und erschienen vielen.  63b  Coral I+II声部 変イ長調 4/4  CoroWahrlich, dieser ist Gottes Sohn gewesen.

百卒長、および彼と一緒にイエスの番をしていた人々は、地震や、いろいろのできごとを見て非常に恐れ、「まことに、この人は神の子であった」と言った。

天地の不思議な鳴動が通奏低音のトレモロを伴って劇的に語られ、これには百卒長たちの「まことに、この人は神の子であった」という告白が、簡潔で感動的な合唱句としてつづく。

 

63c  27:55  EvangelistUnd es waren viel Weiber da, die von ferne zusahen, die da waren nachgefolget aus Galiläa, und hatten ihm gedienet,

また、そこには遠くの方から見ている女たちも多くいた。彼らはイエスに仕えて、ガリラヤから従ってきた人たちであった。

ガリラヤ:パレスチナ(イスラエル)北方の地方。イエスの出生地で、その初期伝道の主な舞台。

 

27:56   unter welchen war Maria Magdalena, und Maria, die Mutter Jacobi und Joses, und die Mutter der Kinder Zebedäi.

その中には、マグダラのマリア、ヤコブとヨセフとの母マリア、またゼベダイの子たちの母がいた。

マグダラのマリア:イエスによって罪を許された女の名。マタイ福音書などに見える。

 

27:57   Am Abend aber kam ein reicher Mann von Arimathia, der hieß Joseph, welcher auch ein Jünger Jesu war,

夕方になってから、アリマタヤの金持で、ヨセフという名の人がきた。彼もまたイエスの弟子であった。

 

27:58   der ging zu Pilato, und bat ihn um den Leichnam Jesu.  Da befahl Pilatus, man sollte ihm ihn geben.

この人がピラトの所へ行って、イエスのからだの引取りかたを願った。そこで、ピラトはそれを渡すように命じた。

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6474RecitativoBasso (Vl, Vla, Cont, Org) 柔らかく (2:15

Am Abend, da es kühle war, Ward Adams Fallen offenbar. Am Abend drücket ihn der Heiland nieder; Am Abend kam die Taube wieder Und trug ein Ölblatt in dem Munde. O schöne Zeit! O  Abendstunde! Der Friedensschluß ist nun mit Gott gemacht, Denn Jesus hat sein Kreuz vollbracht.  Sein Leichnam kommt zur Ruh.  Ach! Liebe Seele, bitte du Geh, lasse dir den toten Jesum schenken, O heilsames, o köstlichs Angedenken!

 

夕暮れになると、涼しくなった、アダムの堕落は、今や明らかになった。 夕暮れに救い主は、アダムの堕落を押しつぶされた。 夕暮れに鳩はもどり、オリーブの葉をくちばしにくわえて来た。 おお美しい時よ! おお夕暮れのひとときよ! 神との和解が成立した。 イエスが十字架のみわざを成就されたからです。 彼のなきがらは、安息に入ります。 ああ! 愛する魂よ、あなたは願いなさい。 行って、亡くなったイエスのさげ渡しを受けなさい。 おお、それはなんと力強い、尊い記念となることでしょう!

 

バスのレシタティーヴォは、イエスの十字架が成就し、神との平和の契りが結ばれたことを感銘深く歌う。天変地異が静まった後、「マタイ受難曲」には、にわかに清浄の気が漂い始める。バスの語るレシタティーヴォでは、ヴァイオインに木の葉のそよぎが聞かれ、すがすがしい夕べの一刻の情感が、あますところなく表現されている。

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6575AriaBasso (Ob dcacc, Vl, Vla, Cont, Org) 変ロ長調12/8(冒頭リトルネロぬき)(7:08

Mache dich, mein Herze, rein, Ich will Jesum selbst begraben.  Denn er soll nunmehr in mir Für und für Seine süße Ruhe haben.  Welt, geh aus, laß Jesum ein!  Mache dich, mein Herze, rein, Ich will Jesum selbst begraben.

 

わたしの心よ、自分自身を浄めよ。 わたしはイエスを、自分の手で葬りたいのです。 なぜなら彼は今からずっとわたしの中で いつまでも 甘美な安息をもたれるのですから。 世のものは出て行ってください、 イエスに入っていただくためです! わたしの心よ、自分自身を浄めよ。 わたしはイエスを、自分の手で葬りたいのです。 

 

8分の12拍子のシチリアーノのリズムに乗った安らぎに満ちた音楽。「信ずる者の心の中でこそ、イエスは永久に甘美な安らぎを得る」を歌う。心の中にイエスを葬ろうという鮮やかなイメージの発想は、ピカンダーが作詞にあたって参考にしたミューラーの受難説教集から取られたものである。 75曲のレシタテイーヴォの気分は、ロ長調のアリアにも流れ込み、曲はゆったりとした動きを見せて、聴く者の心を洗う。

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66762:53

66a  27:59  EvangelistUnd Joseph nahm den Leib und wickelte ihn in ein rein Leinwand.

ヨセフは死体を受け取って、きれいな亜麻布に包み、

 

27:60  Und legte ihn in sein eigen neu Grab,welches er hatte lassen in einen Fels hauen, und wälzete einen großen Stein vor die Tür des Grabes und ging davon.

岩を掘って造った彼の新しい墓に納め、そして墓の入口に大きい石をころがしておいて、帰った。

 

イエスはこうして埋葬され、墓には封印が施された。

 

27:61  Es war aber allda Maria Magdalena und die andere Maria, die satzten sich gegen das Grab.

マグダラのマリアとほかのマリアとが、墓にむかってそこにすわっていた。

 

マグダラのマリア:イエスによって罪を許された女の名。マタイ福音書などに見える。

 

27:62  Des andern Tages, der da folget nach dem Rüsttage,kamen die Hohenpriester und Pharisäer sämtlich zu Pilato, und sprachen:

あくる日は準備の日の翌日であったが、その日に、祭司長、パリサイ人たちは、ピラトのもとに集まって言った、

 

パリサイ派:Pharisees、「分離するもの」の意。イエスの時代に盛んだったユダヤ教の一派。紀元前2世紀の後半に起こり、モーセの律法の厳格な遵守を主張、これを守らない者を汚れたものとして斥けた。イエスはその偽善的傾向を激しく攻撃した。

 

66b  27:63  Coral I+II8声部→4声部(トゥッティ) CoroHerr, wir haben gedacht, daß dieser Verführer sprach, da er noch lebete: Ich will nach dreien Tagen wieder auferstehen.

「長官、あの偽り者がまだ生きていたとき、『三日の後に自分はよみがえる』と言ったのを、思い出しました。

 

27:64  Ich will nach dreien Tagen wieder auferstehen. Darum befiehl, daß man das Grab verwahre bis an den dritten Tag, auf daß nicht seine Jünger kommen, und stehlen ihn, und sagen zu dem Volk: Er ist auferstanden von den Toten, und werde der letzte Betrug ärger, is der erste!

ですから、三日目まで墓の番をするように、さしずをして下さい。そうしないと、弟子たちがきて彼を盗み出し、『イエスは死人の中から、よみがえった』と、民衆に言いふらすかも知れません。そうなると、みんなが前よりも、もっとひどくだまされることになりましょう」。

 

66c  27:65  EvangelistPilatus sprach zu ihnen:  PilatusDa habt ihr die Hüter; gehet hin, und verwahrets, wie ihrs isest!

ピラトは彼らに言った、「番人がいるから、行ってできる限り、番をさせるがよい」。

 

27:66  EvangelistSie gingen hin, und verwahreten das Grab mit Hütern, und versiegelten den Stein.

そこで、彼らは行って石に封印をし、番人を置いて墓の番をさせた。

 

これでマタイ伝福音書からの引用は終わり。「復活(auferstehen)」は上昇音型、「死(Toten)」は突然の長い音符であらわすなど、音楽的な修辞が豊かに用いられている。

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6777Recitativo, Bass, Tenor, Alto, Soprano, Coral (Vl, Vla, Cont, Org), ConclusionIntroduction (2:30

 

Solo B.: Nun ist der Herr zur Ruh gebracht.  Chor Mein Jesu, gute Nacht!

独唱バス:今、主は安息におつきになりました。  合唱:わたしのイエスよ、やすらかにおやすみください!

 

Solo T. Die Müh ist aus, die unsre Sünden ihm gemacht.  Chor Mein Jesu, gute Nacht!  独唱テノール:わたしたちの罪が負わせた苦難は、もう終わりました。  合唱:わたしのイエスよ、やすらかにおやすみください!

 

Solo A. O selige Gebeine, Seht, wie ich euch mit Buß und Reu beweine, Daß euch mein Fall in solche not gebracht!  Chor: Mein Jesu, gute Nacht!

独唱アルト:おお、至福のお体よ、痛悔と回心で嘆き悲しむわたしをご覧下さい。 わたしの堕落が、こんなにも苦しみを与えしてしまいました。  合唱:わたしのイエスよ、やすらかにおやすみください!

 

Solo S. Habt lebenslang Vor euer leiden tausend Dank, Daß ihr mein Seelenheil so wert geacht.  Chor: Mein Jesu, gute Nacht!

独唱ソプラノ:生きている限りご受難に深い感謝を捧げます。 わたしの魂の救いをこんなにも大切に思われたからです。  合唱:わたしのイエスよ、やすらかにおやすみください!

 

ソプラノ、アルト、テノール、バスの独唱がそれぞれの役割に則って、受難の意義を説き、合唱が「私のイエスょ、おやすみなさい」とルフランのように主に心からの別れを告げる。楽曲には子守歌を思わせる安らかさが立ち込めた所で、終曲へと入ってゆく。ここで、4人の具体的な役柄は指定されていないが、中世からの宗教画の伝統にしたがうと、それぞれ、アリマアタのヨセフ、ヨハネ、マグダラのマリア、マリアと解釈することが出来よう。

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6878ChoralI+II8声部)(冒頭2行はI+II群4声部)(Fl, Ob, Vl, Vla, Cont, Org) ハ短調3/8自由なダ・カーポ  終曲Conclusion (6:24

CoroT+U: Wir setzen uns mit Tränen nieder Und rufen dir im Grabe zu:  Ruhe sanfte, sanfte ruh!

合唱T+U: 涙を流しひざまつき、 お墓の中のあなたに祈りを捧げます。 やすらかに安息におつきください。どうかやすらかな安息を!

 

CoroT: Ruht, ihr ausgesongnen Glieder! 

合唱T: やすらいでください、苦しみ抜かれたお体よ!

 

CoroU: Ruhet sanfte, ruhet wohl!

合唱U: やすらかに安息におつきください。どうかやすらかな安息を! 


Coro
T: Euer Grab und Leichenstein Soll dem ängstlichen Gewissen Ein bequemes Ruhekissen Und der Seelen Ruhstatt sein. 

合唱T: あなたのお墓と墓石は 悩む良心がくつろぎ、 やすらぐ枕、 そして魂の安息の場です。 

 

CoroU: Ruhe sanfte, sanfte ruh! 

合唱U: やすらかに安息におつきください。どうかやすらかな安息を!

 

CoroT: Höchst vergnügt schlummern da die Augen ein.

合唱T: そうすればこの目は慰められ、まどろむことができます。

 

CoroT+U: Wir setzen uns mit Tränen nieder Und rufen dir im Grabe zu: Ruhe sanfte, sanfte ruh!

合唱T+U: 涙を流しひざまつき、 お墓の中のあなたに祈りを捧げます。 やすらかに安息におつきください。どうかやすらかな安息を!

 

通例は、受難曲の終曲にはコラールが置かれるが、マタイ受難曲でバッハは壮大な二重合唱による葬送の音楽を置いた。これは第1曲の導入音楽との対比を意識したものと思われる。4分の3拍子の主要主題はサラバンダ・フネーブレ(葬送サラバンド)の特徴を持つ。全体としてはダ・カーポ形式(自由な三部形式)をとる。主要部においては「憩え安らかに」の応答を覗いては、第1合唱と、第2合唱が一緒に歌うが、中間部では、第1合唱は、「憩いたまえ、使い果たした御身体よ」以下を歌うのに対して、第2合唱は「憩え安らかに、安らかに憩いたまえ」をルフランのように応唱してゆく。

中間部の終わりにバッハが自身で、「ピアノ」「ピウ・ピアノ」「ピアニシモ」と表記し、当時としては異例なデイミヌエンドの効果を要求しているのは興味深い。最終小節においては、フルートに長い導音を吹かせることにより予想外の不協和音を響かせる。それが主音に解決することによって、初めて主和音を実現させている。「受難から安らぎへ」というこの作品の目的はここに凝縮されている。

曲のイメージとしては、信徒たちが墓前にひざまずく姿を示すかのような音型を、低音に繰りかえす。音楽は大河の様に滔々として流れ、筆舌に尽くせぬ霊的な力を放射して、聴くものをあたたかな感動へともえたたせてくれる。

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