詩集「季節を駆ける詩人の冒険」の紹介(2017年1月発行)
著者あとがきより
ぼくらは冬の贈りもの。上へ左へ、右へ下へ。ふわふわと浮かんでいる。僕らは好奇心たっぷり。開いている窓からこんにちは。疲れたら布団でおやすみ。探さないで、起こさないで、触れないで。ぼくらはいたずらっ子。あちらこちらを飛んでいる、冬のこども。 早い春にぼくは走る。跳ねるきみを捕まえたい。大声で笑うきみをくすぐりたい。大人の顔を見せるきみを唄いたい。丘の上のきみは、子鹿のよう。ドジョウも鮒も、辛夷もミソサザイも、みんなびっくり。きみの曲を空の譜面に書いて、早い春にぼくは走る。 菜の花に浮かれていると、ついうとうと居眠り。夢を見るのは、とおい国とおい村。いつか聞いた悲しい歌に、思いっきり泣いたよ。目覚めると、いつもの街。日差しを浴びて、うーんと背伸びをして、歩き出す。あれれ、足が空回り。なーんだ、宙に浮いている。 去年の手紙に挟まった花びら。それを風に乗せて、蝶になって後を追う。マリア像も洗濯物も信号も通りこして。工事中の道路を横切ると、花びらが降りかかる。ほら、闇から問いかける人が待っている。さあ、そこかしこに漂う春の謎を、一緒に覗いてみよう。 始まったばかりの世界は、とても不思議。くすぐったくて、うきうきして、とろける匂いでいっぱい。たっぷり若葉をつけた欅の下、二人がぼくらを呼んでいる。テーブルには、ライ麦パンと白ワイン。聞こえる初音と緑の風に誘われて、いっぱい冒険してみるね。 透明な時間が戻ってくる。息を止めて聞く、雨の音。カーテンを開けて見る、雲の隙間。歩きながら嗅いでみる、土の匂い。木漏れ日に光る、葉の上の雨つぶ。掌に転がしてジャケットで拭く。その横で、水たまりを飛び越す人。ささやく言葉が二人を残す。 夏の正午に、薔薇が焼けた。その一瞬を、本にはさんだのは誰?背中を流れる冷たい汗が、庭の隅で結晶化する。あぶない!急いで走れ!落とした時間が、停車場にある。失踪した詩人は何を見つけた?美しき狩人よ、彼の人を捕らえ、忘却の海へと連れて行け。 夜中に、海で靴をなくした。流れ星のかけらを集めながら、沖に向かう。銀色の魚を数えていると、崩れていく砂。長く伸びる影と、背中越しの光。裸足で家に戻り、微熱で寝込む。次の朝早く、台風情報で目が覚める。玄関に、なくした靴が並べられている。 風が語った、遙かな国の話。田舎の駅を降りて、夜を歩いていく幼い人。後をついてくる、黒い山と白い月。恋人たちが出会った街角。見守るアオバズクと金木犀。定めを受け入れながら、湖でひざまずく人。祈りを捧げる、遠い先祖。風は、遙かな未来を語った。 ぼくらは静かな秋にいる。山を駆けて、竹藪をすり抜けて、祠の後に隠れている。見つけないで、写さないで、喋らないで。今日はぼくらの収穫祭。詩人の曲を青空に見つけたら、その続きを書いてあげる。ささやかな贈り物で、大好きな気持ちを知らせてあげる。 喧噪のうちに、ドラマが終わる。夜にしまい忘れたテーブルと、置かれた写真。そこにあるのは空と風。開いている裏木戸から畑に出る。乾いた土を踏み、荒れ地を抜けて林の中に立ち止まる。そこで出会うのは懐かしい人。傷あとと希望を唄う、つつましい人。 きみは、あのとき流れる星を見ていたね。ぼくは、子供のときのきみの顔をしている。きみはいつも優しかったよ、微笑んでいたよ。きみは何も言わない。ぼくも何も言わない。足跡はひとり分。ぼくはきみと歩いていく。ああ、命よふたたび。そうだ、命はふたたび。 季節を駆け巡るのは詩人。これは、その冒険を書きとめた手帳です。 大好きなあなたに贈ります。 |
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帯の内容 「季節が詩人の横を駆けぬける。世界は不思議の中にいる。知らない謎で満ちている。 遠い青空と聞こえる歌声。舞う花びらと薫る風。雨の午後と静かな夜。希望と出会いの懐かしい物語。 詩人は今ここにいる。言葉でつづる詩人の冒険。季節を書きとめた浪漫あふれる36編。」 「遠い山は何も言わない。ぼくも何も言わない。流れるのは雲、見ているのはぼく。 花びらが降りかかる。花びらが絡みつく。ああ、桜が世界を覆う。桜が世界を酔わせる。 そのとき、海に何かが落ちた。なあんだ、流れ星。海に浮かんだ光のかけら。 私はポケットから、懐かしい写真を取り出す。今はすっかり秋だった。私は思い出すままに唄を作った。」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ |
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本について
ISBN 978-4-86265-510-3(定価1800円) |
詩集「詩人はここにいる」の紹介(2015年6月発行)
著者あとがきより
冬の朝、街を歩く。大通りのすぐ脇の小さな通り。神社、公園、漬物屋、学校、風呂屋、診療所、駄菓子屋。時々立ち止まり、気配をうかがう。息を整えて、また歩き出す。見ているのじゃない、楽しんでいるのでもない。こんなとき、街そのものになっている。 雪の音に気づいて、夜中にふと目をさます。窓を開けるとやってくる、雪の子供たち。つかの間手のひらに乗せてから、そっと空へ返す。窓を閉めて、布団に横たわる。冷えた身体が、ゆっくりと温まってくる。昔見たなつかしい夢が、よみがえってくる。 渚にやってきた。見慣れた向こうの島。遠くに架かる橋。靴を脱いで、砂に足をうずめる。水が遠慮がちに足をくすぐる。誰もいない。自分だけの体温。でも、こうして生きている。まだ冷たい風が頬をなでる。どこからか、蝋梅がかおってくる。 春は別れと出会い。桜が咲くころ、ときめきはやって来る。満開の中、心は乱れる。やがて散る風に、思い出を知る。桜は人をもてあそぶ、豊満な女神。酔ったふりをして人を惑わせる。北も南も、空も地も、世界中が花びら。桜に酔って、人は人に再び出会う。 七月の明け方、星が落ちた湖に行ってみた。西に沈んだ月の光が、澄んだ水に残っている。昨日の夜、らせんを描きながら何かが底に沈んだ。それは星のかけらのような、聖人が書き残した言葉。それをすくいあげて、ポケットにしまう。向こうの森はまだ眠っていた。 夏の一日。失くした薔薇を探す冒険。開け放したドアをすり抜けて、廊下を横切る影。秒と秒の間に、まっすぐに落ちる銀貨。机の手紙に書かれた宛名。洗面台の水に、沈められた剃刀。動かずに止まったままの風鈴。知らない間に、手にとげが刺さっていた。 晴れた秋の午後、ピアノを弾く。とぎれとぎれの四分音符が、窓から外に流れていく。それを誰かが拾って届けてくれる。玄関先に置かれた、椎の実、しめじ、山ぶどう。その横の小さな楽譜。ヤマゴボウのインクで、曲の続きが書かれている。 夕方に雲を見ていた。川沿いの土手に、止めた自転車。収穫の後の田畑と、実を少し残した木々。うつむき加減の背中に夕日があたる。雲は次々と形を変える。生まれたときの淡い時間。覚えているはずのない懐かしい人たち。東の空に、月が浮かんでいた。 これは詩人の日記です。一年を一瞬に書きとめて。詩人は今ここにいます。 |
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帯の内容 「時はすぎる。季節はうつる。人はかわっても思いはかわらない。 顔を上げて歩こう。日の光をあびて笑おう。お月さまと出会ってしゃべってみよう。 そこにあるなにげない喜び。ささやかな命。 そんな1年をつづった詩集。詩人は今ここにいる。」 「雪の音に気づいて、夜中にふと目をさます。窓を開けるとやってくる、雪の子供たち。 渚にやってきた。見慣れた向こうの島。遠くに架かる橋。靴を脱いで、砂に足をうずめる。 夏の一日。失くした薔薇を探す冒険。開け放したドアをすり抜けて、廊下を横切る影。 晴れた秋の午後、ピアノを弾く。とぎれとぎれの四分音符が、窓から外に流れていく。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ これは詩人の日記です。一年を一瞬に書きとめて。詩人は今ここにいます。」 |
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本について
ISBN 978-4-86265-510-3(定価1800円) |
詩集「命 ふたたび」の紹介(2011年9月発行)
著者あとがきより
いつもの明け方です。夜と朝のわずかな透き間に、深く沈んでいるのです。私は語りかけます。窓の外、公園の楡の梢、あるいは神社の遙か向こう。そこで聞いているのは誰? ああ、すっかり忘れていた、あの時の私。おまえもよく知っている、ただの私。 十一時前の橋の上。街灯に留まった鳶を見ていたら、やってきた小さな叫び。耳にふわっと入って、そっと出て行く、かすかな揺らぎ。風がながした? 空がかざった? ううん、わからない。どこかの星からこぼれ落ちた、ささやきの結晶。それともそれは、悲哀。 うで時計をなくした三時頃、群衆の中を歩いています。うつむいて、考え込んで。あるいは拳をかためて、からいばりで胸をはって。したり顔、まるで英雄。これじゃ近寄れないです。大胆なのに臆病。おしゃべりなのにむっつり。ほら、誰も知らない。 ぼんやり、ふわふわした夕方。お月さまがでてきました。こんばんは、こんばんは。少しにじんでいます、揺れています。なあんだ、私がそちらに映っていたのか。あはは、一人じゃないですよね。強がりでも、何もできなくても、私はしっかり生きています。 夜。私は河に足をつけています。昨日の雨はやみました。頭をやすめて、心をひらく、ささやかな喜び。あれあれ、魂がでていきそう。待っていましたか? 呼びましたか? それはあの時のおまえ、記憶から消えそうだったおまえ。いいのです、いいのです。救いは私の中にいます。 命はふたたび。 これは鎮魂の40編です。 すべての人たちに。遠い過去に、近い未来に、生きている今に、捧げます。 |
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帯の内容 「絶望の対極から呼びかける、裸の声をあなたは聞いたか? ああ、泣きたいほどのカタルシス、震えるほどのリリシズム。 言葉の嵐が過ぎ去ったあと、よみがえる希望と愛。 孤高の詩人があなたに問う、鎮魂の40編。」 「いつもの明け方です。夜と朝のわずかな透き間に、深く沈んでいるのです。私は語りかけます。窓の外、公園の楡の梢、あるいは神社の遙か向こう。そこで聞いているのは誰? 夜。私は河に足をつけています。昨日の雨はやみました。頭をやすめて、心をひらく、ささやかな喜び。いいのです、いいのです。救いは私の中にいます。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ これは鎮魂の40編です。すべての人たちに。遠い過去に、近い未来に、生きている今に、捧げます。」 |
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本について
ISBN 978-4-86265-312-3(定価1800円) |
詩集「早春記」の紹介(2000年7月発行)
著者あとがきより
さまざまな言葉が、わたしの回りを駆けめぐってゆく。 |
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帯の内容 |
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本について ISBN 4-88629-505-3(定価1500円) カバーには、小林清親先生の「写生帳」から、「北アルプス風景」を引用しています。 |
詩集「大好きなあなたのために」の紹介(1999年11月発行)