制作の工程


制作ポイント


木の塊からの堀起し、(粗取り、粗彫り、小作り、裏彫り、仕上げ彫り)胡粉ぬり、彩色、毛書、古び付け、仕上げとなります。すべて重要でありますが中心は木彫りの工程であります。しかもその表情はコンマ何ミリの違い、例えば目尻の終わりに1ミリの何分の一かの長短、頬の紙一枚の高さにより表情は一変してしまいます。

打ち終わった時、「これでよし」と思っても時間がたつにつれ欠点が目につきます。時間をかけ納得のゆくまで何度も打ち直すことが良い面を創るポイントであると思います。

もちろん、微妙な作業のため、刀の研ぎ方「切れ味」が一番のポイントになります。
道具


・鋸・鉈・木槌・金槌 等(写真参照)
左から
・丸のみ24mm
・丸のみ18mm
・丸のみ12mm
・追い入れのみ30mm
・彫刻刀浅丸24mm
・彫刻刀丸18mm
・彫刻刀極浅丸18mm
・彫刻刀等際刃三角15mm
・彫刻刀丸曲がり12mm
・彫刻刀丸12mm
・彫刻刀浅丸8mm
・彫刻刀丸8mm
・彫刻刀丸6mm
・彫刻刀三角8mm6mm
・彫刻刀丸3mm

※刀は写真程度あれば十分です。必要であれば経験を積んでから必要と思うものを補充すれば良いでしょう。道具の中心は刀ですが、経験の無い方は 研ぎに相当の苦労がいります。面打ち経験を積み重ねるほどに技量も向上します。
・胡粉 ・膠 ・青墨 ・朱
・水干絵の具 ・乳鉢 ・網
・筆(刷毛、平筆、面相筆)等(写真参照)
材料と面型
(孫次郎)

材料は尾州桧(木曾桧)を使用します。柾目と板目がありますが、能面には板目が最も適していると思います。

能面は木裏を表にして作り、面の左右の年輪が同じになるように木取りをします。それは長年にわたり能面の変形を防ぐためです。 仮に木が変形しても左右同じに現れます。(柾目は左右が木表と木裏となり、又は木表と木裏が明確ではありません。)

以前は直径60cmもある丸太の輪切りから木取りをしておりましたが、現在は製材されたものを使用しています。

◆「孫次郎」の材料寸法
・縦21.7cm ・幅14.0cm ・厚さ6.8cm 材料寸法は少し余裕のあるものを用意します。(縦22.0cm~24.0cm×横15.0cm×厚さ7.5cm) 特に厚みに余裕があると失敗した場合、余裕分まで下げて修復することができます。

◆型紙は重要な道具であります。型紙のパーツは8~10ピース十分です。型紙を多く使われる能面師、能面集等多くの型紙がに掲載されていることがありますが、 縦型があれば作ることが可能です。(縦型と写真による作り方)
製作の工程
(孫次郎)

(1)木取り

まず面型を用い木表にあて、縁取りします。これが面裏となります。

ふちどりには必ず鉛筆を用いる。このとき、鉛筆を垂直に立てずに、後で修正できるように少しゆとりをとつて輪郭を描きます。木裏側にも木表と対照になるよう同じように 面型を描いておきます。

また、木の側面にも縦型を用い面の側面を描いておくと素人の場合鋸目の入れる目安になります。






ふちどりができたら、この線に沿って余分なところを鋸切リで順次切り落とします。それでも残った部分はノミで輪郭を整えます。

ノミを使うときは、木の面に刃おもてをあてて徐々に削り整えます。次に側面に描いた縦型に基づき鼻の上、鼻の下に鋸を入れます。縦型に基づいて余分なところを削り、 面の側面となる分部を作ります。 縦のラインは面の良し悪しを決定してしまうほど最も重要な作業となります。

なお、面の中心線は正確に描いておきます。中央線が不正確ですと顔が歪み最後まで苦労することになります。 この中心線は面の彫りの仕上がるまで残します。並行し面裏も浅く彫っておきます。これは軽くし作業性を良くするだけでなく木の割れや、ひびを防ぐことになります。

(2)粗彫り

縦型の次は額、鼻、上口、下口、の順に型紙に合わせ彫り出します。 額、鼻、口の輪郭ができれば、次に眼の位置を決めます。

孫次郎の場合は鼻の下中心線から4.5cm(一寸五分)の位置、目元の間隔3.3cm(一寸一分)の位置が交差したところが目元となります。 眼は目元から目尻までは4.cm(一寸3分)として鉛筆でマークします。次に左右の目元の位置に鼻上の型紙を合わせ鼻元を彫り出します。 口の上下幅は1.9cm (六分五厘)で上唇、0.45cm(一分五厘)歯、0.45cm(一分五厘)歯と下唇の隙、0.3cm(一分)残り下唇画、0.75cm(二分五厘)となっております。

口も眼と同様鉛筆で位置をマークします。以上により粗彫りの面に額、眼、鼻、口のイメージを鉛筆(墨等)で描きいれます。 なお、本面の寸法は大方のものが曲尺の尺表示となっておりますので、メートルに変換しております。ものさしは曲尺を使用するのがベストと考えます。

(3)小作り

ここからは、手本となる面をよく観察し目元から鼻下、左右の目の間隔等寸法も再度確認します。

目、鼻、口、の各部分を整えます。次に上唇、歯、下唇を成形してゆきます。 この段階で、目、鼻、口、などの形と位置が決まって、能面らしいアウトラインが表れます。

次は目下線の型紙を用い頬から口にかけての微妙なラインと、顎、額、を整えて行きます。全体が整えば、目、鼻穴、口をあけ面相を整えます。

◆目は三角刀で(大小の使い分け)目の輪郭に沿って1mmの深さに彫り、眼球はわずかに球面とします。
◆鼻はきりで穴を開けておきます。能面の鼻穴は面をつけた演者が足元を鼻穴から確認できるよう少し左右よりに開けます。

◆口は口角(口の両端)にきりで穴を開け、下唇と歯の間に(0.3cm)鋸を入れ、上唇、歯、下唇を作ります。 同時に裏面からも彫り進め目、鼻、口を整えます。
紐穴もこの段階で開けます。(切穴大から焼き火箸で開けます)

ここで、面裏の全体を整え仕上げます。この作業が出来上がる面の良し悪しを決定するくらい重要な工程となります。 裏面も彫りを見れば作者の技量がわかると言われるほど重要な作業です。


(4)面裏の処理

前項の面の形が完成すれば、面裏の処理をします。 面裏は漆などで処理するのが一般的ですが、(現在ではカシュウ塗料で代用する場合が多い。)

私は「過マンガン酸カリウム」溶液を塗ることにより、科学的な焼きを入れ耐久性を持たし、その上にカシュウ塗料又は木蝋で処理をしていましたが、箕輪漆行(福井県越前市)さんより良質の漆を入手することができ、現在は本来の漆塗りに回帰しています。 面裏処理の目的は演者の汗などで面が痛むのを防ぐためと、いく分装飾的な意味があります。

いずれにせよ、面裏は演者が演能前に鏡の間で掛けるため、その面裏は演者に与える影響は大きく、表とともに面裏の彫りは、 面の両輪いわれるほど重要な作業です。

(5)胡粉塗り

前項の面の形と面裏が完成すれば、胡粉塗りとなります。この作業は彫りの修正をする最後の工程となります。修正箇所を見つけた場合は再度刀をいれ修正します。

胡粉の塗りは三回塗り(木の地肌が隠れる程度) ペーハー掛けます。この作業を数回(3回~5回)ほど繰り返し地肌等を整えます。

注意点はペーハーがけはポイント部分(目と口の周辺、頬の膨らみ等大事な部分崩すことの無いよう十分注意すること)に注意し丁寧にすること。 眼や歯、口元は時折は刀で修正しながらすすめる。次の彩色作業は、とりわけこの胡粉の塗り(下地色)で面の出来が左右されるほど重要となります。

出来上がりの面の彩色を予測し胡粉にわずかながら水干絵の具等で着色しておきます。 仕上げ塗りは平筆で横刷毛目を残しながら丁寧に塗る。また、必要に応じ薄墨に古色を混ぜ整えます。

(6)毛書きと彩色

ここでいう彩色とは、彩色は古色をつけること、墨や朱なので面に色彩を与える作業となります。墨や朱を用いて、能面の各部分の仕上げをし、能面に血を通わせる作業です。

毛書きは鉛筆または薄墨を筆で輪郭を書きます。その後、面相筆で薄墨、古びを塗り重ねて毛書きを仕上げます。

目は瞳を中心として目頭、目尻に向かって薄墨と古びを使い書き重ね徐々に濃くしていきます。

歯も同様に塗り重ね濃くしていきます。

次に髪の毛書ですが決して初めから濃い墨は書かないこと、薄墨と古びを使い徐々に濃くしていきます。筆を持つ手は面の一部に固定し、指先の動く範囲で繰り返し書き重ねることが必要です。

眉も髪の毛書き同様に面相筆を用い極薄の墨で塗り重ね眉の輪郭を整え中心ほど濃く塗り重ねる。または薄墨と古び液で叩きの手法で整えます。

唇は朱墨と古び、場合により少しの薄墨を加え塗り重ねます。これにより鮮やかな朱が落ち着きのある朱色となります。

毛書きは、髪と眉毛の部分に筆を入れることですが、面の種類によってその髪の毛描きは様々ですが、女面は小面をはじめ、小姫、若女、万媚、孫次郎、増女等、その面によって毛書きは決まっております。 中でも「小面」に限り毛書は削りだしによって表現されています。




(7)仕上げの作業

古色づけと彩色、古色づけは、能面独特のテクニックで単に古く見せるだけでなく、 伝統の美しさを付加するために必要な彩色の一部で、古色のない能面は舞台では照りがひどく、 落ち着がないものになってしまい、壁に掲げたとしても、見る人の心の安らぎを与えてくれません。 古色は能面になくてはならない味わいで、面の制作で大変苦労します。 何をもって古色をつけるかは、昔から面打ち師の秘法の一つとされてきました。




完成面 (孫次郎)









製作の工程【小面】