在日外国人(主として韓国・朝鮮人)幼児・児童・生徒に関する指導指針
天理市
天理市教育委員会
平成 3年 8月 7日

◎基本的認識
 日本国憲法は民主主義の尊重をその理念としてうたい、すべての国民に侵すことのできない永久の権利としての基本的人権を保障している。これに則り、教育基本法は教育の機会均等について、人種・信条・性別・社会的身分・経済的地位又は門地によって教育上差別されないことを規定している。また今日、基本的人権の尊重は世界的な潮流ともなり、国際人権規約においても、人間の尊厳と平等のもとに、教育についてすべての者の権利を認め、教育が諸民族の相互理解と友好の促進に果たすべき役割が強調されている。
 本市においても、かねてより同和教育を民主教育の中核にすえ、人権尊重の精神に徹し、あらゆる差別をなくす実践力を身につけた民主的な人間の育成をめざしてきたところである。しかるに、今日なお在日外国人の幼児・児童・生徒においては、進路保障等教育を受ける権利が十分に保障されているとはいい難い事実が存在する。特に本市の各校・園・所に在籍する韓国・朝鮮人幼児・児童・生徒が、日常生活においても種々の厳しい民族蔑視・偏見により、本名を名乗れない等、差別意識のなかで自己の国籍や朝鮮民族としての自覚や誇りをもち難いまま在籍している現状がある。このことは、あらゆる差別をなくす教育の推進に努めてきた本市教育推進の不十分性が真に問われているのである。
 本市に在住する韓国・朝鮮人のほとんどは、戦前・戦中の我が国の国家政策による歴史的・社会的経緯の中で在日を余儀なくされてきたのである。とりわけ、柳本飛行場建設にかかわって多数の朝鮮人が強制連行により労働と多大の犠牲を強いられた経緯をもっている。遺憾ながら今日なお、在日韓国・朝鮮人に対する民族的偏見や差別意識は根深く存在し、そのため、民族的自覚や誇りを基盤とする主体性をもち得ないまま、国籍を隠し、日本社全への同化的な生き方を強いられるという、被抑圧的なもとに生活する状況をもたらしている。
 こうした在日の歴史的・社会的事実を見据えるとき、本市の教育は人権尊重の精神に徹し、民族差別の根絶をめざす教育課題を有しているといえる。そのため、民族差別の実態から学び、すべての幼児・児童・生徒が互いに民族のもつ文化や伝統を尊重し合って生きるとともに、在日外国人幼児・児童・生徒が自らの民族の誇りや自覚をもって主体的に生きようとする教育の徹底を期するものである。

◎基本的課題
 本市の各校・園・所においては、在日外国人のおかれている実態を、在日の歴史的・社会的背景や生活の現実をとおして科学的に認識し、下記事項に留意して在日外国人教育の推進を図る。
1.在日外国人の幼児・児童・生徒が、我が国の校・園・所に在学している歴史的経緯を正しく認識させるとともに、在日外国人の保護者や子どもの願いを正しく受けとめさせ、在日外国人に対する偏見や差別をなくす実践力の育成に努める。
2.在日外国人の幼児・児童・生徒が、日本社会における差別と偏見にうちかち、将来に対して希望をもって強く生きぬく力を養う教育の具体化に努める。
3.すべての幼児・児童・生徒に、それぞれの国や民族とその背景にある文化・歴史・生活について正しく認識させ、民族への自覚と誇りをもとに、互いに尊厳を高める指導に努める。
4.在日外国人の幼児・児童・生徒の学力の向上と進路保障に努める。
5.教職員の共通認識をもとに、具体的な教育計画を立て、実践と研修をとおして指導の充実を図る。
6.市民ひとりひとりが民族問題を正しく認識し、人権意識の高揚を図るべく社会啓発に努める。


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