輝 く 標

My Dream to the Stars










夜の色が見える
暗い花畑のすみっこで
冷えた指をかじっている

止まないのは果て
とおく とおく 遠ざかりながら
だけど旅人を待ちつづける僕らが
また出会うなら

蠢きつづけるこの宇宙のなかで
融けたひかりを飲み込んで
銀河がひらくよ

泣きながら
この世界にころがり落ちた
僕らのそれに似た産声で
もういちど
声をあげて


(ミルキーウェイの産声/061122)










ピアノの弾き方をもう忘れてしまって
きみの指がきれいだったことだけ覚えてる
ぼくは楽譜を庭の真ん中で燃やし
漁火のように誰かを呼んでいる
夜に解けてく煙は妙に白くて
妄信したふたりの行方に似ていた


(ピアノの余韻に闇が震える/061122)










北向きの窓から
降り積もる流星群が
誰でも良いから、って
人を殺したがって
僕の首を撫ぜるよ
やさしく
おぼつかない手つきで

目が覚めたら
すぐに忘れるくらいの夢でよかったんだ

他の誰に罵られても
君にはやさしくされたかっただけ


(襟巻に付いた流星群/061127)










君が首を吊って
あっさり僕を見捨てた瞬間から
もうどこへも行く場所がなくって
帰る場所がなくって
ひとりよがりで
とわずがたりな
そんな遊びは
ことり、と音をたてて
死体の中に吸い込まれていった

宇宙を知るとき
僕らは神さまを思わなかった
急き上がる気持ちばかりがあふれた
それは忘却に似ていた
光さえ留める天体のなか
息継ぎもせず
挿図を破くように
僕はものがたりだけを放つ

離れて行くんだね
連れて行ってはくれないんだね
両手を合わせてみても
何も見ることはないね

淋しいことを知らず、けれど僕らは淋しかった
ふたり同じ空を、花を、光を、見ても
拡がり止まない宇宙の端っこで
とっくに世界は止んでしまっていただろう


(ブラックホールを泳ぐ/061127)










目のまえは真っ暗闇のまま
僕はとうとう七日目を迎えた
溺れたままの星座たち
僕の肉になり
あの人に光を知らせてよ
深海で待っているから


(海に溺れた星座/061208)










あいしてた
あいしてた
嘘にしか聞こえない声だけ届く春の夜に
いつかは死んでゆく真珠色の星に
なぞらえた孤独の夢路を見る


(まばゆい愛のスピカ/061208)










銀灰色の宝石が
君のなかにあって
ぼくはそれを知っていた
だけど、いつのまにか忘れてた
ぼくのなかから消えたみたいに

たったひとつ失って
そうしたらもう何も見えない

怖ろしいほど
果てないような
いいえ、ほんの少しの瞬きのあと、
夜は明けて
拡散して消えてくばかりの宇宙の狭間
あやまちが何なのか
気付けないまま終わりが来るよ

過食症の世界が吐き出す汚泥のそばで
不治の病みたいに
気が狂れたみたいに
ぼくは隕石ばかりを喰って
日々待ちつづけている

やさしいひとになんて会えない
ぼくがほしかった銀河から
あふれる星くずのひとつを掴んでも
それは火を放つだけの死骸だろう


(ぼくがほしかった銀河/061210)










輝く星のような曹達水を飲み込んで
僕はひとつの海になる
ひとつの陸になる

深い色をした天体の
君が行く道のはずれで俯きながら
ときどき泣いたりしても
ずっと、ずっと、恍惚の目でみつめてくるこの狂った日々に
確かに触れているよ

君がとてもやさしい
そういう記憶を持ったまま
今日もひとつの星のひとつの身に委ねている


(輝く星のような曹達水/061211)










夜更かしした日の夢は真白くて
僕はときどき場所を見失う
この空は星があんまり見えなくて
僕はどこへ行きたいのか分からなくなる

掌の中身は
がらくたばかりだったけど
それにだって誰かの陰がかさなるよ
あのとき君がこぼしたことばを
僕はようやっと拾うことができた

裏切りなんて
絶望なんて
かんたんにはできなくて
何を願いながら
これまで生きてきたか思い出せもできず
夜がこのまま明けないまま
僕らがこのまま出逢わないまま
もしも永遠がはじまりをむかえたとして
それでも思うね
それでも止めることはできないね

僕の掌のなかには
君のことばがある
君の掌のなかのがらくたに
僕だけが陰をおとすなら
そのむこうのひかりを君はみて

そうしたら笑えるだろう
宇宙の最果てで僕らは眠る
変わらず繰り返される今日の目覚めだ


(永遠の宇宙に夢をみた/061211)










もう一度行きたいのだと指さした先に
ほんとうは何もなかった

まだだよ
凍えるからだが欲しいんだよ
痛いくらいがちょうどよくて
僕はずっと安心できる場所がほしかった
血みどろのからだを言い訳にして
きみの傷がみたかった
(それが正しいこと、のように、)

投映されたあの日の標が
僕を許さないけど言うよ
信じてくれなくてもいい

終演間近の夜だ
虚ろな骨音だけが響く夜だ
僕はすこし泣きそうになりながら祈る
きみのいない終わりが早く見たい
僕を照らすものが
にせものでももう構わない

精密につくられた空から
いつになっても星は落ちず
静かに暗闇が足許をあたためるだけ
僕らが解いた両の手に
ときどき不実がころがる世界を閉じるより早く

僕を行かせて
どうか
どうか、


(愛された天象儀/061215)










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