「修身教授録」小史

1931(昭和6年)4月

 森信三先生は天王寺師範において、始めて本科生(年限4年)の三年生(17才)に対して講義を持つことになった。それまで専攻科生(18才〜以上)である生徒のみであった。専攻科は男子は19才以上、女子師範は(18才以上)であって、一度現場に出て再び学びの場である師範学校に戻る生徒もいた。そこでは恩師の西田幾多郎著「善の研究」と西晋一郎著「倫理哲学講話」を交互に二時間づつ平等にテキストとして使用した。4年目からは「倫理哲学講話」を主本とされた。

 ところが生徒がさらに若くなるに及んで先生は、人生の生き方に対して多少とも真摯に考えだされた時期に際会しておられたので、眼前に居並ぶ若い人たちに対して人生の生き方の種蒔きをするつもりで、生徒の筆記のスピードにあわせて筆録させはじめられた。

 生徒はめいめい筆録しそれを浄書して提出した。したがって一つの講義に対して生徒数分(約40名)の筆録ができた。先生はいちいち朱筆を入れられて返却。そのうちの比較的良くできていた生徒の筆録を選び、更に数度の浄書を命じて一枚の授業記録講義記録が出来た。それをガリバン印刷して校長はじめ斯道会の面々等にお配りになったのである。

 

1938(昭和13年) 

  このプリントを製本して自費出版をされた。小生の手元には1冊しかないが、目次に三学期……という記述があるので毎年の記録を三部作で製本されたに違いない。 この最初の頃のプリントが当時の国語教育の泰斗芦田恵之助先生の目に留まり、出版のお話がとんとん拍子に進んだ。

 

1939(昭和14年)12月

  「修身教授録」全5巻の第1巻が発行された。この年の4月には森信三先生は建国大学に赴かれた後であって、それまでに再度全編に渡り補訂を試みられたが、更に満州の地から補訂は郵送されたのであった。全五巻は昭和17年10月に終了。

 

1989(平成元年)3月 

 旧「修身教授録」全5巻のうち、主に第1巻と2巻を中心に纏められ1刷に集約された形で竹井出版より復刊された。現在致知出版社がそれを引き継いで再版を重ねている。 

【補注】

 現在の「修身教授録」は森信三先生が天王寺師範における講義記録であるが、建国大学での講義の筆録も存在した、雑誌「渾沌」誌にそのうちの1部が残っているが、その大部分は先の東京大空襲によって灰燼に帰した。 (臂 繁二)