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田村隆一詩集『緑の思想』
空中を飛ぶ英子
英子はどこにいる?
わたしたちの英子はどこにいる?
英子には禿鷹の羽がある
つめたい空気とわれわれの恐怖があるところが
英子の国だ
英子は飛ぶ
朝から晩までわれわれの空を飛ぶ
ふるえる麦わらを口にくわえて
英子には禿鷹の眼がある
あたらしい飢えとわれわれの屍体のあるところが
英子の国だ
英子は飛ぶ
夜中から明方までわれわれの悲しい夢のなかを飛ぶ
われわれの心をくわえて
赤毛の英子はどこにいる?
いまどこにいる?
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