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田村隆一詩集・補遺

生きものに関する幻想

それは噴水
周囲から風は落ちて 水の音だけひびいてくる……
それは夜のひととき
誰もゐない……
わたしと星との対話
わたしと星とのあひだには それでも生きものがゐて わたしを別のわたしにしたり 星を遠い時間に置きかへたりする生きものがゐて……
それは噴水 生きものは孤独
生きものは わたしと星とのあひだにゐて やっばり孤独

それは音楽
地階の部屋から扉をひらいて 誰かによりそってのぼってくる……
それは睡りのひととき
わたしだけしかゐない……
わたしと指との会話
わたしと指とのあひだには それでも生きものがゐて わたしをわたしに還したり 指を雪のふる世界に誘ったりする生きものがゐて……
それは音楽 生きものは孤独
生きものは わたしと指とのあひだにゐてやっぱり孤独

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