2011年 山城メモ蝶


この冬も分布調査のチャンス

久し振りに山城の蝶が活気づいた今年に感謝しつつ・・・

飽きもせずオオムラサキの探索です。
簡単に見つかりそうで意外に手強い宇治田原町に挑戦してみました。今年なら「あの木」で見つかるかも。
・・・ところが緊急事態発生。付近の藪が綺麗に刈られていて、エノキの周囲はスカスカ状態、エノキの枝も一部切られています。
もともとポジション的に良くないエノキなのですが、やはりダメでした。
しかも拙いことにイボタもほぼ刈り払われてしまったので、ウラゴマダラシジミへのダメージも大きそうです。

気を落としつつ井手町へ移動。例年少ないながら安定して幼虫が見つかる御神木ともいうべきエノキを見に行きました。


像の脚のように太いエノキ。(井手町)

根元には緑色のまま枯れて落ちた葉が溜まっていて妙な感じです。
しかし幼虫は多く、この木としては過去最高の個体数でした。


1枚の葉に4頭の幼虫がついていたりして密度が高い。(井手町)

次に木津川市山城町にある「気になるエノキ」に挑戦。
何年も探し続けているのに幼虫が見つかったことのない不思議な木なのです。
幼虫の多かった昨シーズンもダメだったのですが、今回はいるよう予感がしました。


石の上にも三年・・・どころではない我慢の末。(木津川市山城町)

やはりいました。個体数は多くはなかったですが、これで長年の胸のつっかえが取れました。
何回ダメでも信じて続けることの大切さを蝶の探索は教えてくれます。


素晴らしい蝶の本が出た!

京大蝶研の標本箱


「京大蝶研の標本箱」京都大学蝶類研究会(2011年12月1日発行)
定価8000円

大学サークル「京都大学蝶類研究会」が
標本写真を中心とした本を作っているという話を夏ごろから聞いていました。
秋になって撮影現場に同席する機会があり、作業の様子を見せていただきました。
実によく工夫された撮影機材、システム化された撮影手順、
さらに現役メンバーたちのチームワークの良さなどに大いなる感銘を受けました。
そして最近では「絶滅状態」が危惧されている若き蝶屋のたちの
活気溢れる姿に接することができたことが何より嬉しく、大変頼もしく感じられました。

話を聞いていると、今までに例のないような本を目指しているようでした。
正直なところ高価であることも含めて内容的に大丈夫なのだろうかという心配がありました。

ところが・・・届いた現物を目にして、そのような心配は吹き飛んでしまいました。
いろいろな意味で熱く素晴らしい本です。
好きな蝶の本といえども、なかなかこれほどの感動を覚える本はありません。
もちろん身内贔屓な面が大いにあろうかと思いますが、以下に気付いた点を記して
ささやかながらの宣伝の一助とさせていただくことにします。

1 素晴らしい画像

多くの標本の画像が掲載されています。色の美しさ、シャープさについては文句なしです。
この本ではそれらの基本的な技術は見事なレベルにあると思います。巷の図鑑以上と言ってよいです。
加えて実物の標本に新たな魅力を付加しようとする「愛情」「手間」といったものが感じられることが素晴らしいです。
図鑑などの写真の場合、実物をリアルに描写していればそれで良いというものでもないと思っています。
ある意味で実物以上に美しく見せようとする熱意が大切だと思っています。
この本では、撮影、加工、編集などの各段階で各担当者によって注がれた努力によって、
標本たちに新たな生命が吹き込まれています。古い標本までもが生き生きと輝いています。
この本の標本画像を見ていると、蝶の趣味ってやっぱりいいな、探索に行きたいな、と思わされてしまうのです。

2 若々しい息吹きに満ちている

大学生が中心となって作った本なので若々しいのは当然なのかもしれません。
しかし、最近はそんな若々しい感覚に溢れた蝶の本に出合うことがなくなってきています。
高齢化が進んでしまっている今の蝶の趣味の世界は、愛好家たちの知識や経験が蓄積され
まさに円熟の極みにあります。良く言えばそうなりますが、悪く言えば「ジジ臭い」のです。
そんな中で忘れかけていた若々しい感性をこの本は呼び覚ましてくれます。

3 資料としての価値が高い

標本のデータがしっかりしており、付録としてついているCDには過去に蝶研の会誌で発表された京都の蝶のデータが収録されています。
京都の蝶に関してはもちろんですが、その他にも異常型や生態面の情報も豊富に掲載されており、
将来的に利用価値の高い文献です。

4 本としての出来が良い

この本はサービス精神に溢れています。読者に楽しんでもらおうという学生たちの気持ちが伝わってきます。
見るだけでなく、読み応えもあり、細部にまで行き届いた編集がなされています。
これは蝶研出版を設立し素晴らしい出版物を多数生み出された故小路嘉明氏の影響を感じる部分です。
最近の「SPINDA」にも同様のことを感じるわけですが、まさに良き伝統が引き継がれています。

以上が一般的な感想になります。以下は個人的な感慨です。

5 懐かしい地名が多すぎて・・・

例えば、京都市左京区瓜生山にまつわる標本や文章が随所に出てきます。
瓜生山に通った日々のことは私にとって昨日のことのように感じる思い出です。
当時は今よりもよほど金回りがよかったのか、大学の授業の合間にタクシーで狸谷山不動尊まで行き、
そこから息を切らしながら山頂まで駆け上がったこともありました。
そして、似たような行動をウン十年にも渡って後輩たちが続けていることが衝撃でもあり、嬉しいことでもあります。
近年ギフチョウの姿はないようですが、蝶たちもやはりウン十年の間変わらず世代を重ねていることが驚きです。
瓜生山はほんの一例に過ぎません。年月が移ろっても繰り返されている歴史に感慨もひとしおです。

なお、蛇足ながらこの本は「水に弱い」ようです。
紙質は無用に厚くなく、光沢感も良好なのですが、濡らしてしまうとページがくっついてしまい面倒なことになります。
十分に注意してお読みください。

当記事で少しでも興味をもたれた方、蝶の趣味に刺激を受けたい方、
特に関西で蝶に取り組んでおられる方に是非購読をお勧めしたい本です。


落葉が遅れた秋、12月中旬でもエノキの葉は黄色

オオムラサキはちゃんと木を降りています・・・

今年の紅葉の見ごろは平地では12月にずれこんでいる感じでした。
色が悪いまま落葉して終わってしまうのではないかと思えましたが、
12月に入って街のイチョウや低地の雑木林はようやく黄金色に輝き始めました。
12月中旬の今日でもクヌギ林はまだこんな↓感じです。


雑木林はいまだに黄色に染まっている。(城陽市)

城陽市にオオムラサキの様子を見に行きました。
エノキにも黄色い葉が沢山残っている状態ですが、オオムラサキの幼虫はさすがに根元に降りていました。
今年の2月に今までになく多くの幼虫が見つかったエノキでは少数しか見つかりませんでした。


今シーズンは少ない?(城陽市)

ところが・・・別の場所で大当たり。面白いように見つかりました。いる時にはいるものです。
昨冬の幼虫→今夏の成虫→今冬の幼虫、と連続して豊産が続いたことになります。
こんな状況がいつまでも続くわけがないので、やがてくる反動が怖いです。


数がわからなくなるくらいの幼虫が・・・。(城陽市)

一箇所での個体数としては山城地域では過去最高です。しかも個体数が少なかった城陽市で。
このエノキは目の高さくらいのところで幹が二股になっていてそこにも落葉が溜まっていたので、
念のため探してみると幼虫が数頭いました。


幹の分岐に溜まった落葉にも幼虫がいた。(城陽市)

幹の分岐部は地面に比べて明らかに乾燥しやすいと思われ、ここで春まで越冬できるのか疑問ですが、
幼虫たちは落ち着いてしまっているように見え、最終的に地上まで降りつもりはないように思えました。
この木は画像からもわかるように幹にコケなどが生えていることから、湿潤な状態に保たれているようです。
そう考えるとここで越冬態勢に入った幼虫たちの行動も納得できることではあります。

それにしても城陽市でこの好状況なら、他の産地では一体・・・?と期待が膨らみます。


秋のブナ林を泳ぐ

白くて大きい卵は見えやすい・・・

11月に入ってから気持ちの良い爽やかな日が続いています。
前回のオオミドリの採卵では卵が見えにくくてストレスを感じたので、
ゼフで一番見えやすいと思われるフジミドリシジミを探しに行くことに。
今年になって山城地域以外での探蝶は飛騨に続いて2回目。といっても今回は所詮京都府内です。
昼過ぎにブナ林に到着し、早速急斜面に入って探し始めました。


まだあまり美しくないが一足早く紅葉の森を楽しむ。(京都府のブナ林)

斜面が急なので笹や枝につかまりながらも何回も滑りながら林床を泳ぐように移動してブナの幼木をチェック。
・・・あるある。やっぱりフジミドリの卵は大きくて真っ白でよく目立つので最高!
白く輝く卵が見つかるたびに心に溜まった煤が取れていくようです。


雪見大福のようなフジミドリの卵。(京都府のブナ林)

卵はそこそこ退屈しない程度にいい感じでついており、フジミドリとしては豊作と言っていい状況でしょう。
ブナの森は美しいし、暑くもなく寒くもなく快適で、フジミドリも沢山見つけたし・・・、
久し振りに採卵を堪能した休日でした。


久し振りの採卵

卵が見えにくい・・・

10月も終わりに近づき、天気が良くて暖かいのにほとんど蝶は飛びません。
成虫は諦めて、自宅の近くでオオミドリシジミの卵を探すことに。
下の画像のような場所に行ってみました。


どこにでもあるような農道沿いの林縁部。(精華町)

この農道付近は竹林が優占しており、あまり良い環境ではありません。
オオミドリシジミは成虫も越冬卵もこのあたりではかなりの珍品?です。
道沿いにコナラの幼木や「ヒコバエ」はポツポツとありますが多くはありません。
アラカシは沢山あるのですが、アラカシで探すのはちょっとね・・・。


左のコナラに卵がついていた。しゃがんで探すようなポジションが最適。(精華町)

探し始めて気付いたのが、卵があっても視力の低下で以前のようにくっきりと卵が見えそうにないということ。
それでも何とか卵らしきものを見つけましたが、以前に比べて妙に小さく感じて本当にゼフの卵なのかと不安になる始末。
コンデジで撮影しようとしても我が目と同じく合焦の性能が悪くてピントが合わず四苦八苦。
背景が深いと小さなものに全然ピントが合わないので、後ろに葉っぱを置いたりしてみました。


間違いなくオオミドリでした。(精華町)

アラカシにもついていました。
卵は短時間で見つかったので、今シーズンはオオミドリシジミの探索のチャンスかもしれません。
それにしても大きくはっきり見えたはずのオオミドリの卵をこんなに小さく感じるとは、本当に困ったものです。
次から採卵はルーペ持参かな。

成虫を見かけたのはキチョウとクロコノマチョウくらいでした。


クロコノマチョウの雌。(精華町)


秋のヒョウモンもいいね

次代に託して・・・

10月も中旬、成虫シーズンもそろそろ終わりが近づいてきました。
相変わらずウスイロコノマとツマグロキチョウに注意していますが成果はありません。
カワラケツメイの多かった場所にはメドハギ?が繁茂して、カワラケツメイは駆逐されていました。

天気が良いとヒョウモン類が元気に活動していますが、羽に初夏の瑞々しさはなく痛みが激しいです。
6月に羽化して4ヶ月以上も生き延びてきたのだから当然ですが・・・。
ボロボロの羽になって次代を残していくヒョウモン類を見ながら秋ならではの感傷に浸るのもいいものです。


6月にはあまり見かけないのに秋になると特に多いのがミドリヒョウモンの雌。(木津川市)


ボロボロでもメスグロヒョウモンの雌は魅力的。(木津川市)


秋晴れに秋の蝶

ウスイロコノマは来ていないのかな・・・

10月に入って素晴らしい秋晴れの日が多く気持ちがいいです。
里山ではウスイロコノマとツマグロキチョウの2種に注力。
クロコノマに混じってウスイロコノマが飛び出す・・・というシチュエーションを狙ってヒカゲ類の多い場所へ。
いるのはウスイロコノマより小さいクロヒカゲと異次元の大きさのクロコノマばかり。


いつもは機敏なクロヒカゲものんびり日向ぼっこ。ほとんど雌だった。(和束町)


クロコノマを飛び立つ前に先手を打って見つけるのはほぼ不可能。(和束町)

南山城村方面の高標高地は・・・。
標高が上がるにつれアサギマダラが道沿いに見られるようになりましたが、花がないので撮影は困難でした。


アサギマダラの大きな雌が地面で吸水していた。(笠置町)

吸水していた雌だけは新鮮な個体でしたが、飛んでいる雄は羽の痛んでいるものが多かったようです。
それでも秋晴れの青空をバックに滑空するアサギマダラは美しくていいものです。


アサギマダラと秋晴れの青空。(南山城村)

多くのアサギマダラが見られたこの日、ヒョウモン類も目に付きました。ミドリヒョウモン雌、オオウラギンスジヒョウモン雌が目立つ中、
妙に黄色っぽいものがいたので採ってみるとクモガタヒョウモンの雄でした。
南山城村でも生き残っていることが確認できたことは嬉しい成果でした。

秋の蝶をもう一つ・・・


どうしても砂利の上にしか止まってくれなかったムラサキツバメ。(木津川市)


秋の蝶はどうかな

暑いけれど夏ではなかった・・・

野山に出るとウスイロコノマチョウ、ムラサキツバメ、そしてまだ少し早い気もしますがツマグロキチョウが気になる季節です。
クヌギの樹液には、ボロボロのサトキマダラヒカゲ、多数のスズメバチ、周辺には夥しい数のヒメジャノメが飛んでいました。
クヌギの根元にはカブトムシの羽が落ちていたりして、嫌でも夏の終わりを思い知らされます。
蒸し暑さとあたりに充満する樹液の甘酸っぱい匂いは夏そのものなのですが。
・・・この秋に大物に出会えますように。


やたらと多いのがヒメジャノメ。スズメバチのいない隙に樹液にやってきます。(木津川市)


夢のような夏は過ぎゆく

もう秋型の季節とは・・・

ウラナミジャノメは既知の産地には行かないようにして、一発狙いで探索しています。
そう簡単に見つかるものではなく不発続き。おっ、と思って確認してみるとヒメウラナミジャノメに化けてしまいます。
両種については時期的な棲み分け云々ということも言われますが、山城の第2化は完全に混っているので紛らわしいです。
とにかくダメもとでもう少し頑張ってみます。


秋型のクロコノマチョウ雄。この暑さにはミスマッチ。(精華町)


ウラナミジャノメ第2化はまだ?

猛暑の昼間は蝶にも過酷・・・

そろそろウラナミジャノメの第2化が出ているのではないかと見に行ってみました。
しかし昼間に外を歩くのは無謀すぎました。暑すぎます。蝶も元気なのはキチョウとウラギンシジミくらい。
ウラナミジャノメは未発生ですね。今年は遅いようです。(8月中旬現在)
日陰の道に逃げ込むと、ちょうどサトキマダラヒカゲの羽化期に当たったようで、新鮮な個体が高密度にいました。
サトキマは外見的にはオオヒカゲ並に大きいし斑紋も複雑で個体変異もあるし、なかなかのヒカゲチョウだと思うのですが、
あまりにもありふれ過ぎているためかカメラやネットを向ける気になりにくい蝶です。


樹液に来たサトキマダラヒカゲ。この樹液にはスミナガシも訪れた。(木津川市)

今日は珍しく少し採集してみました。思っていたより裏面が白い個体が多いです。
飛び古した雌などは随分白っぽく見えることがあるので、色褪せやすい蝶なのかと思っていましたが、
白い個体は新鮮な時から白いということがわかりました。雄にも白いものがいます。
一方で妙に黄色いのもいるし、サトキマを眺めるのも意外に面白いものです。
大きく分けて白色系と黄色系があり、さらにそれぞれいくつかのバリエーションがあります。
画像の個体は白色系ですが黒斑が発達して暗い感じです。
キマダラモドキやオオヒカゲにも白色系と黄色系があるのは興味深いです。
なお、以上のことは後翅裏面の眼状紋周辺の色彩のことです。
サトキマとヤマキマの区別にも自信がないような状態なので、ちょっとこのグループに注目してみようかと思い始めています。
山城地域にはヤマキマダラヒカゲがいないのかということも大きな関心事の一つです。


今年はオオムラサキの当たり年!

あそこにも、ここにも・・・

今年の1〜2月にかけて、例年城陽市では少ないオオムラサキの越冬幼虫がかなり多く見つかりました。
その他の場所でも越冬幼虫の数が多かったので、成虫も多いかもしれないという期待感はありました。
そして、期待にたがわずこの夏は成虫の姿をよく目にすることができました。
普通の年ならオオムラサキの姿を見ること自体簡単なことではありませんが、今年はオオムラサキのいそうな場所に出かければ、
かなりの確率で雄大な姿を確認することができました。こういうことは今までにはないことでした。
例えば、木津川市山城町などはウラナミジャノメの採集や撮影に比較的多くの人が入っているはずですが、
オオムラサキの記録は少なく、頻繁に通っていても何年かに一度出会うかどうかという程度です。
ところが今年はやはりいました。


樹液に来た雄。裏面が白っぽいタイプ。(木津川市)

最盛期は過ぎており羽が痛んでいますが、酷暑の中、元気に活動していました。
オオムラサキのいる7月、オオムラサキのいる里山はいいものだなあと改めて思わせてくれる今年の夏です。


山城地域のムラサキツバメ

山城らしい歴史に包まれて・・・

ムラサキツバメといえば昔は京都では珍種の一つでしたが、今や東日本にまで分布地を拡大しているとのこと。
関西ではマテバシイがあればどこにいてもおかしくないというイメージの蝶に成り下がっています。
あまり話題にもならず、もはや採集のターゲットにもされなくなってしまいました。

そんなムラサキツバメは勿論山城地域にも生息しており、マテバシイがあれば見つかる可能性があります。
しかしどこにでもいるものでもなく、木津川市や精華町などでは街路樹になっているマテバシイを探しても滅多に見つかりません。
そもそもそのような場所は開けすぎていて直射日光が当たるような場所が多く、ムラサキツバメには似つかわしくありません。
例え生息しているにしても、情緒がまったく感じられないので探そうという気力も起こりにくいものです。

大阪のSさんから聞いていた木津川市の生息地に行ってみました。
冬と晩春にも行ってみたのですが、越冬集団や越冬世代の子を確認することはできませんでした。
ここは興味深い生息地で、ムラサキツバメはマテバシイではなくシリブカガシを食べています。
そこらへんの俗っぽい俄仕立てのような生息地ではないのです。
京都では右京区保津峡周辺にも山のシリブカガシを食べているムラサキツバメがいます。
調べてみると、シリブカガシの自然分布は保津峡が北限になっていて、京都ではまともにシリブカがあるのは保津峡だけらしいのですが本当でしょうか?
府立植物園にはさすがに両方の樹が植えてあって、幼虫はどちらの樹も食べているようです。
要するにムラサキツバメにしてみればどちらかの樹があればよいわけで、シリブカガシに価値があるわけではありません。
しかし愛蝶家から見ると、基本的に自生や自生に近い樹であるシリブカガシを食べているムラサキツバメというのは、
植栽されているマテバシイ食いの安っぽさがなくていいものだということが言いたいのです。
この木津川市の生息地はおそらく京都では数少ない「純正シリブカガシ食いのムラサキツバメ」なので、
もしかすると本種が京都でまだ珍種であった頃から人知れずひっそりと生息し続けていたのかもしれないと想像するとロマンを感じます。


ここではシリブカガシとアラカシが混在している。マテバシイはない。(木津川市)

7月下旬の状況は、シリブカガシには少ないながら若葉がついており、幼虫の成育は可能だと思えました。
幼虫自体はなぜか少なく、見つかったのは終齢と中齢でした。おそらく第1化の子ということになります。
5月に越冬世代の子を見つけられなかったのが残念ですが、この地に定着している可能性はありそうです。


お約束のようにアリにたかられているムラサキツバメの終齢幼虫。(木津川市)

シリブカガシを調べている時、ルリタテハのような蝶が道路上を盛んに行ったり来たりしていました。
この蝶、ふと見るとスミナガシだったので驚きました。まさかここで出会えるとは思いませんでした。


赤い口吻を伸ばして地面で吸水するスミナガシ。(木津川市)

他にはオオムラサキの雌が豪快に飛ぶ姿も見られ、短時間ながら良い時間を過ごすことができました。


真夏の飼育は苦手だ

暑さのためか幼虫が・・・

今年の山城地域はタテハチョウ科を中心に蝶の発生が久し振りに好調で、
近年少なくなっていたスミナガシとアオバセセリの幼虫もよく見かけます。
いくつかを持ち帰って飼育していたのですが、終齢で死んでしまうことが多くて悲しい思いをしました。
餌の鮮度の問題もありそうですが、やはりこの暑さが幼虫には大敵のようです。
そんな状況ですが、先日宇治田原町で見つけた終齢幼虫は無事蛹化して雌が羽化しました。
野外にいた終齢幼虫なので間違いなく寄生されていると思っていたのですが、こういうこともあるのですね。


無事蛹化したスミナガシ。寄生から逃れて羽化に至った。(宇治田原町産)


真夏の飛騨にオオイチモンジを追う

女神の降臨

今回は滅多に出ない京都府外での話です。

7月半ば、数年ぶりに飛騨を訪れました。
オオイチモンジに会いに何回も来ている場所ですが、
天候に恵まれなかったり、時期が合わなかったりで、何となく不完全燃焼気味のまま今日に至っていました。

ある年の7月中旬、その日は朝から天気が悪く、探索途中から土砂降り状態になりました。
ずぶ濡れになりながら林道をさまよった後、とある場所で雨宿りをしていました。
雨が上がり、空が明るくなってくると、どこからともなくオオイチモンジの雄が現れました。
しばらくするともう1頭、そしてまた1頭・・・時間を置いて次々と。
その日はそこに座っているだけで約10頭の雄に会うことができました。
これに味を占めて後日雌を目的に再び同地を訪れましたが、雌どころか1頭の雄さえ姿を見せてはくれませんでした。
次の年にも雌の時期と思われる頃に行ってみましたが、やはりダメでした。
このように、この地のオオイチモンジは気難しくてなかなか微笑んではくれないのです。
時期を合わすのも難しく、安全策をとってどうしても遅めに訪れてしまうのも良くないようです。
尤も時期が合っても上高地(長野県)のような個体数や安定感を望むことができないのが厳しいところです。

そして今年も懲りずに。
各種の情報を総合すると7月10日前後が雄の適期だったようです。今回は雌にさえ会えればよいということで、慎重に日を選びました。
この地では周辺一帯のどこででもオオイチモンジと出会える可能性があります。車を降りたとたんに雄がやってきたこともあるくらいです。
勿論よく出現する場所というのがあり、そのような場所には大抵ネットを持った愛好者(ほとんど中高年)が目の色を変えて佇んでいます。
この日は10組以上の採集者(撮影者)が来ていました。
今時多くの愛好者を一箇所に集めてしまうような蝶は少なく、オオイチモンジの人気の高さがわかります。
採集が禁止されている上高地や白骨では警察がらみのトラブルも起きていると聞きます。
上高地や白骨は好きな場所で、以前何度も足を運びました。
上高地は直接車で行けなくなったことと、観光客の多さが嫌で足が遠のいています。
白骨周辺は好きな場所ですが、密猟者が多く、「いわゆるポイント」に採集者が居座っている光景が好きでないので敬遠しています。
そもそも上高地では捕虫網を持っている人はいませんが、白骨では堂々と持っている人が多いのに呆れてしまいました。
(現在はどういう状況なのかは知りません。)

今年の話に戻ります。
早朝に、林道を一通り歩いて、全体的な雰囲気やドロノキのある場所、採集者の動きなどをチェックしました。


朝日を浴びる焼岳。好天に恵まれた。(高山市)


あちこちでジョウザンミドリシジミなどが縄張り飛翔をしていた。(高山市)


ヤマキマダラヒカゲは極めて多く見られた。(高山市)

予想通り雄の良い時期はすでに過ぎているようで、少数のスレた個体を確認しただけでした。
この様子では雄に関しては新鮮な個体が路上に吸水しにやってくることは期待できません。
あの年のように新鮮な雄が次々にということはありえないでしょう。

・・・かと言って雌の姿もなく、少々焦ってきた頃、林道対岸のドロノキの大木の高所を雌が飛んでいるのが見えました。
あまりにも距離があり、まさに指を咥えて・・・状態ですが雌がいることがわかっただけで元気が出てきました。
このような状況は雌の場合特によくあることですが、やはり目の前に現れて欲しいものです。
尤も目の前と言っても、林道を歩いている時に目の前を颯爽と飛んでいくという状況も困ります。
焦ってしまってじっくり見る余裕もなくなってしまうし、静止してくれない限り撮影も不可能です。
近くに登山者などがいると人目も気になってしまいます。蝶ごときに舞い上がっている姿は見られたくないものです。

オオイチモンジの雌に出会う状況として描いている理想は次のようなものです。

【オオイチモンジ雌との理想の遭遇4条件】
・抜けるような好天の青空の下、残雪の高山を背景に
・登山者や採集者のいない林道から外れたひっそりした場所
・ドロノキの小木の地上2m以下の葉に雌が訪れる
・雌は極めて新鮮で黒々とした目の覚めるような個体

これだけの条件を満たすためには、個体数の多い上高地でさえ幸運に恵まれる必要があるのに、
それ以外の場所でこのようなイメージが現実のものとなる可能性はあるのか。
現実を考えると気が遠くなってしまう条件ですが、どうしてもこのような情景を夢見てしまいます。

朝の下見の段階で、オオイチモンジの雌が現れることを何とかイメージできる場所が数箇所見つかりました。
あとはそれらの場所を何回か見に行くしかありません。無駄足を覚悟で。

・・・・・・そんな候補の一つのドロノキの小木が視界に入ったとき、全身を電撃が襲いました。
低い枝先に大きな雌がぶら下がるようにして静止しようとしていたのです。

女神降臨の瞬間でした。

あまりにも新鮮で美しく、この世のものとは信じられないほどの個体です。
しかも、出会いのシチュエーションも前出の4条件を完全に満たしており完璧です。


神々しい蝶と山。背景は真夏でも雪渓の残る北アルプス笠ヶ岳。(高山市)

これで終わるかと思っていた夏の日の夢にはまだ続きがありました。
驚いたことに何とこの後も女神の降臨が続いたのです。
・・・・・・(後略)・・・・・・


今年はクロシジミが少ないかも

暑すぎて探索の根気が続かない・・・

7月10日現在、精華町でクロシジミを見かけません。
未発生ということは考えにくいので、今年は個体数が少ないのでしょう。
(その後の情報では7月15日前後には見られたようです。)
新しい生息地を求めて里山をうろうろしていると、赤い溜池がありました。
何事かと近づいてよく見ると、ヒシの新芽がびっしり水面を覆っているのです。
まさに血の池です。


ヒシの新芽で覆われた赤い溜池。(精華町)

クロシジミの時期はクロヒカゲモドキの時期でもあります。
宇治田原町に様子を見に行ってみると1頭だけいました。
オオヒカゲはすでに姿を消していました。


スミナガシの終齢幼虫。野外で終齢を見たのは初めて。(宇治田原町)


夏空のオオムラサキを追う

6月はあっという間に・・・

6月の蝶は4、5日で次々と主役が交代していきます・・・初旬クモガタヒョウモン、ミスジチョウ、
数日後ウラギンヒョウモン、次いでメスグロヒョウモン、ウラナミジャノメ、オオヒカゲと進んでいき、
ミドリヒョウモンが目立ってくると一番いい季節はそろそろ終わりです。
オオムラサキが飛び始め、オオウラギンスジヒョウモンの天下になってくるともう夏真っ盛り。

今シーズンはオオムラサキをいつになくよく目にします。
信州や甲州などではあまり有り難味のない蝶ですが、
山城でオオムラサキの豪快な飛翔を見ると、日常の雑事を忘れてとても幸せな気分になります。

オオムラサキだけでなく、今シーズンは山城地域の蝶は概ね好調で、
10年位前の状態が戻ってきた感じがします。


スミナガシの幼虫。今年は久し振りに多いようだ。(宇治田原町)


アオバセセリの幼虫の巣。本種も久し振りによく見つかる。(宇治田原町)


車に轢かれて間もないオオムラサキ。獣糞に来ていたようで、まだ動いていた。この付近で本種を見るのは初めて。(宇治田原町)


樹液に集まるジャノメチョウ。真夏を告げる蝶。(京田辺市)


樹液に来たオオムラサキ。足場が悪く遠くからしか撮れなかった。(京田辺市)


吸蜜するキマダラセセリ。非常に個体数が多い場所があった。(京田辺市)


2011年は梅雨シーズンの蝶が好調!?

しかし・・・梅雨空を見上げながら日が過ぎていく・・・

すでに掲載したミスジチョウの好調を手始めに、この数年あまりの数の少なさを心配していた
クモガタヒョウモンなどのヒョウモン類も久し振りによく見られるようです。
さらに、ゼフも多いようで、何だか以前の山城の賑わいが少し戻っているようなのです。
しかし、残念ながら休日と梅雨の晴れ間が合わず、その現場に居合わせることができません。
これはかなり辛いことです。
ウラナミジャノメの羽化は例年より遅れているようで、最盛期はこれからだと思われるので
6月後半はヒカゲ類を含めて期待したいところです。


和束町でミスジチョウを追う

ようやく、やっと・・・!

ミスジチョウと出会うことは、京都市まで視野を広げるとそれほど難しいことではありません。
しかし、山城地域限定となると話は別です。各地に生息しているであろうことは推測でき、
大阪のSさんは和束町で生態写真を撮影されています。
それでも実際に目にすることはかなり困難な蝶です。
何より、私自身山城地域で結局過去に1頭もミスジチョウを採集していないという現実があります。
Sさんも最近10年余りは撮影されていないようですし、そろそろ何とかしないと、いなくなってしまいかねません。

今年は5月らしい日もほとんどないままに5月27日に梅雨入りしてしまい、5月28・29日の土日は台風2号の影響で荒天。
ようやく晴れた6月4日は貴重な探索日です。
クモガタヒョウモン、ミスジチョウ、ミヤマチャバネセセリに期待して、和束町を訪れました。
今年は季節の進行が10日ほど遅れているようでしたが、まだ遅れを引きずっています。
ウツギの白い花は和束の中心部では咲いていますが、谷間ではまだ蕾です。テングチョウもまだ出始めです。
ヒョウモン類の飛んでいる様子はなく、ウツギも咲いていないのでクモガタヒョウモンはあきらめ、
谷でミスジチョウかミヤマチャバネセセリを探すことにしました。

今年は5月からコミスジが大変多く、過去にこれほどコミスジが多いと感じたことはないくらいでした。
まだコミスジは飛んでいますが、それに代わってイチモンジチョウの個体数が増えています。
イチモンジチョウも普段ほとんど気に留めないような蝶ですが、今年は多いように感じます。


捕虫網に止まったイチモンジチョウ。個体数が多い時の蝶は人懐っこい。(和束町)

林道のとある場所にさしかかると、そこは日当たりが良く、山側から水が流れて道を横切っており、
谷側はほどよく開けていて、いい感じの空間になっています。


この場所だけに蝶が多かった。(和束町)

近づくと地面で吸水していた5、6頭の蝶が飛び立ちました。
イチモンジチョウとコミスジのようでしたが、何か尋常でない気配を感じてよく見ると
ミスジチョウが1頭混じっていました。まず写真を撮るべきか、確実に採集すべきか、
大いに迷った挙句、この地のミスジチョウの標本はこの世に存在しないはずであることを重視し、
緊張しながら慎重に採集しました。ミスジチョウは明らかにコミスジなどより敏感で油断できません。
間もなくもう1頭が吸水に訪れましたが、これもなかなか落ち着いて静止してくれず、
写真は撮影できないままに採集してしまいました。

その後林道を行き来して観察したところでは、ミスジチョウは林道の対岸の木々の高所を
活発に飛んでいるようです。遠いので確実ではなく、イチモンジチョウも混じっているかもしれませんが、
飛び方などから少なからずミスジチョウがいるようなのです。
なかなか低い位置まで降りて来てくれないために出会えないだけ、というのが本当のところかもしれません。
今年はコミスジの余勢をかって個体数が多いのか、たまたま今日は条件が良かったということなのでしょう。
さらに帰り際に人工物の上に舞い降りたミスジチョウも発見し、遠い位置からながら撮影することもできました。


湿り気のないマンホールに口吻を伸ばしているミスジチョウ♂。(和束町)


2011年1〜2月のオオムラサキ越冬幼虫の状況

今シーズンはかなりの豊産です!

頻繁な調査は行いませんでしたが、山城地域各地で多くの越冬幼虫を確認することができました。

●井手町・・・・・・調査を始めてから最高の個体数を確認しました。
●京田辺市・・・・・・こちらも各地で確認できました。特に見つからない年が多い低標高地でも確認できました。
●木津川市・・・・・・例年並という感じでした。
●城陽市・・・・・・個体数の少ない地域であり、見つからない年のほうが多いのですが、今年は多数確認できました。