山城各地のクロヒカゲモドキ 左上:宇治市産雄、右上:笠置町産雌、
左下:宇治田原町産雄、右下:南山城村産雌(表示倍率は異なります)
クロヒカゲモドキとは学生時代に山梨県で初めて出会った。
8月初旬という、蝶には中途半端な時期、その日は新鮮なミヤマシジミが少し見られたくらいで蝶は少なかった。
車道脇の藪に何気なく入ってみると茶色い蝶がいくつか飛び出し、これがクロヒカゲモドキだった。
時期が遅いためすでに飛び古しており、初めてとは言え特に感慨もなかった。
名前の通りクロヒカゲに似た蝶だなあ、と実感したのを覚えている。
その数年後に宇治市の雑木林でクロヒカゲモドキと出会った。
ギフチョウやウラジロミドリシジミを求めて何回も来ていた場所であった。
信州や甲州の蝶というイメージが強かったので、こんなに身近なところにもいたのか!
と驚かされた。
しかも7月上旬の羽化期のクロヒカゲモドキは山梨の時とは別物の重厚さを備え魅力的だった。
さらに特有の芳香がその魅力を一層引き立てていた。
当時、宇治市炭山最奥(北)の集落付近には茶畑や耕作地の間やその背後に
ナラガシワを交えた雰囲気の良い若い雑木林があり、春にはギフチョウが、初夏にはゼフィルスが見られた。
ゼフィルスは、ウラジロミドリ、ミドリ、ウラゴマ、ウラミスジ、ウラナミアカ・・・
と今から思えば夢のような顔ぶれが揃っていた。
クロヒカゲモドキもそんな雑木林にいた。
あちこちを探して回って何箇所かの生息地を見つけた。個体数はどこでも少なかった。
その中で一番確実に姿を見ることができたのは炭山の集落から供水峠を越えて
伏見区日野方面に抜ける小道の入り口付近の雑木林だった。
数分で一通り探せてしまうほど狭い林で
足を踏み入れるとすぐにこげ茶色の蝶が重々しく飛び立ったものだった。
宇治市は炭山だけでなく笠取などにも本種が生息しているが、
結局この場所が雰囲気、個体数、確実性などいろいろな意味で最良の生息地だった。
この林にはいつの間にか家が建ってしまい、本種との再会の望みは薄い。
車道に面した茶畑の周囲の雑木林にも生息していたがそこも現在は住宅地と化してしまった。
ただ住宅の背後は現在も林になっているので、林に潜り込めば今でも見つかるかもしれない。
その後、相楽郡にオオヒカゲを探しに行った時にもクロヒカゲモドキに出会えた。
これは狙って見つけたというよりも、たまたま出くわしたという感じだった。
オオヒカゲは現在でも見ることができるが、クロヒカゲモドキについては最近の記録があるのかないのか。
2012年現在、山城地域でクロヒカゲモドキを高確率に見られる場所は一箇所だけになってしまった。
そこは最初オオヒカゲの生息地として発見した場所だった。
「多分クロヒカゲモドキもいるな・・・」
と思った次の瞬間に足元から重々しく黒い蝶が飛び立ち、予感的中に感激したものだった。
2000年代初め頃まではその付近では比較的広範囲に姿が見られた。
国道すぐ横の空き地で夕刻激しく占有飛翔をする何頭もの雄が耳元をかすめていったこともあった。
現在はその広場もなくなってしまい、生息範囲は狭まっている。
しかし、幸いクロヒカゲモドキは何とか生き残ってくれている。
山城地域の蝶の重鎮としていつまでも燻し銀の輝きと匂いを放ち続けて欲しいものだ。