オランウータンは、東南アジアの熱帯林にだけ住む類人猿である。ふだんは樹上で生活しており、あまり地上を歩かない。森の住人と呼ばれるゆえんである。この写真は、数年前にシンガポール動物園で写した。人間はうれしそうにしているが、オランウータンはいかにもつまらないという顔をしている。シンガポール動物園は商売げがあって、オランウータンやチンパンジーといっしょに写真を撮らせてくれた。もちろん有料である。動物園の飼育係がカメラに入らないぎりぎりのところに待機していて、なにも起きないように気をつけている。最近は旭山動物園が評判で、わたくしも真冬に旭川まで出かけて、ペンギンの散歩に感動したが、旭山動物園はシンガポール動物園をお手本にしたのではないかと思える節がよくある。
この写真を撮ったときは、将来自分がヒトとチンパンジーの遺伝子がいかによく似ているかを勉強する羽目になるとは、想像もしなかった。バイオサイエンスというか、分子生物学の歴史は、コンピュータの歴史と大体同じで、約50年にすぎない。始まりは、1953年のDNA分子のらせん構造の発見である(ちなみに、現代のコンピュータは1945年ごろに発明されている)。それ以来、生物の秘密は、すべてゲノムと総称される高分子構造のなかに隠されているとみんなが信じて、謎の解明にやっきになってきた。らせん構造の発見から50年を経た2003年の4月に、ヒトゲノムの解読が終わったという国際共同宣言が行われた。解読には、コンピュータが大活躍したが、まだ文字列としては、ほとんど読み終わったという宣言にすぎない。これからは、内容を理解しなければならない。
ヒトとチンパンジーの遺伝子が全体として非常によく似ているという研究があ る。渡邉日出海先生を中心とする研究の成果である。「全体 として非常によく似ている」というのは、あいまいな表現であるが、DNA全体 として98.8%は同じであるともいう。違いはたったの1.23%だ。
そんなに似ているかなあ。たしかに下掲の写真で、手や指の形を比べてみると、どちらがチンパンジーでどちらがヒト(小生のことである)かがわからないくらい、よく似ている。顔や毛の生え具合を比べるのは、やぼである。きっとチンプもいやだろう。
オランウータンも似ているが、森の仲間についてはそんなにDNAの研究が進んでいないみたいだ。チンパンジーやゴリラは世界中広範囲に生息しているが、オランウータンは東南アジアの熱帯林にだけ住んでいるという事情があるらしい。近年その研究も進んでいるという。
(おまけの追加:ブッシュ大統領もわたしたちの仲間だとわかった.おひまな かたは,http://www.bushorchimp.com をどうぞ.このウェブサイトはもう5年くらいになるが、よく続いている。学問的な比較ではないので、ブッシュさんもチンプもかわいそうである。)