2.煙草の功名
1月19日(土)
故あって、タバコを吸いに外に出る。夕方6時過ぎ、まだこの季節だ、この時刻でもすでに夜の帳が下りていた。夜風が深々と冷たい。
だが、ヤギはカバの親父さんの形見でモコモコふかふかな赤いダウンジャケットを着ている。こんな冷たい風はかえって心地よく感じるものだ。
煙草に火を付けた
すると、突然、「ほっほ............ごろすけほっ」っと、聞こえてきたのである。ヤギは小躍りした。
梟は森に住む。その鳴き声は夜の森の奥深くから聞こえてくるから不思議で不気味なのだ。だから野生の響きがする。それがなんと我が家の前の道を北へ200メートルほど行った先にある住宅街のちっぽけな林から聞こえてきたのだ。
わたしは台所で夕飯の準備をしているカバをすぐに呼んだ。ビデオカメラも取ってきた。二人はしばし耳を澄ませた。また鳴いてくれるだろうか...
ほっほっほっ...............ごろすけ...ほっ
「ほんとやぁ!すげーーー」と、カバは大喜びである。しばらくすると、また、「ごろすけ、ほっ」
「田舎やねぇ」「こんな町中にも来るんだ、フクロウ」「あ、前、朝、窓から、ほっ、ほー、ほっ、ほーの、あの、アオバズク、聞いたことはある」「西大寺にはコノハズクが住み着いているらしい」と、耳を澄ませながらのカバとヤギとの間で、しばらくは梟仲間の話の花が咲く。冬の夜空は澄みきった臭いがした。
「おおおお、さぶっ、なか入ろ」
上着を着ずに飛び出したカバは、急に思い出したかのように身を縮めながら、暖かい家の中を目指した。一方、わたしは、梟に出会えた喜び幸せを噛み締めるため、もう一服煙草をふかそうと思った。
「煙草を吸いに外に出るのも悪くないもんだ」とカバに語りかけたい気持ちになった。すると、
「だからって、タバコ吸いに出るバカは許せんが。おおおお、さぶっ」
振り返ったわたしの目には、閉まるドア越しにそう呟きながら消えていくカバの背中が映った。
怪我の功名はあるのかもしれないが、煙草の功名は、あり得ない
おそまつ
後日談:その後、しばらく、時々ではあるが梟は我が林を訪れる。
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