槍ケ岳
〜強風と霧雨の中、西鎌尾根を行く〜
樅沢岳から見る西鎌尾根と槍ケ岳

所在地  岐阜県高山市 登山口  双六小屋 下山口  上高地BT

標 高    3,180.0b 三角点 不明 形 態 ピストン
交 通  直通バス 同伴者 天 候

 槍ケ岳は『日本アルプスを象徴する鋭峰』といわれ、登山を志した者が必ず憧れる山のひとつでもあるといえよう。また、わたしも過去に白馬岳からも、立山・剱岳からも、常念岳からも眺めたことがあるように、どこから見てもすぐに分かる山のひとつだ。今回の山旅の締めくくりにこの山を選んだ。

《 コース・タイム 》
日 付 出発時刻・地 到着時刻・地 歩行時間・距離 休憩他
2008/09/25 5:50 双六小屋 6:15 樅沢岳 25分 0.8km 5分
6:20 樅沢岳 8:15 千丈沢乗越 1時間55分 3.2km 5分
8:20 千丈沢乗越 9:05 槍岳山荘 45分 1.0km 20分
9:25 槍岳山荘 9:35 槍ケ岳山頂 10分 0.2km 5分
9:40 槍ケ岳山頂 9:50 槍岳山荘 10分 0.2km 10分
10:00 槍岳山荘 12:40 横尾山荘 2時間40分 9.0km 5分
12:45 横尾山荘 14:40 上高地BT 1時間55分 9.5km -
合 計 標高差:約1,830b 8時間00分 23.9km 50分


樅沢岳標識
 槍ケ岳に登ったあと新穂高温泉に下る青年が一足早く出発し、笠ケ岳方面に向かう3人をあとに、わたしは樅沢岳へ向かう急斜面にとりついた。

 谷から吹き上げる風になかなか前に進まない。空を見上げると、いつ降りだしてもおかしくない厚い雲が垂れこめている。

 やがて、勾配がややゆるやかになり、少し開けた場所に出た。『樅沢岳』と記された標識が立てられている。ここを過ぎると、もうひとつ『樅沢岳』の標識があり、ここから西鎌尾根と槍ケ岳がはっきり確認できる。

 槍ケ岳が姿を見せていたはもこのころまでで、ここから先はますます雲が低く垂れこめ、槍ケ岳を覆いはじめた。けっこう厳しい上りと下りをくり返しながら、また尾根の南側を歩いたり、北側を進んだりして少しずつ高度を上げつつ槍ケ岳に近づいていく。

 吹きさらしのヤセ尾根を歩くときが一番危険で、ときおり強く吹きつける風に身体が持って行かれそうになると、思わず岩をつかんだり、四つん這いになったりしながら前に進んだ。
 霧雨が濃くなり、吹く風がいっそう強くなってくる。尾根の北側を進んでいるときだけが、風がウソのように止み、少しホッとでき、距離も稼げる。

 霧雨に悩まされ、強風に苦しめられながら、どうにか千丈沢乗越に着いた。右手に進んで飛騨沢に下れば、槍沢小屋に至る。一瞬、そちらにエスケープしようかと迷うほど風が強くなった。岩場の陰で風が弱まるのを待った。

 しばらくして立ち上がると、また歩きはじめる。ほどなく、前方から下ってくる人に出会った。『ここまで30分だった』との言葉に元気が出た。


千丈沢乗越標識
 気を取り直して登っていく。大きな岩山の北側から巻くように進むと、まもなくなだらかな登山道に変わり、開けた場所に出た・・・槍岳山荘に到着だ。

 休憩のため、山荘に併設された『きっちんやり』に入り、ホットココアを注文する。出来上がったのを受け取ろうとして、となりのテーブルで寛ぐ青年と偶然に目が合った。少しビックリだった・・・わたしより一足早く双六小屋を出発した青年は槍ケ岳の頂上を踏んだあと、ここで休憩中にわたしと出会ったのだった。これからアルバイトをしている新穂高温泉に下るのだ。

 その若者から『悪天候でも頂上には行ける』と勧められたので、わたしも『折角、苦労してここまで来たのだから・・・』と応じることにする。小屋の外の雨のかからない軒下にリュックを置いて出発。

ガスの中の槍ケ岳山頂で
 岩も鉄製のハシゴも雨に濡れているので、手袋がすぐにびしょ濡れになるが、委細かまわず、頂上を目指してよじ登る。ほどなく、ひとっこひとりいない頂上に立った。

 10人も立てば一杯になってしまうほど狭い頂上で、写真を撮った。
 出来栄えやアングルなど考慮する余裕などまったくないが、この天気では仕方がない。


槍ケ岳山頂

雨でもにぎわう河童橋
 そそくさと頂上をあとにすると、急いで槍岳山荘に戻り、少し長めの休憩をとってから、上高地を目指して下りはじめる。

 途中、上ってくる大勢の人と出会ったが、みんなが悪天候をそれほど気にしているようには見えなかった・・・『あいにくの天気ですね』と声をかけるわたしに、『登山とは、こんなものだ』とでも言いたげな顔だった。

 槍沢ロッジまで一気に下り、緩やかになった道を横尾山荘まで歩き、ここで少し休んだあと、そのまま上高地バスターミナルまで休まず歩く。

 バスターミナルで平湯温泉行きのバスの切符を買って、すぐに乗車待ちの列に加わった。20分後、バスは平湯温泉に向けて走り出した。わたしは薬師岳、黒部五郎岳、槍ケ岳に登った満足感を胸にバスに揺られていた。