ショートショートストーリー / ひろみ
ひろみ
ひろみ 1-5
中学生になった祐樹はパソコン倶楽部に入部した。
目的は母の作ったCDを見たいからだ。
祐樹の父はCDの画像を一度見せたが、その後パソコンを自由には使わせてくれなかった。
「お前の母さんは頭がおかしくなったんだよ。祐樹、お前を撮った時期さえ、バラバラじゃないか。
お母さんは重い心の病気だったんだよ。だから、お母さんのことを早く忘れる事だ。」と言った。
子供が母の思い出を見たいのは当然だ。
冷たい父に反発して、祐樹は黙って母のCDを持ち出した。
--- 1年前に祐樹の母は自殺していた。 --
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ひろみ 2-5
パソコン倶楽部は旧校舎2階にある。
部室には顧問の後藤先生と二人の生徒がいた。机の上に1台のパソコンが置かれていた。
「紹介しよう。舛田君、稗田君、彼が祐樹君だ。じゃあ、後はよろしく・・」と、後藤先生は消える。
「祐樹君はパソコンに詳しいのかな。」と舛田君は聞いてきた。
祐樹は「触ったことはある程度なので、よろしく。」と答えた。
彼はニッコリして、祐樹にパソコンの操作を優しく教えだした。
「舛田君はパソコンに詳しいですね。でも、パソコンを僕だけ使ってるので悪いです。」
稗田は「気にしないでいいよ、僕なんか家に帰りたくない為の倶楽部なんだ。」と笑う。
「ところで、これって見れるだろうか。」祐樹は母のCDを舛田君に見せた。
「画像かな?いいよ。これだろ!」
パソコンのモニターに母と自分の画像が次々に表示されていった。
「何か順序がおかしいな、君を撮った時期と表示順がバラバラだよ。誰が作ったの?」
「1年前に自殺した母です。」
舛田は黙ってしまった。舛田のクリック音だけが部室の壁に響いた。
「いや、それは意図的じゃないかな。舛田君、代わろう。」横から見ていた稗田が言った。
稗田君は画像のファイル名を並べ直して、何度も見比べていた。
「稗田君、何かわかった?」
「そうか、取り敢えずCDをコピーしようか。舛田君、時間は大丈夫かな?」
「ああ、ちょっとまずいか。先生に遅くなると言ってくる。」
「稗田君、コピーありがとう。で、何か見つけたの?」「いや、まだちょっと。今度だね。」
家に帰った祐樹はCDを父の本棚に戻した。
夜、コピーしたCDを手にし稗田君の「意図的」の意味を考えていた。
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ひろみ 3-5
翌日部室に入ると、後藤先生は「忘れ物」と言って職員室に戻った。
祐樹は稗田君に昨日コピーしたCDを渡した。
稗田は少し考えてから、
「お母さんのCDには見えない言葉が仕込まれていたよ。
まず、画像が順番ではない理由だが、誰かに気付かせる為だったんだ。
各シーンに1枚の画像を無表示にしてあって、それをアルファベットを当てはめてみた。
それを並べて見ると、その文字は readme だ。
一般的にはPCソフトの取り扱い説明なんだが、CDを調べても何も出なかった。
実はここがポイントなんだ。」
「祐樹君、君のお母さんはホームページを持っていたかな?」
「見たことはあるけれど、アドレスは知らない。母さんの名前は ひろみ だけど、わかるかな。」
「舛田君、検索してくれる?」
「ああ、キーワード readme ひろみ だけど、出るかなぁ。」
--- 舛田の検索はヒットした。 ---
「普通だよなぁ。何も変わった事は見つからないよ。」
「こんな感じだったと思うけど。何もない?」
「舛田君、関連ページを全部調べてみた?」
「稗田君、それが先だったね。さてっと・・」
「これだな。このページはパスワード入力を要求している。パスワードがなければ入れない。」
「祐樹君、多分、君の家族に関連するパスワードだと思うよ。」と稗田は言った。
「そうだね。僕は誕生日くらいしか思いつかないけど・・」祐樹は自分の誕生日を入力した。
--- 幾つかの画面が瞬間に表示し、消えた ---
「さ、さっきのは何だったんだ。」3人は不安になった。
「ああ、続きは明日にしよう・・。」舛田君に言われて、部室を出た。
夜、婆ちゃんから電話があった。
「婆ちゃん、久しぶり。」
「そうだねぇ祐樹,ところで今日は何もなかったかい。」
「え、何もないよ。婆ちゃん、急にどうしたの?」
「それが、夕方にね。FAXが送られてきて、「祐樹を頼みます ひろみ」と書いてあったの。」
「え、母さんは死んだんだよ。FAXを送れる訳がないよ。それって、いたずらじゃないかな。」
「とにかく、お前は携帯を持ってないから学校の連絡先を教えて。」
「わかった・・・・。」
「何もないだって・・それは嘘。」
祐樹は不安だった。今夜も父は帰らなかった。
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ひろみ 4-5
部室に入ると、今日は後藤先生はいなかった。
「祐樹君、今日はお母さんの誕生日をいれてみよう。」
稗田君に言われて、祐樹は入力する。
--- 幾つかの画面が瞬間に表示し、消えた ---
また、3人は黙ってしまった。
祐樹は黙ったまま、父の誕生日を入力した。
--- 長い文章が表示された。・・・
「え、この内容は大変な・・・」
「舛田君、稗田君、この事を誰にも言わないで欲しいんだ。」祐樹は言った。
突然、「おい、何している。早く帰らんか。」後藤先生だった。
後藤先生を部室に残して、僕達は部室を出た。
「祐樹君、これからどうする。いや、何を考えている?」
稗田の質問に答えなかった。
祐樹は考えた末に彼なりの結論を出した。
その夜、父は不機嫌そうに帰ってきた。
「おかえり。何かあったの?いや、父さんの会社に母さんからのメールが届いたんでしょう。」
「会社に送りつたメールはお前の悪戯だったのか。俺が母さんを殺しただと、何処に証拠がある!」
「母さんのHPにすべてが書かれてあった。お父さん、今からでも遅くない、警察に自首するんだ。」
「何を言ってる。母さんのHPには何も書かれていなかったぞ。」
「母さんのHPに隠しページがあって、そこに証拠があったんだ。」
「あぁ、情けない。母さんも馬鹿だが、お前も馬鹿だ!そんなもの証拠にはならない。」
父は家を飛び出した。
---- 部室にて ---
祐樹「結局、父は警察の取調べを受けている。僕は婆ちゃんのところに居候なんだ。
CGIを作動させる仕組みを聞かされて、納得したんだけど・・
警察はそのCGIを調べないのか・・ それってハイテク捜査課になるの。
だけど、変なんだ。1回目は婆ちゃんにFAX、2回目は父の会社へのメールだろ。
じゃあ、2回目は誰へ送ったんだろう?」
舛田「ああ、そうだな。2回目は何処に消えたか。
稗田「学校の個人情報の把握は当然、下の職員室で部室のPCをモニターして・・内容が筒抜け。」
「え、ほんと?」「冗談だよ、後藤先生にその能力はないさ。」
2回目は消えたか・・
そうだな、そうに違いないかな・・・
稗田は2回目の想像をしていた。祐樹の父親を取り調べる警察は何故事情を知り得たのかと。
祐樹と父親は警察への関与はない、じゃあ誰が関与したって言うのか・・ ねぇ。
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ひろみ 5-5
「このメールが貴方に届いたなら、私の祐樹を助けてください。
住所・・・・・・・・・・・・
貴方の掲示板に書いたのは本当の事。
主人に気づかれて、掲示板のリンクをはずしました。
私を信じてください。
貴方との掲示板の書き込みはとても楽しかった。
後藤さんへ ひろみ 」
ひろみ
H17.10.26 初稿
H21.6.24 修正
H24.1.1 修正
H24.1.4 修正
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