ショートショートストーリー / 死神
死神
死神 1-3
男はテーブルに両肘を突いて、頭を抱えている。
後ろの開け放った窓に黄ばんだカーテンが揺れる。
橙色の夕日が痩せこけた頬の陰影を掘り込んでゆく。
「そこに、いるのか。」
部屋の隅に死神が待っている。
男は” こうなった理由 ”を探していた。
子供達はそれぞれ独立し、家を離れた。
妻はニ年前に病気で死別している。
それ以来、一人暮らしを続けている。
私は、私は一ヶ月前までは仕事をしていた。
会社から突然の解雇通知をされた。私は正規雇用じゃなかったから。
労働基準法ですか? 解雇は一ヶ月前の提示、理由なき解雇は不当なんて。
もう、いいんですよ。
それより、
何故、私に死神がついていて、私に死神が何故見えるのかです。
その理由を知りたい。
人は必ず死ぬ。それはよく理解しています。
ですが、死ぬ時を人は知らないのです。
知らないから、人は明日を夢見て生きて行けるのです。
死期を知って、人は人でいられるのか。
死神よ、
お前が傍にいるのは、私がもうすぐ死ぬということだろう。
私の残り少ない命、死神のお前に怯えて暮らせというのか。
こんな、哀れな末路があっていいのか。
男の嘆きを死神は黙って聞いている。
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死神 2-3
「お父さん。」
「おぉ、どうした。」
息子は事業の失敗の穴埋めに為替に手を出して、大きな負債を抱えた事を伝えた。
「お父さん、僕はどうしたらいいんだろう。このままでは死ぬしかないんだ。」
「まぁ、落ち着け。お茶でも入れるから、座っているんだ。」
男は死神の方を見ると、死神と目線が合った。
これが私が死ぬ理由なのか・・・ そうだな、死神よ。
息子の負債は大きかったが、男の財産と男の生命保険を足せばそれなりの金額になる。
後は弁護士しだいで、負債の圧縮をしてもらえば何とかなる。
男はお茶の用意をしながら、息子に遺書を書いた。
疲れ果てた息子は椅子にもたれて眠っている。
あぁ、私に委ねて落ち着いてくれたか。
テーブルにお茶をそっと置いた。
男は息子に背を向けて、鏡の前に立っていた。
ふっと、影が男の後ろにまわった。
鏡に映る死神に「初めから、お前は知っていたんだな。」と声を掛けた。
ちょっと微笑んで、一気に・・・
満足そうな男の死に顔だった。
そして、死神は魂を連れて行った。
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死神 3-3
息子はテーブルに両肘を突いて、頭を抱えている。
後ろの開け放った窓に黄ばんだカーテンが揺れる。
橙色の夕日が痩せこけた頬に老いた陰影を掘り込む。
「そこに、いるのか。」
部屋の隅に男の亡骸があった。
何故だ、何故、こんなことになったんだ。
私がいるのは何故なんだ。
男は自分の亡骸を見ていたのだ。
そして、
息子の記憶にある” 醜い真実 ”を知った。
男はその場に泣き崩れてしまった。
天上から、一条の白い光が死神の胸を貫いた。
-- 人間は真実を知らない方が幸せなのさ --
死神は笑みを浮かべて、この世界から消滅した。
死神
H21.7.13初稿
H24.1.6修正
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