ショートショートストーリー / 未来
未来
未来 1-4
技術の進歩は素晴らしいもので、次々に新機能の商品が世に出される。
それらの商品は人の生活を便利で豊かにする。
決して、その商品を使うことで不便を生じる・・ とは、考えない。
青年はある商品のモニターをネットで応募していた。
さきほど、その商品と会社のくどい説明文が届いた。
商品には「未来」と書かれてあった。
青年は説明を読んで・・ 飛ばし読みして早速使ってみる。
その商品の用途は「カーナビ」だが、車への設置を必要としない発想だった。
その大きさはシャツのポケットに収まるカード型に青年を驚かされた。
機能は「東京の青山の・・」と言うと、「未来」は音声で伝える。
人体へ骨伝道で伝えるので、雑音や騒音の中でもしっかり音声を聞き取れる。
レシーバを耳に挟むだけでOKだ。画面を見る必要は無かった。
また、未来の特徴は地図を広げ教えてくれるような親近感があった。
スムーズな受け答えと気配りのあるアルゴリズムが組まれていた。
青年は直ぐにバイクに乗り「未来」をポケットに入れて出発した。
過去はバイク走行中に地図は見れないが、今ならマイクを通して「未来」に告げればいい。
「あれ、どっちだろう?」迷った言葉に「未来」は反応し、青年をサポートする。
未来「走りっぱなしだけど、大丈夫ですか?」青年に話し掛けてきた。
「あぁ 僕は大丈夫さ。ありがとう。」
「頑張ってくださいね。」と伝えた。
未来の作動ランプが青から赤に変わった。
「困ったぞ〜 また、モニターの青年が行方不明になってしまった。」
「だから、あれほど詳細な説明書をつけたのに見ていないんだな。」
「この商品はナビではなく、長時間の骨伝道による脳への意識障害のモニターなのに・・」
ナビ機能にすれば、長時間のモニターが可能だった。
青年は「未来」と一緒に放浪を始めた。
ポケットの「未来」は赤い光を放ち続ける。
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未来 2-4
未来「遅くなりましたが、貴方の名前を教えてください。」
悟「機械に名前を教えるのって、それも対話するのは不思議だ。」
未来「何か問題でもありますか?」
悟「いや、率直な感想だから気にしないでよ。悟です、よろしく。」
未来「未来です、よろしく。」
悟「・・・」
やはり、不思議な感覚を感じていた。
機械に情報を正確に押す操作が無ければ、案外人は機械と快適な関係になる。
また、何気ない会話が楽しめるのはとても楽しいものだ。
もう少し冗談が通じるなら、最高に楽しい関係になるだろう。
目的のない旅、本当は職を探さなければならない。
しかし、自由な旅などは勤め人にはなかなか望めない。
過去の先輩たちも仕事の合間の短い休日を使って、それも家族と一緒だ。
決して、有給休暇を自由には使わしてはくれないものだ。
私は会社を辞めて、自由の身だ。でも、私にとっての自由とは何だろう。
心地良いバイクの振動、私の言葉を未来が聞いている。
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未来 3-4
未来「悟さん、後ろから友達がやって来ました。」
悟「それは誰の友達? 近くに出会う友人すら居ないはず。」
ミラーに車が1台見えた。
未来「話しをしますか? OKですね。 では、相手と繋ぎます。」
通信機器には電話機能も含まれるのか、そんな機能はあったかな。
「こんにちは、悟君。」
「え、僕の名前を知っているんですか。」
「未来から聞いていますよ。あぁ、私の未来からですが。」
「なるほど、未来繋がりですね。だから、友達と言うことですか。」
「そう言う事になります。そうだ、もう少し先で止まりましょうか。」
「では、あそこのレストランの駐車場に入ります。」
「了解です。」
2台が駐車場に入った。
「私は事情があり車から出れないので、車内で失礼しますよ。」
「ええ結構ですよ。」顔を見せないなんて、変な人だな。
「悟君、それにしても野宿してのツーリングも大変だったでしょう。」
「思いつきで出発しましたから・・ それも未来から聞きましたか。」
未来「スミマセン。」 悟「いいよ、楽しいから。」
「ところで、貴方の名前をまだお聞きしていないのですが?」
「これは申し訳ありません。私はニュートンと言います。」
「ニュートン。本名にしては・・ ニックネームかなんかですか?」
「いえ、そう呼ばれているんですよ。」
「丁度仕事を辞めた所で、次の仕事までの間と。ちょっとした遠出になりました。」
「そうでしたか。私は研究所からこれだけ離れたのは初めてです。」
「研究所、ひょっとすると未来を作ったのはあなたでしょうか?」
「そうです。未来は私の研究所で作りました。」
「そうなんですか。モニターの私に会いに来たと思っていいのでしょうか?」
「ええ、ひとつは研究所から出たかった事、研究所以外の人と話がしたかったからです。」
え、この人って、家族がいないのだろうか。
「私はそのモニターになりましたが、この未来は販売するのですか?」
「いいえ、未来自身は販売しません。」
「え、販売しないのなら、では何故モニターが必要だったのですか。」
「担当者には意識障害としましたが、実は端末の分散化のモニターなのです。」
一体どういうことだろう・・
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未来 4-4
「未来のネーミングですが、私の未来をも含めた意味があります。」
「説明はカーナビとありましたが、結局は携帯電話の端末になるのですか。」
「なると思います。研究所は大量の携帯端末の製造は無理です。」
「携帯端末のナビ機能なら、今なら普通に使えます。用途が違うとか。」
「ええ、大量になると設備が必要ですし、仕様としても膨大な時間が掛かります。」
「始めから携帯メーカーに依頼するのが早くないですか。」
「私が交渉出来る立場ではなく、やはり現在の既存施設の利用が目的に合致します。」
何を言いたいのかわからないが、少なくても私とは関係がないでしょう。
「悟君、旅の邪魔をしました。さあ、旅の続きをしてください。今日はありがとう。」
「いえ、ニュートンさん。貴方の願いが叶えればいいですね。」
2台の車はレストランから、右と左の別方向に走った。
「悟君、ニュートンです。聞き忘れたことがあります。君にとっての自由とは何ですか?」
「自由ですか。う〜ん。
何をしてもいいというのは自由とは言えないと思います。
この社会に生きている限り制約はあります。ですが、その中に自由があると思います。
制約の無い自由はないかな。そうでなければ殺人や自殺を容認することになります。
そうだ、100PEOPLEをご存じですか?9.11の後にネットで流行ったものです。
私は時々思い出すことにしています。」
「そうですか、今日は本当にありがとう。では、失礼します。」
「未来、ニュートンさんって変な人だね。おい、連絡しなくていいぞぉ。」
「悟さん、ニュートンは人ではありません。」
え、
悟はこの後に起きる事を知ることは無かった。
この後、ある女性が関わることになります。
「栄子の携帯」編にて。
未来
H20.6.27初稿
H21.6.25修正
H24.1.8修正加筆
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