ショートショートストーリー / 占い師


占い師

占い師 1-1

男の浴衣姿は温泉街の風物。

賑やかな宴会を抜け出し、飲み過ぎた酒の酔いを醒ましていた。


道の両脇には灯りが続いているが、ポツンと途切れた暗がりがあった。

そこに手相占いがいた。

白い布を掛けたテーブルに蝋燭の灯りが和紙を通して揺れている。

占い師は30代前半の男性だった。


後から抜け出した連中はどうやらパチンコに行くようだ。

賑やかな声が遠ざかる。


手相を見てもらおうと男は近づく。

男は自分の運勢は調べ尽くしていて、大概の結果は知っているはずだった。


「すみません。見てくれますか。」

「はい、それでは右手を見せてください。」


すると、黙ったまま考え込んだ。

そして、こう言った。


「申し訳ありません。ちょっと調べて来ますので、ここでお待ちください。」

どういう事だ。調べるとは・・ 男は新米の占い師なのか。

そんな疑いもあるが、誠実そうな顔だ。しばらく待つことにした。

かれこれ、20分は待っていただろうか。


「すみません。お待たせしました。」

占い師は見立てを告げだした。

時期、内容ともおよそ男の記憶通りのものだった。

私の占い師への疑いは消えかかっていた。

だが、次の言葉にふいをつかれた。


「貴方には妹がいます。」


確かに言われた。それも今回で二度目だった。

本当に妹が存在しているのかは調べたことはない。

しかし、私の手相がそう示しているのだ。


「私は妹の存在を知りません。何処にいるのですか。」と尋ねた。

「貴方はお母様の顔も記憶されていないでしょう。」


「ええ、その通りです。私が小さい時に生き別れですから・・」

「妹さんに会ったとしても、わからないでしょうね。」


「多分そうでしょうが、言われる事がちょっと理解できないですが・・」

私は占い師の言葉が、占いを外れていることに気がついていた。


少し、沈黙の後にこう言った。

「こんな、顔をしている妹さんです。」


顔を上げた占い師の顔はある女性になっていた。

にっこり微笑んで・・


ふっ 辺りが暗くなった。

たしか、線香の匂いが目の前に漂っていた。



「どうされました?」占い師が私の顔を覗き込んでいる。

「いえ、なんでもありません。」

私が財布を取り出そうとすると・・

「私は修行中の身です。ですから、金銭を受け取ってはいけないのです。」と、言った。





占い師
H21.7.22初稿

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