ショートショートストーリー / 演目は黒猫
演目は黒猫
演目は黒猫 1-1
普段は猫好きの私だが、今回の黒猫は嫌いになりそうだ。
煙草を切らして、100メートル先のタバコ屋でショッポを買って帰れば終わりなのだが・・
斜交いのマンション角にいた黒猫がなんと、私にメンチを切ってきたのだ。
何故って? その黒猫は私に向かって「馬鹿は。」という猫顔が許せなかった。
いや、これは本当なのだ。
かれこれ、睨み合いに30分は経っただろう。
黒猫は野良猫らしい自然体で立ち続け、さらに暑さをしのげる日陰の位置は有利な状況だった。
私は昨夜の二日酔いで足元がふらつき、暑い炎天下の直射日光を薄い髪の地肌がヒリヒリする。
今日の私に運はなさそうだが、ふてぶてしい黒猫の奴に背中を見せられない。
気持ちを落着ける為に煙草を吸おうとした。
煙草を口にくわえて、ポケットのマッチを探した・・ 探したが、マッチを忘れてきた。
煙草に火が点けられず、私は精神的にさらに窮地に追い込まれる。
この事を黒猫の奴に悟られてはいけない。
重なるストレスを抱えながらも、私は鋭い眼光で睨んだ。
それから、睨み合いに30分は経っただろう。
「もしもし、お宅はそこで、何をなさってんですか?」
男は私に声を掛けた。
「いやぁ、実はあそこの黒猫と睨み合っているんですよ。」
「もしもし、あれは人形でしてね。朝のゴミ収集車がうっかり残していったんですよ。」
「あぁ、そうなんですか、これはお恥ずかしい。」
と、私は急いでこの場所を立ち去った。
参ったなぁー 本物そっくりだったんだがなぁ とんだ大恥をかいたものだ。
「おい、黒猫。面白かったぞ、あの男の馬鹿ぶりは。」
黒猫は男の傍にきて、足元でじゃれている。
「黒猫、また来たようだ。今度も引っ掛かりそうだ。」
そう聞くと黒猫は素早く元に戻り「馬鹿は。」
を待った。
男は少し離れた舞台の袖に移動して、次の登場人物を待った。
家に帰った私はクシャミをひとつ。
人形とは思えない黒猫だと思い出しながらも、ようやく煙草に火をつけた。
演目は黒猫
h21.6.25修正加筆
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