ショートショートストーリー / 危険な罠


危険な罠

危険な罠 1-3

それは人の心を試される罠だった。


早朝の待ち合わせの為に朝食抜きで車を出した。

せめてコーヒーくらい飲みたいものだ。

だが、見つからない。

今や車を走らせれば、必ずコンビニに出会うのが当たり前なのだが。

昨日は自宅に戻れず友人宅に外泊し、結局泊まって朝一番に出た。

約束の時間に間に合わないので、折角の朝食を食べれずに出たのだ。

どんな田舎道でも自販機くらいはあるはず。

はずだが、ずっと左を見ているが見つからない

いくら知らない道であろうと、どこにでもコンビニくらいある。


ようやくパチンコ屋の手前にある自販機を見つけた。

過去の経験から電源が入っているかの確認が必要だ。

金を入れて商品は出ないは、金も戻って来ない最悪のパターンだ。

よし、電源は入っているな、中の機械も動いているようだ。

200円を入れて、選択ボタンを押して

ガシャンと落ちた缶コーヒーを取り出した。

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危険な罠 2-3

そして、つり銭だ。

ガシャガシャ。

え、つり銭の80円は・・

ガシャガシャ。

なぜか音が止まらない・・

つり銭の返却口には溢れた硬貨で埋まっていた。

触れば硬貨が地面にこぼれそうになっている。

私の耳元に「ご自由にお持ち帰りください。」と声が聞こえる。

いや、これは危険だ。

目の前のパチンコ屋はガラスも割られたまま放置されている。

自販機は1台だけ、空き地にぽつんと置かれている。民家は見当たらない。

辺りを見渡せば、この場所は何処からも見える位置にあった。

き、きっと隠しカメラで映されているんだ。

顔だけならまだしも、車のナンバーをしっかり撮られていたら・・

後でこの時の映像を見せられて「金を盗んだ」と恐喝されるかもしれない。

これは、危険かも知れない、

いや、罠に違いない。

私はつり銭の80円そのままにして、その場を立ち去った。


その後に来た客もその次の客も、

同じように危険な罠と判断して金を取らずに立ち去った。

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危険な罠 3-3

そして、一日が過ぎた。


朝早く自販機に補充の缶コーヒーを入れに来た婆ちゃん。

ガシャ ガシャ

返却口から硬貨がこぼれ落ちても、盗られずにそのままお金があったのだ。

婆ちゃんはお金を数え出したが、足りないどころか多いのだ。


そこで、一言


「いやぁー 世の中は悪人ばかりじゃないねぇ」

婆ちゃんは地面に落ちた小銭を巾着袋に詰め込んだ。

返却口の小銭は置いたまま。

あぁ、これは盗れないの、だって接着剤で固めているのさ。

え、何故かって? そりゃ少ない年金暮らしだもの、生きる為。

何? 人は案外と臆病者なんだ。危険な罠とか言って、逃げ出すもんさ。

なにせ、小銭のお金なんだから、未練はあっても諦めるもの。


ん、固めた小銭を盗ろうとしたらどうだって?

小銭を固めた事に気がついたら・・ これが「危険な罠」と気がつくのさ!

どのみち諦めるしかない。




これを読んでるあんた! あんたも気をつけないとね。






危険な罠
H21.6.25修正加筆
H24.1.21修正加筆

今回は婆ちゃんのイメージを変えてみました。お口に合いましたでしょうか。

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