ショートショートストーリー / 歯科衛生士の由紀ちゃん


歯科衛生士の由紀ちゃん

歯科衛生士の由紀ちゃん 1-3

私の仕事場は歯科医院。

歯科医師の指示のもと、歯科予防処置、歯科診療補助および歯科保健指導等が仕事。

いわゆる歯科衛生士です。

で、一ヶ月に一度金曜日の7時半予約の下辻さん来院です。

「お変わりありませんか?」

「はい、変わりはありません。」

いつも通りの会話から始まります。

「では、チェックから始めますね。」

あれ、歯の後ろに影が走ったような・・

気のせいね。


「はい、口を水でゆすいで下さいね。」

「下辻さん、歯ブラシを強く擦れば歯茎を傷めますよ。」

「モゴモゴ、は・・い」

「下辻さん、磨いていきますね。」

「モゴモゴ、は・・い」

うぃーん、うぃーん


また、歯の後ろに影が走った・・

歯の間に黒い影が止まり、由紀をじっと見ている。

ちっちゃな、ちっちゃな目だ。

影の指がツンツン歯を差している。

普通なら驚く光景なのだが、その小ささは可愛かったから。

なんだろう・・ 指差す所がちょっと気になる。


「下辻さん、ちょっと待っててくださいね。」

由紀は先生に確認してもらうと・・ 虫歯だった。

やっぱり。

でも、由紀は虫歯に気づくのが遅いと、後で先生に怒られた。

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歯科衛生士の由紀ちゃん 2-3

失敗、失敗、由紀は少々の事では落ち込まない女だった。

だけど、あの影は何だろう。


その影は、由紀の前の患者の口の中をウロウロしている。

最近は歯の前に出て来て、踊りをする。

今夜はさらにもう一つの影がいる。どうやら女の子らしい。

いや、よくわからないが。仕草がそうらしい・・

こら、こら、そこでキスするんじゃない!

「あのお・・」

「え、はい!」

「さっきから独り言、言ってませんか?」

「はい、スミマセン。」

金曜日の下辻さんに怒られてしまった。

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歯科衛生士の由紀ちゃん 3-3

最近、影がいなくなった。

金曜日の下辻さんの口の中をいくら探してもいないのだ。

「あのお・・」

「え、はい!」

「さっきから何やってんですか?」

「え、スミマセン。」

金曜日の下辻さんに怒られてしまった。

でも、笑ってる。







やっぱ、まだまだ由紀ちゃんはダメだねぇ

そうね、なかなか一人前にはほど遠いか

亡くなった両親は嘆いた



H24.4.20 歯科衛生士の由紀ちゃん 初稿

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