尾道の人


尾道に住むその人とは、冬にネットで知り合った。わたしのウェブサイトを見てくれたのだ。最初のメールは
「写真もっと見たかったです」
だった。

その人は花の写真を撮るのが上手で、自分のウェブサイトに見事な作品を展示していた。写真を始めてわずか1年しか経っていないのに、すばらしい感覚で花の美しさをとらえていた。写真というものは、作業的な技術を必要としないものの、美的感覚をそのまま表出できるアートであると感じた。

わたしはウェブサイトをどんどん更新していった。その人はネットでいつもそれらを見てくれて、励みになる感想を贈ってきた。
「わたしはあなたのファンです」
と言ってくれた。
そして、自分自身のサイトにも多くの写真をアップしていった。英語のキャプションには、わたしのことが好きだという内容が書かれていて、とてもうれしく感じた。
わたしは、その人の花の写真を題材に何枚かの絵を描いた。とても喜んでくれた。

そのころわたしは目を病んでいて、視力が衰えていた。多分モニターのせいだったのだろう。その人はわたしの病状をとても心配してくれた。
わたしは手術をして視力を回復した。
その直後、その人から
「ガンを患っています」
という告白を受けた。
わたしは大変ショックを受けた。そんな状態なのにわたしのことを気遣ってくれたことに何とも言えないものを感じた。

夏になって、その人は大きな手術を受けることになった。
病院から携帯で
「涙がとまりません」
とメールをくれた。そして、数時間にもわたる摘出手術の日が来た。わたしはひたすら祈った。
手術は無事に成功した。
「手術終わったよ。痛いけど」
と連絡をくれた。そして、病院の屋上にアサガオの花がきれいだとメールをくれた。

退院してから、その人は自分の顔や姿の写真を送ってくれた。
美人だった。
あまりにも美しかった。
自分で言うのも何だが、わたしがそれまでの生涯において交際した人はみな容姿に恵まれた人ばかりだった。しかし、その人が一番だった。
そして、わたしはそれらの写真を題材に絵を描いた。
その人は
「赤く、赤く、描いてください」
とリクエストしてきた。
出来上がった絵をメールに添付して送ると、大喜びしてくれた。

春が来て、その人と会うことになった。
快晴の午後、新幹線の駅で初対面した。とても痩せていて、服装は地味だった。
駅の近くでスパゲティーを食べた。とても静かな物腰だった。微笑みながら、
「尾道に来てくださいよ」
と言ってくれた。
二人でロープウェイに乗って山の上にある公園に行った。
ベンチに座って、ソフトクリームを食べながら花の話などをした。
桜が満開だった。その人は
「桜って匂いがしないんだね」
などと言いながら、とてもゆっくり歩いた。
わたしは無口で、あまり話さなかったが、とても楽しい時間だった。
午後遅く、その人は新幹線で帰って行った。絵を描いてくれたお礼にと、ワイングラスと万華鏡をくれた。
わたしは胸がいっぱいで、その人の後姿を見送った。

その後は徐々に疎遠になってしまった。だが、ある時
「恋をしたいと思っています」
というメールをくれた。わたしは、その人が元気になれたことをとてもうれしく感じた。
時は去り、その人のサイトは長い間更新されないまま今も残っている。
残念だが、病が再発して天に召されたのではないかと想像する。
いつの日か尾道を訪ねてみたいと思っている。