
青い影からうまれた
黒い蝶は
色鮮やかな花を探している
すべての色を吸いつくして
ベンタブラックになるために
バニラの奥で羽化した
白い蝶は
ときどき透明になる
紅茶の時間に
良い香りを散華する
ドービニーの庭から抜け出てきた
アイリス色の蝶は
消えた黒ネコを
ずっと探し続けている
夕焼けに染まらない
オレンジ色の蝶は
逢魔が時の残照を跳ね返して
紫磨金色(しまごんじき)に変化(へんげ)する
プシュケーと呼ばれる
紫の蝶は
夜にだけ羽ばたく
人々の魂を薄紫に染めて
月の空へ送るのだ
生まれるときに連れて来て
逝くときに寄り添う
蝶幾千
その色彩は
幻想の世を生きた証の色
▶▶ 句集 蝶、幾千