蝶の色

 

青い影からうまれた
黒い蝶は
色鮮やかな花を探している
すべての色を吸いつくして
ベンタブラックになるために

バニラの奥で羽化した
白い蝶は
ときどき透明になる
紅茶の時間に
良い香りを散華する

ドービニーの庭から抜け出てきた
アイリス色の蝶は
消えた黒ネコを
ずっと探し続けている

夕焼けに染まらない
オレンジ色の蝶は
逢魔が時の残照を跳ね返して
紫磨金色(しまごんじき)に変化(へんげ)する

プシュケーと呼ばれる
紫の蝶は
夜にだけ羽ばたく
人々の魂を薄紫に染めて
月の空へ送るのだ

生まれるときに連れて来て
逝くときに寄り添う
蝶幾千

その色彩は
幻想の世を生きた証の色


 句集 蝶、幾千