廃墟にあるもの

俳句の兼題についてあれこれ調べていたら、横道に逸れて「契島」(ちぎりしま)という島を見つけた。
なんだか情緒的な名前だな、俳句の材料になりそうだな、と思ったものの
それは東邦亜鉛株式会社の精錬所の島だった。
想像していたイメージとは真反対。
写真を見ると、工場や付帯施設がてんこ盛りといった風情で小さな島の上を満たしている。

しかし、これはこれでなかなか興味深い。
できれば見学したいと思ったものの、船から見ることしかできないらしい。

契島は「もうひとつの軍艦島」とも呼ばれている。
軍艦島」(ぐんかんじま)という名前は聞いたことがあった。
おもしろい名前だなぁと思っていた。
画像で確かめると、確かに灰色の軍艦のように見える。
ズームアップして見ると、ゴツゴツとした建物群。
さらに近づけば、巨大な廃墟の無人島である。

軍艦島こと、長崎県の端島(はしま)は、1974年1月に閉山となった。
石油が石炭に代わって主要エネルギーになるとともに衰退した結果である。
1890年に三菱が石炭の発掘を始めてから85年近く、人々はこの軍艦に住んでいたわけだ。
人口は5,300人近くまで増え、世界一の人口密度を誇ったらしい。

今やネットで検索すれば、活況を呈していた頃の写真を見ることができる。
2009年から上陸が可能となったため、繁栄が記憶と化した現場をリアルタイムで見ることもできる。
2015年には世界文化遺産に登録された。
いつか訪ねてみたい。

廃墟といえば、負のイメージ
なのにどうして惹かれるのだろうか
なにか懐かしい感じ…郷愁?
前世でここに生きていた?
まさかね
でも懐かしさに伴う切なさは嫌いではない

たくさんの人々が生きていた跡
悲喜こもごもの個々の生活の証
その人たちのことを想いながら
朽ちた建物に多少の畏怖を感じつつ
雑草の生い茂る道をたどってみる

廃墟には想像する余地が無限にある。