そこは言葉が咲き乱れる花園だった
花々は馥郁とした声を発していた
赤い「あ」の花が揺れてため息をつけば
「嗚呼…」と聞こえた
白い「し」の花は「しぃ…」と小さな声で囁いた
そよ風が軽やかな日には「詩」と聞こえ
月が色を失くした夜には「死」と聞こえた
花が言葉となり言葉が花となる花園は
ときに訳もなく恐ろしくもあったが
目に美しく心に優しく映るのだった
詩人はそこで花を摘むように詩をつくる
言葉になった花束の色合いを吟味しながら
もっと新しい配色はないかと探索する
花園を行けばやがて花野となる
その先は月の領域へと続いているのだろう
詩人は果てしない道を歩き続ける
果てしなく未知を探し続ける
千々の花々が言葉となり
鮮やかな色彩を放つのを見るために
ある日うつむく大輪の花に遭遇した
熟した種がポロリと落ちては星になり
やがて宇宙の前庭となった
詩人は星の言葉で詩をつくった
白銀の月が頭上に浮かんだ
生まれる前に幽閉されていた
色なき世界を眺めたあと
詩人は来た路を振り返った
色に満ちた花園はまだそこにあった
月が黄色く染まり始めていた