いたいけな詩

 

晴れた日には
遠くに富士山が見える
緑の高台の
鉄筋の白い建物に
女たちは住んでいた

堕ちれば
身を売るしかなかった時代
社会に張り巡らされた
目に見えない有刺鉄線に
傷つけられた
翼の折れた鳥たちが
収容された村は
美しい自然の中にあった
世間の向こう側にあった


知能指数という基準が
無意味に思える聖地で
心身の病に侵されながらも
生をまっとうするのが
彼女たちの務めだった

その中に
ひとりの詩人がいた
顔のない男の快楽に翻弄され
うつされた病が
日々脳を蝕むなか
詩を書くことが
彼女の唯一の癒しだった

ときに里山の新緑を眺めながら
ときに果樹園を訪れる
鳥のさえずりを聞きながら
彼女は書いた

心の中で
むやみやたらと
もつれ合っているもの
その一端をつまみ上げては
言葉にした

言葉にすることで
その日を生きていた

それはたぶん
誰にも書けない
いたいけな詩だった