
あの夏の日
海の底で美しい貝をみつけた
居心地の良さそうな窪みで
潮の流れに動じることもなく
ただつつましく光っていた
君は海から引き揚げた貝だった
ボッティチェリのヴィーナスが
恥ずかし気に佇む姿を君に重ねていた
いつかポルトヴェーネレに旅しようと約束した
それはヴィーナスの港という名前の町だった
光ばかりが降っていたあの頃
何もかもが眩しくて
幻の中にいるようで不安になったりもした
君が過去を振り返るようになったのは
いつの頃からだろう
あの暗い森にいるのは
あなたが愛した人でしょ?
ひとりになってから
あの町へと空想の旅をした
ヴィーナスの海に潜り
貝の窪みを探した
そしてボクは
触れ慣れたやさしい手触りの貝を
その窪みにそっと戻した