枯野の詩集

 

砲撃の音が遠のき
硝煙のにおいが薄れ
閉じた瞼が震えて
最後の息を吐いたあと

兵士のリュックから
一冊の詩集が
こぼれ落ちた

春の風
夏の香
秋の光
冬の雪

詩編の言葉が
光の残像となり
枯れた野原に
立ちのぼる


詩集を見つけた敵の兵士は
汚れた指でページをめくる

戦いに出てこの方
ずっと忘れていた
何かを思い出そうと
異国の言葉で書かれた
文字を拙くたどる

丘を吹き抜ける風が
はこんできたのは
セイレーンの歌声

耳をかたむければ
胸の拍動が同調して
視界が滲む

空だけが青く澄んだ
春の日