弧蝶~こちょう

 

野を分けた風が
星に磨きをかけた夜

紺滅(こんけし)の闇の奥から
白い弧蝶が飛んでくる

透き通った翅は
消え入りそうに薄く
月明かりを捉えた鱗粉が
涙のように光る

永遠の中で凍りついていた
過去の一片が
記憶を呼び起こす熱量で
チロリチロリと融け始め
回想の湖に小さな波紋を描く

最後の水輪が
岸辺に到達した刹那

弧蝶は翅を瞬かせ
月光の闇へと
紛れて

消えた