この地の夜かの地の夜

 

静かに夜が降りてきた

山がシルエットになり
山腹に白や黄色の灯が点る

オーガンジーの冷気が
夜空を揺蕩い
月と星が銀色に光る

すべての善きもの
すべての悪しきものを
紺色の粒子で覆いつくし
世界がひととき色をなくた
平和な静けさの中
赤い星が流れて
争いの幻が宙を過った

かの地では
夜よりも黒い
悪しきものの正体を
明らかにする光もなく
今日の闇を越え
明日もまた越え
永遠に越えてゆく…

そんな思いを
唐突に断ったのは
鼻孔に香しい
ご飯の炊ける匂いだった