曇りガラスの電車

 

大きな|銀杏《イチョウ》の木が影を落とす
小さな駅舎から乗った電車は
薄曇りの彼方からやって来た

窓が曇って見えたのは
付着した黄砂のせいだろう
砂粒で乱反射した光が
流れる景色に紗をかける

振動に身をまかせるばかりの
平和な空気だまりの中
目の前に座っている少年が
ついに頭を落として
眠りに落ちた
昼下がり

背中をまるめた後ろ姿は
今しがた別れた過去
重力のある世界の
その重さを
一身に受けて
歩いているように
見えた

ゆっくり
ゆっくりと

曇りガラスの電車もまた
ゆっくりと
|雨催《あまもよ》いの中を走る

眠り続ける少年と
乗り合わせた人たちを
単調なゆらぎで
温めながらく