乙女像のトカゲ

ヨーロッパの墓地というのは綺麗な花があちこちに咲いていたり、おしゃれな墓石があったりと、どこか公園のような雰囲気がある。

以前、ドイツのカールスルーエという町の墓地に行ったときのこと。
しばし初秋の散策を楽しんでいると、木立を見上げている白い女性の彫像を見つけた。ウィーン中央墓地にあるような写実的なものではなく、表情や衣服のシワなどを省略したシンプルな像だった。
亡くなった方の思い出に建てられたものかな?ステキだな…と思いながら像の裏側にまわると、背中に白いトカゲが貼りついていた。本物ではなく彫像の一部として。
何か意味があるのだろうか。
日本人的な感覚では、「トカゲ」には何かしら邪悪なものを感じてしまう。
そうでなければ、単なる作者の洒落なのか?あるいは、守り神的なものなのか?

~ トカゲは控えめに光を求める魂を象徴し、翼をもって飛び立つ鳥とは対照的である ~
これは、大聖グレゴリオス(ローマ教皇)の言葉。
まるで敬虔な信者のように比喩されるトカゲ…西洋では案外愛すべき存在なのかもしれない。


さらに調べてみると、「サラマンダー(火トカゲ)」(salamander)というワードが引っかかった。
サラマンダーは、四大精霊(しだいせいれい)のうちの火の精霊。
四大精霊とは、地・水・風・火の四大元素の中に住まう、あるいは四大元素を司る四種の霊で、
水の精霊はオンディーヌまたはニンフ、地はグノーム(ピグミー)、風はシルフとされている。

イギリスの詩人アレキサンダー・ポープによって書かれた擬似英雄詩に 『髪盗人』 (かみぬすびと、The Rape of the Lock)という作品がある。
作中、情熱的な女は死後サラマンダーになるとされており、美しい女性の姿で登場している(ウィキペディア)

あの乙女像のモデルは、サラマンダーの象徴である火の魂をもった情熱的な女性であったのか、
それとも、控えめに光を求める知的な女性だったのか…想像はいつしか妄想となり広がってゆく…